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3-14 解放祭

 夜……。

 いつもなら、陽が落ちれば途端に静かになるクルガの町が今日は騒がしい。

 それもその筈、今日はお祭りだ。

 コッチの世界の歴史はよく知らないが、何やら10年だか20年だか前に大きな戦いがあって、その戦いに人間と勇者が負け、世界は魔族の物になった―――とか何とか、そんな感じの話だそうな。

 そして、この国を支配していた魔王アドバンスを倒し、各町に残って居た残党の処理も一段落。

 晴れてこの国は魔族の手から解放されました、めでたしめでたし。

 って感じでのお祭りらしい。


 解放祭―――


 まあ、元の世界で言うところの“独立記念日”みたいな(もん)だろう。

 このお祭りの為に、色んな町から色んな人達が集まって来ていたようで、見た事無い人が多くなって、ただの猫としては若干居心地が悪い。まあ、そこまで気にする程でもないけども。


 大通りは篝火(かがりび)で赤く彩られ、町中で人々は飲めや歌えやの大騒ぎ。

 大人も子供も、男も女も関係なく皆が喜びのままに笑い、歌って踊って、まさにお祭り騒ぎ。

 そして、そんな喜びの祭りの中、ドンヨリしている人物が1人……。

 誰かって?

 俺だよ!


 元魔族屋敷の前にある円形広場。

 町の中心だけあって、そこは祭りの中心地になって居た。

 で、その広場で俺は―――座っている……。


 町の人達が何やら良い椅子を用意してくれたようで、若干座る事を躊躇ってしまう程豪華な作りの椅子に、場違い感満載の黄金の鎧が座っている。

 そして、その横には同じように椅子に腰かけているアザリア。いつもより少しだけおめかしして、お嬢様っぽい雰囲気を醸し出しながら静かに座っている。

 ……ただ、膝の上に乗せた(おれ)を撫でる手だけはいつも通りなのだが……。


 並んで座る勇者2人(片方勇者じゃないけど……)の前のテーブルには、贅の限りを尽くした料理の数々。

 暖かい湯気を立ち昇らせる料理に手を伸ばしたいのは山々だが、こう言う主賓席に座ってると、なんか手を出しづらいじゃん? まあ、【仮想体】に関しては手を伸ばしても食べれないんだけど……。

 居心地の悪さを感じながら座って居ると、横のアザリアがコソッと話しかけて来た。


「剣の勇者、貴方がタイミング良く戻って来てくれて良かったです。これも猫にゃんが呼んでくれたお陰ですね?」


 まあ、間違ってはないな……。

 呼んだって言うか、引っ張り出したんだけど。

 一応「うん」と頷かせておく。


「魔王を倒し、残党の魔族も倒し、この国はようやく人間の手に戻りました」


 感慨深そうに言いながら、膝の上で丸くなっている俺を優しい手で撫でる。


「結局、全部貴方頼りになってしまいましたけど……」


 そんな事はないんじゃない?

 魔王倒したのは、まあ、そうなんだろうけど、それ以外のところは別に俺のお陰って訳じゃなくない?


「剣の勇者がどうして物語の主役として描かれ、皆の1番の希望を背負うのか……貴方を見ていて少し分かりました。旭日の剣は、そういう使い手を選ぶからなんですね」


 ………ちょっと何言ってるか分かんないですね。

 選ぶも何も、【制限解除】のスキル効果で勝手に振り回してるだけなんですけどあの剣。

 完全に偽物の勇者なんですよ私……って言うか、勇者どころか現在魔王ですし。真逆の存在になってますし。

 なんか、色々「ゴメンなさい」したい気分になったので、それを誤魔化す為にアザリアの頭を【仮想体】に撫でさせる。


「な、何なんですか! 言っときますけど、貴方のこれ! 私を子供扱いするのも、別に許してる訳じゃないですからね!」


 そうですか。

 まあ、そう言う事なら、顔や耳が赤いのは篝火のせいだなきっと。(おれ)を撫でる手が熱いのもきっと気のせいだ、うん。そう言う事にしておこう。

 金色の手で頭を撫でられながら、少し顔を伏せてチラチラと【仮想体】の様子を窺い始める。

 「なんだ?」と金色の兜がアザリアの顔を覗き込むと、意を決したように言う。


「あ、あの! こ、こんな時に言う事ではないのですが、貴方に1つ……お、お願いがあって……えっと」


 え? 何? アザリアからの「お願い」って何か怖いんだけど……?

 普段頼って来ない後輩が、本当にどうしようもなくて「先輩、助けて下さい……」と青い顔をして来た時のアレに似ている。

 ぶっちゃけ全力で回避行動を取りたい! ……取りたいけども、それをすると後々もっと面倒臭くなるから結局逃げられない! 的な感じの奴だ。

 ……まあ、お願いをどうするかはともかく、聞くだけ聞いておこう。

 「言ってみんさい」と言う態度で金色の鎧が頷く。


「あの……ですね……」


 アザリアがハッキリ物を言わないなんて珍しい。絶対ヤバい奴だコレ……「世界を滅ぼす魔物を倒しに行きましょう」とか「誰も攻略した事のないダンジョンを攻略しに行きましょう」とか無茶苦茶な事を言うんだきっと……。

 俺が内心びくびくしていると、誰かがトコトコと寄って来る。

 

「勇者様、御話し中に失礼します」


 若干小太りの、どこか狸を思わせる顔つきの男。

 商人の中でも顔役で、今日のお祭りの仕切りをやって居るとか居ないとか……。ぶっちゃけ祭りは好きだが、誰が開催者とかは全然興味無いです、はい。


「皆が勇者様達の言葉を待っています。どうぞ何か御言葉を」


 ふと広場の周りに目をやると、飲めや歌えやの騒ぎに興じていた筈の人々が、アザリアと黄金の鎧を注視して静かになっていた。

 ………大勢に注目されるのは苦手だ。少人数で向き合うとかなら、仕事で散々やってたから平気なんだけどなぁ。

 皆の視線にビビっている俺とは違い、アザリアはこう言う事に慣れているのか、抱いていた(おれ)を机の上に優しく座らせるとスクッと立ち上がる。


「皆さん、歌と御酒の間に少し御耳をお貸し下さい」


 子供なのにちゃんとしてるなぁ……と他人事(ひとごと)のように堂々と喋るアザリアを眺めている俺。


「この国を支配していた魔王アドレアスは倒れました。これは、皆さんが今日まで耐えて来た結果です。戦った人も、戦えなかった人も、今この瞬間に生きている事を誇り、この先の未来に向かって生きて下さい」


 アザリアの言葉に、広場の中で、外で、通りの先の先からも歓声があがる。


「勇者様万歳!!」「平和を取り戻してくれてありがとうございます!!」「やっぱり勇者様は俺達の希望なんだ!!」「ありがとう!!」「黄金の勇者様格好良い!!」「もう魔王も魔族にも怯えなくて良いんだ!」「魔族共、ざまぁみやがれ!!」


 すげぇな本職の勇者は。

 絶対俺には真似できねえわ。


「では、剣の勇者様も何か一言お願いします」


 は?


「ほら、お願いされてますよ」


 え?

 アザリアが何か良い感じの事言ったし、俺はよくない? 要らなくない? 世の中には蛇足って言葉も有りますし……ねえ?

 チラッと周りの人達に視線を向けると、「アザリア以上の事を言ってくれるんだろうなぁ」と言う期待に満ちたキラッキラした眼差しを金色の鎧に向けていた。

 ………いえ、期待されても何も言えませんよ? だって中身空っぽですし。動かしてる俺は猫ですし。

 何とかこの場を切り抜けようと必死に脳味噌を回転させていると横でアザリアが「早くして下さいよ」と楽しそうに笑っていた。

 コンチキショウ!

 「私以上の事を言ってみろ」的な挑戦的な目、それと勇者モドキの声を聞きたい好奇心が半分って感じかこの野郎は。

 どうしよう……どうするんだ俺!! こう言う時こそ小賢しい頭フル回転だろうが!!

 アザリアに「ちょっと助けてよ……」な視線を投げてみる。すると、その視線を感じ取ってくれたのか、「あっ」何かを思い出したように自分の腰に手を伸ばす。


「そう言えば返し忘れてましたね、どうぞ」


 渡されたのは、旭日の剣。

 ええ、はい、そうですね。返して欲しかったのはそうなんですけど……


 そうじゃねーだろう!!


 なんか、良い感じに助けて欲しいんだよ俺は!

 返すのこのタイミングじゃないでしょうが!

 いや、心の中で喚いて居ても仕方無い。

 ヨシ、ノリと勢いで乗り切ろう! 頑張れ俺! まあ、実際にやるのは【仮想体】だけど。


 意を決して旭日の剣を受け取った【仮想体】が立ち上がる。

 喋れない俺に選択肢は少ない。

 ですので、とりあえず―――格好良いポーズでもさせておこう。

 え? どんな判断だよって? 良いんだよ、「インス●映えを狙ってます」的なポーズをとらせておけば、周りもきっと空気を読んで「ああ、うん、なんか触っちゃダメなやつね」って見逃してくれるんだよ! 多分! きっと……うん。


 黄金の鎧が、旭日の剣を抜き放つ。

 キィンっと刃が空気と擦れる音が、まるで波紋のように広がり、人々から音を―――声を奪う。

 旭日の剣を真っ直ぐに天に掲げる。

 これは、アレだ。

 この町の魔族を殲滅する時に【審判の雷(ジャッジメントボルト)】を使った時のポーズだ。

 どーよ、この格好良いポーズは!


 心の中でドヤッと笑みを浮かべていると、冷たい夜風が町を吹き抜け、篝火の明かりをあっと言う間に奪い去り、町を闇に閉ざした。

 え?

 格好良いポーズを取ってる時に、明かりが消えるって、なんか、うん、言いたくないけど、クソ間抜けじゃない?

 月明かりでボンヤリ浮かび上がる、天に剣を掲げる金色の鎧。

 ほらぁッ!! なんか、町の皆も居たたまれなくなって俯いちゃってるし!!

 えー、皆様。大変残念なお知らせです。



 駄々滑りましたッ!!!!!



 もうヤダ! こんな場所に居られるか! 私は帰らせて貰う!

 剣を鞘に戻した【仮想体】の肩にヒョイッと飛び乗り、早足でその場を後にした。

 背中に刺さる皆の視線は全部無視、無視無視!

 皆がどんな顔しているのかも見ません! 多分皆の顔を見たら、俺の心が圧し折れて泣く。

 もうッ!! だから、こう言う役回りは嫌だったんだよッ!!!



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