1-2 異世界へようこそ
「こ、これはどう言う事だ!?」
………?
体が重い。頭がフラフラする…。なんだこれ?
どっかに寝転んでいるのは分かるが、その場所が冷たくて硬い。ベッドじゃない事は確かです。っつか、ここ地べたじゃね? ってか床じゃね?
「わ、私にも分からん!? まさか、これがもう1人の勇者か…?」
「………」
「………」
「それはないな」
「そうだな、それはないな」
さっきから上の方で誰かが話しててウルサイな…静かにしてよ。
一応面だけ確認しておくか? 鬱陶しい顔のオッサンとかだったら文句を言っておこう。短気なヤンキーとかだったらこのまま寝た振りを続行で。……いや、別にヘタレちゃうよ? ちょっとヤンキーとか関わり合いになりたくないからスルーするだけよ?
薄眼を開ける。
視界を埋め尽くす黒い何か。
なんじゃこの黒くて大きいのは?
「では、これはなんだ?」
「召喚に失敗した、と言う事ではないか?」
「………マズイな」
「………うむ、マズイな」
また上から声が降って来た。
とりあえず目の前の黒い物は置いておこう。それよりもこの声は誰だよ?
声のした遥か上に視線を向けると………
――― 巨人が居た。
慌てて目を閉じる。
はーい、ちょっと待ってー。一旦落ち着こうかー?
今、ものすごーく大きい人が見えたんだけど……アレは、うん、アレだよ。ガンダ●…違う! じゃなくて……アレだよ! ほら、えーと…幻覚? そう、それだ幻覚だ!!
あんな巨大ロボのような大きさの人間が居る訳ねーじゃん?
人っぽい家か何かを見間違えたとか、そんな感じのオチだって。ね? もう俺の慌てん坊さん(テヘペロ)!
ちゃんと冷静になって目を開ければ、そこには人に見える―――
「む? 目を覚ましたぞ」
「これは、どうするか?」
――― 巨人が居た。
冗談じゃねえええええええええええーーーッ!!!!!!!!
居るじゃんっ!!?
巨人居るじゃんっ!?
何!? 何なのこの人達!? って言うか人!? 人じゃないよねこのサイズっ!? どこの町に進撃してんのこの人達!?
そこでふと、さっきの夢を思い出す。
そーいや、残りの人生を異世界で過ごせ的な事を仰っていた様な気がする…。
ふむ……つまり、ここは巨人の存在する異世界……?
FU ZA KE N NA!?
なんでこんなノ―フューチャーモードな異世界に飛ばしてくれてんだあの野郎!?
異世界つったらアレだろ!? 無意味に強くなって女の子とキャッキャウフフで、並み居る敵をバッタバッタだろ!?
なんで俺はいきなりこんな感じなの!?
っつか、目の前の黒い物ってコレ巨人の靴じゃん!? デケエよ!? 何センチ規格の靴だコンニャロウ!? 俺の体と同じくらいのサイズがあるじゃんよ!?
「外に捨てれば良いのではないか?」
「そうだな」
巨人の手が、俺を捕まえようと伸びてくる――――って、超怖ええええええっ!?
や、ヤベエ逃げなきゃ…って、上手く立てない!?
ワタワタしている間に、巨人の1人にあっさり捕まる。
終わった……俺の異世界人生は5分で終了しました……。
って、おい! 人を変な持ち方すんなよ…! んな首根っこを掴んで持つとか、猫じゃねーんだぞ!!
バタバタと暴れて抵抗を試みて、初めて自分の手足が視界に入った。
………うん?
…………ふむ。
手……と思われる物を動かして頭に触れてみる。次に顔。体。尻尾。
ふむふむ。
とってもキュートなテイルですね(キリッ)。
じゃねーよっ!? バカかッ!? なんじゃこれ!? なんじゃあこりゃぁ!?
なんでこんなに毛深いんだよ!? なんでこんなに肉球付いてんの!? っつか、耳の位置おかしくない!? っつか、顔のパーツの配置もおかしくないっ!?
これじゃ、まるで―――
「では、この猫は外に捨てて来るぞ?」
「うむ」
――― 猫…って、先言うなや!?
俺が少しずつ受け入れようとしてんのに、いきなり直球ど真ん中のストレートで事実をブチ込んで来るんじゃねえっ!?
………ってか、俺、マジで猫なの…?
手―――前足をパタパタと動かしてみる。茶と白の混じったフワフワの毛に覆われた丸くて小さい手。
うぉお…マジッすか…?
この人等が巨人なんじゃなく、俺が猫だから小さいってオチなの?
良かった、巨人なんて最初から居なかったんや……。
………
………
いやいやいやいあいあいや!? そんな事に安心してる場合じゃないですよね!? 巨人が居なくても、コッチが猫な事実は変わりませんよね!? しかも猫つっても、これ子供じゃね!? 子猫じゃね!? 大人でも子供でも大した違いねえつっても、扱い酷くない!?
とかコッチがテンパった大騒ぎをしている間に、巨人じゃない普通の人は無言でトコトコ歩いて薄暗い通路を進む。
何ここ? レンガ造り? 暗っ、そして寒っ!?
外からの明かりがない。地下? 地下ですか? 地下監禁ですか? 事案ですか? ポリスメン出動案件ですか?
まもなく扉が現れ、ガチャっと開き―――ポイッと地面に放り投げられる。
体が上手く動かず受け身も取れずに土の上を転がる―――痛い!?
「ミィァア!?」
ぅえ? 今の可愛らしい鳴き声…もしかしなくても俺ですか? 俺ですよね? だって俺の口から出た音ですもの。
「じゃあな」
それだけ言って男が扉を閉める。
うぉおおおおい!? このまま猫の姿で放り出されたら洒落になんねーぞゴルァ!? 俺がこんな状態になって目の前に居たのがあの男達…って事は、少なくてもこの状況を少しは理解してるって事だろう! こんな意味不明な状況と状態なままで離れてたまる―――…
そこには扉が無くなっていた。
「ミャアアアアアアアアアアッ!!!!?」
なんでぇえええええええええええええええっ!!!?
え? 何? なんで!? 今確かにそこに扉有りましたよね!? だって、そこから出て来たんだもん!
それが……なんで消えてるの?
どこでもド●か?
「ミィ…」
いや、冗談言ってる場合じゃねえよ!? どーすんだよコレ!? 猫の体で、こんなどことも知れない場所に放り出されて……。
…………テンション高く騒いでるだけじゃダメだ。まずは冷静になろう。深呼吸…。
「ミィーミィー」
現在の俺の体…子猫。
パワー…無し。
スピード…超絶微妙。
会話…不可。
持ち物…無し。
ヨシ! 詰んだなコレっ!! 解散ッ!!
「ミャァ…」
宣言した途端にズーンっと落ち込む。
これ…どうすりゃ良いの?
こうなった原因は、どう考えても例のあの夢の中の会話だよな? 結局あの声はなんだったんだ? 神様か? 転生先を斡旋する係の人か? とりあえず、呼び方が分からないので転生職員と呼んでおこう(神様って呼んで違ったら本物が怒るかもだし…)。
転生職員の言葉が全て真実だとすると、俺は死んだ。けど、予想外の死亡だったからちゃんとした手続きが出来なくて、仕方なくこんな猫の姿で転生させられた…って事で良いのかしら?
………ふむ。
え? どーゆー事?
噛み砕いて理解しても意味分かんないんですけど?
しかも、転生先は異世界? 何、異世界って? 剣と魔法なの? ファンタジーなの? 中世なの? SFなの? 近未来なの?
まあ、確かにさっきのどこでも●アはビックリしたけど………。ああ言う常識の通じない感じの世界だと言う事は………納得したくないが……理解した。
「ミャァ…」
はぁ…これからどうしよう。
猫の姿で、常識の通じない異世界。
うぉおおおおおお、マジで泣きたいんですけどおおおおっ!!!