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3-6 ファイアトラップ

 二足歩行する牛の後ろを、ちょこちょことした足取りで着いて行く。

 勿論俺の魔眼【紛い物の幻(フェイクミラージュ)】は発動しっ放しにしてある。その効果により、牛さんは何度か後ろからの視線に気付いて振り返るが“俺の居ない風景”を幻として見ている為に、結局首を傾げるだけで終わる。

 暫く何かを警戒するように街の中を歩き回って(多分見えない俺を撒こうとした)、その後ようやく目的地へと向かってくれた。


――― 城


 “城のように大きな家”には侵入した事があるが、まさか本物の城に入る機会があるとは思ってなかった……。

 まあ、王様やら貴族やらのお偉いさんやら、メイドさんやら騎士やら……荘厳さを演出するキャストの皆様が居ないので有難味は6割減。

 中は……魔族屋敷の庭みたいな荒れようだった。

 なんつーの? 「城の中だけ竜巻でも通り過ぎたの?」って感じ。

 壁には穴が開いたり、ひびが入ったり、焦げ跡やら血の痕やら……。柱の半分程は折れたり砕かれたり窓を突き破ってたり。

 城ってより、お化け屋敷って感じだな……。

 まあ、そう言う俺も猫と言うより“化け猫”っぽくなってるので、お似合いと言えばお似合いか……。自分で言っといてちょっと泣きそうになってしまった……。化け猫て……そのうち尻尾が3本になったりするのかしら?

 バカな事を考えてる間に、牛さんは迷わずズンズン進み2階に上がって行った。

 俺も遅れないように2階に上がると……やっぱり2階も酷い有様だった。魔族連中は「貸家に傷を付けない」と言う一般常識を学んだ方がいいと思うの。

 何度か曲がって、辿り着いたのは廊下の行き止まりにある少し古びた扉の前。

 そこには他の魔族が5人程居て、部屋の中に大きな樽を幾つも運び込んで居た。

 ………いや、ちょっと待って。魔族達が運びこんで居る樽から漂って来る臭いに、俺の危機感知センサーが敏感に反応する。

 ああ……なるほど、これはヤバい……。

 せっせと働いている魔族達に牛さんが声をかける。


「もう終わりそうか?」


 すると樽を運びこむ作業を止めずに魔族達が反応した。


「この部屋で終わりだ」

「急げよ。森の入口を杖の勇者達が通って行ったとさっき報告が来た」

「おっと、そりゃあ急がないとな」


 魔族達の手と足が忙しく回転して作業スピードを上げた。


「あんまり急ぎ過ぎて溢すなよ?」

「分かってるさ」

「そいつは、杖の勇者達へのプレゼントなんだからな」

「よし、コイツで最後だ!」


 樽の運び込みが終わると、扉を閉めて魔法をかける。


「【ファイアトラップ】。条件、扉の開閉」


 魔法をかけられた扉が一瞬黒い光に包まれ、すぐに元通りのただの古びた扉に戻る。


「準備完了だ。さあ、俺達は早いところ街から離れるぞ」

「くっくっく、これで憎き勇者も終わりだな!」

「ああ。魔王様の仇を取る事が出来る!」

「……だが、肝心の剣の勇者が居ないと言うのが残念だ」

「そうだな。しかし、必ず見つけ出して(くび)り殺してやる!!」


 牛さんの言葉に、他の魔族が殺意と憎悪の満ちた目を輝かせながら「おう!」とか「当たり前だ!」とか吠えている。

 本人が4m後ろに居るとも知らずに言ってくれるわ……縊り殺されちゃ堪らんから黙ってるけど。

 

「よし、玉座の間の隠し通路を使って北の森に向かうぞ。他の連中も集まり始めている頃だ」

「はっはっは、杖の勇者を殺したら、次は剣の勇者の拠点のクルガの町だな!」

「ふふふ、燃えるな!! もし剣の勇者が戻って来た時に、町が廃墟になって居たらどんな顔をするか……くくく」


 楽しそうに話しながら去って行くのを見守る。

 全員が廊下の先へ消えて行ったのを確認し、魔眼を解除。


「ミュゥ……」


 魔眼の効果は覿面(てきめん)だな。

 【隠形】を使ってないのに、誰も俺に気付く様子が無かった。

 魔眼の便利さを確認出来たのは良かった……で、次だ。

 先程魔族が魔法をかけた扉の前に立つ。

 ファイアトラップって言ってたな……。どう考えても火系の効果を発揮する奴だ。まあ、先程運びこんだ物を考えればこのトラップは必然だ。


 【術式解除(ブレイクスペル)


 パキンッと小さなガラスが割れるような音と共に、扉にかけてあった魔法が解除される。


『【ファイアトラップ】

 カテゴリー:魔法

 属性:罠/火炎

 威力:E

 範囲:D

 発動者が発動時に設定した条件を満たした時発動』


 おっと、【術式解除(ブレイクスペル)】で解除した魔法も収集対象になるのか、これは知らんかったな。

 嬉しい誤算。

 そして、魔法の効果は予想通りにそのまんまだ。

 【仮想体】に籠手を装備させて扉を開ける。

 途端に、部屋の中に籠って居た臭いがムワッと津波のように押し寄せて顔を顰める。この空気は、あんまり吸わない方がいい奴だな……。

 息を止めると、勝手に【アクセルブレス】が発動して周囲の世界を遅くする。

 まあ、今加速してもしょうがないけど良いか。

 息を止めたまま部屋に入る。

 大きな樽が所狭しと並べられている。その数13。

 片っ端から触れて収集箱(コレクトボックス)に放り込み、全部を回収し終わると急いで部屋を出て息を吐く。


「ミャふ……」


 ログを確認。

 今収集箱に入れた物の情報に目を通す。


『【ガソリン Lv.5】

 カテゴリー:素材

 サイズ:大

 レアリティ:C

 所持数:13/30』


 やっぱり……ガソリンじゃねえか!!?

 なんでコッチの世界にこんな物が転がってるんだよ……!!

 何かこの謎に対するヒントが無いかと詳細情報を開いて見る。


『錬金魔法によって生み出された燃える水』


 いやいやいやいやいやいや! 何魔法でこんなヤバい物生み出してくれてんの!? 「魔法なら何でもアリです」なんて理屈俺には通用しねえよ!? 誰か納得のいく答えを言ってみんさいや!

 いや、一旦落ち着こう俺……。

 ガソリンがコッチの世界に存在してしまっているのはもう納得するしかない。

 とりあえず今は、魔族連中の企みを阻止する事を考えよう。ガソリン云々の事は後だ。

 魔族連中の狙いは明白。

 大量のガソリンにトラップで発火させて大爆発―――城諸共アザリア達を一網打尽って事だ。

 ………ちょっと待て……ガソリンの仕掛けられた部屋ってここだけか?

 城諸共確実に潰そうと思うなら、この量は少な過ぎる。それに、トラップ1つだけでは相手が引っ掛かるかどうかは怪しい。

 魔族連中も居なくなったようだし、探してみるか。


 ………


 ………


 ………


 15分かけて城を走り回った結果、ガソリンの仕掛けられた部屋が4つ見つかった。

 ガソリン樽の数は全部で52。収集箱(コレクトボックス)に入る限界が30だから、残りは仕方無く城の外に出して積み上げた。

 で、最後に地下に来た。

 例のトラップ魔法のかけてある扉はすぐに発見出来たのだが、他の部屋と何か様子が違う。何が違うのかは臭いで分かった。

 ガソリンの臭いに混じった


――― 人間の臭い。


 耳を澄ますと、微かな息遣いが部屋の中から聞こえる。

 人質……って事かな?

 まあ、後は助けに来たアザリア達の冷静さを奪う為か。

 「早く助けなきゃ!」と焦る気持ちがトラップに対する警戒心を薄れさせ、不用心に扉を開けさせる―――って感じか。

 俺相手にはまったくちっとも意味無かったけど。


 さて、中に人が居るとなると、猫のまま助ける訳にはいかんな。

 【仮想体】に毎度の装備一式を身に着けさせる。

 これでヨシ。


 【術式解除(ブレイクスペル)


 若干マンネリ気味に【ファイアトラップ】を解除して扉を開ける。

 元々は倉庫だったのか、無駄に広い部屋。

 壁沿いに並べられた20近いガソリン樽。そして部屋の真ん中に羊のように身を寄せ合う縛られた人間達。

 コック服の中年。メイド服の女性達。身形(みなり)の良い男。

 様々な恰好の人間が、両手両足を縛られて猿轡(さるぐつわ)をされていた。


「んーんー!!」


 皆が【仮想体】に向かって必死に何か言っているが、残念ながら何も分かりません。いつもなら猫の俺と立場逆なのにね、ハハハ。いや、笑いごっちゃねえよ。

 とりあえず身形のいい男の猿轡を外す。


「魔族め! 貴様等の思い通りにはならんぞ!!」


 ……え? もしかして魔族と誤解されてます?

 …………まあ、今まで魔族に捕まってた人達の前にこんな全身金ぴかが現れたら、誤解もされるか……。っつうか、そもそもこの鎧も魔族の貰い物(盗んだ物)だしね。

 今までは辛うじて勇者の剣を持ってたから見逃されてたけど、ニュートラルな目線で見たらどう考えても不審者だし。魔族と思われても怒れません。

 とは言え、誤解されたままだと話が進まないので、「まあまあ、落ち付きなさい」とか言ってみる。


「ミィ」


 猫語で。

 伝わる訳無いのは知ってるけど……まあ、一応言うだけ言ってみただけだ。

 俺が何を言ったのかは勿論伝わらなかったが、それでも場違いに現れた可愛らしい子猫に、少しだけ警戒心が薄れる。


「も、もしかして……私達を助けに……?」


 黄金の鎧がコクっと頷く。

 途端に皆の顔がパアッと光が差し込むように明るくなった。

 ともかく、ここに居させるのはマズイか。さっさと全員の縄を解いて城の外に出してしまおう。

 ガソリンの入った樽はどうしよう……。これ以上手元にあってもどうしようもねえしな。

 しゃーない……



 持ち主に叩き返すか。



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