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12-6 最硬の盾と鎧

 おっさんが真正面から突っ込んで行く。

 横にも縦にもでかいおっさんが突っ込む姿は、やはりどこか戦車を思わせる。

 戦った時はそら怖い事この上なかったが、今はその背中の大きさが頼もしい。……まあ、相手が相手なだけに頼もしさが安心に繋がらないのが辛い所だが。

 そして、何の躊躇いも無く正面から殴りに行くのが実におっさんらしい。

 デイトナは特に反応無し。

 スピード戦闘得意っつーから、てっきりバリバリに動き回るかと思ったが……コッチが攻撃に回ったら全然動く様子がねえ……。

 正直、その動かなさが不気味で怖い。

 なんつーの……? “動かざること山の如し”的な? 肉食獣が伏せて身を隠している時のような?

 まあ、なんだ。

 何かを“狙われている”感じだ。

 おっさんだって多分気付いてる。

 それでも正面から行くのは、何か対策が有るからか? いや、多分真正面からの殴り合いが信条だからだろう。

 俺が思考をグルグルさせている間に、おっさんはデイトナの目の前。

 ズンッと地面に足を突き立てるような強く、深い踏み込み。


「フッ――――ッ!」


 おっさんの右拳が振られる。

 コンパクトにして超高速のスイング。

 相変わらず、速過ぎてちゃんと注視しないと拳を目で追えない。

 空気を切り裂くように真っ直ぐ突き出される拳。

 俺の攻撃のように斥力で逸らされる事無く、デイトナに向かう――――が、その体に届く20cm手前でピタリと止まる。


「斥力を正面から力技で抜いて来るあたり、実に君はアビスの弟子だよねぇ」


 ニコニコと言う。

 デイトナの拳が目の前で止まっている事に何も感じていない。この結果が初めから分かっていました……と言う顔だ。


「まあ、防殻(シェル)の2層目、“物理反射”は抜けなかったけどね」

「くっ……!?」


 途端、おっさんの神器(グローブ)の間からブシュッと赤い血が噴き出し、慌てて拳を退いてデイトナから離れる。


「神器を着けてて良かったね? 素手だったら拳が潰れてたよ」


 おっさんですら貫けないのかよ……!?

 ってか、物理反射はダメでしょ!? そんな簡単に振り回したらアラハ●キ様だって怒ってらっしゃるよ!!

 ……いや、断じて“簡単に”じゃねえか……。

 相手は魔王の序列第3位、最古の血の1人。

 どれだけの屍と修羅場を潜って来たのかは俺には想像もできない。だが、踏み越えたそれらの数が力に直結するのがこの世界だ。

 いや、もうコイツが激ヤバなのはいい加減分かったから良い。

 問題なのは、俺等の中で単発物理火力最強のおっさんが、相手の盾を抜けなかった事だ。おっさんが抜けないなら、俺もバルトも正面から行っても抜けない。

 デイトナの右側面に回り込んでいたバルトも即座にそう判断したらしく、構えていた槍を少し下げ、空いていた左手をデイトナに向ける。


「【火葬(クリメイション)】!!」


 精霊魔法。

 俺にも扱えない、バルトだけが使える精霊の力を借りて行使する魔法。

 手元で膨れ上がった炎が、更に大きく成長しながら放たれる。

 しかしデイトナはやはり動かず、その巨大な炎を興味深そうに見る。


「へぇ、精霊魔法かぁ。僕も片手で数えられるくらいしか見た事ないやぁ」


 呑気に楽しそうに言うが、回避も防御も一切しない。

 当然と言うか当たり前と言うか、バルトの放った炎に呑まれる――――が、次の瞬間には炎が鎮火する。


「半魔の君、あんまり魔法や天術得意じゃないね? 3層目の魔法反射が反応する前に消えちゃってるよ」


 うっそでしょ……この人、物理攻撃だけじゃなく魔法まで反射の用意してんの……?

 いや、だが、バルトがそこまで術士として秀でてなかったのは不幸中の幸い。

 魔法も天術も、相手との魔力値に差があり過ぎるとダメージ判定が入る前に効果が打ち消されてしまう。

 下手にダメージを貫通させていたら、反射の直撃を食らって今頃バルトがどうなっていたか分からない。

 まあ、しかし、俺が魔法で勝負に出る前に暴いてくれたのは、正直かなりグッジョブ!

 知らずに【エクスプロード】の100連爆撃とかしてたら、それが全部襲い掛かって来て阿鼻叫喚になっていた。

 ……いや、でも待て。俺もコイツに魔法や天術でダメージ通せるのか? アビスに対して何も出来なかったトラウマがあるせいで、疑心暗鬼になってしまう。

 あれから大分強くなったから、通用するとは思いたいが……。


「ま、だ……です!」


 バルトは立ち止まらずに更に踏み込む。

 近接攻撃じゃダメージは通らないだろう事は分かっているのに何か勝算が……?

 あっ!? まさか、例の“精霊化”使う気か!? アルバス境国での戦いで短時間なら使えるようになったとは聞いたけど、やれんのか!? できんのか!?

 バルトの周りでフヨフヨ浮いていた精霊達が集まり――――


「【環境変化(アトモスフィア)】」


 精霊化が始まるより早く、デイトナが何か呟く。


「“重くなれ”」


 ズシリと――――体が重くなる。


「ミッ!?」「ぐっ!?」「ぅあ!?」


 俺とおっさんは辛うじて立ったまま踏ん張って耐えたが、精霊化に集中して中途半端に姿勢が崩れていたバルトは地面に倒れる。

 重……!?

 …………いや、重いか? 冷静になってみると、言う程の重さでは無い気がする。だが、おっさんもバルトも相当苦しそうだな。特におっさん。

 なんだこれ……? 重力操作……か? にしては、大した圧力じゃないのが気になる。

 【魔滅の盾(インバリットマジック)】を使うが状況が変わらない。って事は、これは魔法じゃなくスキルって事か。

 自力での解除は不可……か。

 まあ、俺はそこまで苦しくないから良いけど……おっさんとバルトは、何であんなにしんどそうなんだ?


「重い物はより重く、ってね?」


 重力操作じゃなくて重量操作か……!?

 今の言葉通りの効果であるのなら、体重激重そうなおっさんが立ってるのがやっとになって、体重3kg程度の俺が影響無いのも説明がつく。

 こちとら特性やらスキルやらで身体能力ゴリゴリに盛ってるから、多少体重増えたって「だからなんじゃぃ」ってもんよ。

 だが、俺が普段と同じように立ち回れるかと言われれば、答えは断じて「NO」である。

 俺自身はともかく、俺が展開している武器の重量が増しているのがヤバい。

 1本2本重くなっても振り回せるが、800以上の武器が一斉に重くなると流石に辛い。いつも通りに武器を振ろうとすると、バカみたいなスピードで魔力が減って行く。

 初手で究極魔法1発分の魔力減らされてんだから、これ以上魔力消費がでかくなるのは勘弁してくれ……。

 しかも……おっさんが立ってるだけでやっとで、バルトは立ち上がる事すら出来てない。

 っつー事は、このスキル解除させねぇとフォローは期待出来ない――――。

 

「かかっておいでよ」


 1対1の状況に持ち込まれて、俺がどう言う行動に出るのか観察してる……ってか?


「ミィィ――――イッ!!」


 上等――――だっ!!

 こちとら、もう覚悟完了しとんじゃ!!

 若干重くなった体をグッと沈ませて四肢に力を溜める。

 息を止めて【アクセルブレス】を発動、思考と肉体を加速させる。

 飛び出す前の一瞬の思考。

 斥力の壁で大抵の攻撃は逸らされる。仮にそれを抜けても物理反射と魔法反射の鉄壁の布陣。

 物理攻撃、魔法、天術を選択肢から外すとなれば、残っているのは魔眼――――いや、相手は最古の血だぞ?

 アビスの魔眼がランク15つってたから、コイツもそれに近いランクの魔眼を持っている可能性は高い……と言うか確実に持っていると思っとくべきだろう。

 魔眼は自分より高いランクの魔眼持ちには効果が無い。コッチが先手打って無効化された挙句に手痛い反撃なんて笑えない。

 となりゃぁ選択肢は1つだ。

 魔力を直接叩き付ける“魔力攻撃”――――つまり、魔砲拳だ!

 だが、物理、魔法と来て、魔力攻撃にだけ何の対策もしていないと思う程俺も楽観的ではない。

 耐性……いや、下手すりゃ魔力攻撃にも反射を用意してある可能性がある。

 だが、仮に反射されても魔砲拳はある程度離れて撃つから、俺の速度なら避ける余裕がある。

 出し惜しみはしない。最大火力の“徹甲弾(ペネトレイトバレット)”で行く。

 有効射程が約2mと短いのが難点だが……そのくらいの危険は飲み込む。

 良し、思考終了。

 地面を蹴って飛び出す。と同時に、重くて動きの鈍い武器達をデイトナの目の前に突き刺したり舞わせたり。

 武器での攻撃はしない。したところで斥力に阻まれるうえに、貫通できても物理反射が待っている。だから、ただの目眩(めくら)まし。

 つっても、ピクリとも動じない。

 コンマ何秒でも意識を逸らせれば儲け物と思っていたが、それすら乗っちゃくれねえかよ……!!

 【空中機動(エアスライド)】で空中での切り替えしを混ぜながら、不規則な軌道を描きながら高速で突っ込む。

 丸っこい人形みたいな右前脚に魔力を纏わせる――――おっさんの言うところの、魔導拳の“魔纏”とか言う技術。

 纏わせた魔力を掌――――肉球の辺りに収束、圧縮させる。

 圧縮した魔力を握り込むようにして、更に硬く、鋭く圧縮する。

 弾丸は出来た。後は、これを叩き込むだ――――


「“遅くなれ”」


 ヤバい!? と思った時にはもう遅い。

 【アクセルブレス】の加速は解除していないのに、周囲の速度が元のスピードに戻って行く――――いや、加速状態で“元のスピード”って事は、加速切ったら俺自身の速度はスロー再生になってるって事だぞ!?


「遅き者は遅く、速き者はより遅く」


 しまった!! 【環境変化(アトモスフィア)】とか言うスキルの効果か……!?


「良いスピードだったね? 手数で攻めるのも良い。攻め手のバリエーションもありそうだ」


 言い終わると、薄く目を開けてギラリと俺を睨む。


「ただ、まあ、感想を言わせて貰えば――――『なんだ、この程度か』かな?」


 一瞬。

 一瞬だった。

 デイトナの姿が消える。

 いや、消えたと錯覚するような超速の踏み足。

 踏み込んだ音と衝撃が、遅れて地面と空気を揺らす。

 次の瞬間には、ボンレスハムのような腕が目の前で振られ、ドラ●もんみたいな丸い拳が鼻先10cmの所まで迫っている。

 この状況に至って、ようやくおっさんの言った「スピード戦闘が得意」の意味を理解する。

 スピード戦闘ってのは、早い話が“どっちが速いか”だ。

 普通に考えれば、音より速く動き回る奴だと思うだろう。俺もそう思った――――っつか、実際デイトナはスピードはマッハを越えている。

 だが、そう言うこっちゃないのだ。

 ようは相手が自分より(・・・・・・・) 遅ければ良い(・・・・・・)のである。

 つまり、おっさんが言いたかったのは、「コイツは相手の機動力を削ぐのが上手い奴だ」って事だ。

 まあ、このタイミングでそれに気付いたところでどうしようもないのだが……。

 ある種の諦めのような倦怠感を心に感じながら、デイトナの拳に打たれる。


「ミュぐッ!?」


 ズンッと時速200kmのトラックに突っ込まれたような衝撃――――いや、まあ、実際にトラックにバチコンされた事ねえから、多分こんな感じだろうって言う予想だけども。

 馬鹿な事を考えていられる余裕がある……?

 ってか、死んでない?

 風を切るような速度で吹っ飛ばされてはいる。しかし、体の痛みはほとんど無い。

 あれ? もしかして受け切った?

 確かに、【全は一、一は全】使用中の俺は収集箱の全防具の耐久力や防御力を全乗せな上に、特性【星の加護を持つ者】の効果により全ダメージ2分の1だ。

 俺の防御を抜くなんて、それこそおっさんのような桁外れの単発火力を叩きだす化け物や、八咫烏のような良く分からん“不思議パワー”を使う奴くらい。

 真っ当な方法で俺の装甲を貫通させるのは至難の業だ。

 だが――――


 受け切った訳ではなかった。


 吹っ飛ぶ俺の周りに飛び散るキラキラと光る大量の金属片。

 赤かったり、青かったり、金色だったり、なんか角っぽかったり。

 これは……鎧の破片だ……!?

 戦闘中に不必要に目を閉じる訳にもいかないが、(まばた)きの間に、瞼の裏で凄まじい勢いでログが流れているのが見えた。


『鉄の鎧が破壊され、破損した鎧になりました』

『オリハルコンの籠手が破壊され、破損した籠手になりました』

『鉄の兜が破壊され、破損した兜になりました』

『ミスリルの鎧が破壊され、破損した鎧になりました』

『銀の脛当てが破壊され、破損した脛当てになりました』

『銀の籠手が破壊され、破損した籠手になりました』

『抗魔の盾が破壊され、破壊された盾になりました』

『ミスリルの兜が破壊され、破損した兜になりました』

『闘神の鎧が破壊され、破損した鎧になりました』


 と、こんな感じのログが更に流れ続けている。

 なるほど、俺の収集箱に入る破損した~系の素材アイテムは60個までだ。それ以上の破片が収集箱から溢れ出して外に飛び出しているって事か。


 ……。


 …………。


 ………………ふむ。


 いやっ、ちょっと待って……ッ!?

 この人(人じゃないけど)、まさか装備破壊(アイテムブレイク)の能力持ちなの!?

 ちゃんと確認していないが、ログの流れている長さと勢いを見るに、多分レアリティA以下は全滅だと思う。

 っつー事は、一撃でコッチの装甲を剥がされたも同然じゃねえか……!?

 冗談じゃねえ!!

 【自己修復(オートリペア)】が有るっつっても、こんなバッキバキに壊されたら低レアリティの防具だって修復するのに時間がかかる。ついでに言うと魔力もかかる。

 事態を認識している間に、吹っ飛んだ俺を追いかけてデイトナが突っ込んで来る。

 まるでワープでもしているかのような、一瞬で間合いを詰める本物の間合い殺し(リーチキラー)

 視線ですらデイトナの速度をちゃんと追えてない。

 そうか……! コイツが動き回らないのは、コッチを速度に慣れさせない為ってのもあるのか……!

 なるほど、確かにコイツは「スピード戦闘が得意」だわ!!

 いや、納得してる場合じゃねえ!! こっちは、ほぼ丸裸の状態だぞ!? 次食らったら確実に持って行かれるッ!!


 抵抗しろ!!


 許された時間はほんの一瞬。

 その時間で俺に何が出来る?

 真正面から攻撃を当てたってまともにダメージは通らないし、攻撃の手を止めさせる事は出来ない。

 斥力の盾、物理反射、魔法反射、更に何重にも用意された鉄壁の鎧。

 どうすれば俺の攻撃を届かせる事が出来る? どうすればあの鎧を貫ける?


 …………いや、考え方が違くないか?


 そもそも正面からぶつかろうとしているのが間違いじゃないのか?

 俺はそんな戦い方をするのが得意だったか?

 自分が矮小で脆弱な子猫である事に立ち返れ!

 正面きってのぶつかり合いなんぞ俺に勝てる筈も無い。だったら、野郎の鎧は無視すりゃ良いだろうが!!

 伏せ札をここで全部使い切る!


―――― デッドエンドハートだ!


 つっこんでくるデイトナの速度を予測し、何も身に着けていない【仮想体】を立たせる。

 1秒と待たずにデイトナが狙い通りに【仮想体】の手の届く距離まで入って来る。

 【仮想体】の手がデイトナの巨体に吸い込まれるように突っ込まれ、心臓の辺りに届いた瞬間を狙って魔法を――――


 魔法が効くのか?


 いつも通りなら【エクスプロード】を選んで即起爆させる。

 しかし、かつてデイトナと同じ最古の血(エンシェントブラッド)のアビスに魔法が通じなかった事が頭を(よぎ)る。

 あれから格段に強くなった俺なら、問題なく魔法でダメージを与えられる可能性はある。

 しかし、同じ攻撃を2度も3度も食らってくれるとは思えない。もししくじれば2度目のチャンスは無いと思え!


 魔法より、もっと確実な方法を――――!


 空中を舞っている武器の1つを気付かれないように収集箱に戻す。

 戻したのは、魔王にとって天敵とも言うべき“旭日の剣”。

 これを、野郎の心臓の内側に捻じ込む!

 魔法攻撃から物理攻撃への切り替え。つまり、


―――― デッドエンドハート、改ッ!

 

 瞬間――――デイトナが驚いたように目を開き、真っ直ぐ突っ込んで来ていた足を滑らせてブレーキ、と同時に巨体を右に逸らす。

 明らかに【仮想体】の動きを避けようとしている。

 おっさんにもデッドエンドハートは避けられたし、このクラスになるともう一工夫しなきゃ食らって貰えないか?

 いやっ……避けるより【仮想体】が武器を出す方が速いだろ!!

 回避動作にゃ、その縦と横幅はどう考えたって足枷だろうよ!

 躊躇なく剣を出す。

 今まで不動で攻撃を食らい続けていたデイトナが、初めて回避行動をとった事で「行ける!」と言う確信があった――――のに、体を逸らすデイトナが、不自然にグンッと加速する。

 まるで、横から紐で力一杯引っ張られたような、妙な加速と動き。

 旭日の剣が【仮想体】の手元に出た時にはデイトナの胴体は既に横に逃げていた。

 噓でしょッ!?

 今のはクリティカルヒットで良いでしょうがッ!!

 だが、完全に避け切れた訳ではなかった。

 体のサイズ的に逃げきれず、左腕を中途半端に刺さる……いや、刺さってはないな。1cmか2cm刃が腕に食い込んだだけだ。

 だが、鉄壁の鎧の内側に捻じ込まれた旭日の剣の刃は、確かにデイトナの肉を裂き、血を噴き出させた。


「おっとっと」


 別段痛がる様子も焦る様子も無く、足元の小石を避けるくらいの感じで血に染まった左手を引く。

 攻撃を中断して俺から距離をとる。

 その間に、俺も吹っ飛んだ状態から【空中機動】で姿勢を制御して地面に着地。

 あっぶねぇ……ダメージに構わず突っ込んで来られたら、コッチは打つ手無しだった。

 一方、デイトナは血を流す自身の左手を興味深そうに眺めながら言う。


「自分の血を見るなんて何十年振りかなぁ? 君の手の内は読んだつもりだったんだけど、まさか上を行かれるとは思ってなかったよ。さっきの感想を取り消して『中々面白い』に変えておくね? アビスが珍しく興味を持ったのも頷けるよ」


 褒められたんだろうか? まあ、そう思っておこう。

 とは言え、これでコッチの出せる手札は全部だ。こっから先はマジでどうしようもない。本当の意味で“悪足掻き”だ。

 ぶっちゃけ平静を装っているが、内心は冷や汗ダラダラである。

 頭の中では、八咫烏の「殺されて死ぬ」と言う言葉が何度も何度もしつこくリフレインしている。

 ヒタヒタと死が近付いて来ているような感覚。

 もし人間の体だったら、全身から冷たい汗が噴き出ていた。


「(そうかい。これ以上やるってんなら、もっと痛い目に遭う事になるぜ?)」


 俺がな。

 少しでも時間を稼いで、この場を流す方法を考えたい。

 無い知恵絞って何とかコイツを追い返す方法を――――……。


「いや、これくらいで良いや」

「(……は?)」


 俺が何を言われたのか反芻(はんすう)している間に、おっさんとバルトを拘束していたスキルを解除する。ついでに俺にかかっていた“遅延(スロー)”の効果も消える。

 いや、どう言う事?

 “これくらいで良いや”ってどう言う意味?


「魔神や勇者と出会って何もしないで帰ったら、後でエトに何言われるか分かったものじゃないからね? 言い訳用に一当てしたってだけで、元々殺し合いをするつもりなんて無かったんだよねぇ」


 いや、いやいやいやいやいやいやいあ! 結構死にかけたけど!? さっきの一撃も、俺が装甲がん積みだったからギリ耐えられたってだけで、俺以外が食らってたらアウトだったぜ!?


「まあ、君が本当の魔神なのか確かめたいって言ったのも嘘じゃないけどねぇ?」

「(で? 俺が魔神たらじゃねえって分かって貰えたか?)」

「いいや。君は魔神で間違いないでしょ? 少なくとも肉体と能力的には、ね」


 誤解だと言いたいが、ここで否定の言葉を吐くと「じゃあ、その根拠は?」って返されるだろう。「俺とは別に本物が居るからです」ってゲロってしまえるのならそうしたいが、それをする訳にはいかんからねぇ……。

 さり気無く俺が魔神か否かの話から話題を逸らす。


「(俺達を殺しに来たんじゃないってんなら、何しに俺達の前に現れたんだ?)」

「う~ん……ヴァングリッツから剣の勇者の正体が猫だって聞いたから、もしかして魔神じゃないかと思って確かめに? あと、ギガースが勇者になったらしいから挨拶がてら色々話を聞いてみたいな、と。まあ、そんな感じ」


 表情が脂肪に阻まれて読みづらいが……元営業職としての勘では、多分嘘は言ってないと思う……多分。

 じゃあ、本当に俺達を仕留めに来た訳じゃない……のか? 

 本当なのだとしたら嬉しい事この上ないが……同時に恐ろしい事実に気付く。

 俺の装甲を一撃で剥がしたコイツのパンチは、全然“()る気”の無い手抜きパンチだったって事だ……!

 ………………冗談でしょ?

 手抜きパンチで手持ちの防具の9割を持って行かれたん? 洒落にならんて……!! マジで化け物じゃねえかッ!! いや、知ってたけど!! 知ってましたけどね!! コイツが常識の通じない化け物だって知ってたけどねッ!!


「(じゃあ、俺達とこれ以上やる気は無い……って事で良いんだな?)」

「だからそう言ってるじゃない」


 言いながらニコニコと笑う。

 改めて見ると、コイツの笑顔は作ってる感が凄い……。怖さと不気味さが混じって、得体の知れなさが半端じゃない。

 作り笑顔の裏で何考えてるか分かりゃしねぇ……。

 元の世界でも、この手の“食えない奴”には何人か会った事があるが、気持ちの良い付き合いが出来た奴は1人もいねぇなぁ……相性悪いんだよ、この手の奴とは。


「とは言え――――今日は久々に動いたからお腹空いちゃった。君達に話を聞くのは、日を改める事にするよぉ」


 俺が、「え? 何言ってんのこの人?」と思っている間に、手元に黒い魔力光が灯り【転移魔法(テレポート)】を準備している。

 え? マジで? なんか勝手に殴りかかって来たのに、お腹空いたから帰んのこの人? いや、下手に留まられても困るから、帰ってくれるならそれに越した事はないんだが、なんだか納得できていない自分がいる……。


「じゃあ、えーと……3日後くらいにまた来るよ」

「(歓迎はしねえよ)」

「まあまあ、そう言わずに。次来る時は、なんか良さそうなお土産でも持ってくるからさぁ」


 お土産……。

 木彫りの熊とか微妙な柄のペナントなんてオチじゃなければ、それなりに期待できるんではないだろうか?

 なんたって、相手は最古の血の1人にして、世界で3番目に強い男だ。

 頭の中でレアなアイテムをサンタクロースの如く担いで現れるデイトナを妄想している間に、デイトナはさっさと転移して消えていた。


 まあ、なんにしても……何とかこの場は乗り切ったらしい。


「ミュゥ……」


 疲れた……。

 八咫烏の予言……外れたな?

 「ざまぁ」と笑うべきか、「余計な事言いやがって!」と怒るべきか……まあ、とりあえず全員無事な事を喜んでおこう。



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