12-4 魔神じゃないです
「魔神……?」「ま、じん……?」
2人がクエスチョンマークを浮かべながら俺を見る。
まあ、魔神の話なんて訳分からんだろう。
ぶっちゃけ俺も訳分からん。魔神なんて呼ばれる覚えは無いし、完全なる誤解だろ。
コイツ等の言うところの魔神ってのは、エルギス帝国の迷いの森の奥に封印されていたアレの事だろうよ。
全力で人違いだよ!? いや、猫違いだよ!!
ちゃんとよく見て確認してくれよ! なんか、こう、毛の模様とか微妙に違うところが有るかもしれんでしょ?
まあ、俺自身でも分からんけども。
難易度“極難”の間違い探しかってくらい俺とそっくりだけども。
いや、いやいやいや、この際本物の魔神の事は一旦置いておこう。
最後の手段として、本物の魔神の居所をゲロっちまうって事も考えたが……それは最悪の展開な気がする。いや、特に理由は無いので、本当にただの勘だが……。
いや、でも、俺が居場所をゲロったら、当然最古の血の連中が魔神の所に行くだろ?
魔神は封印されていて、俺はそれをどうにかする事は出来なかった。だが、アビスのような化け物共なら封印を解除して魔神を叩き起こす事が出来てしまう可能性は十分にある。
それはまずいだろう。
絶対、絶対に全力でまずい。
具体的にどうまずいのかは知らないが、あの八咫烏でさえ「起こすな」と忠告していくような相手だぞ?
魔神が封印から出てくれば、世界規模でのヤバい状態になる事は想像に容易い。
……そら、俺は自分の命が何より大事だ。
自分が死ぬくらいなら敵10万人ブチ転がすって即座に決断できるくらいには生き汚いと自負している。
だが、それにしたって、世界規模での脅威となりかねない相手を起こす事と引き換えに生き延びよう……とは思わない――――と言うか、それを選べる訳がない。
それを選んでしまえば、俺は最低限の人間性すら捨てなければならない。
っちゅー訳で、本物の魔神の居場所は断じてゲロる訳にはいかない。
じゃあ、どうする?
アビスによれば、アイツ以外の最古の血は俺――――っつか、魔神を見つければ確実に殺しに来るって話だ。
実際、コイツは問答無用で必殺の究極魔法を初手で叩き込んで来た。
正直な気持ちを言ってしまえば、現段階では戦いたくない。
いつかは戦わねばならない相手なのだとしても、今のバリバリ準備不足な状態で戦うなんて、相手の強さの話を抜きにしても無理ゲー過ぎる。
戦闘を回避できるなら、するべきだ。
だから、俺はこう言う。
「(俺は魔神じゃない。人違いじゃないか?)」
ダメ元で言ってみた。
俺の言葉を聞き、デイトナが口元を少しだけ緩める。
「いやいや、喋るうえに究極魔法を打ち消す猫なんて君以外にいる訳ないでしょ?」
御尤も!!
でも、もう1匹居るんだから仕方ないじゃない!! 仕方ないじゃない!! じゃないじゃないじゃない(エコー)。
ってか、当たり前のように猫の言ってる事分かるのな? そう言えばアビスの野郎が最古の血は全員猫語が分かる的な事をチラッと言ってた気がする……。
「君が偽物か本物なのか、口では何とでも言えるよね? 僕は自分で確認した事以外は信じない事にしてるんだ」
薄く開いたデイトナの目の奥で、夜空の星々のような輝きが蠢く。
魔眼の輝き――――!?
「だから、君が魔神か否か確かめさせてもらうよ?」
やる気になったってか……!?
ヤベェよ……!!
何がヤベェって、今までの敵のように“これくらいのヤバさだ”ってのが全然伝わって来ねぇのがヤベェ!!
まだまともに戦った訳でもねえのに、強さの上限が果てしなく上なのが分かる……。
アビスと戦った時はこんな感じしなかった。
俺がなまじ強くなったせいで、コイツ等の“本当のヤバさ”が分かるようになっちまったって事か……!?
「(嫌って言っても聞く耳持ってくれそうに無いか?)」
「当然だね。逃げても良いけど追うよ僕は。君が街中に逃げるなら、街ごと消しても構わないしね?」
コイツは本気だ。
卵みたいな体型で、七福神の恵比寿様みたいな顔してるくせに……コイツはどこまでも魔王なのだ。
逃げても追って来る。仮に逃げられても、おっさん達を無事に逃がしてくれるか? 近くの町は? アザリア達他の勇者は?
無理だろう。
人間に友好的なおっさんだけが特別例外なだけで、基本魔王は蹂躙者で支配者なのだ。
ならば選択肢は1つだ。
ここで戦い、速やかにお帰り願うしかない!!
心の中で覚悟を決める。
と、俺の左右からおっさんとバルトが前に出て、それぞれが拳と槍を構える。
「魔神の話は良く分かりませんが、コレと戦うと言うのならば我も混ぜて頂きます」
さり気無く俺の事をコレって言うの止めて貰えます? 動物愛護団体にジロッてされますよ?
「師匠、戦う、一緒、する、です!」
一緒するてお前……。
おっさんもバルトも、居てくれんのは正直ありがたいし、全然戦力として勘定してしまっているが……言うべき事は言っておかなければならない。
「(アッチの狙いは俺1人だ。下手に首突っ込んで死んでも責任取れんぞ)」
「さっきお前が言ったセリフだぞ。『友が戦う時に尻を見せる馬鹿が居るか』だ」
「この人、物凄い、強い、分かる、です。きっと、僕達、3人、より、です。だから、師匠、逃げる、時、僕、時間、稼ぐ、です」
稼ぐなよ……。
弟子を身代わりに逃げ延びる師匠なんて、情けなくて生きていられんわ……。
「(2人共危なくなったらちゃんと逃げろよ。お前等に残られたら、俺も逃げる訳にはいかんくなる)」
「状況による」
「です」
揃って逃げそうにねぇなぁコイツ等……。
まあ、いざとなったら【転移魔法】で無理矢理逃がすか。相手がその隙をくれるかどうかは全く別の話だが……。
「僕は3人一緒でも良いよ? 勇者になったギガースにも、精霊付きの半魔の勇者にも興味があるしね?」
3対1でも自分は負けないって風だな……。いや、それどころか自分が負ける可能性なんてそもそも考えてない……のか?
俺が本物の魔神である可能性を考えれば、多少なりとも警戒して1対1の勝負に固執するかと思ったんだが……。
…………あれ? もしかしてコイツ、既に俺が偽物だって確信してないか?
「“魔神かもしれない自分をなんで警戒している様子が無いのか”って顔してるね?」
考えていた事をピタリと言い当てられ、思わず体が跳ねる。
「警戒してない訳じゃないよ。ただ――――まあ、いっか……戦えと言っておいてグダグダ語るなんて無作法だよねぇ」
重心を安定させる為に少しだけ足を開き、両手を1度だけ握って開く。
たったそれだけの動作で全身の肉が波のように揺れ、ズシンッと重苦しい音を地面から響かせる。
巨大な体から何かが噴き出す――――いや、噴き出したように見えた。
威圧感、或いは殺気。「今からお前等をぶっ潰す!」と言う意思の圧力。
「じゃあ、始めようか」
一瞬だった。
デイトナがそう発したと同時にその姿が視界から消えた。
―――― は?
どこに?
そう思考するより早く、背後に現れた巨大な体が容赦なく俺を踏み潰そうとする。
ちょっ!? コイツッ、速――――ッ!!!?
強化された俺の反応速度を以ってしても置いて行かれる。
避けられない――――と、1死を覚悟したが、横合いから伸びて来た野太い足が、俺を踏み潰す寸前でデイトナの足を打ち払う。
「おぉ、流石ギガース。良く今のスピードが見えてたねぇ」
「畏れ入ります」
初撃を捌かれたデイトナが、トンッと軽く後ろに飛んで距離をとり直す。
あっぶ……!! おっさん居なかったら今の1撃完全に食らってたぞ!?
気を抜いてた訳じゃないけど、完全に虚を衝かれた……!! ヤバ過ぎンゴ……!!
「気を抜くな。あの見かけだが、デイトナ殿は最古の血の御三方の中で特にスピード戦闘が得意な御方だ」
そう言う重要な情報は先に渡しといてよ!! 危うく死ぬところだったわ!!




