12-18 肝心なところ
「ま、こんな感じでボク達の用事は終わりだけど、何かあるなら今のうちだよ♪」
2人とも、もう帰る体勢に入っている。
盆に爺ちゃん家に集まった親戚が、大量にお土産を貰った後くらい帰る体勢に入っている。
まあ、別にこのまま帰って頂いても別に構わないんですけども……いや、待てよ? 大精霊って、相当長生きしてるよな? 少なくとも、最古の血と同じかそれ以上は生きてるんじゃなかろうか?
って事はですよ? コイツ等なら魔神の情報持ってんじゃない?
俺が魔神になれるかどうかは分からないが、いざとなった時の為に情報は有るに越した事はない。
聞くだけ聞いてみるか?
「(なあ、魔神って知ってるか?)」
「ん?」「え?」
2人が顔を見合わせる。
ポカンとした表情? いや、なんつーか「何言ってんだコイツ」な表情?
なんでそんな顔されなアカンの? 変な事を聞いたつもりはないんだけど。
「何故、そんな事を聞きたい?」
「(話すと長いが、俺もその魔神たら言う存在になれる可能性があるかもしれない。で、その為に情報が欲しい。何か知ってるなら教えてくれ)」
「魔神になりたいのか?」
「魔神とは?」と聞き返されないって事は知ってるな……多分。
まあ、でも、なりたいか? と訊かれると微妙じゃない?
仮に俺が魔神になれるとしても、別に率先してなりたい訳じゃない。そんな危なそうな存在にならないで済むなら、それで済ます方が良いに決まっている。
だが、いよいよとなったら俺はなれるなら間違いなく魔神になる。
そう言うイエスともノーとも言えない微妙な気持ちを、どう言葉にすればいいかと悩んでいると、コチラの答えを待たずにイグニスは続ける。
「余計なお世話を承知で言わせて貰えば、魔神は望んでなるような物ではない。安易に力を求めて魔神になろうとしているのならば止めておけ」
凄い真っ当な事言われてる気がする。
まあ、でも、言い訳させて貰えば“安易に”じゃないよ。世界最強の化け物3人を相手にする為の最終手段として、だ。
忠告どうも、と素直に言おうとしたら、それをエアがボソリと呟いた言葉が遮る。
「そりゃあ、王だってなりたくてなった訳じゃないしねぇ」
「ミ?」
は?
俺が、今エアが言ったセリフを反芻している間に、イグニスが怒りの形相でエアの尻を思いっきり蹴り上げる。
「痛ったあああッ!?」
「余計な一言ッ!!」
幼女を全力で蹴り上げる姿は、何ともバイオレンス……。
いや、そんな事より――――さっきエアはなんて言った?
“王だってなりたくてなった訳じゃない?”
王ってのは、精霊王の事だ。じゃあ、その王が何に“なりたくてなった訳じゃない”って?
決まっている!
いや、待て!? って事は、大精霊が“王”って呼んでるのは――――
「(お前達の王ってのは、魔神の事なのか……!?)」
いや、そうだ、そうだよ!? ずっと引っかかってた事がある!
滅多に人前に現れない大精霊が、どうして俺の前にはポンポン現れるのか?
それに、エセ預言者の八咫烏が「大精霊が俺に挨拶しに来る」って言ってた。普通に考えれば、挨拶をしに行くってのは目上に対して行う行動だ。って事は、大精霊にとって俺は“目上の相手”って事になる。
でも、そうか……こいつ等の王が魔神だってんなら納得だ。
大精霊にしてみれば、俺は“主と同じ姿をし、同じ能力を使う存在”だ。無視できる訳がない。
「お前のせいだぞ」
イグニスがギロッとエアを睨むと、エアが「ごめーん」と手を合わせる。
「(魔神、なのか……?)」
もう1度訊くと、イグニスが一瞬黙り、諦めたように溜息を吐く。
「……そうだ。俺達の王とは、魔神たる御方に他ならない」
「(やっぱり! じゃあ、じゃあ魔神に至る方法も――――!?)」
「正確な事は知らない。詳細を知っているのは、実際に魔神となった王だけだからな? だが、お前が王と同じように魔神に至る事は無い、と言う点は断言できる」
「(……は? なんで?)」
「魔神に至る為に絶対に必要な物の1つが既に世界から失われているからだ」
…………え? そうなの?
イグニスが嘘言ってるようには見えないし、そう言う事なんだろう。
……あれ? あんま、魔神になれないと言われても落ち込んでねえな俺? 言う程魔神に期待も執着もしてなかったからか?
まあ、魔神の道が閉ざされたら、いよいよもって詰んでる気がすっけど……今は考えないようにしよう。
俺が魔神になる云々は置いといて、他にも聞いておかなきゃならん事がある。
「(俺と魔神が同じ姿なのはどう言う事だ?)」
「さあ? ボク達も知らない♪」
「(本当に?)」
「本当に♪」
この幼女……基本の表情が胡散臭い笑顔だから、本当なのか嘘なのか判断つかねえな……? 相手が人間なら、前世の経験で嘘見破れるかもしれねえんだけど、精霊相手は勝手が違う。
いや、でも、沸点低そうなイグニスなら分かるかな?
視線を横にスライドさせると、イグニスが無表情にジッと俺を見ている。
「俺やアクア達に聞いても答えは同じだぞ。知ってても、知らなくても、俺達は全員『知らない』と答えるからな」
「(なんで?)」
「必要だとは思わないから」
逆に言えば、“必要なら話す”って意味か?
だとすれば、コイツ等は『知っているけど、俺に話す内容ではない』か、『本当に知らない』のどちらかって事になる。
まあ、どっちにしても、コイツ等が話したくないのは分かった。となれば、無理に問い質したって答えてはくれないだろう。
1番肝心なところではあるが、この点は答え保留だな……。
いや、待て待て、根本的な事を聞いておかないとだろ俺。
「(そもそも、魔神ってのは何だ?)」
そうだ、俺は魔神に関して何も知らない。
何やら、恐ろしい存在らしい……と言うのは分かったが、具体的な部分は何も知らない。
俺と似た存在だから云々ではなく、単純な知的好奇心として知りたい。
「何者でもあり、何者でもない者」
「全である者、あるいは個である者♪」
「(抽象的な表現は要らない。何を指して“魔神”としているのかが知りたい。そして、魔神は何をしようとしているんだ? 破壊か? 殺戮か?)」
「先の質問はナンセンス♪ 木は木であり、海は海♪ なぜ人を人と呼ぶのか? そんな質問は意味がないよ♪ 魔神は魔神だから、としか答えようがない♪」
「魔神――――王が何をしようとしているのか、と言う質問については想像がつくのではないか?」
一瞬ギクリとした。
確かに、俺の頭の中には微かな予想がある。ちゃんとした輪郭を持たない、あくまで確証のない、ただの俺の予想。
「(さっき、神剣を魔神の命令で集めてるって口を滑らせてたよな?)」
俺の言葉に、エアが笑顔のままバッとイグニスから顔を背け、そんなエアを煮え滾る溶岩のような視線でイグニスが睨む。
そんな2人の様子を無視して、話を続ける。
「(そして、神剣を扱えるのは魔神だけ、つまり――――)」
神剣は、神殺しの剣らしい、って事は、魔神の目的は……
「(魔神は神を殺そうとしているのか?)」
「正解――――と、褒めてあげたいけど、ボク達も実際のところは知らない♪ 神なんて物が実際に存在しているのかも分からないしね♪」
神が実際にいるかどうかは知らないが、異世界の一般人を猫に転生させて放り出す無責任な転生職員は確実に居る。
「だが、神とやらが居るのなら王は狩るだろうな」
「だろうね♪ とっくの昔に宣戦布告してるし♪」
宣戦布告って……え? 神に喧嘩売ってるって事? 何してくれてんの、あの俺の偽物は……。これで人違い……猫違いで俺が襲われたら本当に恨むからな! ただでさえ最古の血共に勘違いされてんのに!
「俺達が断言できる事は1つ。王には、神の首だろうが心臓だろうが刈り取るだけの力がある、と言う事だ」
「世界と魔を統べる力の頂点“精霊の王”。それがボク等の王たる御方、それが魔神さ」




