2-35 魔王の力
森の中を金色の鎧が走る―――。
その後ろを、魔王アドバンスが追って来る。
命がけの追い駆けっこ―――とか恰好良く言いたいけど、別にコッチは全然命かかってねえんだよなぁ……。【仮想体】がどれだけやられても、コッチは本体の俺にノーダメージですし……。
先程からずっと走り回っている。
とは言え、決して魔王からの逃走タイミングを狙っている訳ではない。
俺が狙っているのは―――
進行方向に取り巻きの魔族。
「むッ―――剣の勇者!!」
黄金の鎧を見るや否や攻撃態勢に入る。が、それを制する言葉をアドバンスが叫ぶ。
「邪魔だッ!! 手を出すな!!」
あくまでアドバンスは俺(仮想体)との一騎打ちを御所望らしい。コッチとしても1対1の勝負は望むところだが、その前に……
【グラビティ】
「がっ……ッ…く……」
魔王の言葉を受けて、次の行動を決めかねている取り巻きに重力魔法を叩き込む。
逃げ足を封じる。
そして―――【仮想体】の高速の踏み込みからの……旭日の剣の一閃!
音も無く魔族の体が上下に真っ二つになり地面に転がる。
「わざわざ殺さずとも、貴様との戦いには手は出させんよ」
そう言う事じゃねえんだよ、コッチが気にしてんのは。
今殺したのが取り巻きのラストか? 実はまだ隠れてますなんてオチはねえよな?
【バードアイ】で辺りを見回したが、半径100mには誰も居ない。
ヨシ、これで―――アドバンスを狩りに行ける!!
【仮想体】が、立ち止まる。
しかし、後ろを走っていたアドバンスは、先程のようにコッチに合わせて立ち止まるような事はなく、むしろ加速して突っ込んで来る。
「逃げたり、向かって来たりと忙しい奴だ!」
黒い刀身の青竜刀を容赦なく振る。
――― 速い…!
と思った時には刃が【仮想体】の首元まで届いている。
クソッ、化物かよ……ッ!!
咄嗟に息を止めて【アクセルブレス】を発動―――しかし、周りの景色と同じように【仮想体】の動きがゆっくりになる。
【仮想体】には【アクセルブレス】の“加速”が乗らねえのかよ!? 変な所で能力の落とし穴―――が、慌てない。
俺自身はちゃんと加速している。そして加速している思考を持ってすれば、【仮想体】の首に触れる直前まで迫っている刃を避ける事も可能だ。
ゆっくり動く世界の中で、【仮想体】が体を仰け反らせてギリギリ青竜刀の下を潜る。が―――息が続かない!!
プハッと息を吐き出すと同時にスロー再生になっていた世界が元の速度を取り戻す。
ギリギリで避けたと思っていたアドバンスの剣だったが、実際には避け切れずに兜の右の角を斬り飛ばされた。
「チッ―――!」
称賛と悔しさの入り混じる舌打ち。心底楽しそうだなこの野郎は……!
剣の振り終わりで無防備なアドバンスの腹に蹴りを放つ。【仮想体】も上半身仰け反ったかなり無茶な体勢だが、コッチは別に肉体制限ねえからそんな物関係なく力乗るし、なッ!!
普通ならどてっ腹にクリティカルヒットする空気を裂くように伸びる蹴り。
しかし―――相手は魔王。
「ふんっ」
蹴りの軌道に音より早く尻尾が割って入り、蠅でも叩き落とす様に蹴りを迎撃する。
それなら、もう一手―――!
【シャドウランサー】
約1mの近距離で放つ高速の貫通魔法!
黒い閃光がチカッと光ったと思った時には攻撃が届いている。
一瞬魔法の発動に目を剥くアドバンス。しかし、体を無理矢理捻ってコチラに背中を向ける。
そして、奴の背には最強の鎧である黒いマント―――。
【仮想体】から放たれた黒い閃光は、アドバンスのマントにバチンッと当たって砕けて消えた。
「ふっ―――」
アドバンスが体を捻った勢いのまま地面に片手を突き立て、地面を“掴む”。
片手で体を支え、下半身を持ち上げて【仮想体】を蹴り上げる。
嘘でしょ……!
コイツ、いくらなんでも強過ぎねえか!?
マントの防御力だけじゃねえ、アドバンスの超反射と化物みたいな肉体稼働がマジでヤバ過ぎる……!
これが―――これが、異世界を支配する13人の王の1人……!! 魔王かよっ!!
こんなんマジで勝てるのか……!?
いや……ビビるな!
胸の奥の方から湧き出して来た恐怖を、再び奥に押し込めて蓋をする。
ただでさえ勝てるか分からない相手なのに、恐怖に捕らわれて動きを遅くしたら敗北は必至だ。
気を引き締め直す―――とは言っても、肝心の【仮想体】は現在蹴り上げられて空中を泳いでる最中ですけども。
着地の為の姿勢作りをしようとした途端―――
「【業炎】」
空中の【仮想体】を包むように炎が生まれ、周囲の空気を食らって爆発したように膨れ上がる。
あっつ!?
あ、別に熱くないわ。ゲームで炎系の攻撃食らうと、「熱い!」って言っちゃうのと同じ感じの奴や。
『【ヘルファイア】
カテゴリー:魔法
属性:火炎
威力:C
範囲:D』
はい、まいどあり~。
膨れ上がった炎が、森の木々を呑み込んで瞬時に黒い炭に変えて行く。
森の中で炎の範囲魔法とか、容赦ねえっつうか、遠慮ねえっつうか……普通なら火事を恐れて躊躇うところをお構いなしにぶっ込んで来やがる。流石魔王。そこに痺れる憧れるってか。いや、別に憧れはしねえな……。
頭の中でバカな事を言っている間に、炎に巻かれた【仮想体】が地面に着地する。
オリハルコンの鎧が良い感じに熱せられて、今なら鎧で肉が焼けます。多分。
「チッ……炎魔法でも効果無しか。貴様、本当に不死身ではないのか? オリハルコンの鎧を身に着けている事や、半魔である事を差し引いてもその耐久力は異常だぞ」
え? 何? ハンマー?
アザリアに続き人の事をハンマー呼ばわりするのが流行ってんのか? ハンマーなんて渾名で呼んで良いのはハンマー●ロスだけだろう。
いや、ってかさ? アドバンスの炎魔法で森が燃えて、本体の俺の近くの木まで燃え出して若干ピンチなんですけど……。
仕方無く炎から遠ざかるように枝から枝に移動する。つっても、あんまり離れ過ぎると【仮想体】に命令が届かなくなるから、そこまで遠くには行けないけど。
「まったく……骨が折れる相手だ!」
言うや否や、アドバンスのすぐ横で燃えていた木を尻尾で殴る。
何事か―――と思った時には【仮想体】が、砲弾のように飛んで来た燃える木に吹っ飛ばされていた。
え!? 何、その野性味溢れる遠距離攻撃……!?
成す術無く吹っ飛ぶ【仮想体】が、火事エリアを抜けて俺の近くまで来て転がった。
いやー、こんなにぶっ飛ばされんのかい……と呑気な感想を抱いている間に、更に2つ3つと燃える大木が飛んでくる。
………そんなゴムボールを投げる感じで大木を放られても困るんですけど……。
【エクスプロード】
飛んで来た燃える木を爆裂魔法で迎撃する。
近くでの爆発だった為、爆風と熱波が俺の所まで届く。
あっつ……! 今度は本気で熱い奴や!
そして爆風が思った以上に激しくて、枝の上で爪をたてて踏ん張る。
その爆風に紛れるように―――アドバンスが突っ込んで来た。
素早く身構えた【仮想体】。その足に尻尾が巻き付き、グンッと引っ張られて体勢を崩される。
一瞬の無防備を見逃さず、青竜刀を上段から振り下ろして来る。
これは、避けられない―――ので、一旦鎧を収集箱に引っ込める。
アドバンスが振り下ろした青竜刀が空を切り、足を掴んで居た尻尾が力の行き場を無くしてニョロッと妙な動きをした。
アドバンスの小さな舌打ち。
「……転移術式か…!」
即座にその頭上に【仮想体】を創り出し、装備一式を着せる。
そんで―――野郎の頭目掛けて旭日の剣を振り下ろす!
「ワンパターンだな」
薄く笑って言いながら、上半身を半回転させて振り下ろされる刃にマントを割りこませる。
当然のように、甲高い音をたてて防がれる。
チッ……!
……けど、野郎の防御を崩して首を取る方法を1つ考えた。
かなり危険な橋を渡る事になるが、リスクも負わずに倒せるような温い相手じゃねえからな……。
さあ、行こうか!




