3-4 王都へ
森の中を走って居る―――。
なんか、気付くと森の中を全力疾走してる気がするなぁ俺……。まあ、走ってるのは猫じゃなくて、俺を肩に乗せてる【仮想体】なんだけど。
木々を切り裂くように、金色の鎧が駆け抜ける。
さて、なんで俺は走って居るのか?
当然の疑問です。なんたって俺自身も疑問なくらいだ。
遡る事30分前―――
俺……って言うか勇者モドキこと【仮想体】は、ユーリさんを始めとした町の人々と感動の(?)再会をしていた。
そこへヒョッコリ現れたのが、アザリアの仲間のバニッジ……ん? ヴァニッジ? どっちでも良いか…微妙な発音の違いだどうせ。
ともかく、その人が現れて
「すぐにお嬢の後を追ってくれ!」
と頼まれた。
なんでも、俺が魔王を倒してから5日、かなりアザリア達は忙しくは働いているらしい。
と言うのも、魔王を倒したところで、その部下の魔族達が消える訳でも、大人しくなる訳でもないから……だそうだ。
魔王が倒れた事で、実質この国は魔族の手から解放された。しかし、それで自棄になった魔族達が町の人間を殺して回るなんて事になったら意味が無い。って事で、アザリア達は大急ぎで各町を回って、残っている魔族の討伐しているそうだ。
幸い、魔王が死んだと言う吉報を受けた町の人達に解放運動の動きが高まり、その助けもあって順調に町の解放は進んでいるそうなのだが……町を解放する動きを察知した魔族達が、元々この国の王都だった街に集まって引き籠って……って言うとアレか、籠城と言っておこうか……まあ、ともかくそうなってしまったらしい。
アザリア達はいつも通りに解放を……と行きたいところだが、王都と言うだけあって街の規模が大きく、尚且つ住人の数も今まで解放した場所とは比較にならんそうな。その上、各地から逃げて来た魔族が集まって居る。
予想通りに魔族達は「街に近付けば人間を皆殺しにする!」と脅しをかけ、結局アザリア達は1度退かざるを得なくなった。
で、今日出直してまた向かったらしいのだが、ヴァニッジのオッサンが言うには、「どうにも魔族の動きがおかしいように思える」そうだ。とは言え、それは何か確証のある言葉ではなく“長年の戦士の勘”から出た言葉であり、アザリアの行動を止める程の説得力はない……と何も言わずに見送ったそうなのだが、やはり不安になって後を追うかと思っていたところに俺が戻って来た―――と言う、そんな感じの話らしい。
で、俺は現在王都への道を教えて貰い、猛ダッシュで向かっている訳です。
ぶっちゃけ「助け本当に要る?」と思わなくもないが、まあ……アザリアの事はちょっと心配だし。
それに何より、旭日の剣は恐らくアザリアの手元に有る筈だ。アザリアに何かあったら、俺のメインウェポンが魔族に持ち去られる可能性がある。出来ればそうなる前に助け出したい。
……まあ、それも“アザリア達が本当に危ない目に遭ってれば”だけども。
アザリア達は馬で向かったそうなので、追い付くにはコッチは森を突っ切ってショートカットするくらいしないとダメだ―――と森に入ったのだが、意外な程快適な旅だ。
まず―――【仮想体】が今までと比較にならないくらい早い。
あまりのは早さに、昔友達の乗る時速100km越えのバイクの後ろでビビってちびりかけた事を走馬灯のように思い出してしまった。
こんな速度で森の中を走るって危なくない? と思ったでしょ? 俺も思った。でも、実際にやってみると結構大した事無いの。なんでって? 俺には【アクセルブレス】が有るもの。
木にぶつかりそうになったら息を止めて加速、【仮想体】に回避運動をとらせたら加速を解除してまた走る。
ね? 簡単でしょ?
前までは、鎧の肩は乗り心地に難有りだったのだが、俺の身体能力値がアイテムの収集と、【魔王】の特性によって強化されたお陰か、「まあ、我慢できる」程度に収まっている。
それに何より―――魔物が寄って来ない。
俺が森に入れば、魔物の方から「餌が来た!」と襲いかかって来たのに、今日は30分走っても1度も魔物にエンカウントしない。
いや、しないって言うか、魔物が近寄って来ない。
近くに居るのを臭いで確認し、警戒して【バードアイ】で視覚を飛ばすと、魔物は俺の進行方向から慌てて離れるように走って行くのだ。
俺の子猫の体には、危険な存在が近付くと、それを“嫌な臭い”として体に教えてくれる危険感知の能力が備わっている。ただ、これは別に俺が特別って訳ではなく、野生の動物や魔物にも当然に持っている物だ。
これは憶測だが、魔物達が俺に対して“嫌な臭い”を感じているんだと思う。
まあ、確かに自慢じゃないが、ここらに出る魔物になら一切負ける気がしないしな? クビナガイーターやらの下級の魔物は当然、中型のオーガベアも普通に勝てるし。
今の俺なら、魔族達が戦ってた“影の魔物”とだって普通にやり合える気がする。まあ、実際に戦ってみない事には分かんないけど。
ともかく―――魔物達がビビって近付いて来ないと言うのなら好都合だ。
更に足を速めて王都に向かう。
暫く走って行くと森を抜けた。
森が永遠に続くかと思ったけど、当然の事ながら何にでも限りはある。
はぁ……抜けたな。
流石にこんなにクルガの町から離れた事はない。
なんか、子供の頃始めて自転車で遠出した時の事を思い出してしまった……って、感傷に浸ってる場合じゃねえっつうの。
さて、ここからどっちに向かえば良いんだっけか? ヴァニッジのおっさん曰く「森から出れば、王都が見える」らしいけど。
どーこーかーなっと。
あっ!
進行方向右手側に、城らしき影が見えた。
なる程、城が目印なら確かに分かりやすいわ。
とは言え、こっから先は見通しが良過ぎるな……。王都には人が一杯魔族に捕らえられてるらしいし、当然魔族が見張りに立ってるだろうしね。
仕方無い……こっからはスピードより隠密行動優先で行くか。
鎧の肩から地面に降りて、【仮想体】を鎧ごと収集箱に放り込む。
オリハルコンの鎧は恰好良いけど、目立ち過ぎる。ここからは子猫の体1つで向かう方が何かと都合が良い。
さっさとアザリアを見つけて………見つけてどうしよう? いや、「危険があるかもしれないから気を付けろ」と言いに来たのはそうなんだが、根本的に俺喋れませんやん? どう伝えんの? ジェスチャー? それ無理じゃない?
まあ、いいや……。
もしかしたら、もう王都の中に入った後かもしれないし。一旦近付いて、アッチの状況見から考えるべ。
【隠形】を発動し、気配と音を消して王都に向かって走り出す。
……こうやって自分足で全力疾走してみると、改めて自分の能力が上がっている事を実感する。
こんな可愛らしい子猫なのに、多分今チーターみたいな速度で走ってんぞ俺。
いや、でもこの速度で走ってるのを人に見られたら不審な事この上ねえな……。まあ、王都から100mくらいまでは大丈夫か。……大丈夫だと思っておこう。




