“敵”には容赦しない
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「そこの兵士と冒険者、早く退きなさい。お嬢様が休憩を所望されている。」
ジュースを飲み終わってコップを浄化してから仕舞っていると、後ろから声をかけられた。
シュバルツの顔色が変わっていくからどうかしたのかと思ったら、俺の前に座っているからこそ、俺の背後が視界に入っていたからなんだろう。
(厄介な相手なのか?)
振り返ると、白色の馬車が見えた。
此方を睨んでいるように見える御者の背後に、薄茶色で模様が描かれているけど、家紋みたいなものだろうか?
確か、貴族は各々の家に対して紋章があった筈。
貴族ジョブの時、俺にもあった。
紋章はランダムで決まるって設定だったけど……
……というより、こんな街中に何の用だ?
視察……という雰囲気でもないし、家の馬車を使っている事から御忍びでもなさそうだけど。
「お待ち下さい!ベケット男爵家様の馬車だとお見受けしますが、私は国境兵団部隊長、シュバルツと申します。許可なき発言、大層失礼だと理解しておりますが、彼は本日コクミック王国より訪国された国賓の冒険者なのです。彼に対しての重要事項は、先程国の代表者へ伝えたばかりの為、未だベケット様の耳に入っていらっしゃらないかと思いますが、彼達へ手出し無用願います。……これは“国の存続”がかかっているのです。」
必死の形相で言い募るシュバルツ。
あの紋章は男爵家の物だというのは紋章の色で分かったけど、シュバルツは貴族の紋章と名前を全て覚えているんだろうか?
国境兵団だから、覚えるのは必須なのか?
確か、王族は金色、公爵は銀色、侯爵は緑色、伯爵は青色、子爵は薄紫色、男爵は薄茶色と決まっていた。
商人の馬車には紋章ではなく、商会の旗を付ける事になっているから、馬車を見ただけで一目瞭然。
盗賊ジョブの時は、悪徳貴族をよく襲った記憶がある。
「国賓冒険者……?そのような人物が訪国されると、事前報告はありませんでしたが?」
何故か御者が応対しているけど、この世界の貴族はこれが普通なのか?
普通、従者が降りてくるか、護衛の纏め役みたいな代表者が出てくる筈なんだけど……
馬車の後方に護衛の姿は見えるけど、ハッキリ言って皆レベルが低い。
この世界の人達は総じてレベルが低いけど、彼等は護衛が務まるのかと思う程低い。
御者の方が護衛達より歳をとっている事もあるのか、レベルが高いぞ?
……そして、馬車の中にいる“令嬢”らしき人と言葉を交わしていないようにしか見えないけど、意思は丸無視なんだろうか?
それとも、普段から応対は御者に任せているんだろうか?
馬車から降りてくる気配もない。
(コクミックにいた貴族の馬鹿息子みたいな奴だったら鬱陶しいな。)
その可能性が高そうだし、撤退するか。
シュバルツは御者と話している為、テーブルセットから離れている。
今の内に片付けよう。
膝の上に乗せていたソフィアをそのまま抱き上げ、テーブルの上にいるソドムを掴んで肩に乗せ、テーブルセットをイベントリに仕舞う。
「シュバルツさん、そろそろ行きましょうか。」
シュバルツにだけ声を掛ける。
貴族に用はない。
「おいっ!テーブルをどこへやった!?お嬢様が休憩出来ないではないか!」
テーブルがない事に気付いたようで、御者が声を荒げる。
……煩い奴だ。
「それくらい、自分で用意しろよ。それとも、貴族のくせに恵んで貰えないといけない程、資産がないのか?」
テーブルセットはイベントリに沢山あるけど、あんな奴等に譲ってやるつもりはない。
お金にも物にもゆとりがあるし、創造魔法もあるからテーブルなんていくらでも出せるけど、俺があげても良いと思った奴以外に渡す必要はない。
「っ、貴様!ベケット男爵家への暴言、許さんぞ!!」
「あっそう。お前に許されたところで何になる?」
ギャーギャー喚くオッサンに、興味はない。
……というか、自身も貴族のつもりなんだろうか?
やたらと偉そうなんだけど。
「貴族は、冒険者相手なら、強引に搾取しても構わないと?……シュバルツさん、この国はそういう方針なんですか?」
「いいえ!っ、いいえ!!そんな事はありません!そのような事、許されません!」
慌てて否定しているシュバルツ。
首を振っている様子はどこか必死だ。
「そうですか。もしそうなら、この国の貴族全員、始末してやろうかと思いましたよ。違っていて良かったです。偉そうに搾取するだけのバカ貴族なんて、いない方が良いですもんね?」
笑顔を向けたのに、シュバルツは何故か青褪めていく。
──そこでふと思う。
(あれ……?俺今、簡単に“始末する”って言ったな。)
元々攻撃されれば返すつもりだったけど、思考がこの世界に染まってきているんだろうか?
何の躊躇いも感じなかった。
たくさんの人を殺しても、何も感じなかったりするんだろうか?
「……貴様のような若造が『国賓冒険者』な訳がない。私を謀るのも大概にしろ。」
眉を寄せ、不快そうな様子の御者。
そういえばコクミック王国で絡んできたバカ貴族の従者や護衛も偉そうだったな。
貴族に仕えている奴等は、調子に乗りやすいんだろうか?
「お前は“御者”失格だな。お前自身が雇い主を陥れていると気付かないのか?ただの他国から来た冒険者に、国境兵団部隊長の彼が張り付く訳がないだろう?俺を怒らせないように、彼がどれ程気を遣っているか分からないのか?この国の者なら、彼が身に纏う制服は国境兵団の物だと理解出来るだろう。……浅はか過ぎる。」
例え血縁者ではなくとも、貴族の名前を告げたんだ。
コイツの過失は、ベケット男爵家の過失になる。
相手が冒険者だから、何とかなると思っていたのか?
俺はバカ貴族にしか出会えないんだろうか?
「……フン!例え本当に国賓冒険者だったとして、どうだと言うのだ?所詮、他国の冒険者ではないか!」
「彼の前では、貴族という肩書きは無いも同然なんですよ!?それ程の力を有していると言っているのです!」
(……何だか大事になってきたな。)
俺は国賓冒険者ではないけど、相手の肩書きに興味ないのは本当。
だけどシュバルツは、盛って話しているようにしか見えない。
野次馬が沢山集まってくるし、二人はヒートアップしていくし……面倒だから、この場から離れて良いかな?
……監視役を撒いた事になるから、後々煩くなるだろうか?
「……おい、あれって黒猫族じゃないか?」
「何であんな高そうな服を着せているんだ?おまけに抱き上げているし。」
二人のやり取りをボンヤリ眺めていたら、そんな声が耳に入ってきた。
ソフィアが黒猫族だと気付いた奴等が、ヒソヒソになっていない声で話している。
それはあっという間に伝達し、その周りの声が御者の耳にも入ったのだろう。
シュバルツと話していたのに、此方へ視線を向けてきた。
「穢らわしい黒猫族を、このルードゥブルグ共和国に入国させたのか!?国境兵団は何をしていた!?貴様、国賓冒険者か何だか知らないが、今すぐその奴隷を連れてこの国から出ていけ!!……いや、衛兵、あの奴隷を殺せ!!」
声を荒げ、不快そうな表情を浮かべているけど……俺の方が不快だ。
「お前がこの世界から消えろ。『風刃』『火球』『浄化』」
首を落とし、遺体を跡形もなく高温で燃やし、最後に臭いや熱波を浄化して綺麗にする。
ソフィアを“穢らわしい黒猫族”と言っただけでも腹立たしいのに、“奴隷”なんて言うし、あまつさえ“殺せ”とまで言った奴に手をかけた事を、後悔する事はない。
反撃以外で初めて人を殺したのに、全く罪悪感がない位だ。
「…………」
「…………」
「………………」
一気に静かになった、周りに集まっていた人達。
驚愕の表情だったり、青褪めていたり……
でも、特に気にならない。
「シュバルツさん、行きますよ?」
シュバルツにだけ声をかける。
「……っ、っは、はい!」
恐怖をベッタリと顔に貼り付け、それでも近寄ってくる彼。
馬車の周りにいる護衛らしき奴等は、後退りしている位なのに。
「──ちょっと!いったいいつまで待たせるの!?……あら?テオは何処へ行ったの?」
馬車から顔を出したのは、まだ若そうな女。
鑑定すると、17才と出た。
我儘そうな雰囲気で、高そうな服を身に纏っている。
……俺の嫌いな人種だ。
関わるつもりもないから、そのまま離れる。
ゲームでは優秀な貴族もいた筈なんだけどな……
あんな贅沢三昧な子供を野放しにしているなんて、ベケット男爵家は馬鹿貴族っぽいな。
男爵家が自由に出来る資金なんて、たかが知れている筈なんだから。
窘める存在はいないのだろうか?
「っ、メイシャ様、馬車にお戻り下さい!」
「そうです。あの男に殺されてしまいます!!」
「テオ様は、あの冒険者に殺されたのです!」
馬車の後ろにいた護衛達が、慌てた様子で女の前に立つ。
……もしかして俺の視界に入らないようにしようと思っているんだろうか?
馬車の荷台の方が高くなっているんだから無駄なのに。
「何それ?テオを殺したって言うの?お父様に言い付けるわ!そこの冒険者、覚悟なさい!……でも、これから生涯を私に捧げるなら、許すか検討してあげるわ!」
その言葉通りに受け取るとしたら、俺に奴隷になれって言っているのと同じ。
こんな我儘そうな女にこきつかわれるなんて、有り得ない。
騎士ジョブだった時も、こんな君主だったら謀叛を起こしていた。
……暴君が君主だった時は、ただの一回だったけど。
──始めは良い人だったのに、途中で性格が変わったんだよな。
若い君主だったからか、俺が騎士として頑張りまくっていたからか、他の事にも一因があったのか、調子に乗ったらしい。
そんな設定、初めから言っておいて欲しかった。
悪政をしき出したから、排除して一旦ゲームを終えた。
……とまあ、ゲームの話は置いといて。
「俺がお前みたいな奴に仕える訳がないだろう?……何だ?お前も殺されたいのか?跡形もなく消してやるぞ?どうせ此方は暇していたんだ。“ウザい貴族狩り”をしてやっても構わないけど?……それとも、この国をけしかけて俺と敵対するか?……そんな事になったら、この国を何も残さず更地にしてやるけどな。」
まるで悪役のセリフだなと思いながら口にする。
だけど俺は、誰かに使われるのはごめんだ。
駒扱いなんて冗談じゃない。
「はぁ!?そんな事、出来る訳がないじゃない。出来るものならやってみなさいよ!」
勝ち誇った顔を向けられてイラッとする。
……俺って、こんなに短気だったっけ?
賢者ジョブのスキル、仕事をしていないぞ。
……賢者でも怒る時は怒るって事か?
「そうか。折角許しを得たんだ。ベケット男爵家から消す事にしよう。」
男爵家くらいの館なら、物理的に消す事は簡単だろう。
──周りに被害が出ないか、それだけが心配だ。
「ベケット家令嬢様、直ぐ様発言を撤回して下さい!ルードゥブルグ共和国の代表者には本日、彼に手出し無用と報告してあります。伝達が来るのは直ぐでしょう。国を脅かしたとして処罰対象になるかと思われます!」
シュバルツが真っ青な顔のまま、声を張り上げる。
確かにこの国が俺に攻撃してくるなら、上層部を一掃くらいはしそうだけど……
それでも何かしてきたら、あの食堂の一家以外、消してやっても構わない。
……人を手にかけても何とも思わなくなってきているのは、俺自身がこの世界に適用してきているんだろうか?
俺の性格まで変わってきているんだろうか?
「たかだか冒険者一人に、何を慌てているの?どんな力を持っていようと、貴族に傅くのが義務でしょ?」
「彼はコクミック王国の国王直筆の証書を持っているのですよ?それを無視すると仰るのですか?」
先程見た光景が再び。
御者が女に変わっただけ。
「シュバルツさん、そんな奴放っておいて行きますよ?どうせ後僅かしか生きられないのですから、気にするだけ無駄ですよ。」
俺にとってその女は後々消すと決めた対象でしかなく、今更謝罪されたところで許す気も話す気もない。
かなり自己中心的になっている気もするけど、相手が相手だし、気にする必要もないだろう。
何か喚いているけど、右から左。
聞く価値もない。
「宿に戻ったら、字を書く練習をしよっか?でも、無理はしなくて良いからね?」
「ん。がんばる!」
グッと拳を作るソフィアが可愛くて癒される。
あんなのを見た後だから、特に。




