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2-24 2日目

 朝……目が覚めると、アザリアに抱かれて森の中を歩いていた。

 え? 何? 昨日とまったく同じ寝起き……いや、同じじゃねえな。歩いてる場所が森の中だ。そして、厳つい顔の皆様が一緒に歩いている。

 いやいやいや、そこ問題じゃねーよ! 結局2日続けて誘拐されてんじゃん!?

 ………アザリアに寝床を知られたのは痛すぎるな……。余裕ぶっこいて寝ているところを襲われてしまう。って言うか、結局昨日も何のかんのやってるうちに町から脱出し損ねたし……。

 おぉーい、昨日の今日でどう言う事じゃいコンチキショウ!

 俺を誘拐しても1円も取れやしねーぞ。


「ミィ!」

「あ、猫にゃん起きた?」


 いや、そんな曇りない笑顔で言われても……。


「今日は、魔王との決戦の地ヴァンベッツ平原に向かって居ます」


 ちょっとぉおおお!? 何シレッと、こんな可愛いだけの子猫を魔王との戦いの場に連れて行こうしてんのぉ!?


「先んじて国中に散って居た仲間達が野営をしているので、明日の決戦に備えて私達も其方(そちら)に合流します」


 いや、その事情は分かりますけど、お気に入りの枕を持って行く感覚で俺を移動させられても困るんですけど……。


「猫にゃんがアッチに居れば、剣の勇者もアチラに来るでしょうから」


 俺の事を“勇者モドキを呼ぶ道具”みたいな扱いにするのは止めていただきたい。まあ、実際俺が居る所に現れてるから……そう言う誤解もしゃーないっちゃしゃーないけども。

 さて、脱出するか。

 わざわざこのまま抱っこされてる理由はねえし。ちゃちゃっと脱出して、出来ればそのままクルガの町ともオサラバしたい。そして魔王の脅威の届かない場所で静かに暮らしたい。

 っつーか、早いところ逃げないと手遅れになる。

 明日は魔王の指定した“3日目”だ。逃げるのなら今日中に実行しなければならない。流石に決戦当日にドタキャンバックレをかます度胸はねえしな……いや、でも恐怖が上回ったらやるかもしんない……。

 ともかく、明日になったら、流石の俺も魔王と戦う覚悟を決めなければならなくなる。

 ここまで来ると「もういっその事戦っちゃえば?」とか、諦めに似た感情が浮かんでくる。まあ、魔王と言う肩書にビビり過ぎなんじゃないかとは……俺自身も思うけど。

 魔王がカチコミかけて来た時に戦った感触では、俺と魔王の能力差はそこまで絶望的ではない……と思う。まあ、それはアッチが本気を出してたらって前提だけど。

 俺の素人判断では、勝つ見込みは十分有ると思う。

 俺1人では勝てるかどうか分からないが、アザリア達の支援があれば……まあ、行ける気がする。

 アザリアが言うには、あの半分蜥蜴の魔王は相手に幻を見せる力を持っているらしいが、俺はそんな物を食らった覚えはない。その手の魔法を収集(コレクト)したログもねえし。

 って事は、魔法でも天術でもない何かしらの力で生み出された幻を、俺は無意識に回避してたって事だ。

 今度もそれが通用するかは分からないが……どんな状況になっても、手持ちのアイテム、魔法、天術を駆使すれば、まあ、俺なら切り抜けられる……と、信じたい、うん。

 とは言え、仮に―――万が一、あの半分蜥蜴野郎を倒せたとして、その後がなぁ……。

 普通の物語であれば、魔王を倒せば世界は救われ、皆揃ってハッピー。「その後幸せに暮らしましたとさ」となる訳だが、この世界はそれで終わりではない……。

 この世界には魔王は13人居るのだ。

 魔王を1人倒したら、どう考えたって他の12人が黙って居ないだろう。その中には半分蜥蜴野郎より強い奴が居るかもしれないし、もし残りの魔王同士が同盟でも組んだ日にはヤバ過ぎてションベン漏らす。

 そして、魔王を倒した俺は今より一層狙われて、怯える日々を過ごす羽目になる訳だ。


 ………本当、勘弁してくれよ。


 やっぱ逃げるか……。

 倒す事が難易度クソ高い上に、倒したら更に高難易度なミッションに強制的に参加させられるとか、クソゲー過ぎるし。俺はマゾい仕様に快感を見出せる程ドMじゃねーし。

 だったら逃げた方が良くない? うん、絶対良いよう。

 改めて逃げ出す決意を固める。

 もう形振(なりふ)り構ってらんねえな……。いっそ、この場で逃げるか? 丁度森の中だし、全力ダッシュすればアザリア達を撒く自信はある。猫のすばしっこい動きと【隠形】による気配、音断ちを合わせれば、人間の目から逃れるのはそれ程難しい話じゃない。

 んじゃ、行ってみるか?

 アザリアは、俺が大人しくしているもんだから、手にそれ程力を入れていない。そこを狙って、ウナギの如くニョロッと手の平から体を引っこ抜く。


「あっ! 猫にゃんダメ!」


 アザリアが慌てて俺を抱き直そうとした時には、すでに俺は地面に下りている。

 まあ、やろうと思えばこう言う脱出も猫の体なら出来る。ただ、この方法は爪で抱いている人間を傷付ける可能性があるから、必要に迫られた時にしかやる気ないけど。

 ともかく―――アザリアの手から脱出成功!

 ここからの展開は早い。だって、後はひたすら走るだけだし。

 森の奥に向かって駆けだす。

 アザリアが手を伸ばすが、それを横にステップして躱す。


「猫にゃん!」


 さらばだ!

 心の中でニヒルに言ってみた。

 剣の勇者が逃げた―――そう噂するのならすれば良い。そんなもん、もう俺の知った事か。元々ここまで頑張っただけでも、俺にしては上出来過ぎる。だから、この後の事は勝手に何とかしてくれ。

 クルガの町で出会った色んな人達の顔が頭を過ぎり、様々な出来事が走馬灯のように流れて行く。

 色々あったなぁ……としみじみした気分になった瞬間―――


「あ、猫ちゃん」


 突然進行方向横から伸びて来た手にワシッと掴まれた。


 ………え?


 何事かと思っている間に抱き上げられる。


「こんな所でどうしたの猫ちゃん?」


 ユーリさんだった。なんで、こんなバッドなタイミングと場所でひょっこり現れてるのこの人……?

 いや………あれ? え? 俺、捕縛されるの早過ぎ……。「私の給料安過ぎ…」くらいの感じで言ってみたけど、いくらなんでも早過ぎない? 逃亡開始から10秒で捕まったんだけど……。

 完全に行ける流れだったじゃん! 離れる町の思い出が走馬灯のように駆け巡ってたじゃん!? とんだ茶番劇だよぉ!!

 こうなったら、もう1回行くか……。

 と思ったら、後ろから追いかけて来ていたアザリアが叫ぶ。


「ユーリさん、猫にゃ―――ちゃんを逃がさないで下さい!」

「はい!」


 先手を打たれた。

 アザリアに言われた通り、ユーリさんが俺をガッチリホールドする。


「ミィ……」

「可愛い声を出してもダメよ猫ちゃん」


 チィ……! 助けた恩返しに逃がしてくれないかと淡い期待を抱いたがダメだったか……。まあ、助けたのは俺じゃなくて勇者モドキですしね……そりゃそうか……。

 心の中で溜息を吐いている間にアザリア達が追い付いて来る。


「猫ちゃん、めっ! 森の中はいっぱい危ないんだから、走っちゃダメなの!」


 むっさ怒られた。

 年下の女の子に怒られるって、精神的に結構凹むわ……。

 今までに見た事がない程のプンスカモードのアザリア。若干目つきが怖いわこの子……。俗に言う「美しい人が怒ると怖い現象」だ、きっと。


「はっはっは、そりゃあ猫だって、お嬢に抱っこされてるよりユーリちゃんに抱っこされてる方が気持ち良いだろうよ」


 アザリアの眉間に青筋が立つ。


「ヴァニッジさん……どう言う意味ですか?」

「えぅッ!? え…いやぁ、別に深い意味はねえよ? お嬢、そんな怖い顔してると猫が怖がって寄って来ねえぞ」

「猫ちゃんはそんな事気にしません! ね、そうでしょ猫にゃん!」


 怒り過ぎて普通に「猫にゃん」て言うてもうてますやんアンタ。

 それはそうと、確かにそんな般若のような形相の人には抱っこされたくありません。


 そんな事をしている間に、結局この日も逃げるタイミングを逃すのであった。


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