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3-15 祭りの外

 俺は今、町の外に居る。

 町の中では今も楽しいお祭りの時間が続いていると言うのに、何故に外に出ているのか?

 決まってるでしょ?



 駄々滑りしたからだよ!!



 はい、滑りましたー。もう、これでもかってくらい滑りましたー。正直、明日っからはまともな顔して外歩けません……。

 もし歩いてる時に、クスクスと笑い声でも聞こえた日にはその瞬間に心が折れる……。

 まあ、唯一の救いは、笑われるのが俺自身ではなく【仮想体】だって事か……正直あんまりダメージ変わんないけど……。


 でも、結果的には脱出するキッカケが出来て良かったかもな……?

 祭りの主賓席は、どう考えたって俺が座っているべき席ではない。

 俺の精神が一般人だから……とか、そう言う話ではなく、その椅子に座っている資格が俺には無いと言う話。

 確かにこの国を支配していた魔王を倒したのは俺だ。だけども、俺はその前に戦場から逃げ出している……。

 逃げた先にたまたまアドバンスが居たから、仕方無くぶん殴ったってだけで、もし居なかったらそのまま何処ぞへ逃げていた。

 例えば―――仕事をサボった奴が、遊びに行った先で取引先のお偉いさんに偶然会い、そのお陰でその後の仕事が上手く行ったとする。会社にとっての益のある事ではあるが、それでサボった事実が消える訳ではないし、許される訳でもない。

 ……まあ、そう言う事だ。

 俺が魔王を倒したって、逃げた事実が許される訳じゃない。

 アザリアも、他の皆もその辺りを責めて来る事はないが……内心どう思ってるかは分からない。

 そんな状態で、どんな面して主賓席に座ってられるのよ……。

 っつー訳で、外に出るキッカケになってくれた事だけは有り難かったって話です。


 

 門を潜って町の外に出ると、途端に祭りの喧騒が遠くなり、物悲しい暗闇だけが視界を埋め尽くす。

 猫になってからは暗い場所に居る事が多かったせいか、暗闇に対しての恐怖心なんて消えて、どこか安心感すら覚える。

 そもそも、クルガの町の周囲に広がる大森林の闇も、【魔王】の特性で感覚強化されている俺ならば結構普通に見通せるしな。


 で、だ。


 人が居ない……。

 今日はお祭りなんだから、外に人は居ないだろう……なんて事はない。

 今夜は門を開けっぱなしになって居るので、魔物や魔族を警戒して見回りに出ている者達が多数居る―――筈なのだが、誰も居ない。

 「祭りの日に警備なんぞやってられるかぁ!」と町に入ってしまったのなら、それで良い。しかし、どうやらそう言う事ではないらしい。


 微かに残る“嫌な臭い”。

 猫の体に搭載された危険感知センサーが微妙に反応を示している。

 ただ、そこまで強い臭いじゃないから、多分相手は大した事無い。それに臭いの薄れ具合から察するに、そこまで離れてないな?

 【バードアイ】で視覚を森の中に飛ばすと、すぐに臭いの出所を発見。

 魔族だった。

 11……いや、12匹かな。

 それに囲まれるように、数人の人間が倒れていた。

 死んで……はないよな? 気を失っているだけだ。少なくても“まだ”。


 この魔族共はなんだ?

 アドバンスのところの残党の残りかな? ……残党の残りって言うと、もう残り物って言うより“残っちゃった物”だよね、どうでも良いけど。

 祭りに乗じて勇者を狙いに来たのか、それとも意趣返しに騒ぎを起こしに来たのか……。

 どっちにしても碌な(もん)じゃねーな。


 見回りの連中を殺さずに持って行ったのは、町の近くで殺すと万が一にも叫ばれる恐れがあるから……とかかな? だからとりあえず魔法か何かで昏倒させたのかも。

 だとすると、早いところ助け出した方が良いか。

 人質の居る時の鉄則は、相手に気付かれない事が第一。そう言う意味じゃ金ぴかの【仮想体】は邪魔だ。

 鎧ごと収集箱に戻し、猫の体1つで魔族達の元へと駆けだす。

 

 一足―――大地を蹴って跳ぶ。


 二足―――木の幹を蹴って更に隣の木の枝まで体を持ち上げる。


 三足―――木から次の木へ高速で跳ぶ。


 【隠形】で気配と音を断つ。

 更に、息を止めて【アクセルブレス】発動。

 ゆっくりヒラヒラと落ちるこの葉の隙間を縫うように空中を舞う。

 モモンガのように木から木へ跳び移り、数えて16本目で接敵。

 12匹の魔族。

 ここからもう少し森の奥まで移動するつもりらしく、意識の無い人間達を引き摺って動こうとしている。

 手前の枝で一旦止まり、【アクセルブレス】を切って息を整える。


 さて、捕まってる人間達が傷付けられる前に始末しねえと。


 「フゥっ」と一息吐いてから大きく息を吸って……止める。

 俺だけを残して、世界がスローになる。加速状態の効果として身体能力が上昇。

 相手に反応の間を与えずに、人間を引き摺って居る奴等は始末する。


 投射(スリングショット)で適当に選んだ手持ちの武器を6つ放つ。

 【隠形】の効果によって、俺が発生させた音は消される。

 どこまでが“俺の発生させた音”になるのかはイマイチ分かって居なかったが、放った武器までが俺の発生させた音として判定されているらしい。

 無音で相手に迫る武器―――。

 肉を貫く音と同時に、魔族が絶命の叫びをあげ、血を吐き出して倒れる。


「!」「なんだ!?」「敵か!?」


 仲間が倒れて、始めて自分達が狙われている事に気付く。

 武器の飛んで来た方向に目を向けるが、すでにそこに俺は居ない。武器を放ったと同時に別の木へと移動している。


 さて、とりあえず人間は手放させた……。


 そう言えば、生身でどの程度の火力を出せるのか興味あったんだよな。

 加速中はスキルの効果で身体能力が強化される。その上、今は【魔王】の特性により基本能力が高くなっている上、特性に付与されている身体能力強化のスキルも有るし、多分そこそこな力が出せる……筈。

 問題は、その力がどの程度か自分でも不明な事なんだが……。まあ、だからここで確かめてみましょうって話よ。

 加速したまま枝を蹴って敵に突っ込む。

 スロー再生の敵は、横から飛んでくる俺に反応しない……いや、出来ない。

 跳びかかった速度のまま、近い所に居た魔物をぶん殴る。


――― 猫パンチ(強)!!


 敵を昏倒させる程度の力は有る……との目算の上でのパンチ。

 無防備な魔族の横っ面に俺の丸っこい前脚がめり込む。

 メキっと硬い物砕ける感触が手に伝わり、次の瞬間


 魔族の首が吹っ飛んだ


 パンチの威力に耐えられなくなった首が、胴体から切り離されて砲弾みたいな速度で対面の木にぶち当たって落ちる。

 は?

 何事かと一瞬頭が真っ白になってしまった。

 残った胴体から噴き出した暖かい血を浴びてようやく正気を取り戻す。

 え? 何この威力? いくらなんでも強過ぎない俺?

 色んなところから身体能力強化貰ってるって言っても、根本的には子猫よ俺? いや、まあ、そらアイテム収集しまくって能力の底上げはされてるけども、拳1つで相手の頭を吹っ飛ばすバズーカみたいな威力出せるとか流石に思っても見なかった……。


「な、なんだ!? 猫!?」「馬鹿野郎、ただの猫な訳あるかよ!?」「魔物に違いねえ、早く始末しろ!!」


 おっと……意識が緩んで息止めるの忘れてた。

 加速が解けて、通常の速度を取り戻した世界。当然魔族達は一斉に敵の俺に襲いかかる。

 えーっと、とりあえず足止め。


【ナパーム】


 爆裂系の中でも比較的威力の低めの魔法を選んで発動。

 ただの牽制―――のつもりだったのだが。


「ごぎゃッ……!?」


 俺の近くに来ていた魔族2人の体が、粉々の肉片になって辺りに飛び散った。

 ……身体能力以上に魔法の威力が頭おかしい気がする。

 そう言えば【魔王】の特性の能力値ボーナスで、魔力の値は効果特大だったな……。このアホな魔法の威力はどう考えてもそのせいだろ。


「クッソ! なんなんだよこの魔物は!?」「こんな奴見た事も聞いた事もねえぞ!?」


 そりゃそうでしょうよ。ただの猫だもん。

 言いながら、シャキンッと爪を出す。気分はウルヴァ●ンだ。……ちなみに実際はシャキンッなんて格好良い音はしない。俺が勝手に心の中で足したSE(サウンドエフェクト)だ。

 

「化物め!」


 叫びながら、俺に拳を振るう。

 だが―――遅い。

 突き出された拳に向かって、カウンターで子猫の手を振る。


「ミッ!」


 ヒュッと空気が切れる音。

 俺の爪が振った衝撃が、空気を伝わって魔族の拳を切り裂き、肩辺りまでを3枚下ろしにする。


「ギェアッ!!?」


 やっば……。

 俺、生身でもクソ強くない?

 子猫の体1つで魔族達を圧倒出来るんですけど……!? いや、知ってましたよ? 俺が強くなったのは知ってましたけど、なんか予想の遥か上を行く強さなんだけど……。


 この戦闘力はヤバイって……。マジ(もん)の魔王みたいな強さなんですけど!?

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