12-17 神剣の話
全身にビキビキする痛みを感じながら目を覚ます。
痛っぁ~い……。
なんでこんなに体痛いんだっけ? いや、むしろ俺何してたっけ?
糊付けされたように重い瞼を根性で押し上げると、視界一杯の青空が広がっていた。
空綺麗だわぁ……このまま二度寝したいわよ。
「ミ」
「あ、起きた♪」
見た事のある緑髪の幼女が、聞いた事のある声で喋る。
見た事や聞いた事があるって事は、俺はこのお嬢ちゃんの事を知っているという事だ。
え? 誰だっけ? 記憶を辿っても、こんなビビットな緑髪に会ってたら忘れる訳はないのだが?
…………ん?
「ミャァアアアアアアアアッッ!!」
思い……出した!!
いや、違う。別に前世の記憶が蘇った訳じゃない。唐突にスタイリッシュ詠唱アクションを始めたりはしない。そもそも俺の前世は、ただのサラリーマンだしな……。
そう、これはアレだ。夜布団に入った時、大昔に封印した黒歴史が唐突に脳裏を過るような感じ。
そして、寝ようと思っても羞恥心で眠れなくて、まともに寝ずに会社に行き地獄が待っている…………あ、後半部分要らなかったわ。
まあ、ともかく、この目の前の幼女の正体を思い出した。
そう、そうよ、そうなのよ! コイツ風の大精霊だよ! そんで、俺こいつ等と鬼ごっこ(暴力)をしてたんだよ!!
で、その最中に“獣”に意識を持っていかれた――――……けど、あれ? いつの間にか体の所有権が俺に戻ってる。
全身ギシギシ痛いけど、ちゃんと俺の意思で動かせる。
“獣”に体を奪われていた間の事は、あんまり覚えてない。おっさんと戦った時と同じだ。
いや、でも、“獣”がイグニスの神剣に手を伸ばして吹っ飛ばされたのは覚えてる。あれで気を失ったのか? そいで“獣”が引っ込んだのかな?
太陽の位置があんまり変わってないって事は、意識を失ってたのは30分かそこらかな?
「(……で?)」
「で、とは♪」
「(勝敗は?)」
俺に問われて、エアとイグニスが顔を見合わせる。
たっぷり5秒ほど見つめ合い、見ている俺が「え? 何? キスでもすんの御宅等?」とツッコミを入れようとするのとほぼ同時に、グリンッと2人の首が動いて俺に視線が戻る。
「君の勝ちだよ♪」
「そちらの勝ちだ」
うん、よし!
“獣”がイグニスにタッチしたような、してないような……。かなりあやふやだったから、もしかしたら夢だったんじゃないかと思ったが、ちゃんと現実だったらしい。
「じゃ、早速例の物を渡しちゃおうか♪」
2人が一瞬視線を交わし、同時に右手を差し出す。
差し出された2人の腕に、それぞれ光が集まる。イグニスの手には赤い光が。エアの手には緑の光が。
光が収束する。
命の光、或いは自然の光。とか何とか、それっぽい事を言ってみたが、この光の正体は未だ全然分かってない。って言うか、コイツ等自身も知らんらしいし、俺が知る訳ない。
「受け取って♪」
「受け取れ」
放られた赤と緑の光。
俺が特に何もしなくても、収集箱に入っていた“虹の器”が勝手に外に飛び出し、放られた光を受け止める。
『素材アイテム:≪虹の器≫の中に、“灼熱の赤”の光が吸収されました』
『素材アイテム:≪虹の器≫の中に、“萌芽の緑”の光が吸収されました』
出番が終わると、さっさと収集箱に戻る。
3回目ともなると、何の驚きもなく淡々とイベントが進行するな……。
いや、別にそれで良いんだけども。同じイベント2度も3度も見ない派だし。基本同じイベントムービーが流れたらスキップボタン押す派だし。
クソ長必殺技も、召喚ムービーも、コンビネーションアサルトも2度見たら満足です、はい。
「はぁい、おめでとう~♪ これでアクアとテラのを合わせて4つ目かな♪」
「(いや、その前に“黒”を吸収してるから5つ目)」
「黒? なんだ、じゃあ、もうシャドウに会ってるんだ♪」
「(シャドウ? 誰?)」
そんな魔大陸に置き去りにされそうな名前の人に会った覚えはない。
いや、でも、ここで名前を出すって事は、黒の光を持ってた奴って事か? それって、つまり大精霊……? いや、でも大精霊は4人じゃなかったっけ?
俺の問い返しに、エアが「ヤッベ! またやっちまった!」と言う顔をする。
「余計な一言」
「い、今のは不可抗力だし! 黒はシャドウから貰わなくても良いの忘れてただけだし!」
「……お前がアホなだけじゃないか。なおの事悪い」
「(え? 何? シャドウって誰なの?)」
「気にするな。お前の前には絶対に現れない奴の話だ」
絶対に現れないって、どういう意味だ?
「会わない」ってのは2つの状況がある。“会えない”状態にあるか、“会わない”ようにしているか、だ。
つまり、そのシャドウたら言う奴が、俺の辿り着けない場所に居るか、そいつが俺と会わないように避けているか。
まあ、特に会いたい訳でも、会わなきゃならない事情が有る訳でもないし、どっちでも良いか。
「(じゃあ、良いや。で、神剣たら言うのはくれるんだろ?)」
「あげるとは言ってないよ♪ 持って行って良いって言っただけ。でも、君、触れなかったでしょ?」
触れなかった……ああ、そうだな。“獣”が触れたら吹っ飛ばされて気絶したんだ。
あれ、なんで触れなかったんだ?
【収集家】の力が働かなかった……のか? いや、そんな事が有り得るか?
収集の力は絶対だ。神剣たらにどんな能力や装備制限が付いているのかは知らんが、“収集出来ない”なんて事はない筈だ。何かしらの阻害効果があろうが、【ネコババ】の効果で無効に出来るし。
実際、装備制限ついてる神器だって普通に収集箱にぶち込めてる訳だし。
じゃあ、なんで“獣”は収集出来ずに吹っ飛ばされたんだ?
目を閉じてログを辿ると、今まで見た事が無いシステムメッセージが流れていた。
『error――――』
エラー……?
いや、そんなん吐かれても困るんだが?
そう言えば、家のPCがエラー吐いても「あ~はいはい」って感じだけど、会社のPCがエラー吐くと「いぇえええっ!? 何でえええっ!?」って焦るのなんでだろうな? どうでも良いか。どうでも良いな。
「なんで神剣に触れないんだ、って顔してるね♪」
「(猫の表情なんて分かんのかよ……)」
「分かるよ。自分じゃ気付いてないんだろうけど、結構表情豊かだよ♪」
イグニスが軽く頷く。
そう言えば、前におっさんにも同じ事言われたな……?
っつーても、俺、自分の顔なんてちゃんと見ないし……。いや、だって、自分で言うのもアレだが、俺って可愛いじゃん?
…………いや、ちょっと白い目を向けるの止めて貰えます?
そら、人間の俺は可愛さなんて欠片も無いが、この子猫の俺はあざとさの塊の如き可愛さだ。
まあ、それが気持ち悪い訳よ。
あ、外見云々が気持ち悪いってんじゃないよ? いい歳した男が、自身を見て「可愛い」って思う事が精神的にアレじゃん……?
「神剣に触れられないのは、お前のせいではない。そもそも、神剣には誰も触れない」
「(誰も?)」
「この話をするには、神剣がどう言う物かを説明しなければならない」
少し長い話になるぞ、と空気と視線が言ってるが、まあ、この流れで聞かないって選択肢はねえだろう。
俺だって、【収集家】がエラー吐いた理由を知りたいし。
「“神剣”とは、神の首まで届く刃――――平たく言えば“神殺しの剣”だ」
神殺しの剣……“魔王殺しの勇者の剣”と同じくらいゲームでよく見た奴や!!
まあ、でも、大抵のゲームだと、神系の敵を倒すのに必須って訳じゃないよね? 基本普通の武器でぶん殴れば倒せる神ってのもどうかと思うが。
「神剣以外の武器では神には届かない。絶対に。何故なら、神とはこの世界と言う盤上では無敵だから。己の作った理に守られた無敵にして絶対、究極にして至高、それが神だ」
神を褒め称えるような事を口にしているくせに、顔が明らかに嫌悪感に染まっている。だが、エアに比べればそれも可愛い物かもしれない。
エアは嫌悪感どころか、怒りを浮かべている。
君等、神様嫌いなん? いや、別に俺も言う程好きではないけど。
「そんな神を殺すには、盤の上でのルールから外れなければならない。つまり、それが“神剣”だ」
盤上のルール外、ね。
つまり、神様はゲームをするプレイヤーだから、盤上で将棋なり、オセロなりで100回勝とうと、1000回勝とうとプレイヤーが1mmも痛みを負う事はない。
プレイヤーを殺す為には、盤上の“外”にある刃をブッ刺すしかない。
それが――――神剣。
「で、ここからが神剣を触れられない理由だ。神剣は盤上の理の外にある、故にその理の内側に居る者では触れる事が出来ない」
ルールの内側……つまり、この世界に生きてる奴って意味だよな?
だとすると、【収集家】の効果が神剣に対して発揮されないのは、このスキルがこの盤上のルールでしかないから、って事か?
ああ、だから『収集できませんでした』とかじゃなく『error』表示なのか。
まあ、その点は納得した……けど、新たな疑問が浮かぶ。
「(じゃあ、なんでお前等は神剣に触れる事が出来てんの?)」
「決まってる。俺達もこの世界の理からはみ出した存在だからだ。まあ、はみ出していると言っても少しだけだがな?」
「(少しだけ?)」
「そうだ。だから、神剣に触れる事は出来るが、振るう事は出来ないし、ましてや力を引き出す事も出来ない。それが出来るのは世界で唯1人、俺達の王だけだ」
王ねぇ……。
神殺しの剣を唯一振り回す事の出来る奴で、このクソ強い大精霊4人を手下に持つとか……激ヤバな要素しかねえんだが?
いったい、どんな奴なんだ精霊の王様は……。




