12-8 難しい話は置いといて……
戦闘力のインフレ。
俺が人生で味わった1番のインフレは、バランス調整をぶん投げたソシャゲのガチャだろうか……?
最初のガチャでは戦力1000くらいで強強キャラだったのに、1ヵ月たったガチャで唐突に戦力10万のキャラが出て来て、今までのキャラを全員産廃にさせたと言う、笑えば良いんだか泣けば良いんだが分かんない話だ……。
ぶっちゃけ、今の俺の状況は正しくそんな感じだと思う。
戦力1000のキャラを5凸しようが、レベルをマックスにしようが、他のキャラとのシナジーを組もうが、どうやったって戦力10万のキャラには勝てない。
それが現実。
多少強くなろうが、戦い方を工夫しようが、絶対に覆せない絶望的な戦力差。
……こんな時、ソシャゲであればガチャを回して新しい戦力10万のキャラを出せば解決するのだが……現実でこのインフレを突き付けられたらどーすりゃ良いのよ……。
* * *
最古の血の力を見せつけられ、3人揃って絶望的な気分になった……。
まあ、絶望感で気力が無くなろうが、いつまでもそこに野郎が揃ってへたり込んでいる訳にも行かず、沈んだ空気のまま街へ戻る。
ツヴァルグ王国を象徴する城。
俺にとっては帰るべき我が家……と言うと違うか……。まあ、コッチの世界での拠点だってのは本当だけども。
その荘厳な城を囲むように広がる王都は、いつも通りに人々が行きかい、朝ごはんを用意する美味しそうな匂いが辺りに漂っている。
俺達が街の外で結構ガチバチに戦っていたのに、全然騒ぎになってねえな……?
……いや、まあ、そうか。
俺等的には全身全霊を賭けるくらいの全力戦闘だったけど、実際は数分間あしらわれてただけだしな……?
初手の【ブラックホール】だって破壊力はヤバかったけど、音って意味なら全部吸い込まれて周囲には何も聞こえなかっただろうし。
ま、どの道、戦闘跡が見つかれば騒ぎになるんだろうけど、暫く猶予があるのは有難い。
おっさんの肩に揺られながら大通りを歩いていると、若干……ほんの若干だがおっさんが陰鬱そうな表情で訊いて来た。
「それで、どうするのだ?」
「(問題の先送りは良くないけど、今のところはそこまで敵対意思無いっぽいしデイトナの事は一旦置いとこうぜ……)」
野郎との戦いを考えたところで負ける要素しか浮かばないのだから頭が煮える。
現実逃避して考えないようにするのが精神の為だ。
……むっちゃ駄目な大人だな俺は。いや、だってしゃーないし……うん。
「いや、そこではなく。あの惨状をどう説明するのだ? 他の者は誤魔化せても、妹御等に何も言わぬ訳にはいくまい?」
「(たーしかーに……)」
「当然、事の顛末を話しておくべきなのだろうが、話せば必然巻き込む事になる。デイトナ殿は戦う意思が無いとは言っていたが、いつ気が変わって戦いになってもおかしくない。言いたくは無いが、妹御達では戦いにならんだろう」
それは大いに同感。
俺等3人で手も足も出ない相手だ、アザリア達じゃ秒殺されるのが目に見えている。
巻き込めないなら初めから知らせない方が良いんじゃない? って話か。
まあ、だが、“話さない”って選択肢は無しだろう。
バルトも同意見だったようで、強い口調で言う。
「言う、べき、思う、ます! 魔王、相手、勇者、無関係、違う、ます! 足手纏い、ちゃんと、分かる、して、貰う、べき、です!」
相も変わらず、コッチがたじろいでしまいそうになる程真っ直ぐな目。
時々、うちの弟子は「ヤベェ」って感じるくらいの目力で圧をかけてくんだよね……まあ、だが、バルトの言う事は正しい。
アザリア達は俺等が面倒見なきゃいけない赤ん坊じゃねえんだから、話は通しておくべきだろう。戦いが起きた時に巻き込むか否かは別の話として。
「(バルトの意見に一票)」
「うむ。ではそのように」
おっさんも特に黙ってるつもりは無かったっぽいな?
一応確認の為に訊いたって感じか。
まあ、実際に状況を説明するとなれば、俺は喋れんし、バルトは話すの得意じゃないし、必然的におっさんがする事になるからな?
さて……いつまでも陰鬱した顔で勇者が歩いてるのも雰囲気悪いし、話題変えるか。
「(いい加減腹減ったな。朝飯何食う?)」
「魚が食べたい」
「辛い、物、食べたい、です!」
揃って即答だった。
おっさんは相変わらず「完全肉食です」みたいな顔してるくせに魚好きだし、バルトは食事の自由が利くようになってから辛党に目覚めたらしいし、そして俺は肉が食いたいし。
朝飯食わずにおっさんのスパルタ式修練に付き合い、その後デイトナとやり合って……もうお腹ペコペコのクルぺッ●です。
「(ついでだから、アザリア達誘って朝飯にするべ)」
「うむ」「はい!」
* * *
「魚を食べよう」
席に着くなりそう切り出したのは、おっさんだった。
どんだけ魚食いたいんだこの鬼……。
おっさんは横にも縦にもでかいので、座られた椅子が可哀想に思えて来る。いや、ここはあの巨体に座られてもびくともしない丈夫な作りな事を褒めるところか。
おっさんの言葉に、対面の椅子に座ったシルフさんが、机をダンダンッと叩きながら即座に反論する。
「馬鹿野郎! でかい図体で怖い顔してて何を日和って魚食おうとしてんだ!? 男だったら肉を食え肉を! 俺は断固として肉が食いたい!」
「何を食べるにも見てくれは関係ないだろう。それに我は肉より魚の方が好きだ」
「何事もイメージってのがある」
「そんな事を言ったら、女子のお前は野菜と果物しか食えんのではないか?」
「だっから、違ぇよっ!? 俺は男だって言ってんだろ!? この説明何度目だよっ!?」
正確なカウントは知らんけど、俺の数えている限りだと8回目だと思う。
シルフさんは元男――――と言う話は、一応勇者全員に話している。だが、まあ、何度説明されても、あのバインバインの体では説得力無いんだろうなぁ……? この人中身はともかく、黙って佇んでれば御淑やかなお嬢様っぽいし。
そんな鬼とTS野郎の話を他所に、「双剣の双子」ことブランとノワールはマイペースにウェイトレスを呼んで注文を始めている。
「スープが欲しいわ」「野菜が欲しいわ」
「根菜のスープで宜しいですか?」
「良いわ」「頂くわ」
「焼き上がったばかりの黒パンがありますけど、どうですか?」
「それも食べたいわ」「それと果実酒を」
「昼にお出ししている果実酒は水割りになりますけど?」
双子がシンクロした動きで頷き、ついでに肉料理と魚料理をまとめて頼む。
この2人ってまだ成人してないよなぁ……? と、元の世界の常識が頭を過るが、気にせず右から左に流す。
コッチの世界だとコイツ等辺りの年齢でも酒に触れてるみたいだし、それをグチャグチャ言うのは無粋だろう。これがコッチの世界のルールだ。
元シスターだから、“お神酒”って事で酒を飲む事に対して忌避感も無さそうだし。まあ、コッチの世界に聖職者が酒飲む文化が有るのかは知らんが……2人が酒を頼むのに躊躇がないところを見るに、そう言う物なんだろう。
そんな事をぼんやり考えていると、双子が同時にコチラを見る。
「リーダー達は」「どうしますか?」
こういう時は、全員の注文決まってからウェイトレス呼ぶもんだろうよ……と思ったが……まあ、あれよね? この双子も常識人っぽい風を装ってはいるが、教会育ちの箱入り娘だもんな?
「私は2人と同じ野菜のスープだけで。兄様とバルト君は?」
「僕、辛い、食べ物、欲しい、です!」
「それでしたら、羊肉の香草包みはどうですか? お好みで辛味増しにできますよ?」
「それ、お願い、します、です! 一杯、辛い、美味しい、です!」
「兄様は?」
話振られても困る。それは空っぽの鎧じゃぞ。
金色の鎧が、手を向けて首を横にする。
アザリアもコッチが何も頼まないのは予想していたらしく「そうですか」と軽く流す。まあ、今まで人前で兜取った事がない奴が、このタイミングで飯食う姿見せるのは不自然だもんね?
「猫にゃんは何か食べるにゃん?」
そして、膝の上で丸くなっている猫に向かって、フニャフニャに溶けた顔で訊いて来る。
「ミィ」
肉。
「魚だね。猫にゃんは魚だよね」
「…………ミ」
…………通訳。
バルトの方を見ると、注文した辛い料理に思いを馳せているのか、嬉しそうに遠い目をしている。……ダメだ、うちの弟子が使い物にならん。
やはり、こういう時に頼りになるのは友達であるおっさんか。
「パンだろ!? パンを食え!!」
「いや、我は麦が良い。もっと言えば米が良い」
……男だか女なんだか分からん生物と、米パン論争をしていた。
肝心な時に当てにならんのぅ!!
助けが居ない事にちょっとだけ泣きそうになってしまった。
「ね? 猫にゃんは魚だよね? 私には分かるにゃん」
「…………ミャゥミ」
…………もう魚で良いにゃん。




