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12-9 別にコッチのせいじゃないですし……

 勇者6人+猫1匹+空っぽの鎧1つの朝食が終わりに差し掛かった頃、おっさんが先程あった事を皆に話した。

 で、アザリアから発せられた言葉が、


「何やってるんですか……」


 だった。

 ……いや、気持ちは分かる。大いに分かる。

 境界戦争が終わって半月も経ってねえってのに、今度は序列3位の魔王とやり合うなんて正気ですかっつーの! 大丈夫です、ちゃんと正気です。

 でも、別にコッチから仕掛けた訳じゃねえし。アッチが勝手にやって来て、勝手に喧嘩売って帰ってっただけやし。俺等は悪くないし。言ったら、道歩いてたらチンピラに絡まれたくらいに俺等悪くないし。


「一応言っておくが、我等が好き好んで挑んだ訳ではないぞ? やらざるを得ない状況だった故に戦っただけだ」


 バルトが「うんうん」と頷いている。

 そして俺もアザリアの膝の上で「うんうん」と頷いている。

 ついでに俺の意識に反応した金の鎧も頷いている。

 2人(と1匹)が揃って頷いているのを見て、アザリアが深めの溜息を吐く。


「大きな戦いを超えたばかりなんですから、もう少し落ち着いて欲しいんですが……」

「いや、だから我等が望んで戦った訳では――」

「分かってます。今のは自分への愚痴ですから忘れて下さい」


 平静を装った声で言っているが、膝の上の俺を撫でまくって精神を正常に保とうとしている辺り、内心は相当不機嫌じゃない?

 まあ、次から次に問題がやって来る事のストレスは、俺も元の世界で嫌という程経験したから何も言わんけど。


「兄様達3人がかりで勝てないとなれば、もう現状での対処法は無いでしょう。幸い、魔王デイトナは積極的に戦う意思は無いらしいですし、暫くは“戦わない”事が対処法という事で。もし戦いになったら逃げる……で良いですね?」

 

 全員が同時に頷く。

 まあ、逃げたところで逃がしてくれるかどうかは別問題……という事は置いといて。

 最古の血(エンシェントブラッド)に勝てないのは全員の共通認識。そのうえで、強めの果実酒を飲んでいたシルフさんが、落ち着いた口調で痛いところを突く。


「戦わないって選択肢は全面的に賛成だが……いつまで逃げ回るんだ? まあ、俺としては危険に首突っ込まなくて良いってんなら、ずっと逃げ続けで構わないが」


 まあ、そうね……? 結局はそこだ。

 勇者の最終目標が“魔族の手から世界を取り戻す”である以上は、魔王は全て倒さなければならない。

 “逃げ続ける”という選択肢は、勇者には許されない。

 だが、勝てないものは勝てないのだからどうしようもない。

 はいはい、詰みだ詰み!

 空気の読めない俺でもわかる。食事で緩くなっていた空気が、ズシリと岩のように重くなったのを。

 そんな空気を読んだのか読んでないのか、おっさんが食べ終わった皿を纏めながらポツリと呟くように言う。


「最古の血の御方々と戦う為には、コチラもあの方達のように“常識の通じない力”を手にするしかない」

「それは、そうかもしれませんけど……そんな力がホイホイ手に入るならこんなに悩んでないでしょう?」

「……そうさな。あの領域まで上り詰める為には、日々の努力のみならず、生まれ持った才能や優れた資質が必要だ。端的に言ってしまえば、“強さを得る運命”にある者でなければあの強さまで辿り着けん」


 まあ、もっともな話だわな?

 普通の人間に生まれるのと、おっさんのような強靭な肉体に生まれるのでは、最終的に辿り着く強さには当然差が出る。

 誰もが持っているマスタースキルだって、結局は生まれた時の能力ガチャ次第だ。

 俺だって、【収集家】なんて強スキルを貰ったからこそ子猫の体でも魔王相手に戦うことが出来ている訳だし。

 ……そう言えば、半年以上の付き合いになるけど、このスキルの名前結局分かんねえまんまだな……?

 まあ、本当の名前が分かったところで何がどうなるって訳でも――――……。

 ふと、八咫烏に言われた事が、まるで泡が水面に浮かび上がるように思い出される。


『お前がアイツ等と対等に戦えるようになるのは、ライブ……じゃない、神の与えたスキルの本当の名前(・・・・・)に気付いた後だろう』


 そう、そうだ! そうだよっ!! なんで今まで思い出さなかったんだッ!? アホなのか俺は!?

 あれは、逆に言えば、【収集家】の本当の名前が分かれば、最古の血(エンシェントブラッド)共と渡り合えるようになるって事じゃないか!?

 いや、いやいやいやいやいや、でも、名前が分かった事で具体的に何が変わるってんだ?

 うーん……能力的な制限が外れる、とか? だが、能力が強くなるって事は、同時に獣の鎖が解ける事を意味する。

 …………いや、違うな? 多分逆なんだ。

 “能力の制限が外れたから獣の鎖が解ける”のではなく、“獣の鎖が解けたから能力の制限が解除される”のだ。

 収集箱の中に獣の存在を感じるようになってから約半月……何となく分かった事だが、おそらく【収集家】の能力の“本体”は収集箱ではなく、そこに閉じ込められている“獣”の方だ。

 だとすると、スキルの名前が分からないのは“安全装置”のような物なのではないか……と勝手に推測してみる。

 獣が全力を出すと、間違いなく俺の意識が食われるて暴走する。

 それをさせない為に、俺の意識が“獣”に対抗できるようになるまで、敢えてそこ(・・)が封印されているんじゃなかろうか?

 まあ、俺自身が自己防衛の為に無意識にそうしているのか、それともスキルを寄越した誰かさんが俺の身を案じてそう言う設定にしているかは分からないが……。


「力を得る運命に生まれた、ですか。まるで魔神の歌ですね」

「ミィ?」


 うん?

 魔神って言いましたか? ちょっとその話、詳しく話してみんさいや。

 膝の上で立ち上がり、ミャァミャァ鳴いて催促してみる。


「ん? 猫にゃん聞きたいの?」


 アザリアが膝の上の俺を見下ろしてフニャッと顔を崩す。

 ……いや、今結構重要な話してっから、リーダー格がその顔してんのはまずかろう。


()の者は朝であり夜。彼の者は光であり闇。彼の者は空であり大地。彼の者は鉄であり石。彼の者は剣であり盾。彼の者は0にして1。彼の者は生まれ落ちた時より全てを手にしていた。されど渇き、世界の全てを求めずにはいられず――――ってね? 魔神って言う厄災の歌なんだよ?」


 バルトとおっさんが、周りに気付かれないように俺に視線を向けてくる。

 2人は、デイトナが俺の事を魔神って呼んだのを聞いてるからな……。しかも去り際にあの野郎に魔神認定されてんのも聞いてっし。

 それでも2人が詳しく魔神について聞いてこなかったのは、俺が「聞くな!」オーラをバンバン放出していたからだろうか……分かんないけど。

 あの2人なら、単純に気を遣って訊かなかっただけかもしれん。

 まあ、なんにしても、訊かれたところで本物の居場所は誰にもゲロるつもりはないから、俺が魔神について語れる事なんてほとんど無いけどね……。

 …………語れる事は無い。と言うより、語る程確信のある事じゃないから、決して他人には口にしないが、魔神についての推測が1つ俺の中で形になりつつあった。


―――― 魔神とは何か?


 俺と同じ姿をした子猫であり、俺と似たような能力を使う正体不明の存在。

 もし仮に、魔神と俺が“似た存在”ではなく“同じ存在”だとしたら? いや、勿論肉体と能力の話であって、こうして思考している中身――――“俺”の部分を抜きにして、だが。

 端的に言ってしまえば、俺の使っているこの子猫の体が、魔神(オリジナル)のコピー品や模造品の類ではないか……と言う話。

 であれば、魔神の中にも当然“獣”が住んでいた筈だ。

 んで、現在の魔神は何かしらの封印の中に閉じ込められている。

 ここで1つの推測。


―――― 魔神は“安全装置”の外し方に失敗し、暴走したんじゃないのか?


 だとすれば、意識が無くなって暴れ回るだけの害獣になり、あんな場所に封印されたのも頷ける。

 ……いや、まあ、全部俺の推測であって、全然まったくちっとも確証無いから、実際の魔神は全然別の理由で封印されてるのかもしれんけど。

 けど――――そう言う可能性があるって点は、一応心に留めておこう。もし仮に推測が的外れだったとしても、魔神と俺はどう考えても無関係じゃない。

 “俺も魔神になってしまう”と言う可能性が1mmでも存在しているのは、決して忘れないでおこう。


「魔神の歌か……初めて聞いたが、中々(おもむき)のある物だ」


 いや、趣は無いやろ。


「魔族にとって魔神は忌むべき者であり、語る事すら(はばか)られていたのでな? 正直に言えば我は魔神について何も知らん。漠然と人間や魔族の心の弱さを語っている物だと思っていたのだが――――そうではないらしい事をつい最近知った」


 言いながらアザリアに撫でられている俺をチラッと見る。


「魔族に拘わらず人間も似たような物では? 私も手に入った古い文献や記録は読めるだけ読んできたしたけど、魔神について詳しく語っている物は1つもありませんでした。さっきの魔神の歌だって、人伝(ひとづて)で聞いただけですし」


 アザリアが言うと、薄めた果実酒を傾けながらシルフさんが少しだけ気怠(けだる)そうに後を引き継ぐ。


「そう言えば俺も良く知らないな……? 子供の頃は『言いつけを守らない奴は魔神に食べられる』なんて言われた事があるが、具体的に魔神がどんな存在なのかって聞いた事ねえや」

「魔神と言えば」「厄災の象徴」「昔、お父……教父から聞いた」「世界で起こる厄災」「嵐、噴火、地震、津波、自然の災害も」「世界の裏側で魔神が暴れているからだと」「でも、何の証拠も無いとも」


 結局、人も魔族も、魔神について「何も知らない」って事じゃね?

 人間はともかく、魔族が何も知らないのは意図的に情報封鎖してるからだろう。多分。

 魔族側のトップである最古の血(エンシェントブラッド)の3人が魔神と直接会っているのに、何の情報も伝わっていないのは不自然すぎる。

 多分だが、最古の血の3人が自分達の負け戦を穿(ほじく)られるのが嫌で魔神に関する話を全部禁止にした、とか……まあ、そんな感じの話な気がする。

 でも、まあ、結果的には魔神の話が全く伝わっていないのは俺にはラッキーだったな?

 魔神の力の根底にあるのが俺と同じ【収集家(コレクター)】の能力だとすれば、今までの戦いで魔神の話から俺の能力を警戒されたり、対策されたりって可能性もあった訳だし。


「皆、話、逸れて、ます」

「「「「「……はい」」」」」

「……ミィ」


 珍しくうちの弟子が冷静なツッコミ役だった。



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