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2-22 黄金の勇者は愚痴を聞く

 いや、でも、まだ遅くないんじゃなかろうか?


 10m程離れた木の裏に【仮想体】を創ってオリハルコン装備一式を着せる。

 そして何事もなかったようにトコトコと歩いて来る。

 「ほれ、金ぴかが来たぞ」とアザリアの頭を再びポフポフする。

 すると、「なんですか?」と泣き顔を上げる。その目の前には―――黄金に輝く鎧が無言で立っていた。


「ひゃっ!?」


 驚いて、思わず手に力が入ったのか俺をギューっと握る。


「ニギャァッ!!」

「あっ! ゴメンね猫にゃん?」


 まさか、こんな所で死にかかるとは思わなかった……。っつか、この子普段は俺を抱く時に力を抜いてるだけで、結構筋肉ウーマンじゃない? まあ、見かけが細腕って事は、スキルか特性で底上げされてるんだろうけど。

 俺に「ゴメンねゴメンね」言いながら、握った個所を撫でて来る。そして、ついでにさり気無く涙を拭う。

 鎧に見られないように目元をチェックして―――ズビシッと【仮想体】を指さす。


「あ、貴方は今までどこに行ってたんですか!? 魔王が居なくなったと思ったら、貴方もいつの間にか居なくなって! あの後凄く大変だったんですからね!!」


 ええ、はい、寝てましたけど何か?

 仕事押しつけた事については……まあ、はい、すいません。でも、俺が居たところで何か変わる訳じゃねーし、アザリアが居れば良くね?


「貴方には、たくさん訊かなきゃいけない事が有るんですからね!」


 さっきまでメソメソしてたくせに、一瞬でプンスカモードになりおった……。本当にこの年頃の女の子は良く分からんな……。

 まあ、話したいと言うのなら好都合。その勢いで溜めこんでる物をゴリッと吐き出して楽になりやがれ。

 無言のまま金色の鎧がアザリアの隣に腰を下ろす。それでアザリアにも「話す気がある」と言うコッチの意思が伝わったようで、俺を膝の上で撫でながら話し始める。


「あの……答え辛いのなら良いのですが、貴方は人ではないのですか?」


 えっ!?

 いきなりそんな確信突いて来るのこの子!? っつうか、俺が猫だって気付いてんの!?

 ……どうしよう。変に隠して良いものだろうか? いっその事正体バラしてしまった方が楽になれる気がする。そうすれば、俺に過度の期待をする事もねえだろうし。

 コクっと【仮想体】が頷く。

 それを見てアザリアの表情が少し強張る。だが、思った程驚きや恐怖はないように見える。始めからコッチの答えを分かって居た……って事なんだろう。


「……そう、ですか。答えてくれてありがとうございます。貴方が半魔である事は、私の口からは誰にも話しませんから、そこは心配しないで下さい」


 え? 何? はんま? ハンマー?

 俺が使ってるのは剣だろう……急に何言いだしてんのこの子? 散々自分も“剣の勇者”って呼んでたじゃん?

 もしかしなくても、俺の正体に気付いてる訳じゃねえのか? いや、そうだよね? じゃなきゃハンマーなんて意味不明な単語出て来ないし。


「もう1つ我儘と言わせて貰えるのなら、貴方の顔を見たいのですが? その兜は取っては貰えないですか?」


 俺が猫だって気付かれてるなら全部ゲロっちまっても良かったが、気付いてないってんなら、何も知らさない方が良いでしょう。

 【仮想体】が首を横に振る。


「……ダメですか」


 うん。


「じゃあ、せめて男性か女性かだけでも教えて下さいよ。それもダメですか?」


 いや、それくらいなら構わんけども。


「女性ですか?」


 いいえ。


「じゃあ、男性?」


 うん。

 俺が男である事は予想していたのか、反応が薄い。

 それはそーと、アザリアの撫でる手が地味に気持ち良くてヨロシイな。

 沈黙の時間。

 【仮想体】は微動だにしないし、アザリアは黙って俺を撫でてるし、俺はアザリアの手が心地良くて微妙にウトウトするし。

 30秒程沈黙が続いたあと、アザリアが突然……、


「私、貴方が嫌いです」


 は?

 何いきなり言ってんのこの子?

 女子に「嫌い」って言われる事がどれほど男子に精神的ダメージを負わせるか理解してねえなコンチクショウ!?

 こちとら、まともに女子と付き合った事もねえ童貞やぞ!? 必要以上にダメージ受けるんだからな!! しかも一周り近く下の子に言われるとかダメージ半端ねえんだからな!? 心の弱い男だったら、その一言で自殺しちゃうんだからな!!

 は!? はぁ? 別に泣いてねーし! 涙目になんてなってねーし! ちょっと汗が目に入っただけだし!

 ……そんな俺に気付く事もなく、アザリアは続ける。


「私に出来ない事を簡単にやってのける才能も……魔王とたった1人で戦える強さも……皆を魅了するカリスマ性も……全部、全部嫌いです……」


 ……何を言ってるのか、ちょっと分かんないですね。

 才能とか、強さとか、カリスマ性とか……誰かと勘違いしてません? 全部俺に当て嵌まってない気がすんだけど……?


「なんなんですか貴方の万能っぷりは……! 同じ勇者なのに……私が惨めになるじゃないですか……」


 そう言って、また泣きそうな顔になりながら、膝で丸くなっていた俺を抱き上げてギューっと抱き締める。

 アザリアが、俺―――勇者モドキに対して劣等感を持ってるのは分かった。とは言え、それが分かったところで何も言えないんだが……。そもそも、喋れたところで、劣等感を持つ相手から何か言われて嬉しいかっつう話しだしね。


「……きっと、皆にも失望されました……。貴方はあんなに強いのに……私は、魔王に手も足も出なくて情けないって……」


 あっ、いかん! また泣くわこれ!?

 泣かれると、コッチはどうすりゃ良いのか分かんなくなるっつーの!

 な、なんとか泣く前に止めなければ……!

 えーと、えーっと……こう言う時の行動は……。

 一生懸命脳味噌を回転させるが、女子関係の経験値が無さ過ぎて解答がまったく浮かばない。バカバカ、俺のバカ! なんでスライム程の経験値も獲得してないの!!

 いや、だが、何かしなければ泣いてしまう事は間違いない! とにかく、何かしろ俺!!

 カッと良く分からない何かを覚醒させる……とりあえず気分だけ。つっても、それで何か変わる訳もなく……。

 結局答えの出ないまま、とりあえずの行動として【仮想体】が金ぴかの籠手に包まれた手でアザリアの頭を撫でる。

 籠手の重さを頭に乗せないように、優しく優しく……うむ、頑張ってるぞ俺。


「な、なんですか!? こ、こ、子供扱いしないで下さい!」


 あ、良かった。以外とあっさりプンスカモードに戻った。

 ……あれ? でも、プンスカモードになったのに、頭を撫でている手を振り払おうとはしないな?

 なんだか顔が赤い気がするし……俺を抱いている手が、若干汗ばむくらい熱いし……え? 何? 急に体調不良なの?

 ってか、撫で始めたは良いけど、これどこら辺で終わらせればいいのかしら?

 アザリアが嫌がらないものだから、手を離すタイミングが分からん……。

 悩んでいると、アザリアのローブの中にキラッと光る物を見つける。

 極光の杖―――とか呼ばれていた奴だ。

 こんな状況であれですが、俺の収集家としての欲望が頭を(もた)げる。いや、仕方無いって、こんなレアなオーラをビンビンに放出してる物を目の前でチラつかせられたらねぇ……うん。

 大丈夫大丈夫、別に()る訳じゃねーから。ちょっと収集箱(コレクトボックス)に放り込んでボーナス貰うだけだから。

 気付かれないようにパッとやってパッと返すから。

 アザリアの手の中から丸っこい前脚を一生懸命極光の杖に向かって伸ばす。

 フンヌラァッ!! 気合い入れろ俺! すぐそこにレアアイテムが有る! ファイトぉ、イッパーツ!!

 頑張って前脚を伸ばす。全力で伸ばす。

 ……しかし悲しいかな、子猫の手は尋常じゃなく短くて、まったく届きゃしない。

 そんな感じでパタパタと前脚を伸ばしていたら、流石に抱いているアザリアにも気付かれた。


「あっ! ダメ猫にゃん! その杖は私達勇者以外は触っちゃダメなの!」


 俺から極光の杖を引き離す為に、ローブから杖を抜く。

 ああっ!?

 尚も諦められずバタバタと手の中で暴れてみる。え? 大人なのにみっともない? そんなもの知った事か! そんな事よりレアアイテムだ!!


「ミャーっ! ミニャッ!!」

「猫にゃん、めっ! 勇者以外が触れると、問答無用でダメージを与える杖だから、触っちゃダメなの!」


 一生懸命俺と極光の杖を引き離すアザリアだが―――甘いぜお嬢さん! 俺の体が1つだと思ったら大間違いよ!!

 さあ、ゆけ! 我がもう1つの肉体よ!

 さっきまでアザリアの頭を撫でていた金色の手が、ガシッと極光の杖を掴む。


「ちょっ!? 貴方まで何してるんですか!?」


 ふっふっふ、頂きだ!(ニヤリ)

 とか心の中で悪い笑顔を浮かべる準備をしていたが、【仮想体】が極光の杖に触れた途端に分かった。


――― むっちゃ拒否反応出されてる!?


 極光の杖が、まるで「放さんかいボケぇッ!!」とでも言うように【仮想体】に向けて見えないエネルギーを叩きつけて来る。

 多分、普通の人間だったら1秒と経たずに耐えられずに手を放してしまうのだろうが、肉体も無く、ダメージも無い【仮想体】は、「それが何か?」と杖を握り続ける。

 いや、知ってましたけどね? 旭日の剣と同じ神器だとしたら、当然装備制限が付いてる訳で、俺や【仮想体】がそれを無視出来るのは【制限解除】のスキルが有るお陰だ。しかし、スキルの対象は収集箱の中に入った物にしか機能しないのだから、当然神器に触るとこうなるんですよ。


「バカな事してないで放して下さいよ」


 アザリアが若干呆れ顔で言う。

 多分、【仮想体】が極光の杖に拒否反応出されてる事に気付いてないな。でなきゃ、そんな落ち付いた顔してられる訳ねーもん。

 しかし、コッチも意地だ!

 極光の杖から迸るエネルギーに吹き飛ばされそうな【仮想体】を踏ん張らせる。

 暫くそうして耐えていると、まるでコッチに対抗するように極光の杖から放たれるエネルギーが大きくなる。

 極光の杖が言葉を話せたら、多分「テメェ、ゴルァ!! 離さねえと殺すぞワリャコリャぁ!!」とか言ってると思う。

 杖と空っぽの鎧の見えない戦いが続き、次第にその力が大きくなる。

 しかし、10秒程経つと、見えなかった戦いに異変が起こった。極光の杖の先っぽで輝いていた赤い宝石が白く変色し、まるで太陽の輝きのように辺りを照らし始めた。


「キャぁッ!? こ、これなんですか!?」


 あっ、これはいかんな。

 野生の勘が、これ以上は踏み込むなと言っている。

 これ以上行くと、【仮想体】はともかく、杖を握っているアザリアと、そのアザリアに抱かれている猫の俺がヤバい気がする。って言うか、もうすでに若干エネルギーの圧力で空気がビリビリしてるし。

 【仮想体】が手を放すと、途端に極光の杖から放たれていたエネルギーの波が止んだ。

 しかし―――変色した宝石の色が元に戻って居ない。

 ………ヤベェ。会社の高額な備品を壊した時のような焦りと後悔が込み上げて来る。

 もしかして、俺のせいで極光の杖が力を使い果たしたとか………そんな事じゃないよね? そうだとしたら………どうしよう……。とりあえずアザリアに土下座しとこう。

 内心冷や汗をダラダラ流していたら、アザリアが興奮した声を出した。


「これ……天術? え? あれ? これが、極光の杖の中に眠って居た力…?」


 なんだろう? 極光の杖を見つめながら何やらブツブツ言いだしたんだが……今のうちにコッソリ逃げるってのはどうでしょうか? ダメですか? ダメですね。

 突然、バッと【仮想体】の方を向くや否や……。


「貴方、いったい何をしたんですか!? これ、極光の杖の中に眠って居た“究極天術”が使えるようになりましたよ!? それに、これ……凄い…今まで使っていた力の比じゃない」


 え? あれ? 力を失うどころかパワーアップしたの?

 え? え? マジでどんな展開だよ?


「私が今まで使っていたのは、極光の杖の―――いいえ、神器の力の表面上の力だけだったんですね……。こんな凄い力が眠っていたなんて……。神器の本当の力を引き出すなんて……貴方は、本当に何者なんですか?」


 ただの猫です。

 っていうか、それ本当の性能って言うか………「離れろやクソがッ!!」って言う感じで引き出された力やぜ? 大丈夫? 勇者の武器の力がそんな感じの覚醒イベントで大丈夫?



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