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3-5 王都侵入

 現在、俺は王都の周りを囲む高い壁の下に居る。

 ぶっちゃけ、ここまで近付くのは余裕だった。なんたって俺猫だし。隠密行動は得意中の得意だし。もう、隠れんぼのプロと言っても過言ではないし。

 で、だ……。

 アザリア達が居ない。

 街の外を見渡しても、それらしい影は見えない。

 もしかして、追い越した? まあ、よくよく考えると、馬なんぞよりよっぽど早い速度で走って来たし、その上森を突っ切って物凄いショートカットしたから、先に着いてもそこまで驚く程の事じゃない。

 アザリアが居ないなら居ないで、先に何か危ない事はないかと確認しようとしたのだが……街の中は、確認出来ない。と言うのも、どうやら街全体に魔族屋敷にあった“覗き見防止”の魔法がかかっているらしい。

 らしい……と曖昧に言ったのは、実際に確かめてないからだ。

 じゃあ、なんで魔法がかかってるなんて分かるのって?

 まあ……なんとなく、かな?

 【魔王】の特性を装備したからか……なんか妙にシックスセンスが働いて、魔法の発動やらに敏感になっているようだ。

 ともかく―――街の中は覗き見出来ない。

 【バードアイ】で視界を飛ばせば、途端に弾かれて俺の居場所もバレる。かと言って、【術式解除(ブレイクスペル)】で魔法を無効にすると、魔族連中が「敵が居る」と気付いて人間達に何するか分かったもんじゃない。

 仕方無いので力技で行く事にする。

 【仮想体】に鉄の籠手1つ装備させる。

 空中に片腕が浮いているシュールな光景……まあ、絵面は気にしないでおこう。

 ヒョイッとその腕に乗る。


 はい、じゃあ……せー、のッ!!!!


 空中に浮いた腕が大きく振り被って―――俺を上に投げる!!


「ミッ」


 投げられる凄い衝撃……を体が食らう前に息を止めて【アクセルブレス】を発動。

 途端に、周囲の全てがスローになり、体が受ける筈だった衝撃やGを無効にして、投げられた運動エネルギーだけが俺に作用し、撃ち出されたロケットのように一気に壁の上まで駆け上がる。

 壁の上に着地すると同時に息を吐く。


「ミ…フゥ……」


 【アクセルブレス】解除、スロー再生になっていた世界が元通りの速度に戻る。

 さて―――行動を開始する前に、壁の下に置いて来た【仮想体】と鉄の籠手を収集箱の中に戻す。

 で……だ。


 見張りが居ない……?


 外壁は街と城を囲んでグルっと1週している。その上がちゃんと通路になってるって事は、どう考えても見張り用だろう。

 にも関わらず、外を見張って居る魔物が壁の上に1人も居ない。

 ……なんだ?

 これじゃあ「どうぞ近付いて下さい」って言ってるようなもんだろう。実際、俺こんな簡単に侵入出来ちゃってるし……。

 なるほど……ヴァニッジのオッサンが言ってた“危ない感じ”ってこう言う事ね。

 前回アザリア達が来た時には追い返されたって言ってたから、その時には当然見張りが居た筈。

 でも今は居ない。

 何故か?

 知るか。

 とりあえず、魔族側に何かしら動きがあったって事は間違いない。そして、それがアザリア達に何か良くない事である可能性が濃厚……。

 はぁ……仕方無い。偵察だけのつもりだったけど、先に行って潰せるなら潰しておくか……。事が起こってから何か押し付けられるより、先手打って潰しに行った方が労力も被害も少なくて済むし……。

 とにかく、魔族が何処に居るのか探してみよう。

 壁から街に向かって飛び降りる。

 約20mの落下。

 時間にして2秒足らず。

 地面にぶつかる直前に息を止めて【アクセルブレス】発動。

 スローになった世界で、肉体にかかる負荷を全て無効にして着地。


「ニャ…フッ」


 息を吐いて加速を解除。

 何事も無かったように街に歩きだす。まあ、実際に何も無かったんだけど……。

 さてさて、魔族の皆様方はどこかしら~っと。


 大通りにも裏通りにも、人がまったく歩いて居ない。

 けど人が居ないって訳じゃないな? 家の中からは人の匂いがするし、小さな話声もする。

 多分、皆魔族にビビって出て来ないか、魔族連中が外に出る事を禁じているか……まあ、そんなところだろう。

 これだけ大きくて立派な街なのに、人っ子一人どころか猫一匹居ないとか不気味だな……。あ、猫は居るのか、俺が。

 クンクンっと微妙に漂っている魔族の臭いを追いかけていると、突然曲がり角を曲がって2足歩行の牛が現れた。

 あ、居た居た。

 コイツの後を着いて行けば仲間の所へ案内してくれるかなぁ……と思って居たら、牛が俺を見るなり涎を垂らした。


 ……え?


「丁度良い。腹が減ってたんだ」


 もしかして……俺を食う気ですかな?

 いえいえ、止めときましょうよ。こんな小さくて細い子猫じゃ、食べれる肉なんて微々たる物ですよ? だったらもっと食べ甲斐が有る肉を食べましょうよ。牛とか。あっ、共食いじゃん! ジョーク。猫ジョーク。あっ、これ笑うところね?

 バカな事を考えてる間に、止め処なく口からドブのような臭いのする涎を垂らして牛の魔族が近付いて来る。

 ……どうしようコイツ。

 殺す事は訳無いが、ここで下手に殺すと後々面倒な事になる気がする。かと言って、逃げを選んで、変にしつこく探されたらそれこそ面倒だ。

 そこで、ふと思い付く。


 使ってみるか、俺の右目……【紛い物の幻(フェイクミラージュ)】を。


 右目に意識を集中。

 魔眼を発動する手順は、頭で理解してなくても体が勝手に行ってくれる。スキルを発動する時と同じだ。

 頭の中で、相手の視覚に映す情報を形にする。

 それを、右目から相手に照射するイメージ。


 パキンッと殻が割れて視界が広がるような錯覚―――。


 自分では確認できないが、今俺の右目の奥では星の(またた)きのような光が煌めいている筈だ。

 右目の奥がピリピリする。

 これが魔眼を発動する感覚か……。微妙な不快感は有るけど、MP消費は無いから魔法を使った時のような体が重くなるような感じはない。これなら延々と使い続ける事が出来そうだ。

 魔眼は視覚に捉えている相手にしか効果が無い事を思い出し、牛から目を離さないように気を付ける。

 その牛は、魔眼が発動するなりピタリと動きを止めて、気まずそうに頭をポリポリと掻く。


「腹の減り過ぎか? 猫の幻を見るなんてな……」


 俺に背を向けて、元来た道を戻って行く。

 俺がコイツに見せている幻は“俺の居ない風景”だ。

 「存在しない物」を見せるのが幻術であるのなら、「存在している物」を消すのもまた幻術だ。

 猫の幻? 残念、今見ている“猫が居ない”事が幻だよ。

 この魔眼は良いね、大当たりだ! 小賢しい事大好きな俺向きな能力じゃないか。


「ミィ」


 嬉しくてつい鳴き声を出してしまった。

 途端に―――


「ん? 猫の鳴き声?」


 牛が振り返って辺りを見回す。

 おっと……ヤバ! そう言えば、誤魔化せるのは視覚だけで音や臭いは誤魔化せないんでした!


「……気のせいか? 幻聴まで聞こえるなんて、こりゃあマズイな……」


 首を傾げてから、再び歩きだす。

 どうやら気付かれなかったらしい。

 ……危ない危ない、今度からは気を付けよう。本格的に隠れるなら【隠形】を併用して音と気配も断った方が良いな。まあ、今はそこまでする必要なさそうだけど。


 さて……じゃあ牛さん? 仲間の所まで案内宜しくね。



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