1-5 収集家
俺の能力……名前が無いのも不便なので、とりあえず【収集家】と勝手に名付けた。
収集箱にアイテムを収集する事で、俺が強化される仕様…らしい。ただし、強化ボーナスを貰えるのは新しく入手した時の1回だけ。同じアイテムを複数放り込んでもボーナスは貰えない。
まあ、1度ボーナスを貰えば、そのアイテムを収集箱から出して手放したとしても、貰ったボーナス値はそのままになるようだから、レアなアイテムとか持ってる人を見つけたら、コッソリ収集箱に入れてから気付かれる前に返す…なんて事も出来る。
さて、転生職員がくれた能力が分かったのはとても良かった。良かったんだが……マジで腹が減った…。
そろそろ本気で食料と水を確保しないとな…。動けなくなってから慌てても手遅れだ。
食べ物を探してウロウロしたいが、下手に動きまわるとさっきの“首長”のような魔物に出会う可能性が増えるんだよなぁ…。
そう言えば、あれって本当に魔物なのかな? 俺の常識じゃ測れないってだけで、異世界では普通の原生生物とかってオチもあるかもしれんか? まあ、どっちにしろ、狙われたら命が無いってのは間違いないから、どっちでも変わらないな…。
エンカウントの危険はあるけど、動かない事には何も始まらんからな。ビビって立ち止まってても何も変わらん。
「ミィ!」
気合いを入れて歩きだす。
周囲への警戒をしながらトテトテと歩く。その途中、草に埋もれるように転がって居た石を収集箱に入れてみる。
『【石材 Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:1/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
よし、また1つ強くなりました。まあ、ちょこっとだけだけど…。
それより、所持数の表示が1つだな? 今、収集箱には木の枝こと木材Lv.1が2つ入ってる。それでも表示が1って事は、この所持数の表示はそれぞれのアイテムの限界数って事で間違いなさそうだ。
良かった…。所持数が全部で30個なんて、流石に少な過ぎるからな。
まあ、もしかしたら100種類までしかストック出来ない…とかって事も有り得るし、そのうち収集箱の容量限界も調べられるなら調べておきたいな……。でも、それはちゃんと落ち着く場所に着いてからだな。
今はともかく目先の事だ。飯と水を見つけなければ…。
自分に出来る限りの警戒をしたまま15分程森を彷徨い、ようやく小さな川を見つけた。
「ミィ!」
思わず警戒も忘れて「水だ!!」と叫んでしまった。まあ、実際に口から出たのは可愛らしい子猫の鳴き声だけど。
木々の隙間を縫うように透き通った水が流れている。
俺がダイブ出来ないくらい小さくて浅い川だが、今の俺には天の川よりも偉大で大きな川に思えた。
飲んでも大丈夫かしら? いや、もう大丈夫って事にしておこう。歩きまわって喉カラカラだし、多少のヤバさがあったとしても目を瞑ろう。
まあ、多分大丈夫だって、これだけ澄んだ水だし。
水の中に顔を突っ込むようにして水を飲む。
プッハー! 冷たくてウメぇ!! この一杯の為に生きてるぅ!
って、うっざ! 顔が濡れてる不快感半端じゃねえ!? 何コレ、落ち着かないってか、イライラする!!
猫が風呂に入らない理由ってこれかよ!?
慌てて顔をブンブン振って水気を飛ばす。
はぁ~、こんな落とし穴があったとは……猫の体は大変だ…。
っと、そうだ! 水も収集箱に入んないかな? もし持ち歩けたらとっても有り難いんだけど。固体じゃなきゃダメかな?
試しに前脚を水に突っ込んでみる。
瞬間―――前脚の周囲の水が消えて、小川の流れが一瞬だけ止まる。
『【水 Lv.3】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:F
所持数:1/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
おっ、放り込めた。
消えた量からすると、10ℓくらいでアイテム1つ分ってカウントか。
収集箱の中で、液体がどんな管理のされ方をされているのかはちょっと分かんないけども…まあ、流石にビンやらペットボトルやらに丁寧に入れられてるって可能性が無い事だけは分かる。
それは、ともかく…。
水のレベルが3だ。
どういう基準で、どのあたりの評価でレベルが3なんだ? 不純物とか、湧水とか、軟水とか硬水とか…うーん、どのあたりがレベル評価に繋がるのかがまったく分からんな。
まあ、分からん事は一旦放置だ。
今は飲める水って事だけ分かっていればヨシ!
水はいくら持ってても困らないし、いつ補充出来ない状況になるとも限らない。上限一杯までここで持って行こう。
3分程かかって所持数限界の30までストックした。
これで暫くは水の心配はいらない。……まあ、収集箱の中で水が腐るなんて馬鹿なオチがなければだが…。
さてさて、これからどうしましょうかね?
川に沿って移動すれば迷う心配がないから安心―――なのは良いんだが、川上に向かうか川下に向かうか……ふむ。
川下だな。
どっかで大きい川に合流するかもしれないし、そうじゃなくても水の流れる先は湖か海だろう。とすれば、どっかで人里か街道にでも当たる筈。
猫の姿で人の町でまともに暮らせるとは思えないが、少なくても魔物の闊歩する森の中に居るよりは格段に安全だろう。それに、食べ物の確保の意味でも町の方が絶対良いだろうし。
食べ物探しーの、町探しーの、アイテム集めーの。って感じで行こう。
小川の流れを追いかけて、小さな体でトコトコ歩く。
さて、食い物食い物っと。
キョロキョロとするが、食べられそうな物が何も無い。木の実の1つくらいどっかに有れっつーの。
余所見しながら歩いていたら、泥に足を取られてこける。
「ギニャぁッ!」
ツルンッと滑って……痛ったいわぁ、もう!
水辺の近くはぬかるんでんな。
憎々しげに泥をバシッと叩く―――と、思い付く。
木の枝。小石。水。
今収集箱に入っている物は全部特別な物じゃない。身の回りに当然のように存在している物ばかり。って事はだ、他の物もアイテムとして収集出来るんじゃね?
例えば―――この泥。
『【土 Lv.2】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:F
所持数:1/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
お、やっぱり行けたじゃん。
今度は少し離れた所の乾いた土を収集する。
『【土 Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:F
所持数:2/30』
泥の状態の方が土のレベルが高い……。本当にレベル評価の基準が理解出来んな。
まあ、いいや。泥の方がレベルが高いって言うなら、少し持っておくか? 何かに使えるかもしれんし。
とりあえず10個くらいストックしておく。
続いて適当に生えていた草を収集箱に。
『【野草 Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:1/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
うん、よしよし。
それにしても、木と言い草と言い、種類別に分別される訳じゃないのか? 例えば松の木とか栗の木とか、草だって野菜だったらどう言う扱いになんだろうな?
色々謎だわ…。
心の中で頭を傾げながら歩行再開。
その後、花を見つけて収集してみたが、野草のLv.2として処理された。花も草と同じ処理ってか? もしかしてレアリティが低いせいかな? それとも、俺が花の種類を認識出来てないせいって可能性もあるか…。
まあ、何にしても、草や花の種類を大量に手に入れて能力強化しようって俺のアイディアはダメだな…。
「ミィ…」
溜息を吐く。
おお神よ、何故にこんな試練をお与えになるのですかー……などと思いながら空を見上げると―――赤い果実があった!
Appleじゃないですか!?
無駄に良い発音になってしまうぐらいテンションが上がった。
いや、上がるでしょ!? アップルですよアップル!? アポーっですって!
陽の入りが悪いせいか、それとも土の栄養が足りないのか、それなりに赤く熟しているのに実が小さい。
だがそんな事関係ねえ! 色が悪かろうが小さかろうが、食べ物は食べ物だ! まっとうに口に入れる事の出来る、ちゃんとした食い物である事に変わりはない!
よし、ゲットしよう!! するしかない!! するべきだ!
テンション高めに3段活用してから、木の幹に近付く。
この木か…。
他にリンゴの木はねえな? 鳥か獣が運んだ種が、たまたまこの一本だけ芽吹いたって感じかな?
実は……えっと、あっ上の方にもう2,3個有るけど…これで全部っぽいな。
さて、ではではゲットタイムと行きましょうか。
少し下がって―――ジャンプ!!
「ミッ!!」
勢いも気合いも最高のジャンプ!
しかし―――1番下の枝にすら届かなかった。
ちっきしょう! 効果:微とは言え、身体能力ブーストを5回貰ってるお陰でジャンプは確実に高くなってるんだけどなぁ…。
試しにもう1度やってみるが、やはり届かない。
あと5cmで届くってんなら頑張ってみる価値がありそうだが、30cmくらい足りないんじゃどうしようもねえな…。
猫動画でよくある、爪を幹に引っかけたニ段ジャンプフラグか…? いや、全然そんな技使える気がしないな。
どうする、諦めるか? いや、いやいやいや、これを逃すと次に食べ物に出会えるのが何時になるか分からんし、ここで確実にゲットすべきだろ。
考えろ…。肉体能力でどうにもならん事でも、俺には人間の知恵があるじゃろうがぃ。
長い棒のような物で落とす。……ダメだな。猫の体じゃ棒を上手く操る事が出来ない。
物を投げて落とす。……いや、これも猫の体じゃ物を投げれないからダメ―――じゃないかも!
猫の手じゃ物を投げられないけど、俺には収集箱がある! 物を出す時に、勢い付けて出す…とか出来ねえかな?
試しにやってみる。
アイテムのリストから石を選ぶ。
この石を……こう、なんつーの? 弾き出す感じで…。
何も無い空間から石が勢いよく飛び出て、リンゴの木の幹にコンッと当たる。
おっ、お? 今の良い感じじゃない? ちょっと練習すれば行ける気がするわ。
あと、俺の技量とは別のところの問題として、根本的に石のサイズが小さ過ぎるな。もう少し大きくて重い石じゃないとリンゴを落とせねえや。
チョロチョロ探して手頃な石を4個程ストックする。
5分程の練習時間―――
「ミィミッ!」
ヒュッと空気を切る音と共に石が飛ぶ。
よしよし、いい感じにスピードが出るようになった。野球選手の投げる剛速球……とまではいかないが、一般人が頑張って投げたくらいの球速は出てるんじゃねえかな?
よし、この収集箱からアイテムを投げる技を投射と名付ける!! ………ええ、そうですよ? まんまなネーミングですけど何か?
おーっし、本番行ってみよう!
リンゴの木の真下から、打ち上げ花火のように石をショットする。
「ミィいッ!」
狙い違わずリンゴの実がついていた枝に当たり、パキンッと折れて落ちて来た。
よっしゃぁッ!!! 俺凄ぇっ!! なんか、こう言う才能あるんちゃうか!?
………まあ、この作戦の失敗があったとすれば、リンゴと打ち上げた石が俺に向かって落ちて来た事だろうか?
「ギミャァッ!!」
猫らしい俊敏さで何とか回避する。
あっぶ!? あっぶなっ!? 本当にギリギリだったつうの!
リンゴはともかく石の方は直撃されたら、子猫の体じゃ即死してもおかしくなかったぞ!? いや、石投げたのも俺だけども!
ま、いいや。とりあえず念願の食べ物はゲット出来たし。
…………あれ? 猫って果物食べてもいいんだっけか? ミカンをやったらダメなのは何となく覚えてるんだけど、リンゴは良いんだっけ…?
確かOKだった……ような気がする。でも、そもそも果物を大量に食べるのはNGじゃなかったっけか…?
ああ、クソ! こんな事なら猫飼っとけば良かった!
……後悔しても仕方無い。
とりあえず食ってみよう。
カプッと小さく噛みついてみる。浅く刺さった歯の隙間から蜜が溢れる……けど、あんまり甘くないな? 単にこのリンゴが甘くないのか、それとも……猫の味覚が鈍感なだけか?
とは言え、空きっ腹に甘さが染み渡って美味い! ……けど、顎の力が足りなくて齧れねえな…。
仕方ねえ、少し砕くか。
口を離して一旦リンゴを収集箱に入れる。
『【残飯 Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:1/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
残飯て……。
もしかして、俺が口つけたせいか? 形が失われてなくても、1度でも口つけた物は残り物として処理されるのかな?
まあ、その辺りの検証は後だ。今は飯タイム。
投射で今入れたばかりのリンゴ(こと残飯)を木の幹に叩き付ける。
グシャッと実が潰れ、飛び散った甘い蜜が地面を濡らす。
地面に落ちた小さなリンゴの欠片を食べる。
人として地面に落ちた物を食べるのは抵抗があるが、そんな事言ってられねえし。そもそも今の俺は人じゃなくて猫ですし。
ウマウマ。
甘さはともかく、実の色合いも綺麗だし、食感もちゃんとシャクッとしてる。俺の知る普通のリンゴだ。
異世界でもリンゴがちゃんとしたリンゴと言うのは、不自然ではあるが……まあ、でも同じだって事はちょっと安心する。
欠片3つ程食べたらいい感じに腹がふくれた。
子猫の体で唯一良い事は、食料が少なくて済む事だな。
残りの欠片は一纏めにして収集箱に放り込む。
よし! 腹に食い物入れたら元気出た。
石を投射して木に残ってた2つのリンゴを落とす。
『【リンゴ Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:2/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
これで、一応の食料は確保出来たな。
とは言え、毎日果物だけってのは流石に猫の体的に良くないだろうし、別の食べ物を探すのも継続しなきゃダメだな。




