3-9 勇者は面倒臭い
ぎゃん泣きして居たアザリア……。
どうでも良いけどぎゃん泣きの“ぎゃん”って何だろう……? マ・●ベ的な泣き方って事かしら? いや、それこそどんな泣き方だよ。壺一杯になる程泣きます……的な感じ?
……絶対違う気がするわ。
まあ、そんな話はともかく……泣き止んだアザリアと共に王都の中へと足を踏み入れる。今度はちゃんと門を潜って。
……ただ、俺がアザリアを泣かせた感じにとられたようで、アザリアの仲間の皆の視線がマジでヤバい……。“娘を殺された被害者家族が犯人に向ける目”くらいのヤバさで、怖くて顔を向けられない。向けた途端にぶっ殺されるんじゃないかと正直ビビって居る。
魔王を殺した俺に、なんでこんなに怖い物が多いのか意味不明過ぎるんですけぉ。
俺がビビりなだけか? いや、絶対違うだろ。世の中に怖い物が多過ぎるだけだって、うん。
アザリアはアザリアで、目を赤く腫らしながら俺……って言うか仮想体を睨んで来るし。口には出さないが、「お前のせいで皆の前で恥かいた!」と目が言っている。
もう、それ、俺悪くないじゃん? 文句言われたってどうしようもねえよ。
そんな感じで若干(?)のギスギス空気のまま王都に入った。
相変わらずゴーストタウンのように街中が静まり返っているの不気味で仕方無い。そして、俺達の様子を窓からそっと住民達が窺っているのも少し鬱陶しい。
「剣の勇者」
猫を宝物のように抱っこしながら、アザリアが隣を歩く黄金の鎧に訊く。
一応「何?」と訊き返す意味で兜をアザリアに向ける。
「先程の山の方での爆発は、貴方ですよね?」
うん。
「と言う事は、やはりこの街に居た魔族を?」
うん。とりあえず、あの場に集まって居た魔族は1人残らず全滅させた。
あまりにも簡単に行き過ぎて、もしかしたら罠なんじゃないかと警戒してしまったくらいだ。
だが罠なんてまったく無くて……ただ単に敵が弱かっただけなのか、俺が強くなったから弱く感じたのか……まあ、両方って事にしておこう……。
ともかく、100人以上の魔族を全殺しした訳だが……その結果の1つが収集箱に入って居る。
『【魔族 Lv.300】
カテゴリー:特性
レアリティ:E
能力補正:魔力
効果:魔法使用可
暗黒/深淵属性強化』
終に【魔族】の特性のレベルが300になりました。
で、同時に問題が1つ。
レベルが300になったログと同時に流れて来た1つのメッセージ。
『【魔族】の特性レベルが上限に達しました』
レベルの上限。
伸び代が無くなったのは初体験……まあ、別に今装備してる特性は【魔王】だけだから、これ以上育たなくても特に問題は無いっちゃ無いんだが。
【魔王】の特性には、“能力値限界突破”の効果が付いている。
その効果は、レベルの上限を無視して成長させる事が出来る―――のだが、早速レベル上限に達してますやん。
っつー事は、もしかして装備している物に対してしか効果が乗らないのかな? ……じゃあ、上限以上に成長した装備を外した場合はどうなるんだ? 上限までレベルが下がるのか?
………まあ、詳しい事は良いか。
どうせ、この先は大きな戦いに首突っ込む事も無いだろうしね。
アイテムの収集欲が消えた訳ではないが、目下の障害であったアドバンスを倒した事で、「これ以上の強さを求めなくても良いんじゃないか?」とは思い始めている。
俺が魔王相手にだって戦える事は証明された訳だし、生半可な奴なら倒せる自信はある。
だから、もう、前のような強さにガツガツしていた感じが薄れている。
例え残りの12人の魔王が襲って来たとしても、魔王の1人は倒してる訳だし、なんとかなるだろう……と楽観的に考えてるからってのもある。
……まあ、俺自身の話はともかく……アザリアの問いに頷く。
「やっぱりですか……。あまりとやかく言いたくはないですが、独りで無茶をやるのは程々にして下さいね」
無茶か……。そこまで無茶をやってる気はないんだが、他人の視点から見ると無茶やってるように見えるのか……。気を付けよう。
「少なくても、猫にゃんが一緒に居る時は、危ない事は極力避けて下さい。貴方と魔王の戦いに巻き込まれて、猫にゃんが死にかけてたんですからね!」
アザリアの睨みが凄みを増す。そして、俺を護ろうとするように抱く手に力がこもる。
あ、これマジで怒ってる奴だわ……。猫が関わると本気になる奴だわコレ。
これ以上怒られても困るので、素直に仮想体を頷かせる。
「そうです、それで良いんです!」
納得したのかしてないのか、その後もぷりぷり怒りながら歩く。
しかし、それでも一向に俺を放す気配がない辺り、コイツの猫好きは病気レベルだと思うの……。
「ミ?」
「大丈夫だよ猫にゃん。猫にゃんのご主人にメッてしたからね」
……ゴメンなさい。メッてされたのも俺なんですよ。
「ミィ……」
「にゃんにゃん」
抱いている俺を撫でていると機嫌が直るらしく、鼻歌まで歌い始める。
そんな猫を抱いてリラックスしている姿に、俺達を覗き見ていた住人達の警戒心が和らいだのか、何人かが扉を開けて様子を見に外に出て来る。
「あ、貴方方はいったい……? それに、魔族達はどこに……?」
そんな怯えながらの問い掛けに、アザリアと金色の鎧が顔を見合わせる。
「私達はこの街を解放する為にやって来た勇者です」
アザリアが俺を片手に抱き替えて、空いた手でローブを捲ってみせる。
そこにはアザリアの極光の杖と、俺の旭日の剣。
……そうだよ、元を辿れば俺は旭日の剣を取り戻しに来ただけなんだよ。返してよ俺の剣。いや、より正確に言えば俺の剣ではないんだけどもさ……。
「私は杖の勇者のアザリア。コッチの黄金の鎧を着ているのが剣の勇者です」
「ゆ、勇者様が御2人も……」
顔を出していた住民も、家に隠れたままの住民も同じようにどよめく。
……ただ、友好的な声ばかりではないようだが……。
ヒソヒソと「今頃出て来たのかよ」とか「勇者なんて役に立つもんか」とか、色々好き勝手言われている。
詳しい事情は知らないけど、よく有る“勇者だから”と無条件に信頼してくれるようなゲームの世界とは違うらしい。そう言えば、クルガの町に出入りする外の商人やらには、微妙に白い視線を向けられた経験がある。
クルガの町の人達がスッと受け入れてくれたのは、ユーリさんの処刑を目の前で止めて魔族を倒すって劇的なイベントをやって見せたお陰って事かな?
「で、では、魔王と戦う為に?」
アザリアと黄金の鎧に向けられて居た侮蔑の意思を含んだ視線と言葉。それを、次にアザリアが吐いた言葉が打ち消した。
「ええ。……とは言っても、この国を支配していた魔王アドレアスは、先日この剣の勇者によって討たれましたが」
住人達が一瞬「え?」と言う顔をして、何を言えばいいのか分からず金魚のように口をパクパクさせる。
「ですよね?」
アザリアに振られて「うん」と心の中で言いながら、実際は無言で仮想体が頷く。
「ほ、本当に、あの化物を……討ったのですか?」
だから「そうだ」つってんじゃん。……いや、言っては居ないけど、そう言う意思表示はしてますやん?
「この街に魔族の残党が集まって居たのがその証拠です。まあ、その残党も先程剣の勇者によって全滅したそうですが。ですよね?」
うん。
アザリアもいい加減“勇者モドキ”が喋らないのを理解してくれたのか、説明が必要な部分は肩代わりしてくれる。有り難いこっちゃ。
すると、突然住民達が崩れ落ちるように膝をつき、神への祈りを捧げるように勇者2人(片方は偽物)に手を合わせる。
「お、おおおお! 神よ、まだ人をお見捨てにはなって居なかったのですね!」
家の中で話を聞いていた住民達も、慌てて外に出て来て俺達の周りに集まり、同じように膝を突いて手を合わせる。
中には涙を浮かべたり、祈りの言葉を呟くような人まで居て、なんだか変な罪悪感が心に浮かぶ……。
……なんだか良く分からないが、全然話が進まない空気がする。かと言ってこの人達を無視して移動する訳にもいかんしねぇ……。
やっぱり勇者って面倒臭……。




