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強制依頼発生


ピコンッ!


(何だ?煩いな。)


突然響いた音に、一瞬で目が覚めた。


(何の音だ?)


音が出るような物なんて、部屋になかった筈。


家の呼び出し音は、あんな感じの電子音じゃなくて鐘が鳴るような音の筈。


(……ギルドカード?)


持ち歩くのは邪魔だからってイベントリに突っ込んでいたけど、目の前に現れた半透明の文字は『緊急強制依頼発生』と出ている。


ゲームのイベントでもあった“ギルドによる強制依頼”だろう。


(こんな夜中にかよ……)


いつ起こるか分からないとはいえ、時間を考えて欲しいものだ。


「……ん……?……おにいちゃん?」


「ソフィア、緊急依頼が入ったから起きて。ほら、服に着替えるよ。」


ソフィアは起こさずに寝かせてあげたかったけど、どちらにしても俺が離れると目が覚めるようだし、依頼に一緒に連れていくと約束もしたし、起こして連れていく事に。


「いらい?」


「そう。眠いだろうけど、少し我慢な。終わってからゆっくり寝よう。」


「ん。」


依頼遂行中に眠ってて良いよって言ってあげたいけど、こういう緊急依頼はスタンピード発生の場合が殆ど。


起きてて貰わないと危ない。


ソフィアを着替えさせ、俺も一瞬で着替えて家を出る。




ギルドに着いた時、外も中も人で溢れていた。


何の依頼が聞きたいけど、この人混みの中に突撃するのは嫌だな。


ソフィアもいる事だし、少し落ち着いてからにしよう。


イベントリから椅子を取り出し、座って待つ事にした。


ソフィアは俺の膝の上。


ぼんやりと人が退くのを待つ。


暫くして、カルロスが数人を引き連れてギルドから出てきた。


俺と目が合うと近寄ってくるんだけど……このまま依頼を聞く事になるのか?


「子供も一緒に連れてきたのか。危険だから終わるまでギルドで預かっておこうか?子供を護りながら戦うのは大変だろう?」


やはりソフィアの存在は目立つようだ。


周りを見ても、子供の姿はない。


「敵にもよりますけど、ある程度は平気です。依頼内容は何ですか?」


「……現在、オーガが目算200体。まだ増えているようだ。斥候によれば、400弱位という話だが。ザザンの森から此方へ進行している。」


「……え?オーガ400体程度で強制依頼ですか?カルロスさん一人でも討伐出来ますよね?俺達帰って良いですか?」


言ってから思い出したけど、そういえばカルロスは物理攻撃に特化しているんだっけ?


それなら一人では少し難しいか。


囲まれたら終わりだもんな。


「いや、流石に俺一人では無理だ。……が、カイトは一人で充分そうだな。」


「魔法で範囲攻撃なら一撃で討伐出来ますけど、それをすると大地ごと抉りそうですね。……アイスアローで頭をぶち抜きましょうか?400体程度なら直ぐに終わりますし。」


敵影捕捉して攻撃すれば、一撃と変わらない位の時間で終わるだろう。


「……マジか。街に危険がないのは有難いが……集まって貰った奴等に何も無しって訳にはいかないんだ。」


「オーガの魔石を各自取れば良いのでは?俺は必要ないんで。」


オーガの魔石はアイテムバッグにたんまりあるし、新たに手に入れる必要性もない。


「そうか!それなら頼んで良いか?討伐完了次第、依頼金を渡す。」


喜色を浮かべたカルロスは、後ろにいた数人に声を掛けている。


今言った事を伝えているのだろう。




(俺一人で討伐か……)


まあ、直ぐに帰れるだろうから、良しとするか。


「カルロスさん、この砦って登って良いですか?」


上から見た方が、敵の位置を把握し易い。


でもこの砦に登るには、許可が必要だった筈。


上にいるのは、見張りの兵達だろう。


「ああ、少し待ってくれ。俺も一緒に行くから。」


許可を貰おうと思ったけど、カルロスも一緒に行くらしい。


ギルマスが一緒なら、許可証を見せなくても良いって事なんだろう。


「待たせたな。砦上への入口は、此処から離れているんだ。少し時間がかかるだろう。」


少ししてカルロスの用事が終わったようで、再び俺へ話し掛けてきた。


「直接上へ行くのは駄目なんですか?」


それだったら早いのに。


「……浮遊魔法を使えるのか!?だが、勿論俺は使えねぇぞ?」


「?」


浮遊魔法で浮いていくって思っているようだけど、浮遊魔法は魔力操作が大変なイメージしかない。


俺一人ならともかく、ソフィアと一緒にいるのに危険かも知れない事をする訳がない。


「『重力負荷無効』『風圧無効』『衝撃無効』『慣性の法則無効』……こんなものか。」


ソフィアへ結界を施す。


カルロスへは……別に結界無しでも構わないだろう。


(腕力強化は……しなくても良いか。)


ソフィアを抱き上げる腕を左腕に変え、右腕でカルロスを抱える。


「えっ!?おい!?」


右から何か言ったのが聞こえたけど、無視して膝を軽く曲げてから、勢い良く地面を蹴る。


上がる度に壁を蹴って、それを数度繰り返したら砦の上に着いた。


突然下から現れた俺達に兵達が驚いていたようだけど、先ずはソフィアへ視線を向ける。


「大丈夫だったか?」


「……?ん。」


何が起こったか分からないって顔をしていたけど、不調はないようだ。


カルロスを地面へ下ろそうとしたら、何故かそのまま後ろに転がった。


「カルロスさん?大丈夫ですか?」


まさか腰が抜けた……とか?


──NPC最強が?


「……こんなに高い壁を駆け上がる奴なんて、初めて見たぞ。」


尻餅をついたまま何か呟いているけど、早く立てば良いのに。


周りが騒がしくなる前に。




「カイトが来てから、驚かされてばかりだな。」


やっと立ち上がったカルロス。


そんなに驚かせているだろうか?


「ギルマス、これはいったい何の騒ぎです?……それに彼等は?」


此処にいる兵の代表なのか、人垣の中から進み出た一人の男がカルロスへ声を掛けてきた。


何だかピリピリした雰囲気なのは、オーガがやってきているからだろうか?


「ああ、今回は彼に全て任せる事となった。此処へ登った方が一気に片付けられるとの事で、俺が此処へ来る許可を出した。……まさか砦を駆け上がるとは思ってもいなかったがな。荷物のように運ばれたのも初めてだ。」


「……彼一人に?……そういえば、たった一人でのバジリスク討伐者がギルド登録をしたと聞きましたが、彼がそうなんですか?」


「ああ。」


「ですが、今回はオーガが400体弱なんですよ?とてもじゃないですけど、一人では限度があるのでは?此処が落ちたらこの国は終わりですよ?」


「それくらい知ってる。俺も彼の実力を把握している訳じゃないが、彼の言葉の通りなら、俺達は今回、魔石漁りの仕事になりそうだ。」


二人が話しているのを横目に、砦の向こう側へ視線を向ける。


点々と見えるのがオーガなのだろう。


まだ砦からは遠い位置にいる。


(『敵影捕捉』……342……361……375……全部で378体か。)


少し待ってみても増えないから、378体が今回の敵の数のようだ。


「スキル『必中』発動、アイスアロー!」


弓術のスキルを発動させ、魔法で射る。


勢い良く飛んでいく氷の塊は、オーガ達の眉間を次々とぶち抜いていった。


10秒もかからない間に、俺の頭上に現れた氷の塊が消えた。


索敵しても、敵の位置を捕捉出来ないって事は、討伐が完了したって事だろう。


「終わりました。位置が悪くて、後ろにいたオーガの魔石を壊してしまったのが5体あるんですけど、構わなかったですか?」


「あ、ああ。」

「…………」


何故か真っ青な顔をしているカルロス達。


周りにいた兵達も、似たり寄ったり。


「それじゃあ、俺は帰って良いですよね?」


「昼頃から夜までにギルドに来てくれ。今回の報酬金を渡すから。」


「分かりました。」


カルロスは直ぐに言葉を返してくれたから、時間の無駄はなさそうだ。


降りるのは一瞬で、地面に着く直前に風魔法で少し浮き、衝撃を緩和。


砦の下にも人がいて驚愕の表情を浮かべていたけど、構わずに家へと向かう。




────

──


ゆっくりと睡眠を摂ってから、ソフィアと共にギルドへ向かう。


昼以降を指定されたのは、あれから後始末をする時間が必要だったからだろう。


集まった人数より、オーガの数の方が多かった位だし。


ギルドの中へ足を踏み入れると、またも静まり返った。


騒がしくなるか、静かになるかのどちらかしかないんだろうか?


カルロスにはギルドに来いと言われたけど、見た感じその姿はない。


ギルマスの執務室にでもいるんだろうか?


受付の人に言えば、呼んでくれるかな?


「すみません。ギルマスに昼以降に来るように言われていたんですけど……」


「伺っております。少々お待ち下さい。」


受付の人へ声をかけると、立ち上がって奥にある扉へと向かった。


連絡ツールがある部屋なんだろうか?


「来たか。スタンピードで負傷者0だった事は、今までになかった事なんだ。カイトのお陰で助かった。」


ドタドタと足音を響かせて階段を下りてきたカルロス。


やはり受付の人の奥に見える扉の先には、カルロスへの連絡ツールがあるんだろうな。


受付を見ると、先程の女性は既に椅子に座って違う人の対応をしていた。


──早い。


「そうなんですか。」


「……興味なさそうだな。凄い事なんだぞ?」


「はぁ。」


そんな事を言われたって……


オーガ378体の討伐なんて、ゲームでは雑魚イベントにあたるのに。


凄いとか言われてもピンとこない。




「でも、あれだけの魔法を使って、よく魔力が枯渇しなかったな。剣士よりも魔導師よりなのか?」


「……え?」


思わぬ言葉に、キョトンとしてしまう。


だって使ったのは、初級中の初級の魔法なのに。


数は多かったけど、消費魔力は微々たるもの。


あれくらいなら、魔術師や魔導師なら出来るんじゃないのか?


だって俺は広範囲攻撃をした訳でもないし、上級や特級魔法を使った訳じゃないんだぞ?


禁忌魔法を使って驚かれるならともかく……何を言っているんだ?


「?何を驚いているんだ?あんな魔法の使い方をする奴なんて、王宮魔術師にもいないぞ?命中率も凄かったし、総て眉間を射抜かれていた。国で一番の魔力保持者と言われている魔術師長だって、あんな使い方をすれば魔力が枯渇するだろう。範囲攻撃をした方が、何発も放てるだろうが……」


「……そうですか。」


つまり、精度が良過ぎるって事か。


魔法だけで命中率を上げようと思えば、魔力の扱いに長けていなければいけない。


だけど俺はスキルを使っただけだし、そこまで凄い事をした訳でもない。


でも……やはりこの世界の人達、弱過ぎないか?


今までどうやって生き残ってきたんだろう?


強い敵もいないって事になるんだろうけど……バジリスクやオーガ程度であんなにワチャワチャしていた人達は、ゲームでは強敵の部類に入るドラゴンが来たらどうなるんだ?


蹂躙されるのを天災と思って諦めるしかないんじゃないか?


「……まあ良いか。今回の報酬は20000Gだ。」


「どうも。」


あの数の割には報酬金が少ないのは、魔石分を引かれているからだろう。


(これはソフィアの小遣いにしよう。)


俺のではなく、ソフィアのマジックバッグへと仕舞う。


独り立ちする時に、あって困るものでもないだろう。


俺がいつまでこの世界に居られるかも分かっていないんだから。




「今回の功労者という事で、陛下からカイトを呼ぶように言われているんだが……」


「遠慮します。」


「カイトならそう言うと思っていた。……だが、顔繋ぎをしておきたいのだろう。俺も一緒に行くから、何とかならないか?スタンピード前から打診されていたんだ。黒猫族への暴言を吐く奴は、俺が抑えるから。」


即行で断ったのに、諦めてくれない。


顔繋ぎなんて、俺にメリットなんてないのに。


「この国に永住するつもりはないんですが?」


「それを言われちまうとな……カイトを巡って戦争になりかねないな。」


何だよ、それ?


「俺は“戦利品”にはなりませんよ。」


俺の権利を、俺抜きで争ったところで意味などない。


俺は俺のしたい事しかしないのだから。


「……国が動く程の実力者だと自覚してくれ。」


「“完全中立”だと宣言でもしましょうか?」


今のところ何処かの国に肩入れするつもりはないし、色んな国が出ばってくるのは鬱陶しい。


国のしがらみに巻き込まれるのは御免だ。


「どのみち、今のままだとこの国から出る事もままならないぞ?既に規制がかけられているだろうからな。強行突破すると、犯罪者の烙印を押されるから止めろよ?」


「…………この国は俺に喧嘩を売っているんですね?」


俺が冒険者登録してから、まだ三日しか経っていないんだぞ?


規制がかけられるなんて聞いていない。


俺は犯罪者でもないのに。


「アーバンへ行くのは、今からですか?」


「……一応、三日後の朝に迎えを寄越すと示唆されていたんだが……」


……あれ?


何故かカルロスが真っ青な顔をして震えている。


「分かりました。三日後ですね?」


ニッコリ笑みを浮かべたのに、更に顔色をなくすカルロス。


──失礼な。

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