2-17 黄金の勇者vs魔王アドレアス
「一応訊いておこうか、剣の勇者よ?」
なんでしょうか?
「貴様は、私と敵対するつもりか?」
え? 敵対も何も、もう攻撃しちゃったし……。もしかして、実は善人的な人なのかしら? いや、人じゃねえよ魔族だよ。
「私の敵となると言うのなら、貴様の死は絶対だ」
あ、よかった。やっぱり悪人だコイツ。だって、言ってる事が悪代官だもの。
もし本当は善人的な展開だったら、どうしようかと思っちゃったよ……。不安にさせんなっつうの。
「私の配下になると言うのなら、それ相応の歓迎をしてやるが?」
何言ってんのこの人? どっかの竜の王様の「世界の半分をやるから仲間になれ」みたいな事言ってますけど?
まあ、でも、この選択肢頷くとアウトな奴でしょ? 「世界は闇に包まれた」で画面が黒くなる奴でしょ?
大体、コイツの言う「歓迎してやる」って、不良の言う「可愛がる」的な奴でしょ? 知ってるんだからね!
と言う訳で、【仮想体】の首を横に振る。
「愚か者めッ!!!」
クワっと目を見開くと、魔族の瞳の奥で色とりどりの光が煌めく。
………?
何かするのかと思ったが、特に何も起きないようなので攻撃してしまおう。
抉れ飛んだ壁の溝を【仮想体】の超パワーで軽々とジャンプで飛び越し、その勢いのまま、ジッと【仮想体】を見続けている魔族に向かって旭日の剣を振り下ろす。
「くッ……貴様、まさか!?」
苦々しげに顔を歪めながら、マントを腕に巻き付けるようにして、振り下ろされた剣を受ける。
ギィンッと甲高い音と共に、旭日の剣と魔族の右腕がぶつかる。
こンの、野郎―――!! やっぱりクソ硬ぇッ!!!
旭日の剣の刃が入って行かねえ!?
立ち止まらず、2度3度と打ち込むが、全て防がれる。
「ふんッ、なるほど。パワーもスピードも、人間としては信じられんレベルだな?」
器用に攻撃を捌きながら話す余裕もありますってか……腹立つわ!
「何かしらのスキルか天術で強化されているのか……はたまた、鍛え上げた自力なのか」
どんだけ剣を振ってもダメージが通らねえ……!
コイツ、ただの魔族じゃねえな!? 少なくても、この町に居た魔族連中とは比較にならないくらい強い…!
何者だ、この半分蜥蜴野郎は!?
「少なくても剣の勇者には多少注意が必要だと言う事が分かっただけでも、来た甲斐があったな。やはり先触れを他の者に任せなくて正解だった。私以外だったら、貴様の初撃で死んでいただろうからな?」
褒められてる……のか? 喜んでいいのだろうか?
「だが―――それだけだ!」
魔族がバックステップで距離をとる。
それを逃がさぬように【仮想体】がダッシュで距離を詰めにかかる―――が、
「戦い方が穴だらけだぞ」
魔族がニヤッと笑った次の瞬間、その背中で銃弾のような速度で尻尾が動いて、突っ込んで来ていた黄金の鎧を横殴りにする。
尻尾の動き速ッ!?
俺じゃなけりゃ軌跡すら追えねえぞあの速度!?
驚いている間に、外壁から【仮想体】が広場の方に向かって落ちて行く。
おっと、離れ過ぎると【仮想体】に俺の支配が届かなくなる。俺も広場の方に移動しねえと。
落下して来た【仮想体】は、広場に面した家の屋根で1度バウンドしてから、若干落下の勢いを殺してから、広場手前の大通りへと落ちた。
広場に居た住民とアザリア達は、先程までの魔法か何かの拘束が解かれたらしく、半分程は立ち上がって俺達の攻防を見守り、残りの半分は拘束の影響が残っているのか座りこんだまま動こうとしない。
「剣の勇者!」
アザリアが叫ぶ。
しかし―――それに答えている余裕はない! なんたって、半分蜥蜴野郎が【仮想体】を追いかけて飛び降りて来たからな!
素早く黄金の鎧を立ち上がらせて攻撃に備える。
「【速度強化術式】!」
蜥蜴野郎が何かの魔法を唱える。途端に、グンッと1段階速度が上がった!?
おいっ、自己エンチャントしてくんのかよお前!?
その速度のまま突っ込んで来る―――。
迎撃してやろうと剣を振りに入った途端、剣のリーチ一歩手前の所でピタッと動きを止めやがった!?
旭日の剣が盛大に空振る。
「戦い方が甘いと言っている!」
こちらの振り終わりの隙を狙って再び加速する蜥蜴野郎。
相手がギュンっと大きなくなったと錯覚する程の踏み込みスピード……!
ヤッバ! 速過ぎて対応が間に合わねえ……ッ!!
空間を飛び越えたかのような超速の踏み込みから、流れるように繰り出される拳。
ゴガンッと空の鎧の中を、凄まじい衝撃と打撃音が響く。
その場で踏み止まろうと踏ん張るが、アホみたいなパンチのパワーで押されて鎧が浮く。
「初撃の不意打ちは見事の一言。だが、正面戦闘ならば、どれ程の脅威でもない!」
蜥蜴の尻尾が、一瞬宙を浮いた【仮想体】の足に巻き付く。
抵抗する間も無く、引っ張られて何度も地面に叩きつけられる。
「くっくっく、剣の勇者と言えど所詮はこの程度か? いや、私が強過ぎるだけかな? ふふっ」
薄く笑いながら、総重量100kg近い鎧を尻尾でブンブンと振り回す。
いやー、本当に中身入ってなくて良かったわぁ……。ダメージ判定有ったら、今頃中身が偉い事になってますからね。
鎧が地面に叩きつけられる度に、住民達から悲鳴があがる。いや、大丈夫ですよ? 痛くも痒くもないですから。まあ、鎧が凹むかもしれないのが心配だけども……。
「本当は先触れだけのつもりだったが、勇者共がこの程度ならば、このまま潰してしまっても構わんな?」
言いながら、一際強く【仮想体】を地面に叩き付ける。
地面に敷かれて居た石が粉々に吹き飛び、鎧の背中半分程が地面に埋まる。
「【グラビティ】」
ズンッと周囲の空気が重くなる―――。
重力操作の魔法……!?
俺の居る所までは流石に射程範囲に入って居ないようだが、蜥蜴野郎の足元に居る【仮想体】はその影響をモロに受ける。
『【グラビティ】
カテゴリー:魔法
属性:重力
威力:D
範囲:B』
強そうな魔法ゲットー。重力魔法は強魔法の筆頭と言っても良いからね。
……って、呑気に喜んでる場合じゃねえなコレ。元々重いオリハルコンの鎧に、更に重さをプラスされて動く事が出来ない。
住人とアザリア達も効果範囲に入っているようで、全員が重力の鎖で地面に縛り付けられる。
「呆気ない終わりだな? だが、これが貴様等と私達の埋める事の出来ない力の差だ」
何勝ち誇ってんのこの爬虫類?
そのニヤケ面が気に食わねえ―――! 全力でぶん殴らなきゃ気が済まん!! ……あっ、でもレアアイテムとレアな魔法くれるなら許す。まあ、レアアイテムは死体から剥ぎ取ればいいか。
っつー訳で、ぶっ殺すッ!!!!!
テメェは、俺がもう動けないと思ってんだろ? 残念ながら、甘いのはテメェもだよ!!
【仮想体】を鎧ごと収集箱に戻す。
地面にめり込んで居た金色の鎧が消える。
「何!?」
予想外の事態に蜥蜴野郎の視線が空中を泳ぐ。
――― その隙を逃がさんッ!!!
【仮想体】を蜥蜴野郎の真上に出す。
そこは勿論、奴の【重力魔法】の効果範囲内。出した瞬間に通常の3倍くらいの重力が圧し掛かって地面に貼り付けようとしてくる。
その重力に抗わず―――蹴りを振り下ろす!
蜥蜴野郎が影を見て上に視線を向ける。だが、その時すでに黄金の脛当てに包まれた【仮想体】の足は10cm手前まで迫って居た。避けるも受けるも、出来ねえよ!
ゴッ
金色の足が【仮想体】を見上げていた蜥蜴野郎のにやけ面にめり込む。
「ぐぉアッ!!!?」
はい、クリティカルヒット!
【仮想体】の超パワーにテメェの重力魔法をプラスしてやったぜ!!
思いがけないダメージを受けて、蜥蜴野郎の集中が切れたのか周囲を満たしていた重力場が消失する。
よし、これで自由に動ける!
「チィッ!」
口と鼻から血を噴きながら、蜥蜴野郎が一度距離を取ろうとバックステップを踏む。
逃がさんぜ!
【グラビティ】
後ろに逃げようとしていた足が止まり、その場に手と膝を突く。
さっきまで俺達を縛って居た重力の鎖が、今度は蜥蜴野郎を縛りあげたのだ。
「グッ……これは【グラビティ】だと……!? 貴様、魔法が使える…のか!?」
ええ、使えますけど何か? お前だって使ってるじゃん。ズルイとか言わないでね?
「いや、それ以前に……なぜ、転移術式を使える…!?」
そんな物使ってねーよ。
……っつか、この魔法持続的にエネルギーを消費するタイプなのか、地味に疲れるな……。さっさと野郎の首を刎ねて終わらせよう。
地面にへばり付いて動けない蜥蜴野郎に近付く。
「なるほど……な? この力、未だ貴様の力を見誤って居たと言わざるを得んな…?」
自嘲する笑いを浮かべる。同時に―――地面に突いていた手から漏れる、魔法を放つ際の黒い光……!?
「【術式解除】」
俺の張って居た重力場がバキンッと金属が圧し折れるような音と共に消え去った。
『【ブレイクスペル】
カテゴリー:魔法
属性:支援
威力:-
範囲:F
発動中の魔法・天術を無効化する。ただし発動者の魔力によって無効化出来る術式に制限がある』
魔法外しの魔法!? そんなの有るなら言っとけや!!?
蜥蜴野郎が自由になった事に気付くと同時に【仮想体】をダッシュさせる。野郎が逃げる前に仕留めろッ!!
相手の動きの方が一歩早い…!
苦し紛れに旭日の剣を振る。
蜥蜴の左腕が浅く斬れ、ブシュッと赤い血が噴き出す。
………あれ? 普通に斬れた? さっきまではカキンカキンされたのに…? とか俺が思っている間に、
「【浮遊】」
フワッと浮き上がって空中に逃げた。
どうする? 追うか? この町のボスだった魔族と同じように空中で首チョンパしてやるか?
動き出すタイミングを狙って居ると、蜥蜴が叫んだ。
「剣の勇者、貴様を殺す為には相応の舞台が必要らしい。この勝負、3日後まで預けて置くぞ!」
預ける必要なんてねえよ。この場でぶっ殺してやるわ。
「覚えておけ。3日後、必ず貴様は私―――魔王アドレアスに敗北し、絶望し、そして死ぬ事になる、とな!」
そしてジェット機のような速度で飛び去る。
俺は追わなかった……いや、追えなかった……。
だって……え? あの蜥蜴野郎って、魔王なの……?
…………
…………
…………
やっべぇぇええええええッ!!!!!!!
勢いに任せて、トンデモねえのに喧嘩を売ってもうたぁぁああ!!?
いや、っつか、あの人が悪くない? だって、魔王ってアレじゃん? 普通、悪の城の奥で玉座に座ってるもんじゃん? 町中でバッタリ出会うなんて誰も想像してないじゃん? やっぱアイツが悪いよ、うん、間違いねえ! 俺はちっとも悪くねえ、うんうん。
…………
…………
…………
いやいやいやいやいやいあやいやいあ!?
責任転嫁しても状況変わんねえって!? 結局喧嘩売っちまってんじゃん!?
…………どうしようコレ……?
今から一生懸命土下座したら許してくれないかしら?




