12-2 最古の血について
「(3番手の奴はどうなん? 可能性は無いの?)」
「デイトナ殿か……可能性が無い訳ではないが、限りなく無いに等しいだろう。あの方は余程の事がない限り出張って来ない。戦う姿を見たのは、昔にアビス殿とエトランゼ殿の喧嘩がエスカレートし過ぎたのを止めていた時くらいだ」
「ギガース、さん、魔王、辞める、余程、の、事、です?」
「……それは、まあ、そうかもしれんな……」
ダメじゃん……。
結局最古の血の誰がブルムヘイズを消した犯人なのかは分からんって事か……。
まあ、でも、ぶっちゃけ“誰か”はどうでも良いのだ。……いや、どうでも良い事はないが、そこが1番聞きたいところではない。
「(犯人が最古の血の誰かだったとして、もし戦闘になったら俺等で勝てんの?)」
この事件の発端がおっさんの魔王辞任だとすれば、街を消しただけで終わったとは考えられない。
恐らく――――いや、十中八九おっさん自身を狙って来る。
そして、おっさんが戦うとなれば、当然俺や他の勇者達も見て見ぬふりは出来ない。兎角、俺はアビスとは勿論、他の最古の血の連中にも“魔神”と言う勘違いによって因縁がある……まあ、俺の方からは一切無い一方的な物だけど……。
元々俺はアビスと戦う為の強さを求めて魔王に喧嘩を売って来た訳だし、どの道序列4位のおっさんを倒した以上、ここから先の強さを求めるのなら最古の血との戦いは避けられない。
「無理だな」
即答だった。
一瞬の迷いすらない即答。
「(マジか)」
「そんなに、強い、ですか?」
バルトは驚いているが、俺は平静な振りをする。一応師匠としての面子ってのがあるからね?
だが、内心は「ちょっ!? えっ!? マジっスか鬼さんよぉ!!」って感じである。
俺だってアビスにコテンパンにされてから大分強くなった自負はある。流石に現状でアビスとやり合えると思う程思い上がってはいないが、3番手くらいなら何とか手が届くと言って欲しいところである。
「強いな。もしかすれば、お前は序列4位の我に勝ったのだから、3位のデイトナ殿くらいなら何とかなるのではないか――――と思っているのではないか?」
ギクッ。
「ハッキリ言っておく。序列上は4位と3位だが、我とデイトナ殿の間には絶対に越えられない壁がある。100回やれば100回負ける、そう言う歴然とした力の差だ」
「(でも、おっさんて格闘能力で言えば魔王の中で2番目だったんだろ?)」
「うむ。だが、それは魔法や魔王スキルを抜きにした拳での殴り合いでなら……と言う話だ。あの方達を相手に純粋な格闘戦に持ち込むのは不可能と言って良い。つまり、格闘戦のみの優劣などどれ程の意味も無い」
おっさんがそう言うのなら実際にそうなんだろう。
…………それが真実だと思うと、腹の底にズシリと重い何かが落ちたような気分になった。
この気分を敢えて言葉にするなら「じゃあ、俺はどうすりゃ良いのよ……」だろうか?
「そもそも最古の血の御方々は強さの規格が我等とは違うのだ。あの方達にとって、我等の力の上下など“虫が大きいか小さいか”程度の事に過ぎない。信じられるか? あの方達は、『ただの喧嘩』と言って大陸の形を変え、島を沈めるのだぞ? 力を比べようと思う事がバカバカしいだろう」
ターシカーニ。
そんな化け物どーすりゃ良いのよ? 俺なんてその化け物3人の頂点に「次会ったら殺す」宣言されてる上に、他2人にも会ったら狙われる可能性があるっつーのに。
「以上の事を踏まえたうえで、お前達2人には言っておく。最古の血の方々の誰がブルムヘイズを消したのかは分からんが、その狙いが我である可能性は高い。故に、もし我を追って殺しに現れた時は、迷わず我を見捨てて逃げろ。あの方達への対処方は“戦わない”以外に無い」
なるほど。
もっともな話ですな? 1番被害が少なくて済む賢い方法だろう。
であれば、俺とバルトの答えは決まっている。
「(やだ)」「断る、です」
「……何故その答えが返って来る?」
「(第1に、ブルムヘイズの件がおっさんを狙っての事だったのかどうかも分からない。もしかしたら俺……剣の勇者を狙ったって可能性もある)」
「第2、勇者、は、仲間、見捨てる、しない、です!」
口には出さないが、第3に“おっさんの戦力を当てにしているから”、だ。
おっさんが最古の血について語った事が全部誇張無しだとすれば、正直俺単独での最古の血3人の撃破は絶望的だ。だとすれば、ここから先は仲間の力を当てにするしかない。で、現状仲間の中で最古の血相手に戦力として数えられそうなのはおっさん1人しかいない。
おっさんは俺達では絶対敵わないと言ったが、それは“現状では”だ。ここから先の成長いかんによっては勝てる可能性が生まれるのではないだろうか?
その“この先”の為にも、おっさんにここで散って貰っては困る。
……まあ、そもそも犯人が最古の血の誰かと確定した訳じゃないし、もし仮にそうだったとしても、街1つ消し飛ばして満足して手を引っ込め、こっちまで追ってこないかもしれんしな?
「戦えば確実に負ける相手だぞ? これは、元魔王や元弟子としての贔屓目の無い、厳然たる事実だ」
「(だからって、友達が戦う時にケツ見せる馬鹿が居るかよ。おっさん1人残したら、そら死ぬのかもしれんけど、俺等が居れば何とか逃げられる可能性あるじゃん)」
「むぅ……」
ぐうの音も出ないだろう?
おっさんが言う事は正しい。大を守る為に小を切り捨てるってのは損切りの意味でも当然の選択だ。
だが、それは一般人のやる事であって、勇者なら、全部を守る為にもう一あがきくらいしたって良いだろう。……まあ、俺は勇者じゃないけど、おっさんを見捨てるつもりがないってのは本当だ。
「皆、生きてる、1番、良い、です! 可能性、低い、でも、頑張る、価値、ある、です!」
良い事言うわ、うちの弟子。お前はそのまま真っ直ぐ育ってくれ。
「…………うむ、そうだな……」
微妙に涙ぐむなよ……本っ当に赤鬼ってのは泣きたがりだな。
まあ、大人のマナーとして気付かない振りしておくけども。
おっさんから意識を逸らす為に「今日の朝飯何食べよう」とか、どうでも良い事を考えながら【バードアイ】で視界を周囲に飛ばす。
朝飯と言えば、休日の朝に食べる吉●家の牛丼って、何であんなに旨いんだろうね? どうでも良いか? どうでも良いな。
別に“周囲を警戒する”とかそう言う意味ある行動ではなかった。ただ、なんとなく「この周辺ってどんなだっけか?」なんて事がふと頭を過ったからだ。
俺達の居る森。
深くて広い森だが、まあ、色んな国で森を渡り歩いている俺に言わせれば良いとこ中堅どころだろう。雰囲気でも広さでも、バルトと会ったエルギス帝国の迷いの森の方が圧倒的に上だ。
……まあ、だから何だと言う話だけども。
森の優劣に何の意味が有るのかと言われれば、まったく意味なんて無いのだけども。
「ミ?」
ん?
俺等の位置からでは木々が邪魔で見えないが、空中から見降ろしてみると俺等から100m程離れた位置に何か妙な影が見えた。
他の勇者の誰かが朝飯に呼びに来たのかと思ったが違う。明らかにシルエットが人間ではない。それに、木々の隙間から頭が出るような巨大な知り合いはおっさん1人しか居ない。
魔物……か?
いや、魔物なら魔王の特性持ちの俺とおっさんが居るから避けて通る筈だ。こんなに近付いて来る訳ない。
「どうかしたか?」
「(いや、アッチの方に何か居るっぽいんだけど……)」
影の見える方に視線を向けると、おっさんとバルトがそれを追って同じように顔を動かす。
「…………何か居るのか? 魔力波動は見えないが?」
魔力波動たら言う物がイマイチ説明されても良く分からんが、ようは気配みたいな物が見えてるって事で良いんだろう……多分、きっと、信じれば合ってる筈、うん。
ある程度の隠蔽スキルや魔法や天術なら見破れるらしいし、その精度は結構な物だと思う。まあ、見えるようになるには相応の訓練が必要らしいけど……今の所俺には見えない。
魔力波動の話は置いといて、おっさんが気配を見えないって事は、どう言う事じゃろか?
浮遊している視界を動かして、正体不明の何かに近付く。
なんだろう……? 全体的に横にも縦にも丸い?
ぱっと見では分からなかったが、どうやら、むっちゃ太って丸い人らしい。
一応人型っぽく手足が付いているが、その手足も丸く……まあ、アレだ、全体のシルエットが卵型ってのかな?
その卵人間の頭と思われる部分が動き、俺の方に顔を向ける――――とは言っても、【バードアイ】で視界をそこに浮かせているだけだから、卵人間の見た先には何も存在していない。
だと言うのに、厚い脂肪で潰れていた瞼がゆっくり開き、見かけに似合わない鋭い眼光が俺を捉えた。
そして、口元が動く。
距離があって声は聞こえないが、口の動きで何を言ったのか分かった。
見 つ け た




