12-11 な~つやすみ~……なんて猫には無い
明けて翌日――――。
レティの外出許可は結構あっさり出た。
王様や王妃様も、近頃の――――と言うか城に戻ってからのレティは無理をしているようだと危惧していたようで、コチラからの提案は初めから肯定的だった。
とは言え、国中がてんやわんやしている情勢で姫が気軽に出歩ける訳もない。
まあ、こんな時に海に居るのを人に見られても「近海の調査」とか適当な言い訳で押し通せるかもしれないが、純粋に魔物や野盗に襲われる……と言う点は中々に面倒な問題だった。
いや、ごめん嘘だ。
「剣の勇者が護衛に付きます」って言ったら秒で「じゃあ大丈夫だな」ってなったわ。
この国の王族からの信頼感が半端じゃない……。
……まあ、レティ付きのメイドさんがかなり怖い目で「私もお供します」って言いだした時はどうなるかと思ったが、レティもメイドさん一緒の方が安心するし、結果的にはこれで正解だろう。
常日頃勇者の肩書のデメリット背負ってんだから、偶には勇者の名前で楽させて貰わんとね?
* * *
見渡す限りの青い海。
見上げれば、遮る物が何も無い青空を白い雲が気持ち良さそうに泳いでいる。
潮風に撫でられ、木々が歌うように鳴いている。
あ、今のちょっと良い感じのポエムじゃない? 人に聞かれたら恥ずかしさで死ぬかもしれんけど。
まあ、ともかく……ビーチですよビーチッ!!
おっさんとの修行で来ていた時とは違う!! あんな男臭くない!! なんたって今は女子と一緒!
ビーチで女子と一緒とくらぁ、そらお前、アレだよアレ!! アレしかねえべや!?
青い空、白い砂浜、照り付ける太陽!
はい、その次に来るのは何ですか!? 何ですか!? はい、答えて御覧なさい!
焼きそばとかき氷? 腹ペコちゃんは飯食ってこい!!
水泳とビーチバレー? ちゃぅやろがぃガキンチョ!
ナンパをするチャラ男? 頭の病院行ってこい!!
はい、正解はとーぜんっ、女子の水着ですね!
「どうしたんです? なんだか鼻息が荒いですよ?」
と俺を抱いているレティが少し心配そうに声をかけてくる。
その姿は、ドレスではないものの、そこら辺の村娘のような服装で肌は隠している。
「……? なんでジッと見るんです」
ま、知ってたけどね。
この世界に水着の文化が無い事くらいとっくの昔に知ってたけどねッ!!(血涙)
悔しくないし!! 全ッ然悔しくないし!! 悲しくもないしぃ!! 知ってたし!! こうなるのは知ってたし!! そもそもレティの水着見たさに海に連れて来た訳じゃないし!! 水着なんて見れなくたって全然構わないし! 不純な気持ちなんて猫の爪の先程も無かったし!!
「なんで泣きそうな顔するんです……?」
「(泣きそうになんてなってないし……)」
「そうです?」
「(そうです)」
馬鹿な事考えてないで、今日は接待モードで行くか。
海に来た1番の目的はレティの息抜きだしね?
まあ、レティだけじゃなく、俺自身も色々精神的にまいってたから癒しを求めてたってのも有るけど。
「(そんな事より、初めて海に来てどうよ?)」
訊いてみると、レティはキラキラとした普通の子供のような瞳で海を見る。
聞くまでもない事だった。
「とっても、とっても大きくて綺麗です!」
子供のような感想を漏らす。
ま、人間、本当に感動した時の語彙力なんてこんなもんだ。
さっきまで俺の事を心配していた顔は海を見て一瞬で吹き飛び、空で輝く太陽にも負けないような笑顔を浮かべる。
これだけの笑顔を見せられると連れて来た俺も嬉しくなる。
後ろで何も言わずに付いてくるメイドさんも無表情を装っているが、レティの嬉しそうな姿に口元を少しだけ緩めている。
「(ん、なら良かった)」
「剣の勇者様にもお礼を言わなきゃいけませんね!」
言って辺りを見回すが俺達以外の誰もいない。勿論、金ぴか鎧もいない。
メイドさんも目尻を上げてギラッと鋭い視線を辺りに向けるが、当然何もいない。
ちなみに、このビーチはアルバス境国……いや、“元”アルバス境国の領内。
流石に馬車や徒歩では来られないので、当然来る時には転移に物を言わせた。
近くに魔力溜まりが無かったので、どこで●ドアこと転移門は使えず、仕方ないので自前の【転移魔法】でレティとメイドさんをここまで連れて来たのだが、流石に猫が魔法を使う訳にもいかん。
はい、どーする?
決まってますね。金ぴか鎧の出番ですね。
丁度今回の“ピクニック”の護衛をする予定だったし、剣の勇者(偽)なら魔法の1つや2つ使っても怪しまれない。
で、竜宮城に案内する亀のように金の鎧に連れられてビーチに来たって訳です。
まあ、当の“亀さん”はビーチに着くなりさっさと引っ込めてご退場願ったけど。いや、だって出しておくとレティが緊張するし、メイドさんの目つきは人殺しになるし……。
「勇者様、本当にどこに行ってしまわれたんです?」
「(心配しなくても近くに居るよ。何かあれば助けてくれる)」
嘘は1つも言ってないし。
近くにいるし、何かあれば助けるし。
「毎度姿を消して姫様に近付くなど……なんと破廉恥な輩か! やはり勇者など信用なりません!」
剣の勇者を探してキョロキョロしていたメイドさんが、警戒する顔のまま、レティとの距離を一歩分縮める。
本当にえらい言われようである。
どんだけ勇者嫌いやねんこの人。いや、知ってたけどね? いい加減知ってますけどね?
「ネリア、ダメ。勇者様はきっと私達に気を遣わせない為に姿を隠して下さっているのだわ」
はい、正しい。流石レティ! とっても良い子! 賢い! 可愛い! 良い匂い!
「申し訳ありません」
全然「申し訳ありません」な顔してないの凄いと思う……。
いや、良いけどね? この人がどんだけ勇者嫌いでも、俺が勇者じゃないから全然ノーダメージだから良いんだけどね?
「勇者様が折角気を遣って下さっているんですもの、しっかり海を楽しみましょう」
メイドさんは楽しむ為じゃなくて、レティの世話をする為に付いてきたのでは? とツッコミを入れるのは無粋ですな。
メイドさんも俺と同じ事を思ったようだが、ニコニコと嬉しそうなレティには何も言えず、何とも言えない微妙な顔をしながら曖昧に頷く。
本当レティにはだだ甘だなこの人……。
「さぁさぁ、波打ち際まで行ってみましょう」
ウキウキと俺を抱いたまま歩き出すと、足場の悪さを思い出したメイドさんが素早く並んでレティの手を取る。
「姫様お気を付け下さい」
「ええ。ありがとうネリア」
「ミィ、ミャァミ?」
本当、気を付けろよ?
元の世界のように、ガラス片や空き缶がそこらへんに落ちてるってこたぁ無いけど、鋭い貝殻や石は当然のように転がってる。
海から這い出て来た魔物なら俺がどうとでもしてやれるけど、足を取られて転んだ先に危ない物が落ちていました――――なんて展開は、流石に俺でも対処のしようがない。
「分かってます分かってます~」
全然分かってねぇなこの子……この場はメイドさんのエスコート力を信じよう。
歩き辛そうに、だがいつもより早足で波打ち際まで来ると、寄せては返す波に「ふわぁっ」感動とも喜びとも思える黄色い声を出す。
「ほらほら! 海ですよ! 本物の海なんです!! ブラウンもネリアも見てるんです!?」
「はい、大変美しいですね」
「(海以外に見える物無いんだから、嫌でも見えるっしょ……)」
俺がまぜっかえしても「そうですよね」と海を見つめるレティ。いつもなら「どうしてそう言う事言うんです!」つって頬を膨らませるんだが……相当海がお気に召したらしい。
興奮のせいか、俺を抱く手もいつもより若干温かいしな。
良い感じに気分転換できたみたいで良かった。




