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2-9 剣の勇者と杖の勇者

 黄金の鎧が店の中に入る。

 ……客観的に見ると、鎧姿でうろついてるのって、文句のつけようがない程に不審者だな……。しかも顔を一切見せず声も発さないってんだから、勇者の肩書が無かったら誰も近付かねえだろコレ……。

 いや、でも鎧自体は恰好良いし、うん、そこは間違いない。

 そんな不審者な事この上ない鎧に、愛想一杯の笑顔でトコトコとユーリさんが近付く。


「おはようございます勇者様!」


 言葉を返せないので、「うむ」と偉そうに頷く。

 ユーリさんが「えへへ」と(しき)りに髪で揺れる赤い花飾りをアピールしてくるので……えーと……どう対処すれば良いでしょうか?

 自慢じゃないが、女性の扱いについての経験値は低い。かなり低い。下手すりゃそこらの小学生以下だ。………本当に自慢じゃねえな……大人なのに、ちょっと心の中で泣いちゃったよ俺……。

 まあ、とりあえず褒めるってのがベターですよね? とは言え、言葉には出来ないので、行動でそれとなく行ってみよう。

 頭の花飾りをなぞるように触れて、そのまま頭を撫でるように髪に触れる。


「ぁ……ゆ、勇者様……」


 ユーリさんの顔が更に赤くなる。

 ……これは、良い選択だった…のかしら? そう思っておこう、うん。きっと友好度的な何かが上がったのだと信じよう。

 後ろに居た店主にも一応ペコっと会釈をする。


「これは黄金の勇者様、おはようございます。お連れ様がお待ちでしたよ」


 お連れ様っつうか、俺が本体だけどね。


「ミィ」


 俺が「ここに居ますよ」アピールに一鳴きすると、鎧がそれに気付いて近付いて来る。

 ……いや、まあ全部やってるの俺だけども。ただの1人芝居だけども。ぶっちゃけ茶番劇ですけども。


「あれが……旭日の剣……」


 黄金の鎧が一歩近付く度に、俺を抱いているアザリアの手が強張って行くのが伝わって来る。

 もしかして、この子緊張してます?

 まあ、ぶっちゃけおっかないよね……謎の鎧だし。

 だけど、出来るだけ関わりたくない俺としては、その方が好都合です。

 勇者モドキが手を差し出すと、周りからは悟られない程小さくアザリアがビクッと震えた。

 いや……いくらなんでもビビり過ぎちゃう? アンタ勇者でしょ。俺とは違うガチの方の勇者でしょ。 

 強張っているアザリアの小さな手からスルっと抜け出て、差し出された勇者モドキの手に飛び乗る。

 そして、アザリアにも黒ローブの連中の事もまったく視界に入っていないかのような華麗なスルー力で外に脱出―――


「待って下さい!」


 しかし回り込まれた。逃げられない。

 ビビってたくせに動きは機敏で、自分に対して無反応のまま立ち去ろうとした黄金の鎧の前に、素早いステップで立ち塞がった。


「私はアザリアと言います」


 ローブの中から極光の杖とか呼ばれていた、見るからにレアリティの高そうな杖を目の前に突き付ける。


「貴方と同じ勇者……と言えば話を聞いてくれますか?」


 いいえ。

 再び華麗なスルーで、今の発言を聞かなかった事にして外に出ようとする。

 そんな俺の行動に慌てたのはアザリアではなく、その仲間らしい黒ローブの男だった。出て行こうとする鎧の肩をガッと掴み、怒りの混じった視線を兜の奥に向ける。

 ……まあ、その兜の奥は空っぽなんだけど。


「剣の勇者! たとえ勇者であろうと、お嬢に失礼な真似は許さんぞ!」

「やめて、その手を放しなさい! ……私の仲間が失礼をしました」


 まだ怒りの目を向けている男を無視して、アザリアがペコっと頭を下げる。


「しかし、どうしても話を聞いて欲しいのも事実なのです」


 ダメだコレ、逃げれない奴だ。

 言うところの強制イベントって奴……やらないと話が進まないってアレだ。

 内心「面倒臭」と思いつつも、【仮想体】はそんな事を欠片も見せずに静かに頷く。


「ありがとうございます。では、率直に……。私達は魔王アドレアスの討伐を目指して動いています、貴方も協力して頂けませんか?」


 絶対に嫌です。

 薄情と思われようと、臆病者と罵られようが、嫌な物は嫌です。

 魔王と戦うなんて、そりゃあただの自殺志願者じゃないの?

 勇者だって人間なんだから命を大事にしなさいよ。ましてや俺なんてただの猫だからね?

 生きて行くだけで手一杯で、そんな化物と殴り合ってる余裕はないんですよ俺。

 ……なんとか断る事は出来ないだろうか? 口がきければ上手い事丸め込めるかもしれんがなぁ……一応これでも元営業職ですし。

 何か良い方法はないかと子猫の小さな頭を捻っていると、アザリアの後ろに居た黒ローブが割って入って来た。


「お嬢、待って下さい」

「なんですか?」

「協力するのか、して貰うのか……どっちにしろ剣の勇者の力を確かめてからでしょう? 強いと言う話は聞きますが、実際の実力を俺達は見てないんですから」


 ……え? そう言う流れになる感じなん?


「それは……」

「お嬢だって、実力の分からないような相手に背中は預けられんでしょう。俺たちだってそんな奴にお嬢の背中は任せられません」

「…………」

「ですから、仲間に誘う前に剣の勇者がどれ程なのか見極めておくべきです」


 言ってる事は真っ当……だと思う。

 この黒ローブの男も、決して俺の事が気にいらないから言っているのではなく、俺が仲間に入った際にどの程度の働きが出来るのかを知っておきたいって事なんだろう。

 そら、新入社員がどの程度まで仕事を処理できるのか分からないと、色々怖くて仕事回せないからねぇ。

 そう言う気持ちは分かる。分かるのだが……


「……でしたら、どうしろと言うのです?」

「剣の勇者と勝負させて貰えないでしょうか?」


 ほーら、来た!!! 絶対そう言う事になると思ってました!!!

 こんな面倒臭い展開は勘弁してよ…。

 ドンヨリした気分になっていたら、意外な方向から助け舟が来た。

 ユーリさんだった。


「ま、待って下さい!」


 俺とアザリアの間に体を割りこませ、強制的に会話を断ち切る。


「勇者様とは話をするだけって言いましたよね!」


 ユーリさんが睨むが、男は特に気にした風も無く返す。


「別に殺し合いをする訳ではない。剣の勇者の強さが見たいだけだ」

「で、でも! 勇者様を傷付けるって事ですよね!?」


 おお、ユーリさん頑張れ! 喋れない俺の分まで頑張って!


「心配には及ばない娘よ。剣の勇者の実力が評判通りだとしたら、何も危ない事はない。それとも、剣の勇者の力を疑っているのか?」

「そ、そんな事ありません! 勇者様だったら、魔王とだって戦えますとも!」

「うむ。俺達も、是非その力の一端を見て見たいと思う。故の勝負なのだ、納得して貰えたか?」

「はい!」


 ……え? ちょっと? 簡単に丸め込まれ過ぎじゃない?

 アザリアが少しだけ「ごめんなさい」な顔で俺に訊いた。


「……と言う事なのですが、どうでしょうか?」


 どうでしょうもないでしょう。

 俺が受ける理由がないんですけど?

 ………いや、だが待てよ?

 たとえば、その勝負を俺が受けて、そして負けたとする。

 そうなるとどうなるか?

 「コイツは使い物にならんな」→「こんなのを仲間にしても仕方無い」→「自分達だけでどうにかしよう」→「お前は家で寝ていろ!」


 こ れ だ!!!!


 完璧じゃないこの流れ?

 あとは体よく俺にかかってる住民達の期待も押し付けられたら言う事無しじゃん?

 よし、お受けしましょう!

 黄金の鎧が頷く。


「え? 受けてくれるのですか?」


 うん。

 


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