12-14 嘘は言ってない
「では、試練を受けて貰おう」
「(……分かった)」
分かった、と返事はしたものの、特に自分が欲しくも無い物の為に「何かしろ」と言われてもテンションもモチベーションも上がらない。
ぶっちゃけ試練とやらを無視して、さっさとレティ達を追いかけて城に帰りたい。
気分としては定時で帰ろうとしたら「これも宜しく」と上司に言われた時のような気分。
「試練とは言っても危ない事をするつもりはない。ちょっとした遊びだ」
「(遊びね……)」
“遊び”が楽しい物であると嬉しいんだが……望み薄な気がする。
いじめっ子が言うところの「おぉい、ちょっと遊ぼうぜぇ」的な奴ではないでしょうか? 10分後には俺がボコボコになってるんではないでしょうか?
まあ、黙ってボコられる気はさらさら無いが。
「ルールは簡単」
イグニスが空を指さす――――いや、太陽を、か?
「日が沈むまでに俺かエアのどちらかを捕まえれば其方の勝ち。先に日が沈めば俺達の勝ち。逃げて良いのはあの岩から――――アッチの海岸の終わりまでだ」
指定された範囲は、どれだけ多く見積もっても精々200mだろうか?
一般人の鬼ごっこなら200mは十分過ぎるが、俺の速度と機動力だとむしろ狭い。その気になれば端から端まで一瞬だ。
いや、そもそも、逃げる側としては、範囲を区切るのはデメリットしかない。
それを敢えてするって事は、逃げる自信があるか、逃げる気が無いか……まあ、普通に考えれば前者だが、大精霊達はあの謎の光を俺に渡したがってるっぽいからなぁ……後者の可能性も有り得る。
つーても……、ルール説明聞いてもやる気は1mmも湧いてこないのだが。
っつか、今の時刻昼ちょっと過ぎやぜ? 日が落ちるまでって……5時間くらいあるんだけど? そんな地獄の鬼ごっこある? 長引くようなら、俺途中でサボタージュするで? そんな拷問みたいな事に付き合う程のやる気は無いし。
そんなやる気の無さが相手にも伝わったのか……って、まあ、そもそも隠そうとしてないしな……ともかく――――そんな俺の態度を見て、口を塞がれていたエアが、イグニスの手からヒョイッと逃れる。
「それじゃあさ♪ そっちが勝ったらコレも持って行って良いってんならどう♪」
そう言って自分の肩に引っかけいる日本刀を少しだけ揺らして見せる。
それに反応したのは、俺――――ではなく、隣のイグニスだった。
「おいッ! それは、王の命により探し出した物!! つまり、王の物だぞ!?」
「分かってる分かってる♪ でも、やる気ない状態でやったって意味無くな~い♪」
「それはそうだが、神剣を軽々しく渡して良い訳があるか! いや、神剣でなかったとしても、王の剣を許可も無く渡して良い訳がない!」
火が付いたような怒りだった。
ギリギリ理性で抑えているが、あと一歩何かがあれば、今すぐにでもエアに襲い掛かりそうなヤバい形相をしている。
今まで口数の少ないクール系な奴かと思ったら、一瞬にして沸騰した。その怒った顔は、正しく火の象徴たる“火の大精霊”のそれだった。
「そんなに怒らないでよ♪ ここは任せてって♪」
イグニスの怒りを、風が吹くように右から左にケロッと受け流す。
「と言う事でどうかな♪ さっきの会話で察してるかもしれないけど、ボクの持ってるコレは神剣の1本♪ 武器を必要とする君は、これが欲しいんじゃないかな♪」
横で鬼の形相のイグニスとは対象に、ニコッと無垢な笑顔を浮かべる。実際に“無垢”かどうかは相当怪しいが、見た目は確かに無垢に見える。
…………「武器を必要とする君」ね……?
まるで、俺がどう言う戦い方をして、今どんな状況にあるのかを全て知っているかのような言葉だな……。
正直、何もかも見透かされているようで気分は良くないが……確かに強い武器は欲しい。
神剣たら言うのが具体的にどう言う物かは分かってないが、神の字がついていて“ハズレ”って事はないだろうし。
こっから先、最古の血とどこで戦闘になってもおかしくないって事を思えば、こっちの手札も戦力も増やしておくに越した事はない。
「(そっちには大事な物らしいけど、本当に良いんだな……?)」
「良いよ、持って行って♪ 勿論、勝ったら、だけど♪」
イグニスが親の仇を見るような目でエアを見ているのは無視して良いんだろうか?
……いや、睨んではいるが、何も口を挟もうとしないって事は一応納得したって事で良いんだろう。多分。
よぉーしッ!! 滅茶苦茶やる気出て来たぞ!!
現金な野郎だと思われても仕方ないが、人間だって単純なものだろう? 目の前に人参ぶら下げられれば走り出しちまうのだ。
「(オーケー、そう言う事なら本気でやらせて貰う)」
「うんうん♪ そうでなきゃね♪」
言いながら、不満そうな顔のイグニスの腕を引っ張って俺から距離をとる。
10m程離れた所で振り返り、軽く手を振る。
結構遠く見えるが、俺なら一足飛びだ。
だらだら長引かせても良い事無いし、先手必勝で速攻捕まえる! ……そう言えば、「捕まえる」ってどっちか片方か? それとも両方か? ま、片方捕まえてみて、止まらないようならもう片方もとっ捕まえる感じで。
「じゃあ、始めるよ~♪」
「(おう)」
「ヨシ!」と、先手をとってダッシュしようとした瞬間――――風が吹き荒れた。
「ミッ!?」
見えない壁が前から襲ってきたような錯覚。
どんなに強くなっても、この子猫の体の“軽さ”だけはどうしようもない。
軽いって事は、当然吹っ飛びやすいって事でもある。つまり、強風は大敵でござる。
踏み出そうとしていた足を、その場で砂地に打ち込むようにして踏ん張る。
「ほらほら~♪ 動かないとボク達を捕まえられないよ~♪」
にゃろぉ……! 煽ってくれるやんけ!!
俺が強風の中で動けないかと言われれば、断じてそんな事はない!
【我が力は生贄の上に】――――ガチガチの戦闘をする訳じゃないし、そこまでレアリティ高いアイテムを消費する必要はねえか。とりあえず毎度おなじみ鉄の剣1本で。
収集箱内の鉄の剣のストックが1つ消費され、俺の身体能力値が急激に上昇する……いや、“急激”って程でもねえか? まあ、それなりに、だ。
だが、これで――――十分!
グッと力を込めて踏み出す。
風の壁を切り裂いて跳ぶ。
筋力に物を言わせたなどと思わないでほしい。いつの時代だって力こそパワーなのだ。…………いや、違う。力こそ正義なのだ。
しかし、流石風の大精霊が起こした風。
俺の跳び出しのパワーとスピードが、2mも進まないうちに殺されて減速する。
「ミャゥ……」
しんど……。
いつもなら軽く10mは跳べる踏み出しだったぞ!?
っつか、風強過ぎて呼吸が上手くできねえしよぉ!
イライラしつつ、減速した体を【空中機動】で作った見えない足場に着地させ、すぐさまそれを蹴って前に跳ぶ。
「イーグニース♪ そろそろ、むくれてないで仕事して~♪」
「ふん」
風の向こうで、イグニスが不満そうな顔で手を一振りするのが見えた。
瞬間、目の前が真っ赤になる。
―――― 炎の壁
巨大な、津波のような炎の塊が、風に乗って襲い掛かって来る。
「(クッ――――!?)」
凄まじい熱量。
さっきの熱の塊も相当だったが、アレの比じゃない。倍――――いや、下手すりゃ3倍くらいの熱を出してるんじゃないのか?
なんたって、ある程度の属性なら無効に出来る俺が「熱い」と感じている。
さっきはレティ達が居たから手を抜いていたのか、それともただの挨拶だからだったのか、それは定かではないが、これが火の大精霊の本領って事かよ……!
っつーても、全然本気出してるようには見えねえのが腹立つけどな!!
いや、色々考えてる場合じゃねえ!
このまま炎の壁に突っ込んだらこんがり焼けちまう!?
対応しろ!! 俺!!
【属性変化】で装備中の防具全ての属性を書き換える。
『【属性変化】により、付与属性を“火”に変更します』
『【エレメントブースト】により、属性値をプラス補正します』
あ、属性変えるなら全属性内包してる“虹”でよかったか? いや、良い! ともかく目先の危険さえ回避できればオールオッケー!
赤く分厚い壁に突っ込む。
アッツ……! けど、毛が焼ける程じゃない、耐えられる!
2秒と経たずに炎の壁を抜ける。
「(おいっ、危ない事はしないんじゃなかったっけ!?)」
「してないよ♪ 君がちゃんと強ければね♪」
言うてくれるやんけ、この幼女!!
「もし怪我したり死んだりしたら、お前が弱いのが悪い」ってか?
上等じゃオルァッ!!
こちとら、雪だるまみたいな体型の化け物に転がされて絶賛ストレス値マッハ中だっつーの!!
やったろやないかいッ!!




