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2-16 対峙

 無言のまま、森を爆走する鎧に揺られる。

 ……いや、別に無言なのは決して機嫌が悪いからじゃないから。オーガベアの角の入手に失敗してイライラしてる訳じゃねーから、うん、本当に本当に。全然気にしてねえから、マジで、うん、本当。

 無言なのは、ただ単に俺が1人だからだし。っつーか、誰かいたとしても「ミィミィ」しか喋れねえから会話も出来ねえしな。

 相変わらず人力タクシーとして優秀なうちの【仮想体】。まあ、タクシーつっても、俺が自分で動かしてるんだけど。ただ、文句を言うなら乗り心地はとっても悪い。泣きたくなる程悪い。

 鎧の走る振動が肩に乗る俺にダイレクトで伝わり、体が浮いて硬い鎧がガッツンガッツン当たるもんだから痛いのなんの……。

 しかし、痛みを我慢して走り続けた甲斐もあって、クルガの町の目と鼻の先辺りでアザリア一行の背中に追い付く。

 とは言え―――…とてもじゃないが、今はアザリア達の相手をする気にはならず、見つからないように【仮想体】を引っ込めて、先程レベルが上がったばかりの【隠形】で気配と音を断つ。

 こっそりついて行って、寝床に戻って不貞寝しよ。あっ、不貞寝って言っちゃったよ。


 ブルーサーペントをせっせと運ぶアザリア一行の後ろをトコトコと歩いて町に入る。


 …………?

 通りに誰も居ない。

 何の音も、誰も声もしない。

 そして、なにより―――今まで感じた事が無い程の強い“ヤバい臭い”!?

 俺の気のせいではないらしく、アザリア達もブルーサーペントの死体を投げ出し、武器を抜いて臨戦態勢に入る。

 

「貴方は……?」


 アザリアが絞り出すように声を出した。

 ………え?

 今のは、誰かに聞いた……のか? 疑問符だったもんね?

 しかし、アザリアが視線を向けている先には誰も居ない(・・・・・)

 え? ちょっと待って。この子本当に誰に話してんの? 冗談なしに怖いんですけど?

 俺が知り合いの奇行に戦々恐々していると、昨日俺と勝負した…えーと…アルバ、だっけ? まあ、ともかくその人が、急に走り出し、虚空に向かって剣を振る―――が、突然車に衝突されたように体が横に吹っ飛んで壁に打ち付けられる。

 ……独りで何してんだあの人……?

 パントマイム? ……じゃ、ないよね? 本当に気絶したっぽいし。

 何かしらの攻撃を受けた……のかな? 全然ちっとも攻撃見えなかったけど……。

 もしかして、ブルーサーペントと同じで、見えない敵が居るのか? いや、いやいや、言いたくねえけどアザリア達が気付いて、俺が気付けないって事はねえだろう。


 色々考えている間にアザリア達は歩き出していた。

 着いて行こうとして立ち止まる。

 町の異変、漂う“ヤバい臭い”、そしてアザリア達の奇行。町に敵が入って来ているのは間違いない。

 敵が居るのなら、相手を確認しておく必要が有る。


――― 何処だ?


 【バードアイ】を使って空中から町を見下ろす。

 広場で住人達が寝ていた。

 何してんの……? アザリア達に続き、町の住人達も奇行を始めるって……そんなゾンビ映画みたいな展開勘弁してほしいんですけど……。

 そして、広場に辿り着いたアザリア達も同じように地面に倒れる。だが、明らかに不自然な倒れ方をした。

 もしかして、魔法か!?

 町の中に視線を飛ばすが中々敵が見つからない。

 そうこうしている間に、アザリアが誰も居ない空間に向かってレーザーのような天術を放つ。

 当然の事ながら、誰にも当たる事無く光は空に吸い込まれて行った。


 そこでようやく見つけた!


 町を囲む防壁の上に、黒いマントを羽織った男が立っている。

 一瞬人間かと思ったが、人に見えるのは首から上だけで、四肢は蜥蜴のように緑色の鱗に覆われた鉤爪のような姿をして、マントの下からはニョロッと尻尾らしき物が顔を覗かせている。

 異形―――コイツ、魔族か!

 その右手の指先には、魔法を発動する時の黒い光が輝いている。

 アザリアと住人達に魔法掛けてる犯人は十中八九コイツだ。

 ……って事は、だ。


 あの野郎はぶん殴って良いって事だよね?


 いやいやいや、決して角が収集出来なかった事の憂さ晴らしの相手を探してたとかじゃねえから、うん。これはあくまで正義の為ですし。うんうん。

 アザリア達と住人達を救う為には仕方無い事だから、うん。

 本当は暴力はいかん! いかんけども、仕方無いよね!! だって人を助ける為だもん!! うん、本当仕方無い!! よしんばぶっ殺したとしても、町を襲った奴だから仕方ねえよ、うん、本当!! いやー、本当は嫌だけど仕方ねえ、本当仕方ねえわ!!

 コソッと移動し、【仮想体】を出せる射程に謎の魔族を捉える。

 はい、じゃあ、行きまーす。

 広場で倒れる皆をニヤニヤと見下ろしていた魔族のすぐ後ろに黄金の鎧が現れる。


「む……!?」


 魔族がハッとなって反応しようとするが……遅い! もう既に旭日の剣の振りに入っている。


――― 死ねや、クソハゲがッ!!!!!


 心の中に溜まっていた鬱憤を全部剣に乗せる。

 ………ええ、そうですよ。ただの八つ当たりですけど何か?

 魔族の背中にクリティカルな感じでめり込む刃―――だが、斬れない!?

 今まで、魔族の体を鎧ごとスパスパ斬って来て、どんな相手だって1撃必殺で倒せたのに―――刃がマントの表面で止められ、斬撃としての威力を殺されて、剣でぶん殴ったような状態になった。

 魔族は少し前に吹っ飛びながらも、空中でクルッと振り返り、着地の姿勢作りなんて気にする事もなく即座に魔法を放って来た。


「【エクスプロード】!」


 爆発―――。

 そこそこ離れている俺ですら、一瞬視覚と聴覚が利かなくなる程の爆発。

 町を囲む外壁が(えぐ)れ飛び、吹き飛んだ瓦礫が雨のように町に降り注ぐ。

 熱波と爆風に曝されるが、俺自身は距離があったのに加えて隠れていたお陰でノーダメージ。

 直撃を受けた【仮想体】は、吹っ飛ばされて外壁の淵ギリギリまで転がるが何とか踏み止まる。

 つっても、オリハルコンの鎧が黒く焦げたけど、コチラもダメージは0。そもそもダメージを食らう肉体がねえしな。


『【エクスプロード】

 カテゴリー:魔法

 属性:爆裂

 威力:B

 範囲:C』


 相変わらず、魔族はとりあえず爆裂魔法をぶっ放すのが大好きだなッ!!

 素早く立ち上がり、ほぼ同時のタイミングで着地した魔族を向きあう。

 旭日の剣を真っ直ぐ向ける。

 対して魔族は、無手のまま緩く構えて、手の平を【仮想体】に向ける。「いつでも魔法を撃てるぞ」と言う事らしい。

 野郎の魔法で抉れた壁を挟んで向き合う。

 正面から見ると、随分と整った顔立ちをしてやがる。手や尻尾を見ないようにすれば、完全に人間のイケメン枠だな………よし、腹立つからやっぱぶん殴ろう。

 と言うか……よく見るとコイツの目、なんか変じゃね? どす黒い目の中に、星空のように小さな光がチカチカと(またた)いている。なんだろう……よく分かんないけど、ヤバい感じのする目だ……。

 その目がギョロッと動いて、【仮想体】の手の中に有る旭日の剣を見る。


「旭日の剣……か。なるほど、お前が剣の勇者か」


 肯定も否定もせずに無言を貫く。いや、だって別に自分で勇者名乗るつもりないし、否定しようにも言葉喋れんし。


「いきなり不意打ちとはご挨拶だな?」


 不用心にこんな所に立ってる奴が悪いんや。不意打ちされんのが嫌なら、もっと隠れとけやボケ。


「それにしても……その鎧、見覚えがあるな? 私がジェンスにくれてやった物だった筈だが……ふむ。鎧も、剣も盗んだ物とは笑わせる。貴様、勇者として恥ずべき事だとは思わんのか? 盗人猛々しいと」


 え? 別に思いませんけど?

 だって俺勇者ちゃうし。よしんば勇者であったとしても、勇者って他人の家に勝手に入って、壺やタンスからアイテムかっぱらってく奴の事じゃん。




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