12-13 余計な一言
「ぶ、ブラウン大丈夫なんです!?」
慌てて俺を抱き上げようとするレティの手からスルッと逃れる。
……いや、俺が抱かれるの嫌がったからって、そんな親が死んだような絶望的な顔をせんでもええやろ……。
あの2人組が俺を狙ってるんだから、俺を抱っこしたらレティが危ないんだよ。
「(大丈夫、ちゃんと捌いたから)」
あっ、ヤベ……剣の勇者が護ってくれたとか誤魔化すべきだった。
っつか、あの速さなら見えてないと思って、レティの前で結構ガッツリ戦っちまったしな……? 後で適当に誤魔化しておこう。
「(そんな事よりゴメン。どうやらこの変な2人は俺の客みたいだ)」
「ブラウンの……? いったいあの方達に何をしたんです?」
「(さてね? 恨みなんざ売られた覚えもねえのに、方々で買ってるからねぇ……どれが当たったか俺にも分からんわ)」
まあ、恨み買ってんのは、正確に言えば猫じゃなくて剣の勇者(偽)だけど。
俺の方を狙って来てるって事は、こいつ等は俺の正体に気付いてるって事で良いのか? ……だとすりゃ、やっぱこの2人……そうだよな?
いや、とりあえず全部一旦横に置いておこう。
今はレティ達をこの場から逃がすのが最優先だ。
「(コッチの事情に巻き込んで本当にゴメン。後はコッチで話付けるから先帰ってて)」
「でも……」
言葉を続けようとするレティを無視して【転移魔法】をレティに投げて、一緒に居るメイドさん共々強制転移させる。
レティとしては何とか残ろうと言葉を出そうとしたのだろうが、この場に残れば危ない目に遭うのは目に見えている。
息抜きに来た海で怪我なんてさせたら笑い話にもならん。
レティはきっと怒っているだろうが、帰ったら頑張って謝って説明する事にしよう。
「もう良いかな♪」
幼女がニコニコと仮面のような笑顔で言う。
レティ達と逃がすのを邪魔する様子はなかったし……それどころか、「さっさと逃がせ」と言わんばかりに待っていたように思える。
って事は、こいつ等が用があるのは俺で確定だろ。
「(待たせたな……っつっても、俺の言葉分かってんのか?)」
「勿論♪」
当たり前のように答える。
男の方も小さく頷く。
だが、そのまま襲ってくる――――なんて事はなく、俺が何かアクションを起こすのをまだ待ってる……のか? まあ、待ってるなら待ってるで丁度良いや。
俺の言葉が分かるってんなら、さっきのレティとの会話も聞かれていただろう。
「(恨みを方々で買ってる、と言ったのは嘘じゃない。実際、魔族にも人間にも恨まれる理由があるからな?)」
魔族は俺が魔王を狩って回ったから、人間に関しては……まあ、小さい物から大きな事情まで色々、かな?
「ふんふん、それがどうかしたの♪」
「(恨みは買ってる――――が、大精霊に恨みを買った覚えはねぇんだが?)」
2人が「ヒュ~」と言いたげに(実際は言ってないが)口をとんがらせて顔を見合わせる。
俺に視線を戻すと幼女の笑顔が少しだけ薄れ、童顔無口男の視線が、若干、若干だが……嬉しそう? いや、楽しそうな色を帯びる。
「良く分かったね♪ 気付かせるつもりはなかったんだけど♪」
「(コッチは大精霊とのエンカウント3回目やぞ? いい加減気付く)」
大精霊の気配は独特だからな?
魔王やらの強い奴の気配ってのは、大抵向き合った時に前から押してくるような感じなのに、大精霊の気配はその場の空気全体が圧し掛かってくる感じ?
……なんか、説明したら、ちゃんと自分が感じてる事を言語化出来てるのか自信が無くなったわ……。
「ああ、そっか♪ アクアとテラにはもう会ってるんだっけ♪ この前テラと会った時にそんな事を言ってたような♪ 言ってないような♪」
「言ってた」
「うん、言ってた言ってた♪」
さりげなくボソッと赤髪が喋ったな?
顔は童顔のくせに、声がめっちゃ渋くてイケオジっぽいんだが……正直、俺も40代になったらああ言う声にならないかしら? …………無理か、猫だしな。
「正体バレてるなら名乗ろっか♪ ボクは、人間の言うところの“風の大精霊”エアだよ♪」
「同じく、“火の大精霊”イグニス、だ」
これで水、地、風、火……大精霊全員と会った事になんのか?
いや、っつーか、大精霊って本来人前にあんま姿を見せない存在なんじゃなかったっけ? 俺の気のせいか? 気のせいだなきっと、うん。
いやいやいや、そんな事より――――。
「(なんで御宅等は人間の姿してんの? 前2人はもっと天然自然みたいな姿してたのに)」
「ボク等は精霊だもん♪ 形なんて有っても無いような物だし♪ ねえ♪」
「そうだな」
言いながら幼女――――エアが右手を俺に向かって差し出すと、糸が解けるように右腕が緑色の光の塊になる。
マジか。マジだな。
自分で指摘しといてアレだが、本当にコイツ等は大精霊らしい。
精霊ってのは、極端な事を言ってしまえば自然エネルギーの塊に意思が宿っている存在だ。だから、形は関係ない……まあ、言われてみればその通りか。
「アクアだってテラだって、なろうと思えばこんな風に人間の姿になれる筈だよ♪ まあ、ボク等と違って必要ないからやらないだろうけどね♪」
……ん?
「(今の言い方だと、お前等2人は人間に化ける必要が有ったって聞こえるんだが?)」
俺に突っ込まれて、エアが「あっ」と“やっちまった”表情をする。
それをジト目で見ていたイグニスが、ボソッと「余計な一言」と追い打ちをかける。
まあ、本来人間世界に不干渉の精霊が、わざわざ人間に化けているって時点で相当怪しい。怪しいっつーか、ダメじゃない? 俺の頭の中では、プロテクター着けた審判が全力で腕をガッてしながら「アウト!!」とコールしているんだが?
「ま、まあ? 別に隠すようなやましい事してないしぃ!」
誤魔化しているが、歌うような口調が出来なくなってる辺り、ゴリッゴリに焦ってるんだろうな……。下手に突っ込まん方が良い話か? 別にそこまで興味ある話でもねえしな?
「だいたい、アクア達は王の“神剣”を預かる役目で、ボク達は残り3本を探すのが役目なんだから、情報収集に人間の世界に紛れるのは必要な事だしぃ!」
「(しんけん……?)」
真剣……じゃないよな? 親権……いや、冗談はさておき、多分だが神の剣って書いて神剣って事なんだろうけど、そんなん聞いた事もねえんだけど?
名前から察するに聖剣、魔剣より更に上のレアリティの武器っぽく思えるけど……俺の手持ちにはそんな大層な肩書の剣は無い。
まあ、旭日の剣が“神器”だから、同じ神の字が入ってるって事で同格っぽく思えるけど、別物……っつーか別枠? だよな?
……いや、それ以前に神剣を探してるって事は、2人が担いでる大剣と刀がそうなのか? 確かにただならぬ力を纏ってるしな?
瞬時に頭の中でそんな思考が過っている間に、イグニスが再び「余計な一言」と静かにツッコミを入れている。
「(で……神剣って何さ?)」
エアが何か言おうと口を開きかけるが、一音目を発するよりも早くその口をイグニスの大きな手が塞ぐ。
「ふぁふぃふんふぉ!」
「お前は要らん事言うからもう喋るな」
なんだろうな? この安定の漫才感は……。
きっとこの2人は、数十年、数百年ずっとこんな感じなんだろうな? 知らんけど。
「神剣の話は一先ず横に置いといて――――アクアとテラに会ったのなら、俺達がどうしたいのかは分かるな?」
「(自分達ですら良く分かってない、なんか凄気な光るパワーをくれる)」
「そうだ」
自分達も正体良く分かってないって認めちゃっとるやん!?
いや、まあ、先の2人も分かってなかったから、この2人が分かってるとは1mmも思ってなかったけどね?
アクアもテラも、なんやかんやと理由をつけて光る玉を押し付けて来たけど……なんでだろうな? 大精霊にはそう言う決まりでもあるんか?
「(大精霊はなんでアレを押し付けようとするんだ?)」
「欲しいだろ?」
「(いや、別に要らんけど)」
「…………」「…………」
……いや、2人揃って「え? そんな事言われても……」みたいな困惑顔を向けられても俺の方が困るんだが。
「欲しいだろ?」
「(いや、別に)」
「欲しいよな?」
「(いや……)」
「欲しいんだよ?」
…………なんで「はい」を選ばない限りストーリーが進行しない感じになってんの? 「いいえ」を選んだルートを用意しといてくれよ……。
「(…………欲しい、かな……)」
「そうだろうとも!」
なんで受け取る俺の方が折れてんだろうね……?




