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閑話─ある冒険者─

更新遅くなりました(^_^;)


─シュバルツside─


コクミック王国、フォール支部所属の冒険者と出会ったのは、ザザンの森に現れたバジリスクをたった一人で討伐した冒険者がフォール支部にいると噂が流れてきた頃だった。


とてつもない威圧を感じて駆け付けた時、彼がいた。


黒猫族を抱き上げ、肩には小さなドラゴンを乗せている、一見気の抜けるような格好なのに、その身から発する威圧は周りにいる人達の呼吸すら止めそうなものだった。


……一目見て分かった。


──彼が噂の冒険者だと。


装備している物からして、上位の魔導剣士のように見えるが……確か、ギルドの鑑定士ですら鑑定が出来ないって聞いたけど。


確認したギルドカードはAランクのもので、ついでとばかりに見せられた証書は驚くべき物だった。


『何人たりとも、この証書を持つ者の歩みを止めてはならぬ。

彼──カイトの実力はギルドにいる鑑定士、大臣達が連れてきた鑑定士共々、把握出来ぬ結果に終わる事となった。

彼は鑑定阻害スキルを持ち、ステータス偽装スキルも持っているようで、命が惜しいならば鑑定しない事をお薦めする。

カイトが特に大切にしているのは共に行動している黒猫族で、罵詈雑言を浴びせたり攻撃をした者には命の保証はない。

それを国ぐるみで行えば、簡単に滅ぼされるであろう。

ギルドのAランクという立場は、現時点でそこまでしかあげられなかった為であり、彼の実力はそんなものではない。

彼を侮るのは良い結果にならぬ。

くれぐれも粗相なき様に。


コクミック王国国王ウィリアム・ファラレシカ』


見た瞬間に、王族の言葉で書かれているのは分かったが、署名と捺印に驚いた。


まさか、現在のコクミック王国の国王が書いた物だなんて。


国王が発行した証書となると、世界規模の重大な案件という事になる。


つまり、他国の者であっても、おいそれと無視出来ない内容という事でもある。


これはコクミック王国としての忠告であり、警告でもある。


つまり彼には国をも滅ぼす力があると示唆されているのだから。


(早急に代表達へ報告しなくては……!)


誰かが彼に攻撃の意思を持てば、次の瞬間にはこの国が存続していないかも知れないのだから。




代表者への顔合わせは拒否されたが、ギルドへ向かうのは了承して貰った。


部下に代表へ報告に行って貰い、私が監視役として残る事にした。


私でも到底止める事は出来ないだろうが、この街で私はそこそこ顔を知られている。


それなりの抑止力にはなるだろう。


──彼へ攻撃する意思を持つ人達には。


ギルドカードに従魔は古代竜と記載されていたし、彼の実力は計り知れないだろう。


……それより、高位の従魔がいるという事は、ジョブは現在いないと言われている召喚士なのだろうか?


下位ジョブの獣使いや竜騎士は現在も存在するが。


ギルドまで案内し、ギルマスへ顔合わせを要請したら──危惧していた事が起こった。


ギルドマスターという肩書きを、その実力のみで手に入れたブライアンは、臨機応変に対応出来ないのはある程度分かっていたが、証書やギルドカードを見る前に暴言を吐くなんて……


これなら副マスを呼べば良かったと今更後悔したところで遅い。


カイトのギルマスへ向ける目は冷たいどころか視界にすら入れていない“無”だ。




成り行きで私が兵団部隊長になる前から良く行く食堂へ連れて行く事となった。


強面だがヒューゴの作る料理は美味しいし、量もある為、兵団だけでなく冒険者達にも人気だと聞く。


女将のダリアは気さくで少々お節介なところはあるが、彼女の年齢を度外視して第二の母だと思っている常連客は多いと思う。


13才のミックも、両親を手伝う為に毎日店を手伝っている偉い少年だ。


──ミックがもっと小さかった時は、雇われた人がいたが。


何故かブライアンもついてきたが、どうやらまた金欠らしい。


歳が近いのもあり、同じ街を護る者としても顔を合わせる機会は多いし、後先考えない言動に呆れる事もあれど、共にいる事は苦でもない。


あるだけ使うタイプらしく、余分な金を持ち歩かないようにしているから、何かに使えばすぐにお金がないと口にしている。


ギルドに預けているお金をおろせば良いのに、手続きが面倒だからと私に借りる事が多い。


どうせ面倒事は副マスか事務員に任せっぱなしの彼の事だ。


お金をおろすのも任せているのだろう。


ブライアンの同席の許可を……と思ったのだが、ギルドにいた時の雰囲気になっている。


ブライアンがまるで見えていないかのように、私へしか返事をしない徹底ぶり。


……一度“敵”だと判断すれば、挽回の余地はないという事だろうか?


そしてブライアンとは違い、ダリアの事は気に入ったようで、にこやかに応対している。


彼にとって“黒猫族を排斥しないか、否か”が、人への好感度の差になるのだろうか?


膝の上に乗せ、自分が使うフォークで食べさせている事から、かなりこの子供を大切にしている事を窺わせているが……何故この子だったのだろう?


街中をさ迷っている子供なんて、コクミック王国だけでなくとも数多くいる。


──スラムがない国などありはしないのだから。


他の子供と、この黒猫族の子供の違いは何なのだろう?




店を出る前、またしても驚く事が起こった。


ダリアが膝を悪くしているのは知っていたが、表面上の怪我ではないのでポーションでは治せない為、鎮痛作用のある茶を差し入れする位しか出来なかった。


治癒したいのなら、司祭へ莫大なお金を払ってオーバーヒールをかけて貰わないといけない。


流石に民がそんなお金を持っている筈がないし、一度で治せる司祭などいないと言われている為、ダリア自身、完治は諦めていると言っていた。


それなのに──


「……痛みが……全くなくなった……?」


ダリアの呟きを耳にし、もしかすると彼の治癒力は司祭以上なんじゃないかと思った。


そうでなければ、何をしても痛みが続いていたらしいダリアが、あんなにも驚愕の表情をしなかっただろう。


(いなくなったとされる召喚士かも知れなくて、大司祭並みかそれ以上の治癒力を持っている可能性があり、バジリスクを単体で討伐出来る攻撃力を持つなんて……どんな化け物だ?)


年齢は20才らしいが……どのようにしてその力を手に入れたのだろう?


……それともダリアの膝は、暫くするとぶり返すのか?


でも、茶を処方している薬師から、完治しなければ痛みはとれないと言われていたらしいのに。


──だが、彼は他人に力を使う気はないと言った。


つまり、ダリアの事を殊更気に入ったという事なのだろう。


ただ、彼の力を知ったら、群がる人は後をたたないと思う。


そうなれば……その人達は彼によって排除されるのだろうか?


周りの驚愕を気にする素振りもなく店を出ていくカイトの後を、慌てて追い掛ける。


自分がどれだけ凄い事をしたのか、理解していないのだろうか?


……因みに、ブライアンは仕事に戻った。




「何か欲しい物はないか?」


「……ない。」


フリフリ……と首を振っている黒猫族の子供。


「ソドムは?」


『人族の使用する物など、我には必要ないぞ?』


「そっか。……これから何しようかな?暇なんだよなぁ。」


観光しに来たと言っていたのに、観光らしい事は全くしていないが……良いのだろうか?


「ソフィアの文字を書く練習用の紙でも買うか。子供でも簡単に使える筆記具があれば良いんだけどな。」


そんな事を口にしながら、雑貨屋へ入っていく。


(今、“紙”を買うと言ったか?)


そんな高級品を、子供の書く練習用に与えるのか?


一般的に出回っている羊皮紙にしたって、かなり高額。


文字の練習用に、それを買う民はいない。


実際、読み書きが出来る民は少ない。


読み書きが出来る者でも、本を読んで覚えるか、地面の上に書いて覚えるかのどちらかだろう。


……本も高級品だから、手に入れられる人は少ないが。


私は昔、騎士学校に通う貴族の子息に従事した事があり、読み書きや計算などはその時に覚えた。


だが兵団に入隊するのは貴族ではなく民が殆どで、大抵読み書きや計算が出来ない状態の為、基本、先輩が新人に読み書きや計算を教える事になる。


訓練や実務で、読み書きや計算が必要になるからだ。


覚えなければ、仕事が滞る。


……だけど、黒猫族の子供が文字を覚える必要があるんだろうか?


雑貨屋へ入っていくと、既に彼の手に高級品の白い紙があった。


白い紙は羊皮紙に比べて劣化しにくく、高価な魔導書や王宮などで使われている事が多い、重要なものを遺す為の物を、子供の練習用にだなんて……


彼が払っている金額に、思わず目を剥いてしまった。


それなのに、何て事ない様子の彼。


どれだけの資産を持っているのだろうか?


“元旅人”と聞いたけど……どうやってそんな資産を手に入れたのだろう?




その後、彼は色んな店にたち寄ったものの、特に欲しい物はなかったようで見ていただけだった。


生地は吟味していたようだけど、結局買わずに店を出た。


“質が悪い”と呟くのが聞こえたけど、一般的に使用されている生地だったのに。


確かに彼が身に纏っているローブは、見ただけで上質と分かる物だし、黒猫族の子供の服にしたってかなりの物だ。


コクミック王国で手に入れたのだろうか?


変わったデザインだけど、何処で売っていたのだろう?


それとも、仕立てたのだろうか?


「そろそろ休憩するか。すみません。此処にテーブルを置いて良いですか?休憩が終わったらすぐ退きますんで。」


「おう!そこなら邪魔にならないから良いぞ。」


屋台の店主に声をかけた彼は、テーブルと椅子を二脚を取り出した。


あんなに大きな物が入る魔法袋を、何処で手に入れたのだろう?


「シュバルツさんも座ります?」


既に座っている彼が、向かいの席を指した。


子供は彼の膝の上だからこそ、椅子が一脚余ったようだ。


一人で座らせないのは、子供用の椅子ではないからだろうか。


「では、お言葉に甘えて……」


正直なところ、立ったままの方が監視し易いが、彼の行動を阻止するのは到底無理だろうから、遠慮なく座らせて貰う。


「シュバルツさんもジュースで良いです?」


樽を取り出した事に驚いていると、更に驚く事を口にした。


果実を搾ったジュースは高級品なのに……


「良いのですか?」


「構いませんよ。沢山買ってあるので。」


初対面の私にも簡単に奢る事が出来るなんて……やはり、かなりの資産を保持しているようだ。


資産があっても、他人への出費を無駄だと断っている貴族とはまた違うが。


コップに淹れられた、柑橘系のジュース。


子供や私だけでなく、ドラゴンにも与えている彼。


そして、自分も口をつける。


(食堂でも思ったが、随分所作が綺麗だな。)


冒険者……ましてや、元旅人とは思えない。


高貴な出生だと言われても可笑しくない程。


彼はマナーを教わる機会があったのだろうか?




そんな彼をジロジロと遠慮なく見ていたからだろうか?


此方へと近付いてくるものに、気付くのが遅れた。


──男爵家の紋章が描かれた馬車だ。


彼への手出しなきようにと、代表者へ報告させたのはつい先程。


つまり、相手は“カイト”の事を知らない状態だという事。


(これは、対応を間違えると、この国が滅ぶ事になりそうだ。)


冷や汗が流れる。


まだ当主だったら話もつけられるが、こんな時間に街をフラフラしているという事は、子息か令嬢だろう。


正直、一番面倒な相手だ。


兵団に、貴族の身分は反映されない。


私も男爵家の出だが、成人後社交界に出ている他の貴族達とは違い、貴族への顔は広くない。


既に返上している貴族としての名前を、今更名乗る事もないのだから。


(願わくば、何事もなく終わって欲しいのだが……)


御者と目が合っている時点で、関わりなく通り過ぎてくれる可能性は低いが。


─シュバルツsideエンド─

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