2-33 雑魚散らし
二足歩行する猪のような魔族の背後に近付き、ミスリルの槍を投射して鎧と兜の隙間―――首の裏側をぶち抜く。
「―――ァがッ!?」
『【魔族 Lv.138】
カテゴリー:特性
レアリティ:E
能力補正:魔力
効果:魔法使用可
暗黒/深淵属性強化』
よし、これで4匹目。
ささっと近付いて、フワフワの毛に覆われた丸い手で死体に触れる。
『【魔法銀の兜 Lv.15】
カテゴリー:防具
サイズ:中
レアリティ:D
所持数:1/10』
『【ファイアソード Lv.14】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:E
付与属性:火
所持数:1/10』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
おっとー、属性付きの武器じゃないの! 良いね良いね、レアリティこそ低いけど、やっぱり属性武器にはロマンがあるよね。
……ってな感じで、現在魔王アドバンスの取り巻きを絶賛シバき回っている俺です。
取り巻き連中は、防具のレベルに差異は有るけど一律でミスリル装備で統一されてんのかな? 4体倒したけど、全員ミスリル防具ばっかりだ。同じ物大量に貰っても、コッチは所持数限界で10個しか持てないんだよねぇ……。
まあ、代わりに武器の方は色々持ってるみたいで嬉しいけど。
『条件≪80種類のアイテムをコレクトする≫を満たした為、以下のうちから1つボーナスを選ぶ事ができます。
・肉体能力強化(効果:大)
・加速能力の付与
・新しいスキルを取得する(ただしランダム)』
おっとーっ、このタイミングで久しぶりの選べるボーナスじゃないっスかぁ!
近頃来なかったから、選べるボーナスは序盤のお助け要素的な奴かと思ってたけど、そう言う訳じゃないのか。有り難や有り難や。
さてさて、どーれーにーしーよーおーかーなっと。
今までは先の事を考えて来たけど、今は目先の事優先だろう。だって現在魔王と戦闘中だし。
いや、まあ、その魔王は【仮想体】と仲良く鬼ごっこして貰ってるけども……。
いつも選ぶ能力ガチャは今回はパスだ。経験則で言えば、多分能力ガチャにハズレは無いと思う。しかし、現在必要な物が出るかどうかはまったく別の話だ。
肉体能力強化行くか? 効果大を貰えば、多分猫の俺はともかく、【仮想体】の方のパワーならそこそこ良い感じにやり合える気がする。
ただ―――加速能力……か。
ぶっちゃけ凄い欲しい。
いや、決して加速能力が男の浪漫だからとか、そう言う理由じゃなくて……。
魔王と戦う覚悟は固まっているし、腹も括った。
戦う以上は勿論勝つつもりでやるし、その為の最善も尽くす。だが、俺は戦い始めたら止まらない狂戦士じゃないし、前にしか進めない猪侍でもない。
最悪の展開として、逃げる用意くらいはしておくべきじゃないか?
何故って、俺は知っているから。
自分が無敵じゃないって事を。
自分が強者じゃないって事を。
自分が優れた存在じゃないって事を。
自分が―――脆弱な子猫だって事を。
もし逃げる事になった時、【仮想体】が当てにならなくなったら、その時はこの小さな猫の体1つで逃げなければならない。
加速能力ってのがどれくらい速度を増し増しにしてくれるのかは分からないが、少なくても逃げ足のスピードを上げて損する事は無い。
それに逃げる観点だけじゃなく、攻め手の意味でも加速能力は絶対に役に立つ。
……よし、今回は加速能力を貰おう。
『派生スキル【アクセルブレス】が収集されました』
スキルの詳細閲覧と。
『【アクセルブレス】
呼吸を止めている間、物理抵抗を全て無視して肉体を加速させる事が出来る。また、加速中は肉体能力にプラス補正(効果:大)』
息を止めてる時間が、そのまま加速していられる制限時間って事ね。
……うーん、ちとマズイな。
猫の小さな肺だと、長い時間息を止める事ができねえんだよなぁ……。人間ならば1分くらい余裕で止められるかもしれないが、猫だと30秒止めると目眩がするし。それに、息を止めている間に全力運動するのなら、更に時間は短いだろう。
…10秒くらいって見積もっておくか。
使用制限は書かれてないから、連続使用も出来ると思うけど……1度使えば息が切れて2度目の加速時間がより短くなる。
………ううーん……使いどころは選べって事か……。
でも、加速中に能力プラス補正・大は嬉しいな。加速中は、猫の体でもそれなりに動けるようになるって事だし。
っと、いつまでも呑気に新しい能力に思考巡らしてる場合じゃねえや。
アドバンスが【仮想体】との鬼ごっこに飽きる前に、出来るだけ取り巻きを始末してしまおう。
鈍くさやってると、仲間が減ってる事に気付いて警戒されそうだしね。
【仮想体】を追いかけるような3人称視点にしてあった【バードアイ】で辺りを見回す。
えーと……あっ、居た! 俺の現在地から見て右斜め10mってところかな? 魔族2人、多分他の連中からは見えない位置に居る。
ここまでは1人の奴しか狙って来なかったが、少し冒険してみるか? 2人と言っても、両方共【審判の雷】で瀕死だ。後一押しで死ぬのなら、そこまで危険度は高くない。
それに、加速能力がどの程度の物か確かめておきたいし。
んじゃっ、行ってみますか!
すぅっと大きく息を吸い―――止める。
体が軽くなる。
視界の中の全てがゆっくりになったように感じる。
踏み出す―――
苔の生えた土が跳ね上がる。
体が一瞬で音の速度まで加速する。
本来肉体にかかる空気抵抗がない。
急激な加速によってかかる肉体への負担が欠片も無い。
体が空中に吹っ飛んで行かないって事は、一応重力は働いているようだが、通常時の半分くらいしか仕事してないんじゃないだろうか?
体が周囲の空気を―――速度を置き去りにして速くなる。
木々の隙間を縫うように走る。
子猫の丸っこい脚が踏み出す度に、一歩で5m程体が前に進む。
あっと言う間に目的の2人の背後。
そのまま速度を落とさず突っ込みながら、先程貰った(奪った)ばかりのファイアソードを投射して、背を向けている方の後頭部に突き刺す。
もう1人が「あっ」と高速で走る俺の姿を見て声をあげようとする―――しかし、その声が出るより早く俺はその背後に回り込んでいる。
――― これで6人目
頭の中でカウントしながらミスリルの槍でもう1人の首を後ろから貫く。
2人が同時に倒れる。
『【魔族 Lv.140】
カテゴリー:特性
レアリティ:E
能力補正:魔力
効果:魔法使用可
暗黒/深淵属性強化』
オッケー、始末完了。
「ミャふっ」
プハぁッ!
息を吐いた途端に、ゆっくりに見えていた周囲の景色がいつもの速度を取り戻す。
羽のように軽く感じていた体が元通りの重さになり、一瞬子猫の体が鉛のように重く感じてしまった。
……なるほど、加速するってこんな感じなのか。
「自分が速くなった」と言うより「周りが遅くなった」って感じだな、主観だと。
けど、凄い強力なのは間違いない。
正確な速度は分かんないけど、この子猫の体で音速くらいまで加速する事が出来るっぽい。
それに、加速中に音をたてても【隠形】の効果で無音に出来るから、相手に接近しても気付かれる危険性はかなり低い。
うん、良いね加速能力! これは当たりだわ。
ただ―――やっぱり猫の体だと息を止めてるのがシンドイ。
通常運用は10秒、ギリギリまで頑張って15秒ってところかな? 20秒息止めるとどうなるか分かったもんじゃない。
頭の中で加速能力の性能を整理しつつ、2人の死体に触れて収集箱に放り込む。
防具はやはりミスリル系統だったが―――
『【ポイズンエッジ Lv.10】
カテゴリー:武器
サイズ:小
レアリティ:E
所持数:1/30』
『【チャクラム Lv.4】
カテゴリー:武器
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:3/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
名前からして毒武器っぽい短剣とチャクラム……チャクラム!? あの円形の土星の環みたいな奴でしょ? ここに来て初の投擲武器ですか?
まあ、【ショットブースト】有るし、【仮想体】を除けば基本的に物を投げるしか攻撃方法ないから嬉しいけども。
『魔法無効効果が解除されました。カテゴリー:魔法を取り出す事が可能になりました』
お?
って事はアザリアの【サンクチュアリ】の効果時間が切れたって事か。こっからは敵が魔法を使い始めて、おまけに弱体化されていた分の能力も戻りますってか。
……まずいな…。
魔法を使える事に敵が気付いたら、瀕死の連中が治癒魔法で一斉に回復しだすんじゃないのか?
しゃーない。
見つかるリスク増やしてでも、一気に残りを殲滅して行こう。
まあ、敵が魔法を使えるようになったって言っても、条件はコッチだって同じだ。
さあ、殲滅スピード上げてくぜぇ!
コッチはその後に魔王が控えてんだ、ちゃっちゃと行かせて貰う!




