12-5 Cの魔王vs勇者
警戒してなかった訳じゃない。
むしろ全開で警戒していたし、注意もしていた。
それなのに、当たり前のようにデイトナの速度が俺の意識を置き去りにして行った。
ヤバいな。
いや、ヤバいのは知ってたけど、改めてヤバいな!?
俺ですら目で追えなかったって事は、当然バルトも何が起こったのか分かってない。唯一おっさんだけが反応していたってのは、流石元魔王の格闘2位って褒めるところだわな。
内心冷たい汗をだらだら流していると、デイトナが面白そうに言う。
「君と僕は似てるね。『子猫が戦える訳がない』『デブが速く動ける訳がない』そう言う思い込みの隙を突く。まあ、僕がこの見てくれなのはそんな事の為じゃないけどね」
俺だって別に好きで猫になってる訳ちゃうわぃ!
なんか知らんうちに猫にされたんじゃこちとら!!
いや、無駄にキレとる場合ちゃうって!?
今、俺の頭の中で八咫烏の予言がグルグルしている。
『遠くない未来にお前は最古の血と呼ばれる魔王の1人とカチ当たる事になる。そして、敗北して――――殺される』
別に今まで忘れていた訳ではない。
むしろ、ずっと頭の片隅にこびりついていた。まあ、とは言え、全面的に野郎の予言を信じている訳ではないけれど……。
信じてはいない。信じてはいないが、野郎の言う事に真実が混じっている点は認めなければならない。
野郎の言う通り、捜してもいないのに大精霊が俺の前にポロポロ現れやがるし。
…………まあ、何が言いたいのかと言うと、俺はここで死ぬかもしれないって事だ。
今までに無いくらい死が近くに感じる。
バグ何たらに殺されかけた時ですらここまでじゃなかった。
まだ【ダブルハート】が残っているし、多少は余裕がある筈なのに、死神の鎌が首にかかっているような気分になっている。
普段は意識しないから“無い物”として扱っているが、目の前に現れて初めて怖くなる物――――死。
ヤベェ……今までにない程、“自分が死ぬかもしれない”と言う可能性にビビっている。
1撃だ。
たった1撃見せられただけで、こんなにも強く死を意識してしまっている。
いや、ダメだ! ビビってる場合じゃねえよ!!
腹を括れ、俺!!
ビビってる場合じゃねえ! ましてや出し惜しみなんて考えてる場合でもねえ! コッチの手の内見せないように、なんて余裕こいてたら詰む……!!
手札全部使い切ってでもこの場を切り抜ける!
【全は一、一は全】
収集箱内に存在する武器を全て展開――――同時に防具全ての防御力、耐久値、耐性値を俺自身に付与。
魔法、天術の補助、支援系の術式を限界まで重ね掛けする。
所持する特性の全てを装備状態にし、能力の補正値と特殊効果とスキルを貰う。
更に――――【我が力は生贄の上に】
『“アイアンソード”“鉄の盾”“鉄の鎧”を消費して能力値を一時的に上昇させます』
体の奥底から力が噴き出して来る感覚。
同時に、収集箱の奥底で眠っていた獣が「出番か?」と目を覚ましたのが分かった。やはり【我が力は生贄の上に】は獣に直結してるか……十分に注意して使わないと、あっちゅう間に吞まれそうだ……。
まあ、獣の件は一旦忘れる。無茶しない限りは出て来ないだろう。
そんな事より、俺が武器を展開したのを見て、デイトナがクスリと笑う。
「そうそう、やっぱり魔神と言えばこれだよねぇ」
1mmも驚かない。
初見の奴は大抵この物量に何かしら反応を示すものだが、最古の血共は大昔に俺と似たような……若しくは同じ能力を魔神に見せられているらしいからな。
「……師匠」
隣でバルトが少しだけ不安そうな声を出す。
俺が最初から全開なのを見て、どれだけ目の前に居る敵が危険なのかを改めて理解した……ってところか。
あんまりそう言う声を出さんでくれよ……ようやく括った腹が緩みそうになる。
「(バルト、やっぱお前は逃げとけ。コイツ、予想以上にヤバそうだ)」
「…………」
無言だった。
バルトが俺の言葉を初めて無視し、槍をグッと握り直す。
何が何でも逃げる気は無い……っちゅう事らしい。
或いは、目の前に居る敵が魔王でなかったら、俺の言葉に従って素直に逃げてくれたのかもしれない。
しかし、バルトはどこか“勇者”と言う肩書に対して必要以上の責任を負っている節がある。
そして勇者の使命は魔王を倒す事だ。
バルトにとって、魔王から逃げる事は勇者の責務を投げ出す事に等しい……のかもしれない。
俺の言葉に逆らってでも果たさなければならない程、バルトにとって“勇者”の名前は重いって事か……。
…………当然俺は勇者じゃないし、大層な使命を背負ってる訳でもない。元の世界でもそこまで責任のある立場になった事はない。
だから、重過ぎる責任から逃げずに向き合える人間を尊敬する。例え年下だろうが、例え弟子だろうが、だ。
バルトはとっくに覚悟を固めている。俺よりもずっと重く固い決意を。
「ミュゥ……」
はぁ……。
こうなっては梃子でも動かんだろう。
であれば、俺にできる事は、出来る限り死なないように支援をしてやるくらいだ。
バルトに有りっ丈の支援術を投げる。ついでにおっさんにも。
「ありがとう、ございます、です!」
「助かる」
コチラが支援術で強化している最中も、デイトナは動かなかった。
明らかにコッチの準備が終わるのを待っている。
言葉にはしないが、その態度が如実に「本気でかかって来い。踏み潰してやる」と言っている。
「(行くぞ!)」
「はい!」「応!」
おっさんとバルトが踏み込むより早く、空中に浮かぶ武器達を操作し、一気に多方向から突っ込ませる。
コイツが見た目に反してクソ速なのは理解した。だが、コッチだって相応に修羅場を潜って来たのだ。敵が速いと言うのなら、それを封じるように組み立てるだけだ。
手っ取り早いのは、やはり“逃げ道を封じる”だろう。
360度全方位から攻めて、相手の動くスペースを潰す!
「へぇ? 思ったより自由に動くんだねぇ?」
デイトナが呑気な感想を漏らす。
動けない――――いや、動かない……!?
「まあ、これくらいなら想定内だけども」
刃が届く――――と思ったのに、デイトナの体まで残り50cm程の所で急に武器の軌道がグニャリと曲がる。
まるで、デイトナの体に触れる事を嫌がるように。
何かしらの異能の力が働いたのは間違いない。
何だ?
重力――――いや、武器の軌道は下じゃなく横や上に曲げられている。
って事は――――
「(斥力の盾って事かッ!?)」
「ぉ、良い読み。初手で斥力って分かる相手に初めて会ったよ。もしかしてギガースに何か聞いてたかな?」
「(ノー!!)」
「だろうね。ギガースに斥力結界は見せた事無いもんねぇ」
言葉を交わす間にも絶えず槍や剣が襲い掛かるが、その全てが斥力に軌道を曲げられてあらぬ方向に飛んでいく。
クッソ……厄介過ぎる!!
そもそも防御スキルってんなら【処刑人】の特性により貫通できる筈だ。なんたって【処刑人】には魔法、天術、スキルの異能防御の全てを無視する効果がある。
なのに攻撃が抜けないってのは、コイツの斥力の盾が、実際は“盾”じゃないって事だ。本来は攻撃系の能力なのを、コイツが盾として使用してると思われる……多分、って言うか絶対そう。そうじゃなきゃ説明できん。
心の中で舌打ちしている間に、俺の横を抜けておっさんが前に走り出す。
「では、この場で存分に見せて頂きます!」
律儀に一言。
おっさんから一歩遅れてバルトが右側面から狙う為に踏み出す。
「残念ながら、只見は許さないんだなぁ」
ニコニコ言いながらボンレスハムのような右手をおっさんに向ける。
瞬間――――
デイトナに絶え間なく襲い掛かっていた俺の武器がその右手に吸い寄せられる。
「ミ?」
は?
俺が指示した訳ではない。
俺は今も全力で動き回らせようとしている……のに、右手に吸い寄せられた数十の武器が、溶接されたようにピクリとも動かない。
「磁力って知ってるかい?」
言いながら3m程の巨大な武器の塊を掌でトンッと押し出す。
「金属を吸いつけたり反発する楽しい力なんだよ」
金属武器にかかっていた力がNからSに切り替わる。
反発の力により、集められていた武器が爆発したように弾き出される。
いや、磁力の反発だけでなく、斥力の盾の加速が乗っている!?
まるで――――散弾……!
「む……!」
おっさんが立ち止まって受けに回ろうとする――――が、相手のペースに乗せられて堪るか!!
「(止まるな!!)」
「!?」
おっさんが俺の声に反応して緩めかけた足を再び回転させる。
おっさんに襲い掛かる刃の散弾は、俺が処理する。
どうやって?
簡単だ。
ただ収集箱に戻せばええだけやん?
武器が消えるとほぼ同時におっさんがその空間を通り過ぎる。
「(はい、貸し1!)」
「さっき我も助けた!」
「(そーでした!!)」




