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2-38 猫と魔王は踊る

 【仮想体】が旭日の剣を振る。

 先程まではアドバンスのマントでキンキン弾かれていたが、今やそのマントは俺の収集箱(コレクトボックス)の中。

 俺の正体が猫だって事に気付かれてヤバいのは本当だが、野郎も武器と防具を奪われて弱体化しているのも事実。

 条件が五分と五分とは言わないが、それでもアドバンスを倒せる可能性はある―――とは言え、やっぱりそう簡単に首は取らせて貰えない!

 【仮想体】の超パワー、超スピードで振られた剣を、難なく尻尾で弾く。


「人形遊びに付き合うつもりはない!」


 鬱陶しそうに言いながら、鋭い踏み込みから鎧のどてっ腹に全力の蹴り。

 ドラを叩いたような轟音と共に金色の鎧が木々を薙ぎ倒して吹っ飛んで―――行く前に収集箱に回収。

 そして即座にアドバンスの背に【仮想体】を創る―――と同時に剣を振る。


「―――チッ、鬱陶しい!」


 アドバンスの超反応でこれも防がれる。

 だが、これで良い。

 重要なのは、(おれ)に視線を固定させない事。

 視線を向けられれば、途端に奴の幻を見せる魔眼で追い込まれる。出来るだけ注意は【仮想体】に向けさせて、俺自身は出来るだけ【隠形】で隠れつつ


――― ぶち殺す!!!


 【エクスプロード】


 発動は【仮想体】の手元。

 収集箱から取り出すと同時に起爆し、アドバンスの超反応を持ってしても回避不可能な速攻魔法。

 肉体も痛みも無い【仮想体】だから出来る自爆技。


「クッ―――!?」


 音と色が一瞬何も無くなる程の超爆発。

 地面と空気と周囲の木々を吹き飛ばし、爆風と熱波を撒き散らす。

 オリハルコンの籠手が爆発の威力に負けて空中を舞い、残った鎧も吹き飛ぶ。

 一方アドバンスは、間近で爆風を受けたにも関わらず2m程吹き飛ばされただけで踏み止まって居た。

 だが、決してダメージが無い訳じゃない。

 四肢の鱗が剥がれ、血が噴き出している。

 【エクスプロード】の余波は当然俺の所にも届いている。熱いやら痛いやら……それはもう我慢する。我慢して息を止めて、加速―――!

 加速中は物理的な制限を何も受けない。だから、爆風だの熱波の影響も、息を止めてる間は無視出来る。


 ――― ミスリルの槍を投射。


 木の陰から飛び出して移動。

 走りながら2つ目、


――― アイスランスを投射。


 更に走りながらもう1つ。


【グラビティ】


 加速の良いところは、通常一手しか撃てないような時間でも加速すれば倍以上の手数を叩き込める事だ。

 ……とは言え、魔法を使う度に頭がフラつく……マジで残りのMPがレッドゾーンって事かね。

 爆風を浴びていたアドバンスが、背後で放たれたミスリルの槍とアイスランスに反応、回避行動に移ろうとするや否や【グラビティ】を食らって動きが悪くなる。

 アドバンスは持続的に発動する魔法を解除する魔法を持っているが、それだって発動に一瞬の間がある。であれば、その一瞬は攻撃の好機!

 そして俺自身はさっさと木の陰に隠れて奴の視界から消える。


「【術式解除(ブレイクスペル)】!」

 

 即座に重力魔法を解除し、飛んで来たミスリルの槍を音速の尻尾で迎撃。しかし、2本目のアイスランスまでは間に合わない。

 腰の辺りに深々と槍が刺さる。


「―――ガッ…!」


 よし、マントさえなければ背面からの攻撃が普通に通る!

 と、アドバンスが腰に槍を刺したまま、俺の隠れている方向を睨む。

 憤怒の目。

 痛みを受けて、自分の血を見て、怒りに火のついた目。


「図に乗るな……【業火(ヘルファイア)】!!」


 俺と、隠れている木を纏めて灰にしようとするように、禍々しく燃える炎が周囲を取り囲む。

 加速して逃げる―――いや、ダメだ! 加速したばっかりで息が切れてる。このまま加速しても5秒も持たねえ!

 行動を考えている間に、一気に炎が囲いを狭めて俺を呑み込もうと襲いかかる。

 逃げ場がねえなら、耐えるしかねえ!

 咄嗟に先程アドバンスから奪った深淵のマントとやらを取り出し、布団にくるまるようにマントの中に潜り込む。と同時に、悪魔のように燃え盛る炎が俺を呑み込み、ドンッと爆発するように更に燃え上がって周囲の木々と地面を焦がす。

 あっつぃ……!!! けど、ギリギリ耐えられる……ような気がする。でも、体にかかる熱は耐えられるけど、吸い込む空気が熱いのがクソしんどい……息が切れてるのに呼吸を制限されるとか拷問かよ……!

 まあ、でも、流石魔王のマント、防御力クソ高くてアザーッス!


 そう言えば、魔法で俺が直接狙われたのってこれが初体験かも。

 処刑場乱入で魔法食らいかけたけど、アレは俺じゃなくて【仮想体】が狙われただけだし。

 いつもダメージを受けない【仮想体】が魔法を食らう係をやってくれてたから、魔法に対する恐怖心が少し麻痺していた。

 ……そうだよ。子猫の脆弱な体じゃ、最弱の攻撃魔法1発食らっただけでもアウトじゃん!


 魔法による熱量が引くのをジッとマントの中で待っていると、突然マントを引き剥がされる。


「返して貰うぞ?」


 アドバンスだった。

 しくった―――こんなに近付かれたのに気付かなかった……!

 マントを引き剥がされて地面を転がる……って、地面クソ熱い!!! 焦げて土が黒くなってんぞアホか!!?

 バタバタと転がると、ジュッと体が焼ける。

 やっべぇ、マジで焼けた地面の上はヤバいって! この蜥蜴野郎はなんで平気な顔してんだよ……!?

 地面に極力触れないようにピョンコピョンコ跳ねる。

 だが、すぐ近くにもっとヤバい物が居る。


「獣らしい無様な姿だ」


 腰に刺さっていたアイスランスを抜きながら、地面を跳ねる俺を見下ろす。

 余裕ぶった顔が死ぬ程腹立つので、至近距離でポイズンエッジを投射してやる。


 ――― 死ねボケェ!


 が、余裕ぶっている顔は崩れる事無く、当たり前のように音速で迫る短剣を2本の指でパシッと掴む。


「悪足掻きは終わりか?」


 言い終わらないうちに、その背で尻尾が風を切る。

 何度見てもクソ速い―――けど、予想通り。

 両手が塞がってれば、絶対尻尾で来ると踏んで居た。手に持った武器で攻撃するって展開も考えたが、アドバンスにはさっき投げ返されたアイスランスを撃ち消すのを見せてるからな。俺が放った武器は信用しねえと思ったぜ。

 残ったのは蹴りか尻尾の二択。この二つなら、断然出の早い尻尾を選択するに決まっている。

 「待ってました」とばかりに息を止めて加速―――。

 俺以外の全てがスローになる。

 ニュートラルでは“目にも止まらぬ”速度の尻尾も、加速状態なら“かなり速い”くらいで十分避けられる。

 【アクセルブレス】の良いところは、加速中は物理的な制限を受けない事。このスローになった世界の中では、地面の熱さも感じないから動きが濁る事も無い。

 マントの中で息を整えたから8秒は我慢できる―――筈!!

 鞭のようなしなる動きで上から襲いかかる尻尾を横にステップして(かわ)す。

 俺の背中の毛を掠めるように通り過ぎた尻尾が地面にめり込む。

 アドバンスの間合いから逃げようとした途端、野郎の目がチカッと光る。


――― 魔眼!?


 警戒するよりも早く、俺の進行方向を塞ぐように8mはある巨大な鉄の壁が突然現れる。

 逃げ道封じられた―――なんて一々焦るかボケぇ!


盲目(ブラインド)


 相手の視界を一時的に奪う魔法。

 アドバンスが顔を歪め、道を塞いでいた鉄の壁が消える。と同時にダッシュして近くの木の陰に隠れる。

 ふぃー……。


「【術式解除(ブレイクスペル)】」


 パキンッとガラスが割れるような小さな音が響き、アドバンスにかかっていた【盲目(ブラインド)】が解除される。

 緊急回避用に取っておいた【盲目】の魔法を使っちまった……魔王相手に何度も使える手じゃないから、ヤバい時まで取っておいたんだが……次は何かしらの対策をされてると思って置いた方が良いな。


 マントを引き剥がされたのにビックリしてしまったが……考えようによっては好都合だ。

 もういい加減魔法使う度に体がしんどいし……次で、野郎を仕留める!



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