12-1 動く世界
境界戦争――――後にそう呼ばれる事になる戦いが終わり10日が過ぎようとしていた。
アルバス境国の避難民を丸ごと受け入れたツヴァルグ王国だったが、当然のように騒ぎが起こった。
避難民の受け入れ自体は受け入れる者もいたが、その中に魔族が混ざっていた事に猛反発が起きた。
「魔族となんて仲良くやれるものか!」「魔族を信用するなんてできる訳ない!」そんな声が国中であがった。
そんな時に人と魔族の間に割って入るのが勇者達だ。
特に、この件で活躍したのはギガースだった。
元魔王と言う、人間達の憎しみを一心に受ける立場でありながら、現在は“剛拳の勇者”。
勇者になる者は例外なく人類の味方だ。そして、その善性を神器が保証してくれている。
見た目の怖さに反して礼儀正しく紳士的な事もあり、ツヴァルグ王国の国民達もギガースの事は無下に扱えず、大人しく話を聞いた。
ギガースと話す事が1つのきっかけとなって、皆の中に「あれ? もしかして魔族にも良い奴がいるのか?」と言う意識が生まれた。
きっかけさえあれば、元々人間との共生に前向きなアルバス境国の魔族達だ。
良く動き、良く働く。
信頼は行動を以って示す事を彼らは知っている。
彼らはそうやって、10年もの時間をかけて人魔共生の国を作り上げてきたのだ。
そして、腐らず真面目に働く魔族の姿を見て、ツヴァルグ王国の民達も次第に、少しづつではあるが、心を許し始めていた。
一方、アルバス境国での戦いで、戦いに参加した魔王の3人中2人が死亡すると言う大敗北を喫した魔王軍にも動きがあった。
死亡した魔王ハーディ、魔王ヴァングリッツの後継として新しい魔王が名乗りをあげたのだ。
とは言え、魔王の代替わりとなれば大騒ぎであり、暫くは軍事行動も侵略もしている余裕は無いだろう。
特にヴァングリッツの国は、魔王が死んだだけでなく上位の戦力であった兵士を丸ごと失っている。まともな戦力に戻すには年単位の時間が必要だろう。
そして、境界戦争で唯一生き残った魔王であるフィラルテも、戦いで手傷を負わされて現在は療養中――――と表向きには言っているが、傷はとうに癒えて現在は様子見に徹しているだけだ。
と言うのも、境界戦争が終わったを迎えた直後、1つの事件が起きていた。
アルバス境国の首都、ブルムヘイズ消滅――――……
消滅とは何かの比喩ではない。
本当に跡形無く消え去ったのだ。
それを「自分の知らないところで何かが起きている」と判断したフィラルテは、即座に自国に引き籠って様子見に転じたのである。
ブルムヘイズ消滅の件は現在各方面が調査中。
誰がやったのか? または、ただの何らかの事故なのか?
何も分かっていない――――……
* * *
「と、されているが何があったのかは察しがつく」
「(え? そうなの?)」
まだまだ朝も早いと言うのに、森の奥でひっそりとトレーニングするおっさんと俺とバルトの人外野郎3人組。
近頃はおっさんもバルトも各地に行ったり来たりで一緒する時間が無かったが、10日経ってようやく少しは余裕が出来た。
っつー訳で、こんな朝っぱらから叩き起こされてトレーニングに付き合わせられている俺である。
柔軟、基礎体力訓練から始まり、武器訓練、無手組手、精神修練、その他諸々。おっさんが普段やっているメニューの一部らしいが、ようやるわ……本当。
んで、一通り終わったところで例のブルムヘイズの話になったのだが……ああ、一応言っておくが、話を振ったのは俺ではない。
10日前、俺1人でアルバス境国に戻った時にあの惨状を見た訳だが、当然俺1人の胸の内に仕舞っておける事ではないので、皆の元に戻るやその話をした。
で、おっさんが「自分の目で確認したい」と言うので、おっさん1人連れて転移した訳だが……あの時のおっさんは、正直見てらんなかったな……。おっさんの名誉の為にあの時の姿は思い出さないように努めているが……まあ、うん……忘れられる訳ない。
まあ、そんな姿を見た後だから、ブルムヘイズの話題を振る勇気は俺にはまだ無い――――とか思っていたら、おっさん自身が「ブルムヘイズが消えた件だが」とか話をしだして、思わず「するのぉ!?」と叫びそうになった。
「察する。街、消えた、理由、分かる、です、か?」
バルトにもトレーニング内容はかなりハードだったようで、全身汗でビッショリだ。
俺もそれなりにヘトヘトになっているがバルト程じゃない。子猫の体とは言え、特性やスキルで身体機能や体力をめっためたに底上げしてるからね?。
「うむ。街1つ消し飛ばすとなれば、並みの者であれば相当な準備や大がかりな仕掛けが必要だ。魔法や天術の増幅、同時発動の為の大規模術式――――それこそ、街全体を覆えるくらい巨大な物がな」
「(でも、俺等……っつか、最後尾組が国を離れる時、そんな物あったっけ?)」
バルトの方を見ると無言で首を横に振っている。その周りで精霊達も「知らん」とでも言うようにゆっくりと明滅する。
だよな? 俺もそんな物知らない。
「うむ、我も気付かなかった。我等3人が気付かなかったのならば、あの時にはそのような物は無かったと断言して良いだろう。だが、その後お前が様子を見に行く半日の間にそんな物を用意するのは不可能だ。であれば、これは一般人の仕業ではなく、異常な力を持った存在によって起こされた災害だろう――――と言うのが我の推測だ」
あくまでおっさんは人災だと思ってる訳か。
何かしらの事故だか天災って可能性も……いや、やっぱ無ぇな。俺もおっさんと同じく人災だと思っている。
「だが、そうなると誰がやったのかと言う話になるが、街1つを気軽に消滅させる存在など一握りしか居らん」
「(最古の血……)」
「うむ」
ですよね。
俺の手札でもあの惨状を作り出す事は出来る――――が、結構ギリギリだと思う。それがどう言う事かっつーと、あの惨状を誰かがやったとしたら、そいつは俺と同等かそれ以上にヤバい奴だって事だ。
魔王の序列4位のおっさんを倒した俺より上となれば、それはもう序列3位以上……つまり、最古の血の3人しかいない。
「他にも竜王や竜帝も該当するが、アレ等は意味なく人里まで降りてこないからな」
……何その不穏な呼び名の奴……?
多分ドラゴン系の凄いやっべぇ奴なんだろうけど、この世界そんなん居るの?
そう言えば、“ドラゴンっぽい”魔物になら会った事あるけど、ガチのドラゴンには会った事無いな?
ゲームや漫画で散々ドラゴンに触れて来た身としては、本物のドラゴンがどんな物なのか興味が尽きないが……危ない相手なら近付かないに越した事はない。君子危うきに近寄らず、だ。
「3人、誰、やった、分かる、ですか?」
「ふむ……我の勝手な推測だが、1番可能性が高いのはアビス殿だと思う」
「(何故に?)」
「我は元とは言えあの方の弟子だ。その弟子が魔王の座を降り、剰え勇者と共闘したとなれば、師であるアビス殿の顔に泥を塗った事にもなろう」
共闘どころかおっさん自身が勇者じゃん、と言うツッコミは胸に仕舞っておく。
「(だから怒ってケジメつけに来たってか?)」
「うむ」
……別にアビスの野郎について詳しいつもりは一切無いが、そう言うの気にするようなタイプかアレは?
「弟子が何しようが俺様に関係ねえ!」とか言いそうな奴じゃなかったっけ?
「元々アビス殿は闘争を渇望している。だが、最強故に戦いを挑まれる事も少なく、いつも退屈しておられるのだ。身も蓋もない言い方をすれば、喧嘩を売れる相手ならば誰だって構わんのだ。元魔王だろうが、元弟子だろうが、な」
なるほど。そう言う事なら納得。
「次点でエトランゼ殿も有り得る。あの方は、規律や礼儀を重んじるところがあるからな? 黙って魔王の座から降りた我の事を良く思っていない可能性は高い」
エトランゼ=B・エトワール……序列2位の魔王だっけか?
正直アビスにしろコイツにしろ、まだ出会いたくねぇなぁ……。まあ、出会いたくないとか言い出したら、そもそも最古の血の誰にも会いたくねえんだけど……。
更新遅くなって申し訳ありません!
モンハンやってました!!




