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3-1 猫は目を覚ます

 どこか心地良いまどろみの中に居る。

 何度か意識が沈んだり浮かんだり……そんな事を繰り返した。

 意識を肉体まで浮上させるのが酷くしんどくて、夢と現実の間にある心地良い眠りの海を漂っていた。

 そんな事をどれだけの時間やっていたのか分からないが、突然何かに引っ張られるように現実に呼び戻される。


 …………


 …………


「ミ……?」


 フワフワした毛布に包まれて目を覚ます。

 見慣れぬ天井、見慣れぬ部屋。

 ………どこじゃい此処は?

 頭がぼんやりして、意識が現実に定まらない……俗に言う寝惚けている状態か…?

 思考が回らずに、毛布の中で暫くジッとしていると誰かが俺を覗き込んで来た。


「猫ちゃん、起きた?」


 どこかで見た事ある女の人だった。

 ああ、アザリアの仲間の治癒士(?)とか言う医者のような係の人だ。しかしゴメンなさい、名前は知らないです。


「ミャァ」


 一鳴きして返事をすると、


「お嬢、王子様が目を覚ましましたよ!」


 すると、女性の後ろから見慣れた顔が現れて、毛布ごと俺を抱き上げる。


「猫にゃん!」


 アザリアだった。

 赤茶けた髪に、ハッキリとした目鼻、数年後には美人さんになるだろうなぁ……。とかボンヤリと思って居たら、毛布ごとギューっと抱きしめられた。

 ………苦しい…。


「猫にゃん無事で良かった!!」


 夢中で抱きしめて来るアザリアに俺の抗議は届かず、仕方無く毛布から脱皮するようにニョロッとアザリアの腕から脱出する。


「ミィ」


 床に着地するなり抗議する。


「猫にゃん」


 しかし無視してまた抱きあげられた。

 ダメだ、この猫まっしぐらには抗議も何も効かない。

 嬉しそうにスリスリと頬擦りしてくるアザリアはとりあえず置いといて……どうせ暫くはこの調子な気がするし。

 部屋に居たアザリアの仲間の方達3名が、微笑ましい物を眺める“お母さん”みたいな視線を俺達に向けているが……まあ、コッチもスルーしておこう。


 とりあえず、考えるべきは―――なんでこんな状況なのって話よ。


 思い出せる最後の記憶は、アドバンスが死ぬ間際に放った魔法を食らった事。いや、正確には魔法は深淵のマントで防御したんだけど、それで吹っ飛ばされて木に打ちつけられて………どうなったんだっけ?

 死ぬ程痛くて……意識が遠くなった……?

 で、何? どうなったの? 死んだの俺?

 いや、死んでねーよ。こうして生きてんじゃん。

 ……って事は、誰かが助けてくれた……って、まあ、どう考えてもアザリア達か。

 正直、本当に死んだかと思ったから、助けてくれたなら、どれだけ礼を言っても足りねえな。

 しゃーない。今日の所は好きなだけモフって良いぞアザリア。なんなら肉球も触るか? ほれほれ。

 アザリアの頭をポフポフ叩く。


「猫にゃんが私に懐いてくれた!」

「良かったなお嬢」「懐いてる? その子本当に懐いてる? 目つきが全然懐いてる目じゃないんだけど」「バッカだなぁ、猫なんてそんなもんだろう」


 そうです、猫なんてそんなもんです。

 暫くアザリアにモフモフされた後、ようやく落ち付いたのか、椅子に座って俺を膝に乗せる。


「あのね猫にゃん」


 はい、なんでしょう。

 って言うか、もう人前でも気にせず俺の事は普通に「猫にゃん」呼びするのね貴女。まあ、どうせ皆猫まっしぐらなのは知ってただろうけど。だって、全然この子隠せてないし。


「猫にゃんのご主人様は何処を探しても見つからないの……」


 アザリアの言葉を聞いて、皆の顔が暗くなり、部屋の空気が鉛のように重くなる。

 いや、まあ、そら、何処探したって見つかんねーよ。【仮想体】は引っ込めてるし、オリハルコンの鎧一式は収集箱(コレクトボックス)の中だし。

 優しく俺の体を撫でながら続ける。


「剣の勇者が魔王アドレアスを倒したのは間違いないのだけれど……何処にも居ないし、町にも戻ってなくて……。でも、遺体も見つかってないから、きっと生きてる……とは、思うんだけど……」


 魔王アドレアス……?

 アドレアス……。


 そ れ だっ!!!


 誰だよアドバンスって言ったの!? 微妙に、どころか全然違うじゃねーか!?

 はぁ、良かった間違いに気付いて。

 このまま永遠にアドバンスとして俺の記憶に刻まれるところだったわ。でも、もう言い慣れちゃったしアドバンスで良いか。誰に間違いを指摘される訳でもないし。

 まあ、そんな事より―――君等の言う「剣の勇者」は何の心配も要らねえよ。


「ミャ」

「慰めてくれてるの? 猫にゃんは優しいね」


 いや、違う。慰めてるんじゃなくて……まあ、良いか面倒臭い。そのうちタイミングを見計らって勇者モドキの姿を見せてやれば、それで全部解決するだろうし。

 と、扉が開いて男が顔を出す。


「お嬢、そろそろ」


 何か用事があるのか、呼びに来たらしい。

 男に呼ばれて、名残惜しそうに俺を撫でる。


「はい。じゃあ、猫にゃん。私達ちょっと外に出て来るから、良い子で待っててね?」


 最後にキスをするように俺の額に顔をつける。

 ………頬擦りは大丈夫だったけど、こう言うのはちょっと照れるな……。


「ミィ」

「寂しいかもしれないけど我慢してね」


 いや、別に寂しくはない。むしろ猫としては、人が居ると気を使うから1人……1匹の方が良い。

 俺を(くる)んで居た毛布をベッドの上に置き、そこに寝かせるように俺を優しく放す。


「行って来ます猫にゃん」

「ミャァ」


 はい、行ってらっしゃい。

 俺用の簡単な食事(餌)と水を置くと、アザリア達は出て行った。

 部屋に1人残される。

 ふむ。

 ……とりあえず飯食べよう。なんか死ぬ程腹減ってるし。喉もミイラになりそうなくらい乾いてるし。

 おっと、そう言えば、なんかログがアホみたいに流れてるし、飯食いながらのんびり確認して行くか?

 食べやすいように小さく切られた焼いた肉(何の肉かは不明)をモシャモシャしながら、瞼の裏の文字をスクロールして行く。


『【ヒール】

 カテゴリー:天術

 属性:治癒

 威力:-

 範囲:E』


『【リジェネレーション】

 カテゴリー:天術

 属性:治癒

 威力:-

 範囲:E』


 治癒天術って事は、多分俺が寝てる間にアザリア達がかけてくれた奴だな。

 回復系の能力は持っておいて損はないし、有り難い有り難い。


『【死の絶望(デスペラード)

 カテゴリー:魔法

 属性:虚無

 威力:消費したエナジーによって変動

 範囲:消費したエナジーによって変動

 魔力ではなく生命力(エナジー)を消費して発動する。

 この魔法の発動後、発動者は死亡する』


 ん? この魔法はなんだ?

 ああ、もしかしてアドバンスが最後っ屁に使った奴かな?

 直接的には魔法自体は食らってないけど、判定的には食らった事になってるのか。

 ってか何? この魔法、発動後に死亡って事はメガン●かよ……。

 いや、ちょっと待てよ。発動に生命力消費って事は、もしかして俺が無事で済んだのってアドバンスが死にかけで、生命力の残りが少なかったからじゃないか?

 致命傷与える前にコレ使われてたら、多分アウトだったな……。

 良かった良かった。

 まあ、この魔法は貰ったところで使い道はなさそうだな? 自爆するくらいならさっさとケツ巻くって逃げるし。

 モッシャモッシャと肉を食いながら更にログをスクロールすると気になる一文が……。


『特性【魔王】を収集(コレクト)しました』


 ……え?



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