出発と妖精
魔ねき猫です。
投稿日時など決まっていませんが、出来るだけ早く投稿出来るように頑張ります。
「お兄ちゃん、起きて!」
早朝から大きな声のせいで、気持ちいい眠りから目が醒める。
少し間が空いているカーテンの隙間から太陽の光が射す。
声のする方へ向くと、舞がいた。
「今日の昼には寮へ行くんでしょ?」
寮へ行くと言われ、昨日の出来事を思い出した。
つい窓の方を見て、昨晩窓を開けた時についた指紋が見えた。
「昨日のこと、本当だったんだ」
「ん?昨日のこと?」
「いや、何でもない。」
「ふーん。変なお兄ちゃん。
そんなことより、本当に寮へ行っちゃうの?考え直す気は無いの?」
きたか。舞のわがままが発動だな。
こちらをチラチラ見ている舞。
ドアノブを人差し指でスーッとなぞっていた。
こういう場合は、気乗りはしないが強く言うべきだと思う。
「舞、わがまま言ってもダメな事は分かってるだろ?
定期的に帰るようにするから」
なぜ昨日会ったばかりなのに、これ程甘えて来てるのは分からないが。
可愛い妹だから許してしまうな。
そろそろ沙霧さんにも挨拶しとかないとな。
舞と一緒に、一階へ降りると、沙霧さんが可愛い感じのエプロンを着て、朝ごはんの準備をしていた。
テーブルの上は、焼き魚や白飯、味噌汁などの一般的な朝食が揃っていた。
「沙霧さん、ここに来て二日しか経ってないけど、学校頑張って来ます!」
「ええ。少し寂しくなるけど、たまには帰ってきてね?
あなたの帰る場所はいつだってここなんだから。」
その後、当分食べれなくなるだろう沙霧さんのご飯を食べた。
一般的な食事だが、味は格別だった。
そう思った事を沙霧さんに悟られたのか笑顔でこちらを見ていた。
一度自分の部屋に戻って、自分の荷物などをスーツケースに入れた。
招待状も持った。あの魔法の本も持った。
用意していてふと思った。
こんな、いつもの変わらない朝だが、蓮からすれば人生がガラリと変わる日だ。
そんな事を考えていたら、誰かが来た事を伝えるインターホンが鳴った。
多分ローレッタ先生が来たのだと思い、少し早足で階段を降りる。
案の定ローレッタ先生だった。
先生は昨日と変わって、この世界では社会人が着ているものと、なんら変わりないスーツだった。
こっちの姿でも似合っていると思った。
「先生、蓮くんをよろしくね」
沙霧さんは完璧に信じている。
ローレッタ先生がうまくしてくれたお陰だ。
「お兄ちゃん、風邪引いちゃダメだよ?体には気を付けてね」
今朝言った事で、多分しょうがなくだと思うが受け入れてくれたらしい。
笑顔だが、その裏には心配している気持ちや、言って欲しくない気持ちなどがあるんだろう。
「二人とも心配し過ぎだよ。行ってきます」
二人が心配性だと認識した上で、玄関を出る。
当分見れなくなるであろう自分の家を脳裏に焼き付けて。
「アルスマグナ魔法学園にはどうやって行くのですか?」
「船ですよ。あちらには街があるので、寮に行く前に生活用品など揃えてみればいいと思います」
家からは少し離れた場所に位置してある大きな山の前に来た。
少し不気味な山だ。
何者かに見られているような、背筋がゾクゾクする感じだ。
「ローレッタ先生、ここの山。少し気味が悪いんですが。」
「ここには案内人の妖精がいます。その妖精がそう感じるようにしているのでしょう」
妖精の名が出るとは思わなかった。
しかも家から少しした位置に妖精がいたとは。
案外色々な所に、そういう生き物がいるのかもしれない。
ローレッタ先生は獣道を歩くが、木々が避けていくので歩きづらくない。
迷いなく歩く姿に、木々が案内しているのか、ローレッタ先生が退けているのか分からなくなっていく。
數十分、歩きつずけて山の奥まで来た。
たどり着いた場所は、透き通った池だった。
先程までの気味の悪い雰囲気からはうって違って、空気が綺麗な場所だ。
「ここ...ですか?」
「はい。そろそろきます」
ローレッタ先生がそう言うと、突如池が光りだした。
予想外の出来事に、驚いてしまう。
日常では起こらない事がこれから起こるのだと、自分に言い聞かせてはいたが。
光の中から、一匹の羽根の生えた小さな妖精が現れた。
妖精はローレッタ先生と蓮の周りを、速い速度で飛び回ると、ローレッタ先生の前で止まった。
「普段は、満月の夜にしか現れないんですけど、来てくれましたね」
ええ...この先生無理矢理呼び出したの?
一気にこの人のイメージが崩れた。
「ローレッタ先生!まさかこの時間帯で呼び出されるとは、思いませんでしたよ」
やっぱり妖精は怒っていた。
頬を膨らませ、両腕を腰に当てて。まるで子供みたいだった。
「ごめんなさい、妖精さん。この子が最後の新入生です」
「こんにちは。俺の名前は天草 蓮って言います」
「ふむふむ」
妖精は蓮の周りを飛び、一人納得したように目の前に止まった。
目が合うと、意外に可愛いと思ったのは内緒だ。
「あの、妖精さんの名前は?」
「「え?」」
二人ともびっくりした顔でこちらを見て来た。
名前を聞いただけなのに、蓮はその反応に驚いた。
「え?何かおかしいこと言いましたか?」
「妖精に名前を聞く人は、なかなかいないわよ」
「蓮って言ったわね。あなた気に入ったわ!名前はないの。蓮がつけてくれる?」
妖精に名前を付けるなんて、一生経験できない事だ。
この妖精の特徴は...綺麗な青色をしているな。
青色...か。
「マリンなんてどう?」
「マリン...ますます気に入ったわ!」
どうやらお気に召したらしい。
再び蓮の周りを飛び回る。
「妖精は気に入った人にしか名前を付けさせてくれないのよ。
それに妖精の名前は、付けた人が死んだら無くなるのよ」
だから妖精に名前を聞く事がおかしいのか。
妖精は長生きだ。
その妖精の名前が何回も変わると覚えるのが面倒だから、覚えないことになった。
「よし!蓮、そろそろ行こうか」
妖精が池に近付き、杖を出した。
妖精の杖は、棒があって、その先には妖精を思わせる可愛らしい羽が付いていた。
色々な形の杖があるんだな。
「マリンの名の下に、蓮を案内する」
マリンがそう言うと、池の中から木で出来た小舟が現れた。
中にあった水が完全に抜けると、マリンと一緒に船に乗る。
「天草くんは先に行ってください。
私は少し寄る所があるので」
ローレッタ先生にお礼を言うと、船は出た。
少しずつ見えなくなっていくローレッタ先生に手を振った。
暫くの間、船は沈黙とともに進んでいく。
とうとう周りには何も無くなってしまった。
沈黙に耐えれなくなったのか、マリンは蓮の方に乗り、話し始める。
「蓮は知らないよね?三つの魔法学園が出来るまでの話。
このマリンが教えてあげる」
私に任せろと言っているかのように、マリンは胸を張る。
三つの魔法学園ができた話は、確かに気になる話だ。
「聞かせてくれ」
まだ魔法というものが、人々に知られていない頃の話。
とある特殊な力を持った者がいた。
知らぬ者がいないという【始祖の魔法使い】だ。
始祖の魔法使いは、世界を崩壊に導いた。
世界が諦めかけた頃、十人の魔法使いが現れた。
創造の魔法使い【クレア】
癒しの魔法使い【ルポゼ】
生命の魔法使い【アニマ】
運命の魔法使い【フォルトゥム】
知恵の魔法【サピエンティア】
無の魔法使い【ニヒル】
幻影の魔法使い【イリュージョン】
時の魔法使い【ホラ】
自然の魔法使い【ナトゥーラ】
言葉の魔法使い【ウェルブム】
この十人の魔法使いは【選ばれし魔法使い】と言われた。
この戦いは、三日三晩続いたという。
十人の魔法使いを相手にしても、【始祖の魔法使い】には勝てなかった。
最後の手段だと、十人が一斉に封印の魔法を使い、この戦いは終わった。
一斉に相手をしても【始祖の魔法使い】を倒すまでには至らなかった【選ばれし魔法使い】は、始祖の魔法使いが復活した時のために、学園を作った。
今度こそ、【始祖の魔法使い】を倒すために。
優秀な魔法使いを育てるためにと。
実は自分の近くに妖精はいるのかも...