囚われの身と狂愛
魔ねき猫です。
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一瞬で仮面の男は、間合いを詰めて来る。
だがヨミもそれに対抗する。
仮面の男は、刀身の短い剣を裾の奥から落としタイミング良く手にとる。
そしてヨミの首を狙い、確実に殺しに来ているのが分かった。
こういう場合、平和な国で育ったレンはどうすれば良いのか分からずに、ヨミと仮面の男の攻防を見ていた。
仮面の男が距離を取る。
ヨミの方が優勢だったからだ。
「アマクサ君の近くにはこんな強い子がいるなんてね。
ある程度の情報は知っていたはずだけどねぇ?」
「それは残念だったな。
俺にはヨミと言う強い味方がいるからな」
知らないのは無理もない。
ヨミが人間の姿になれる事はシャルしか知らない。
「僕も遊んでる暇はないからね。
そろそろ一緒に来てもらう」
「ご主人様には指一本触れさせない!」
ヨミは警戒する。
仮面の男は、レンを捕まえる事が今回の目的らしい。
ヨミの方が優勢だったが、仮面の男は何かを隠している感じがする。
確実な情報を仕入れて、攻めてくる計算高い男だ。
そんな男が実力行使で敵わなかった場合を予想しない筈が無い。
「君は随分と厄介だけど、僕の魔法には敵わないよ?」
突如、仮面の男が剣を投げ捨てると、左手を横に突き出す。
すると、仮面の男の手の先には黒い穴が現れた。
「君の大事なご主人様を連れて行くのは心苦しいが、これも組織の為だ」
仮面の男が左手を黒い穴に入れると、レンの後ろに同じような黒い穴が現れる。
その穴から仮面の男の手が出てくると共に、レンは捕まった。
「ご主人様!」
絶対に取られてはならないと分かっていながら、レンを取られてしまったヨミはショックだった。
完全に死角を取られたヨミは為す術も無く、レンを取られてしまう。
ヨミはレンが伸ばす腕を掴もうとするが、あともう少しのところでレンは穴の中へ連れて行かれてしまった。
そしてレンは、仮面の男の左手に掴まれて気を失っていた。
「おっと、アマクサ君にはキツかったか。
でもこっちの方が連れて行きやすいからいいや!」
ヨミは凄いスピードで仮面の男に近寄るが、仮面の男がもう一度黒い穴を作り、仮面の男とレンはその中へ消えてしまった。
自分の不甲斐なさに、ヨミは泣き崩れてしまう。
まさか仮面の男が時空魔法の使い手だったとは。
完全に自分の落ち度だった。
ヨミはどうする事も出来ず、一時間程その場で泣いていた。
「ただい...ヨミちゃん!どうしたの!?」
シャルが帰って来た。
シャルは家の中がボロボロで、廊下ではヨミが泣いていたのだ。
ヨミはシャルが帰ってくると同時に大声で泣く。
レンを取られてしまった罪悪感、シャルが帰って来たという安心感などが一気に押し寄せて来た。
シャルに全てを話した。
するとシャルはヨミを両手で包んだ。
「シャルさん、ごめんなさい!
私が力不足なせいでご主人様が連れて行かれちゃったの」
シャルの方に顔を置き、ヨミはとにかく泣いた。
守れなかった罪悪感はシャルには分からないが、辛いのはヨミの姿を見ていると分かる。
「良いのよ。ヨミちゃんは頑張った。
私がいないばかりに...!」
シャルもその場に居なかった不甲斐なさを感じていた。
ふと、シャルは一つの物に気が付いた。
レンは何も考え無しでヨミの攻防を見て居た訳ではない。
それを見たシャルは心の中で少し希望が見えた気がした。
「ヨミちゃんは、力不足なんかじゃないよ!
これを見て!」
シャルが指を差す先にある物を見る。
それは、レンの魔弾ライフル【スカイ】が入っている箱だった。
レンはリビングに入る時に、ちゃんとこの箱に【スカイ】を入れていた。
だが箱の中には何も無かった。
レンはヨミと仮面の男が攻防している隙に自分の武器を取っていたのだ。
あの時レンは何も持っていなかったように見えたのは、不可視化する魔法陣が書いてある紙を【スカイ】に貼ったからだろう。
「どこに行ったか分からないレンを探すより行く所があるわ。
だからあっちの事はレンに任せるしか無いわ。
私達は学園長にこの事を伝えないとね!」
シャルは急いで箒に乗ると、ヨミも猫の姿に戻り箒に乗る。
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意識が覚醒すると、そこは少し広いが、何も無い部屋だった。
壁や天井、床まで白色に統一していた。
シミ一つ無い部屋は、どこか居心地が悪かった。
レンは天井から吊るされている鎖に手を拘束されていた。
「おはよう、アマクサ君。
気分はどうかな?」
目の前に現れたのは、レンとヨミを襲った仮面の男イシュだった。
「ふん、すこぶる悪いな。
確かイシュだったか。
ここに着ていつぐらいだ?
なんで俺を拉致したんだ?」
イシュはレンの周りをグルグル回る。
少し間が空いたがイシュは、レンの質問に答えた。
こちらがある程度の情報を掴んでいる事をわかっているのだろうか。
「君が起きて数時間って所ですね。
次の質問ですね。私は【ストゥルティ】という組織の者です。
我々【ストゥルティ】は目的があるのです。
その目的の為には【始祖の魔法使い】の力が必要なのです。
【始祖の魔法使い】を復活させる為には君が必要みたいでね」
また復活か。
しかし、まだ【ストゥルティ】は眠りについていることすら知らないようだ。
だがもしこのままレンが復活のために利用されると、本当に眠っている【始祖の魔法使い】を目覚めさせる事に繋がるかもしれない。
「なぜ俺が必要なんだ?」
「すまない。勉強熱心なのは良い事だが、教える事が出来ない。
それに幹部の方にアマクサ君と話をさせろとの命令が出てるから」
そういうとイシュはニコリと笑って消えた。
この部屋は一体何なのだろう。
時空魔法で空間を作った可能性がある。
辺りを見て何処からか逃げ道は無いかと考えていると、イシュが言っていた幹部が来た。
イシュが一瞬で消えたように、一瞬でその幹部が現れる。
「ああ。いつ見てもカッコイイわぁ。
アマクサ君...」
急に抱きつかれるレン。
その子はレンと同じ黒髪で、黒髪を腰まで伸ばし、お洒落なドレスを着ている。
ヨミといい目の前の人といい、この世界でのお洒落はドレスなのか...?
彼女はレンに近づき、自分の足とレンの足を絡めつつ、あと数センチの所まで顔を近づける。
レンはこの状況に追いつけれない。
「はぁ...はぁ...アマクサ君」
見たこともない人に言い寄られる程、怖いものはない。
彼女は高揚しきった顔でレンの顔を舐める様に見る。
「あの、どちら様でしょうか?」
「ミラ」
「へ?」
「ミラって呼んで欲しいなぁ?」
彼女、ミラは上目遣いでお願いする。
敵の組織に属しているミラにドキドキもしないレンはおかしいのだろうか
しかも思いっ切りミラの大きな胸が当たっている。
「じゃあ、ミラ。ここから出してくれ」
レンは一か八かお願いする。
敵の幹部にお願いするのは馬鹿らしいが、ここは言って見ないと分からないだろう。
しかし、即座にレンはミラの逆燐に触れたと理解した。
レンのお願いに対し、彼女の目のハイライトが無くなる。
「アマクサ君は逃がさないよー?
【始祖の魔法使い】に復活してもらう為に、アマクサ君が必要なの。
それにアマクサ君は私と結婚する予定だから...」
「え...?」
この部屋全体に殺気が充満する。
流石幹部に位置する者だ。
強いって雰囲気が、レンの脳へビリビリと伝わる。
レンは隠し持っていた魔法陣が書かれている小刀を手に取った。
「念の為に隠し持っていたこれが役に立つとは、思いもしなかった」
レンは自分が来いと念じると、腰に隠し持っている小刀が手元に来る様に仕組んでいた。
武力で劣る者は知恵で勝つ。
鎖は綺麗に切れる。
数時間鎖で縛られていた両腕は赤く腫れ上がっていた。
「女の子に撃つのは申し訳ないが、先に殺さないと殺されされそうだからな」
レンは透明な何かを背中からとると、不可視化の魔法陣が書いてある紙を剥がす。
徐々に姿が現れるレンの十八番...レンの両手には【スカイ】が握られていた。
地球の様子もいつか書きたいです。