2-36 収奪
旭日の剣の白銀の刃と、アドバンスの青竜刀の黒い刃が甲高い音をたててぶつかる。
武器の耐久力と、自身の持ち得るスピードとパワーに物を言わせる力対力の真っ向勝負。
そして、パワー勝負となれば分があるのはアドバンスの方。
野郎の剣戟に押し負けて、【仮想体】が2m程後ろに吹っ飛ばされる。
即座にアドバンスが踏み込んで来て、空いた距離を潰して追撃―――
「ふんっ!」
阿呆のような踏み込みの速度を乗せて、漆黒の刃が黒い残光を後ろに伸ばしながら迫る。
あ、無理。避けられません。
妙に冷静に思考している自分に若干驚く。まあ、自分が痛みを負うような戦い方だったら、絶対こんな冷静じゃ居られないだろうけど。ダメージ判定のない【仮想体】だからこそだ。
とか思ってる間に、黄金の鎧の左肩をアドバンスの剣が捉える。
咄嗟に、剣の振りの方向に合わせて横にステップして衝撃を受け流す。
しかし、恐ろしい速度の攻撃はそれでも威力が死なず、オリハルコンの鎧に深い傷が入り、金色の破片がパラパラと宙を舞う。
あっぶな……!
オリハルコンって、鉄なんかとは比べ物にならないくらいに、半端じゃなく硬い金属ですよね? それをこんなにアッサリ斬って来るってヤバくない? チョーヤバくない?
直撃食らったら真っ二つにされる事間違い無し。
ダメージ無いつっても、オリハルコンの鎧をバラバラにされたら堪らんな。
丁度良い位置に【仮想体】が吹っ飛んで来たし―――仕掛ける!
【グラビティ】
重力魔法を受けて、アドバンスが一瞬だけ顔を歪める。だが、即座に
「【術式解除】」
魔法外しの魔法で打ち消される。
「単発の魔法では足止めにもならんぞ?」
楽しそうに、無駄に綺麗な顔を歪めて薄く笑う。
そうですよねぇ、足止めにはならないですよねぇ、“単発”なら。
【ナパーム】
アドバンスの目の前でドンッと炎が爆発。
が、爆発の直前にアドバンスは「チッ」と舌打ちしてマントで身を守っている。勿論ダメージは1ミリも入って居ない。
だが―――それで良い!
【ライトニングボルト】
マントから顔を出そうとしたのを、高速の雷撃魔法で牽制。
顔を引っ込めたのを確認し、【仮想体】がアドバンスに向かってダッシュ。
そして走りながら―――
【バーニングエクシード】
アドバンスが動き出さないように更に魔法を連打する。
魔法を撃つ度に体が重くなる……。魔法発動の為のエネルギーがそろそろ怪しくなって来たか……!
初っ端から【審判の雷】撃って、取り巻き潰すのにも結構バカスカ撃ちまくったからなぁ……。
だが、今魔法の手を休めれば、その瞬間にアドバンスが自由に動きだしてしまう。
野郎がマントを使って守りに入っている今が俺にとっての好機なのだ。
恐らく、今の俺の手札の中にアドバンスのマントを貫いてダメージを与えられる攻撃は無い………悔しいけど。
だから、マントの中に隠れて亀になられたら、俺に打つ手は無い。
――― と、野郎は思っているのだろう。
実際、俺の手持ちの魔法も、天術も、旭日の剣でさえ一切通じない。
【仮想体】が片腕で魔法を放ちながら、もう片方の手で旭日の剣を刺突に構えて更に突っ込んで行く。
マントの隙間からその姿をアドバンスが確認し、隙間を無くすようにマントを閉じる。
刺突で隙間を抜かれる事を警戒したその行動は正しい。
俺が相手じゃなければな!
アドバンスの上―――枝から俺は飛び降りた。
子猫の体。
魔王の攻撃を1撃食らえば間違いなく即死。そう思うと足が震える。だが、それでもなけなしの勇気を振り絞って俺は飛び降りた。
【隠形】で気配と音を消している為、アドバンスは上から落ちて来る俺に気付かない。
いや、目の前で魔法を連打しながら迫って来る黄金の鎧に注視していて、上の子猫になんて注意を払っている余裕が無い。
何故に非力で脆弱な子猫の体を魔王の目の前に投げだしたのか?
決まっている。
俺がする事はいつだって1つだ。
アドバンスを包む黒いマントに、子猫の丸っこい手で触れる。
――― 収集だ!
黒いマントが消失し、何が起こったのか理解出来ていないアドバンスと俺の視線が空中で交差する。
『【深淵のマント Lv.102】
カテゴリー:防具
サイズ:中
レアリティ:A
属性:深淵
装備制限:特性・魔王
所持数:1/10』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:中)』
俺が転生職員から貰った能力は【収集家】。
アイテムを集める事で自身を強化できる能力。
だが―――その真価はもっと別の所にあるのではないか?
触れるだけで、相手の所有権を無視して強制的にアイテムを奪う力。
つまり―――“収奪”こそがこの能力の真価ではないか?
アドバンスの唯一の防具であるマントは奪った。
これでコイツは―――丸裸だ!!
しかし、防具を剥がされても相手は魔王。
そう簡単に首は取らせてくれない。
パッと見ではただの猫にしか見えない俺。その俺がマントを剥がしたと言う事実を直ぐに呑み込み、その脅威度を推し量って排除しようとする。
蜥蜴のような手に握られた黒い青竜刀が、落下運動真っ最中の俺に向かって振られる。
クッソが……!
マント剥いで無防備になった一瞬でぶっ殺すって作戦だったのに……思い通りには行ってくれんかねぇ!?
そして、魔王の攻撃はもう一手放たれていた。
背中で尻尾がヒュッと空気を切る音をたてる。
猫の強化された動体視力を持ってしても初動だけしか確認できない。尻尾がどんな軌道を描いているのかまったく見えない。恐らく、この速度がアドバンスの尻尾で出せる最速。
尻尾が狙ったのは恐らく、旭日の剣で刺突を繰り出している【仮想体】。
どうせ尻尾は見えないので黙って食らう覚悟をする。
と、ガギンッと金属が拉げる音と共に―――【仮想体】の頭に被せてあったオリハルコンの兜が吹っ飛んだ。
振り切られた尻尾が、アドバンスの驚きの為かピンっとなって動きを止めている。まあ、そりゃあ驚くでしょうね?
「……空っぽ……!?」
鎧の中身が無いんですもの。
驚いている癖に、俺を狙って振られた青竜刀の動きは止まらない。
けど、考えてみたら焦る必要も無い事だった。
青竜刀の刃が、空中で逃げられない俺に届く―――と同時に消失。
『【冥哭 Lv.69】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:A
所持数:1/10』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:中)』
収奪。
ダメージ判定より早く、俺に触れた瞬間に収集箱に放り込まれる武器。
なんてこった。「収集出来ない」なんて限定的な武器でも持ち出されない限り、俺は武器による攻撃では殺されないどころか、ダメージを受ける事さえ無いらしい。
空っぽの鎧に驚くアドバンスが、武器の消失で更に目を剥く。
無防備になってんぞ、蜥蜴野郎。
兜を吹っ飛ばされようが、勿論【仮想体】には一切ダメージは無いし、その行動に何の支障も無い。
旭日の剣が―――吸い込まれるように―――魔王の心臓を貫く。
「ご…がぐぁッ……!!?」
【仮想体】が、突き刺さった剣を捻りながら引き抜く。
花火のように赤い滴がアドバンスの前後から噴き出し、糸が切れたように倒れた。それでも赤い花火は空中を舞い続け、金色の鎧と、地面に着地した俺の体を赤く染める。
――― 勝った
ふぅ……。
大きく息を吐く。
………俺だって、やれば出来んじゃん
「ミャふぅ」
変な笑いが込み上げて来る。
単純に生き延びられた事の嬉しさと、強者を食ってやった「してやったり」感が心を満たす。
疲れた……帰って寝よう。っと、その前にアザリア達の様子を見に―――と、アドバンスの死体に背を向けた途端。
「……まるで貴様はビックリ箱だな?」
声―――。
さっきまで、嫌という程聞いていた声。そして、今は聞こえる筈がない声。
思わず心臓だけでなく、体がビクンッと跳ねあがった。
振り返りたくない。けど、一秒、一瞬でも早く振り返らなければ―――殺される!
身構えたまま振り返ると、そこには―――
「もう一戦、付き合って貰うぞ」
アドバンスが立っていた。
何で―――心臓ぶち抜いたんだぞ……!?
「どうして生きているのか? と言う顔だな? 魔族の間にはこんな言葉がある“魔王の心臓は2つある”とな」
は?
先程旭日の剣で貫いた傷口を見ると、まるで逆再生されているように傷口が塞がっていく。
「おっと、本当に心臓が2つ有る訳ではないぞ? 魔王のスキルとして、1度死んでも蘇る事の出来る力を持っている……と言う話だ」
ヤバい。
マジでヤバい……!
何がヤバいって―――
「まあ、そんな事はどうでも良い話だ。そんな事より―――」
さっきから、ずっとアドバンスが【仮想体】を無視して、猫の俺に話しかけてるって事がヤバい……!!
「よくも謀ってくれたな、猫風情がッ!!!」
それの意味する事は、俺の正体が、魔王にバレたって事だ……!!




