12-10 そうだ●●に行こう
まあ、魔神の事はさておき――――だ。
今は目先の心配だろう。
「(3日後くらいに野郎が話をしに来るらしいけど、それはどーすんべ?)」
素直に話に応じるか、応じる振りしてぶん殴るか、無視して逃げるか。
2つ目は論外として、3つ目もなぁ……逃げたところであっさり捕まえられそうな気がする……。そもそも怒って戦闘にでもなったら目も当てられんし、これも却下だろ。
だとすれば、素直に話に応じるしかない。
とか何とか、真面目に話をしようとしても、俺の言葉を分かってるのはバルトとおっさんの2人だけなんだけども……。
空気を読んで、バルトが俺の言った事を訳してくれる。流石出来た弟子、俺には勿体ない。
「3日、経つ、来る、言う、ました。どう、する、ですか?」
「戦って勝てないとなれば、相手の言うように素直に話し合いに応じるしかないでしょう?」
冷静に言うアザリア。
膝で香箱座りしてる俺を撫でまくってるのは、メンタルケアなのだろうか? ……いや、コイツはいつもこうだな……。
「もしもの時を考えて、私たち全員で――――」
「いや、デイトナ殿とは剣の勇者と我とバルトの3人で会う」
「ミッ!?」
おっとぉ!?
何を言い出しているのかしらこの赤鬼はぁ!?
そら、荒事になるのなら俺等3人で良いけど、話をすると言うのなら口の回る人間がいる方が良いに決まっている。
おっさんもバルトも、どう贔屓目に見ても舌戦ができるってタイプじゃない。って事は、俺等3人で話すとなると、俺が頑張らないといけないって事になる。
なんでだよ!?
正論パンチマンのアザリアと口八丁のシルフさんを同席させて俺に楽させてよ。
と言うのを視線で訴えかける。
すると、おっさんが若干呆れたような、それでいて若干怒ったような視線を返してくる。
なんじゃいその視線は? いや、いい加減付き合い長いから(約2週間)、以心伝心で何を言いたいのかはすぐ分かる!! サッカー日本代表張りのアイコンタクトですぐ分かるから!!
おっさんが言わんとしている事は――――「誰の為だと思ってる!」かな?
誰の為? え? 誰? 俺? 俺かぃ? 俺なのかい?
「でも、皆で行った方が……」
「いや、デイトナ殿は珍しい物や事象に興味を持つ御方だ。戦いではなく話し合いを選んだのは、恐らく我等3人の特異性に興味を持ったからだと思われる。ならば、余計な者はいない方が良かろう?」
「まあ、そう…………なのかもですけど……」
特異性……か。
バルトは史上初の半魔にして勇者、しかも珍しい精霊付き。SR枠。
おっさんは元魔王にして勇者と言う唯一無二の存在。SSR枠。
俺は――――まあ、言わずもがな。魔神認定されたしな……実際は違うけど。
俺等3人の中で1番興味を持たれているのは、間違いなく俺だろう。だとすれば、俺が話す事が多くなるのは十分予想できる。
けど、おっさんとバルト以外の人間が居ると俺が話しづらい……っつか、話せない。
ああ……だから、おっさんは俺等3人で行くって言ったのか。
なるほど、賢い! 流石おっさん! 流石元魔王序列4位!
…………はいはい、手の平ドリルですいませんね。
「でも……大丈夫なんですか?」
アザリアのみならず、双子やシルフさんも心配そうな顔。
まあ、心配でしょうね? 俺も心配です。
バルトもどこか不安そうな顔をする中、おっさんだけが平然としている。
大丈夫? その顔ハッタリじゃない? ブラフじゃない? 本当は内心ビビッてない?
「まあ、大丈夫だろう。何度も言うがデイトナ殿に戦闘意思は無いようだし、余程の事でも無ければ戦闘にはならん」
……微妙に変なフラグおっ立ててる気がすんのは気のせいか? 気のせいって事にしておこう。
こう言うのは気付かない振りをしておけば、意外とフラグがポッキリ折れてたりするもんだし、うん、多分、きっと、信じれば、うん、そう言う訳で聞かなかった事にして流そう。
「それに、デイトナ殿が来るまでは3日は有る。その間に出来る限りの準備はしておく」
準備て……何をどう準備するつもりなんだろう? 多分だが、特に思いついてないなこの鬼……多分だけど。
そもそも、どんな準備したって無駄に思えるしな……。
俺が冷めた事を思っている間も、皆は“準備”を真剣に受け取ったらしく、シルフさんが真剣な顔をして訊く。
「何か手伝える事は?」
「うむ……」
いや、「うむ」って真剣に考える振りしてっけど、何も思いついてないだろ……。
やっぱ、特に準備する物考えて無かったやんこの鬼。
「いや、良い。我が言うのもなんだが、アルバス境国からの受け入れからこっち、まだまだ各地で問題が起こっている。それぞれにやらなければならない事が有るだろう?」
「それは、まあ……」
こうして今集まっているのだって、各地が落ち着いたからっつっても、一段落したってだけでそれで終わりじゃないしな? 問題なんてどこからでも湧いてくる物だし。まだまだやる事なんて山積みだし。もう暫くは皆忙しかろうよ。
「だろう? こちらの事は気にするな。我はデイトナ殿と知り合いだし、剣の勇者も居る。心配するような事にはならん。今は各々がすべき事をするべきだ」
「ミィ」
ごもっとも。
デイトナの事を抜きにしても、そろそろやっておかないといけない“すべき事”が俺にも有るし。
納得したんだかしてないんだか、アザリア達が渋々……本当に渋々と頷く。
まあ、そんな訳で3日だ。
3日間の猶予……と言うべきか、3日だけの落ち着いた時間と言うべきか。
まあ、落ち着いてられるのは猫の俺くらいで、本物の勇者諸君は色々忙しく動き回るのだろうが――――。
* * *
「(っつー訳で、海行こうぜ)」
アザリア達と別れてから10分後、場所は移って俺の居候するレティの部屋。
“お勉強”から帰って来たレティにこのセリフである。
どう言う訳って? そう言う訳である。
「お帰りなさいブラウン」
久方ぶりに会う俺を抱っこしながらギューッと抱きしめる。
相変わらず花のような匂いのする子やねぇ……。
子豚から戻ったばかりの頃は細過ぎて大丈夫かと心配になったが、近頃はちゃんと食べているようで、ちゃんと肉がついてきてちょっと安心している。
まあ、それでも一般的な女性よりも細く見えるけど。
「(ただいまレティ)」
一応家主への礼儀としてニャァニャァと頭を擦り付けて挨拶しておく。
「相変わらず、どこかへ行くと中々戻ってこないんですから!」
ぷりぷり怒りながら、俺を抱きしめる手に力が入る。
もう2度と放さないくらいの勢いで抱かれるのは、嬉しいような怖いような……。それだけ俺が居なくて寂しかったって事か……。
レティは人前だと出さないようにしてるけど、根っこの部分が“寂しがりや”の“甘えん坊”だからな……。
まあ、猫の俺やメイドさん相手だと全然隠さないけど。
とは言え――――メイドさんは王族と仕える者の線引きしてるから、甘える対象が自ずと身分の関係ない猫に向く訳で……。
俺も出来れば甘えさせてやりたいし、ずっと一緒に居てやりたいんだけどね?
……甘える云々言っといてなんだが、傍目に見れば甘えてるのは抱っこされてる俺の方か……うん、まあ、自分子猫ですから。
「(色々忙しくてねぇ)」
「猫なのに、です?」
「(猫なのにです)」
「です……。あっ、でも、さっき海に行こうって言ってたです!」
「(うん。一段落ついたから)」
本当はあんまりついてないけど、俺がサボタージュする分は本職勇者の皆様に頑張って貰うと言う事で。
いや、違うから、押し付ける訳じゃないから。人と人の間に入って仲裁するような仕事は、喋れない俺には不向きだってだけだから。もっと俺向きな仕事の時に皆の分も一杯働くってだけだから。
……まあ、俺向きの仕事が有るのかどうかは知らんけど……。
「……でも、今は行けないです。だって、国中大変なんですよ?」
まあ、そらそーだわね。
他所から来た勇者があんだけ働いてんのに、国のトップである王族が暇してるなんて有る訳ない。と言うか、こんな時に暇してたら間違いなく玉座から引き摺り降ろされる。
「こんな時に私が海に行くなんて許されません」
少し寂しそうに、そして、とても残念そうに言って俺を机の上に降ろして、レティはドレスに皺を作らないように気を付けながら座る。
「(そりゃそーだけど、レティずっと城から出てないだろ?)」
「そうですけど……」
元々豚の姿で軟禁されていて外に出ていなかったのに、今は今で色々あって中庭にすら自由に出る事も許されてないみたいだし、多少は外に出なければ体が腐る。
いや、腐りはしないか……。これで腐るんだったら、現代日本の引き籠りが残らず腐ってそこらじゅうで異臭騒ぎが起こる。
「(たまには外出ないと病気になるぞ)」
「それは……困りますけど……」
レティの「困る」は病気で苦しいのが困るんじゃなくて、レティを看病したり心配する皆を困らせるのが「困る」んだろうな、多分。
「(それに、海行くって言ってものんびりバカンス決め込むって訳じゃないよ。ちょっとお散歩してお弁当でも食べたらすぐに帰って来るつもりだし)」
「でも……」
「(俺としても、いい加減レティを外に連れていくって約束果たさないと心苦しいしな)」
「……一応……一応ですよ? 一応お父様達に相談してみますけど……」
押しに弱い人は感情に訴えかけろと昔の上司が言ってました、はい。
こう言う時、無意識に話術でイニシアチブ取ろうとしちまうのは悪い癖……っつか、職業病だな……。
本当、つくづく思う。
猫になっても人間性の悪さは変わらんな、と。
……まあ、でも、こうやって悪人が無理にでも連れ出さないと、本当にこの子は籠の中から出る機会が無いからな。
レティは人一倍周りに気を遣って自分を殺すから、どこで心や体のバランスが崩れるか分からない。
なんつーか、女の子に言う言葉ではないが“不発弾”みたいな怖さがある。
だが、体や心がどうにかなってからでは遅い。
少しでも羽を伸ばしてリフレッシュしてくれるなら、無理にでも外に連れ出す悪党だって必要でしょう。




