3-13 お祭り……だそうです
王都の解放から2日後。
国の立て直しに関して、何やら偉い人達……まあ、偉い人っつーか、魔族に地位も資産も全部奪われてるから、正確には元偉い人達。ともかく、その元偉い人達が今後の事を考える為に顔を突き合わせて日夜うんうん唸っているらしいが、そんな事は猫の俺には一切関係ない話。
王都での何やかんやが終わると、俺はさっさとホームのクルガの町に戻って来て、念願の食っちゃ寝生活を送って居る。
……ちなみに旭日の剣は未だにアザリアが返してくれない。なんか「返すと、フラフラとどこかに行っちゃうじゃないですか」と怒られた。
……別にどこにも行かないんだけど……。なんでアザリアの中で俺―――ってか勇者モドキがそんなキャラになっているのかが疑問で仕方無い。
流石に無理矢理取り返す訳にも行かず、今のところは放置している。まあ、暫くは旭日の剣を引っ張り出さなきゃならないような戦いをする予定はないし、無いなら無いで別に良いしね?
その話はともかく、念願の食っちゃ寝生活で「猫って最高ーッ!」と人生……いや、猫生を謳歌していたのだが……。
朝っぱらから町中がウルセぇ……!
なんだ、アレか? 祭りか? 祭りなのかコンチクショウ!
騒音で起こされた事に若干キレながら、寝床の裏路地から出ると……町の人間達がバタバタと動き回って居た。
ある人は資材を片手に走り、ある人は食材を両手に走り、ある人は老人の手を引いて走り、ある人は鍋を片手に走る。
なんだ? 突発的な借り物競走でも始まったのか?
とかアホな事を思っていると、後ろから自称俺の手下の黒猫が起き出して来た。
「おはようございますダンナ」
そしてニャーニャー言い合うと訳が分からないので、猫語を頭の中で自動翻訳する俺。
どうでも良いけど、俺がこの町のボス猫になってから、この黒猫微妙にスリムになって来てるな。
きっと俺に着いて色んな場所に歩いてるからだな。あと食い過ぎないように俺が目を光らせてるからか。
「おう。この騒ぎはなんだ?」
「祭りだって人間が言ってましたよ?」
おぉう……マジで祭りだったよ。騒がしくなると大抵碌でもないイベントが起きるから、ちょっと過敏になり過ぎてたかな?
「何の祭りだ? この地方の行事か何かか?」
「さあ? 俺には良く分からねえっスよ。でも、なんか“解放祭”とか言ってましたねぇ」
解放祭……。
ガチャのレア出現率アップとか、そんな祭りじゃないよね?
……まあ、冗談はさて置き、どう考えても魔王をぶっ殺して国を人間の手に取り戻したって事のお祝いでしょう。
ぶっちゃけ、「まだやって無かったの?」って気分だけど……王都が解放されるのを待ってた、とかそんな感じかな?
「そんな事よりダンナ! 近頃ダンナ目当てにやって来る“赤い悪魔”を何とかして下さいよ!」
「赤い悪魔……?」
そんな物騒な名前の知り合いは居ないが……。
そもそも白い悪魔なら●ンダム。赤いなら彗星じゃないの? まあ、そんな仮面被ってそうな知り合い居ても困るけど。
黒猫の言うところの“赤い悪魔”が誰を指しているのか分からずに唸っていると、黒猫が通りの先に何かを見つけてハッとする。
「あっ!? き、来やがった! アイツが赤い悪魔ですよダンナ!!」
言いながら、今までに見た事がない俊敏な動きで裏通りの暗がりへと逃げて行った。
何だ? と思って黒猫が見ていた方に目をやると、キラッキラした目を輝かせてアザリアが俺の方に駆けて来ていた。
赤い悪魔……か。まあ、髪の色は確かに赤っぽいよな? どっちかと言えば茶色だけど、そんな事猫には関係ねえだろうし。
ボンヤリそんな事を考えている間にアザリアが接近し、ダイビングキャッチするが如く俺の事をワシっと抱きしめる。
「猫にゃん!」
「ミィ……」
はいはい。
予想通りの展開に、若干「やれやれだぜ」な気分になりつつ一応大人の礼儀として挨拶はしておく。
宝物を手にした子供のように……いや、“ように”っつうかそのまんまか。ともかく、猫を抱き上げてご機嫌にスリスリと頬擦りして来る。
「にゃんにゃん」
前は猫好きなだらしない姿を隠そうと頑張って居た気がするのだが……いつの間にかそんな事を気にする事も無くなったなこの子……いや、まあ、本人が良いんなら良いけども。
あと、どうでも良いけどこの子やたらとエンカウント率高くない? 気付くと抱っこされてる気がするんだけど……。
心の中で首を傾げている俺を抱いたままアザリアが歩きだす。
裏路地の奥の暗がりで、猫達が「頑張って下さい!」と言いたげに見つめていたのが若干腹立った。
「猫にゃんの事探してたんだよ?」
「ミャ?」
そうなの?
そう言えば、王都から帰ってからは町をウロウロしながら食っちゃ寝生活していたから、アザリアに会ってなかったなぁ。
「その間に、猫にゃんのお友達とは仲好くなったけどね?」
お友達……。
どう考えても、俺の取り巻きの猫達の事だよね?
アザリアが猫達を見つけたらどうするか? 当然全力で捕まえてムツゴ●ウさんみたいな可愛がり方をする。
………黒猫が怖がってたのはそう言う事か……。
猫まっしぐらなアザリアが猫に嫌われている事を知ったら、泣きだすだけでは済まないな……。下手すりゃ精神的ダメージが大き過ぎて寝込むかもしれない。
……黙っておこう。
そんな衝撃的な事実を知る由も無く、俺を撫でながら忙しなく行き交う人々の邪魔にならないように通りの端を歩く。
「今日の夜は、この国の解放祭なんですよ。知ってましたか猫にゃん?」
「ミャン」
知ってる、さっき聞いた。
「本当は魔王を倒したすぐ後にやろうと言う話になったようなんですが、他の町の解放の為に私達が忙しくなってしまったので」
ああ、やっぱりか。
「それに何より、魔王を倒した肝心の主役が生死不明だったので皆祭りをする気にならなかったとか」
え? あれ? もしかしなくても、祭りは俺待ちだったの?
だとしたら悪い事をしたな……。とは言っても、俺も生死の境を彷徨ってたから祭りどころじゃなかったんだけど。
「そんな訳ですから、今日のお祭りには絶対猫にゃんのご主人に参加して欲しいんですよ」
「ミ……」
えぇ……。
祭りなのは良い。日本人として祭りは大好きだし、馬鹿騒ぎも、美味しい食べ物も大歓迎だ。
……いや、でもさ? アレじゃん? 話の流れ的に俺の立ち位置って滅茶苦茶面倒臭くない? 祭りをする時にVIP席(?)に座ってるお偉いさん的な立ち位置にならない? 始まりの挨拶をする的なアレじゃない?
「まったくあの人は何なんですか! さっさと王都から居なくなったと思えば、クルガの町にも居ないですし!」
居ますよ、君の腕の中に。
王都で君等に丸投げしてさっさと帰って来た事に関しては……ええ、まあ、はい、スイマセンでした……。でも、俺が居たところで特に出来る事もなかったですし、うん。
「まあ、どうせあの人の事ですから……どこかで人助けなり魔物退治でもしてるんでしょうけど」
……ゴメンなさい。この2日は何もせずに食っちゃ寝してました。
「旭日の剣を預かっておけば、少しはジッとして居てくれるかと思ったんですけどね……考えが甘かったですよ。根っからの勇者のあの人が、剣が無いくらいで大人しくしてくれる訳無いですよね」
いや、っつか、そんな大層な評価貰う奴じゃ無くない? だって俺だぜ? 根っからの勇者? 誰の事よそれ? 別の誰かとごっちゃにしてない?
「ねえ猫にゃん? 君のご主人はちゃんと祭りに参加してくれるでしょうか?」
「……ミャァミ」
……多分します、義務として。
流石に祭りが俺待ちだったと聞けば、顔を出さない訳には行かないですし……。




