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他国へ行きましょう

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ソドムの背に乗ってフォールへと向かう。


びっしりと生え揃った鱗は少しひんやりとしているけど、鱗の下は肉だから尻の下は思ったよりも硬くない。


ソドムの体色は一見黒色なんだけど、微妙に紫か赤が光の加減で見えるような鱗に覆われている。


黒紅梅色って言うんだっけ?


風圧や振動を無効にし、空気が薄い事や上空が寒いのも考慮して結界を張っているから、周りを見る余裕がある筈なのに、カルロスは腰が引けていて俺の腰から手を離そうとしない。


ソフィアも高過ぎて怖いのか、俺へしっかりと抱き着いていて、景色を全く見ていない。


命綱がないのだから怖がるなとは言わないけど……流石に落ちないように気を配っているんだから、もっと余裕を持てば良いのに。


ソフィアにいたっては俺が抱き上げているんだから。


念話でギルドの位置をソドムに伝えて向かって貰っているけど、行きよりもかなり早い時間で着くだろう。


流石はドラゴンの祖の種族だ。


レセドゥヤ山脈にいるドラゴン達は、基本的に属性で分かれている。


炎を吐くファイヤードラゴンや、氷を操るアイスドラゴンという風に……


レッドドラゴンやブラックドラゴンなどの属性ドラゴンの上位種は、ダンジョンのボスとしていたけど……この世界ではどうなっているのか知らない。


(馬車で半日の距離が、ソドムだと一時間もかからなかったな。)


風圧無効にしていたからこそ、着けたんだろうけど。


「カルロスさん、ギルドに着きましたよ?」


「……あ?え?」


「手を離して下さい。」


身体が硬直しているのか、離すように言っても腰に回された腕が離れない。


……男に抱き着かれる趣味なんてないのに。




「ソドム、用事を済ませてくる。……どうする?一旦戻るか?」


家に着いてから、改めて喚ぶ事も可能だ。


『我も共に行こう。小さくなれば良いであろう?』


用事が済むまで上空で旋回して貰うのは悪いなと思って声をかけたのに、小さくなってついてくるらしい。


姿を変えられるのは、ゲームでは聞いた事がない。


小説やマンガで見た事があるような、従魔が省エネスタイルになるような事が、この世界でもあるという事だろう。


「じゃあ、先に下に行っているぞ。」


飛び降りても良いけど、カルロスは俺の腰に腕を回し、膝立ちになっている。


つまり、このまま降りたら、一番先に地面に着くのはカルロスの足。


浮く事も出来るからゆっくり降りても良いけど、失禁でもされたら嫌だし。


清浄をかけたら良いだけだけど、当人も嫌だろう。


ソフィアが転移酔いをしないか心配だったけど、距離は短いし……というか目視出来る位置だし、風圧も慣性の法則も無効の結界を張っているから大丈夫だろうと判断した。


転移でギルドの入口前へ移動。


周りから見れば急に現れたようにしか見えなかったのだろう、驚いた顔が並んでいる。


……因みにソドムは気配遮断が出来る。


ドラゴンが攻めてきたと思われても困るから、使うようにお願いした。


警戒域に入らない程上空を飛べば、見張りの兵に見つかる事もない。


奴等はどちらかというと、高い位置から地面を見ているから。


フォールの砦の上なら上空を見ている兵も多いだろうけど、アーバンは城下町なんだからそちらと接する所で上空を過剰に警戒する必要もないだろう。




「カルロスさん、ギルドに着きましたよ?早く立って下さい。」


「……あぇ?」


意味のない声を発しているカルロス。


正気に戻るのはまだ時間がかかりそうだ。


……そんなに衝撃だったのか?


ソフィアに目を向けると、目を瞑って俺に抱き着いている。


可愛いけど、怖かったんだろうか?


「ソフィア、もうソドムの上じゃないぞ?それに俺はソフィアを危険な目に遇わせるつもりはないから、もっと力を抜いても良いぞ。」


背中をポンポンと叩いてやると、やっと目を開けた。


キョロキョロと周りへ視線を向け、やっと安心したのか俺を見上げ、ニパッと笑った。


その時に飛んできた小さな小さな……ドラゴン。


産まれたばかりのような赤ちゃんドラゴンにしか見えないけど、この姿がソドムの“省エネ姿”なんだろう。


厳つい姿は格好良かったのに、この姿では“可愛い”としか言い様がない。


『この姿ならば良いであろう?』


姿と一致しない言葉遣いだけど、元々の姿はアッチだからな。


「随分可愛らしい姿になったな。」


愛玩動物扱いされそうだ。


俺の肩に止まり、翼を広げている様なんて、本当の赤ちゃんドラゴンにしか見えない。


周りもそうなんだろう、温かい目が向けられている。




「ほら、離して下さい。」


襟を掴んで強引に離すと、やっと正気に戻ったようだ。


「っ、ハ?……ギルド?」


ようやくギルドの前にいる事に気付いたカルロスは、それでも少し呆けていたけれど直ぐに立ち上がった。


そしてキョロキョロと上空へと視線を向けている。


……ソドムを探しているんだろうか?


「ソドムなら此処にいますよ?上空に居させて誰かが気付いたら面倒ですし、力量の差も分からず、攻撃する馬鹿が現れないとも限らないですし……もしソドムを攻撃した場合、俺は加減しませんからね?カルロスさんも、そのような事態になるのは避けたいでしょう?」


「……っ、姿を変えられるのか!?」


……あれ?


姿を変えられるの、この世界では珍しいのか?


確かにゲームで従魔を連れて歩く事はなかったし、そういった設定自体なかった。


……という事は、普通は出来ないと認識されているのか?


「ソドムは出来るみたいですね。エンシェントドラゴンだから?」


『我だけでなく、他にもいるだろうがな。滅多に他の者へ姿を見せる事もないし、そもそも人族のような劣等種族、我の歯牙にもかからんわ。』


あー……うん。


召喚したばかりの時、凄く高圧的だったもんな。


……因みにこの世界には人型姿をしているのは人族、獣人族、森人族、土人族、空族、魔族の大きく分けて六種族がいる。


ソドムが言う“人族”は、ニュアンス的にそれらの種族をまとめたものらしい。


ソドムからしてみれば、多少見目が違う程度で、些末な違いしかないんだと。


ドラゴン達は分類的に魔獣カテゴリーに入るらしいけど、エンシェントドラゴンは聖獣の部類に入るらしい。


……ゲームでは難しい条件があったけど、召喚士として従魔にするのはそんなに珍しくなかった種族だったのに。


他にも聖獣と呼ばれる召喚獣もいるし。


……そういえば、今まで“召喚士”のジョブを持っていた人はいなかったな。


鑑定された仕返しに城の中にいた人達を鑑定したけど、一人もいなかった筈。


しかも、上位職も少なかったような……


あの中で飛び抜けて実力が高かったのはカルロスだったし、ジョブが騎士団長だった人もステータスが低かった。


ソドムだけで国が堕とせるんじゃないかと思う程に。


ここまでレベル差があれば、攻撃を受けても蚊に刺された位の殆どないと言って良いような痛感しか与えられないだろう。


『主が規格外過ぎるだけだ。この我ですら歯向かう気概が湧かぬ。主でなければ、我が従う事もなかった。』


力を見せていないのに、何かしら感じるって事なんだろうか?


召喚した事によって繋がりが出来たからとか?


……というか、頬擦りしてくるんだけど……嫌々従っている訳ではないって事で良いのか?




「じゃあ、ギルドランクを変更するからついてきてくれ。」


カルロスがやっとギルドへと入っていく。


ギルドに寄ったのはカルロスを送る為でもあったけど、ギルドランクの変更の為でもあった。


スタンピードを一人で解決した俺を、Cランクのままには出来ないらしい。


それに他国へ行く時も、Aランクの方がスムーズに入国出来るんだとか。


ギルドランクに興味はないけど、面倒事は少ない方が良い。


ギルドに一歩入ると、途端に騒がしくなった。


最近では静かになっていたのに……


「ドラゴン!?」

「卵を手に入れていたのか?でも、巣に近付くだけで、親に殺されるのがオチなのに……どうやって手に入れたんだ?」


ボソボソと囁き合っている言葉が聞こえてきた。


どうやらソドム──ドラゴンが珍しくて騒いでいるらしい。


巣から卵を奪うって……強盗じゃないか。


……いや、生き物だから誘拐になるのか?


でもそんな事をすれば、親ドラゴンが怒り狂って襲ってくるだけだ。


ドラゴンでなくとも、子供を奪われて怒らない親はいないだろう。


──人族達は簡単に子供を売る世界だけど。


自分の子供だけでなく、拐ってきたりスラムから連れていって売るくらいだ。


……この世界の人族は下衆が多過ぎる。


奴隷商人がいる時点で、“奴隷”の存在は認められているって事でもあるし。


裏取引なんてザラにある。


……こういった残虐性のあるゲームだからこそ、15R指定されていたんだろう。


18Rが相応しいって声も多く、良く公式の掲示板が荒れていたけど。




ランク変更は、直ぐに終わった。


ずっと召喚したままのソドムを従魔申請して、連れて歩いても咎められないようになった。


他に用事はなかったし、家へと帰る。


庭にソドムの住処となる洞でも作ろうかと思ったけど、他国へ行こうと思っているから、無駄になるかな?


(また帰って来た時にでも作れば良いか。)


元の姿に戻らないように言ってソドムも館の中へと入れた。


元の姿に戻られたら、いくら広い家といえど、ソドムの身体がぶつかって天井が崩落する。


でもずっと這いつくばっていろなんて言えないし。


「ソドムも一緒に寝るか?」


エンシェントドラゴンって何年も眠っているイメージがあるけど、どうなんだろう?


ゲームの召喚獣としてしか登場しなかった存在の生活スタイルなんて全く知らないけど、召喚した時身体に草まで生えていた事から、全くの見当外れでもなさそうだけど。


俺は現在、ソフィアと一緒に寝ている。


家にあるベッドは一つだけど、イベントリにはまだあるから出せる。


……今のソドムの姿だと、もう一つ出す必要はなさそうだけど。


知り合ったばかりの他人と一緒に寝たくないって言うなら出すけど。


『ふむ……仕方ないのぅ。』


「俺達と一緒に寝たくないなら、もう一つベッドを出すぞ?」


『いや!それには及ばぬ!我は主の“従魔”なのだからな!』


食い気味で返事をしてきた。


渋々感満載で“仕方ない”とか言っていたのに……一人寝は嫌みたいだ。


今まで孤独だったから、人の気配がある方が好ましいって事だろうか?


……人族が嫌いみたいなのに……俺が召喚主だからだろうか?


でも沢山部屋があるし、他の部屋は空き部屋のままなんだからベッドの設置をしても良かったのに。


このままだと生涯使わない部屋がある可能性が……


しかも、明日から他国へ行こうとしているから、この家自体、これから使うか分からないし。




────

──


「簡単に通れたな。」


ギルドに寄って国を出る事を伝えた後、関所を通ったけれど、国王発行の証書が力を発揮したようで、ソフィアを見てもソドムを見ても何も言われなかった。


俺のギルドカードを見た瞬間に目を瞠っていたけど、ギルドランクAの冒険者はそれなりの人数がいる筈なのに、何に驚いていたんだろう?


何処かで俺の話や噂を耳にして、だから俺の名前を見て驚いたとか?


ザザンの森に隣接している関所とは違う関所から出たから、そこに立っていた兵達は見た事がなかったけど。


ゲームで見た事があるかも知れないけど、一兵の顔や名前なんて覚えていない。


どの国に行くか迷ったけど、コクミック王国から一番近いルードゥブルグ共和国に行く事にした。


コクミック王国の西にザザンの森があるけど、南にあるのがルードゥブルグ共和国だ。ハニンソ皇国はザザンの森の南に位置しているけど、その間にあるのはレセドゥヤ山脈。


ソドムがいるからどうにでもなりそうだけど、レセドゥヤにいるドラゴンがソドムに怖れて散り散りにでもなれば、弱くなっているこの世界では、国が滅ぶ可能性もあるからな。


……この世界のドラコンのレベルがどこまで落ちているのか知らないけど。


でも、バジリスク程度で大騒ぎするって事は、ドラコンはそれなりに高いレベルで討伐が難しい筈。


ゲームでは、ドラコン討伐の依頼はカルロスと協力して完遂せよってものだったし。


ゲームでのカルロスは、レベル83。


つまり、カルロス単体では討伐出来ないって意味でもある。


そして、そんなカルロスより弱ければ、依頼達成はほぼ不可能だった。


つまり、ドラコンはNPCの中で世界最強と言われていたカルロスでも歯が立たない相手って事だ。


そんなのが何体も襲ってきたら、民どころか一般の兵達には為す術もないだろう。




『我が運ぶのだろう?南へ行けば良いのだな?』


「ルードゥブルグ共和国はソドムの存在を知らないから、姿が見えた途端、攻撃してくると思うぞ?」


コクミック王国では、沢山の人の目の中で召喚した。


だからこそ俺がソドムを連れていると知っている人が多い。


だけどルードゥブルグ共和国は、俺の存在自体知らないだろう。


交易をしているコクミック王国から噂が流れている可能性も考えられるけど、コクミック王国に来ていなければ、自分の目で見ていないだろう。


“噂”を信じない人も多いだろうし。


『主以外の人族なぞの攻撃、我には効かぬぞ?』


ソドムが言う通り、レベルが現在のカルロスのほぼ六倍程の差があるんだから、いくらコクミック王国の人達が攻撃したところで、ソドムへ痛みすら殆ど与えられないだろう。


だけど──


「確かにそうだろうけど、ソドムを攻撃されて、俺が怒らないと思う?もしそうなれば、国に入る前に消し飛ばしそうだからね。」


ソフィアは戦う術も自分の身を護る術もない。


だから魔道具を持たせ、俺の結界も常時何枚も張っている。


だけどソドムは“従魔”になると決めたのは自分なのだから、主に護られては矜持も誇りも失うって言うから、結界は張っていない。


エンシェントドラゴンがこの世界でとてつもなく強い事は知っている。


しかも俺が召喚したソドムは、“ゲームの世界で召喚していたエンシェントドラゴン”のレベルと同じ。


つまり、この弱い世界の中で、異様にソドムが強いという事となる。


……だけど、それでも何処かで不安なんだろう。


心配しない事はない。


『……我にそんな事を言うのは、主が初めてだ……』


「ソドムの実力を疑っている訳じゃないけどな。だけど、どうしたって心配する。俺は俺の懐に入れた者は全員護ると決めているからな。」


ソフィアを引き取った時も、俺が護ると決めた。


周りの態度を見て、余計にその思いは強固なものになった。


俺は何があろうと、ソフィアを蔑ろにして他を優先しない。


ソドムは召喚獣だけど、俺が召喚した相手だ。


従魔が召喚主を護るのは契約上仕方ないとしても、俺がソドムを護るのは俺の中では当然でしかない。


『……心配、か…………何だかムズムズと痒くなるな。』


……照れているんだろうか?


尾をブンブンと振って、まるで嬉しさ満点の犬のようだ。




ルードゥブルグ共和国へは、コクミック王国から馬車で一日半かかるらしい。


貴族達以外は乗り合い馬車しか移動手段がなく、カルロスが言うには劣悪な環境らしいから、乗ろうとは思わない。


俺がソフィア達を抱き上げたまま走ればもっと早く着くし、好きな時に休憩出来る。


それにソフィアとソドムが一緒なら、乗り合い馬車に同乗した奴等が五月蝿くならない保証もない。


面倒事に自分から突っ込む必要なんてない。


ソフィアとソドムに結界を張り、南方向へと駆けていく。


走りながらでも結界があるから皆で会話は出来るし、食べ物も飲み物もマジックバッグに沢山入っているから、休憩時に摂れる。


直ぐにルードゥブルグ共和国に着くだろうから食べ物はそんなにいらないだろうけど、ソドムが食べる物を買い足した。


ドラゴンらしく生肉が主食らしいけど、果物なんかも食べるようだ。


生肉は少し表面を炙った物が一番好きらしい。


昨日の夕飯時、分厚い肉を塩胡椒をして表面を軽く焼いてあげたら、凄く喜んでいた。

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