11-53 因縁の清算(後編)
ツヴァルグ王国の避難は滞りなく終了した。
俺が……と言うか、俺を肩に乗せたおっさんが最後尾になって、“転移門”を回収しながら戻って来たので、敵が追って来る事は無い。
いや、追って来る事自体は出来るか。まあ、その為にはクソ険しいウィンダルム山脈を越えるか、1ヵ月かけて船旅して来なきゃならんのだが。
いやぁ、この世界、転移の魔法がルー●並みに普及してなくて本当に良かった……。
ここまでで国を脱出してから約半日。
ようやく一段落……とは行かず、そこから避難民は別れて各地の町や村へと割り振られる訳である。
まあ、それは皆に任せ(押し付け)、おっさんの肩で休んでたお陰でそこそこ魔力が回復した俺は、今のうちにソウルイーターの回収に向かう事にした。
言っておくが、考え無しにアイテム回収したい欲求に従った訳ではない。
1つはあの剣は明らかに人の手に渡って良い物じゃないと感じたからだ。あの場では、早々回収される可能性は無いと踏んだが、それだって絶対じゃないし、さっさと回収できるならそうしてしまう方が良いに決まっている。
もう1つは、このタイミングを逃すと俺が……と言うか剣の勇者が他方に引っ張り回されて回収に行く時間が取れなくなりそうな予感がしたからだ。
ツヴァルグ王国には避難民……っつか、移民? を受け入れてくれるって言質を貰っているが、あくまで国のトップが認めてくれたってだけで、実際に魔族が町や村に行ったら色々問題が起こるのは目に見えている。
で、そんな時に勇者の出番っちゅう訳だ。
まあ、そんな訳で、アルバス境国の皆が忙しなく動き回っているこのタイミングで、どさくさ紛れに行ってしまおうっつう訳だ。
ちなみに行くのは俺1人だ。
おっさんを連れて行こうかとも考えたが、別に今回は戦いに行く訳じゃない。むしろ隠密行動でささっとアイテム回収して来るだけだから、身軽で隠密性の高い俺1人の方が何かと都合が良い。
それに――――避難民の皆はここで離れ離れになるからどうしたって不安だ。そんな時に、国の大黒柱だったおっさんの姿が見えなくなるのは……ね?
* * *
そんな訳で戻って来ました古戦場跡。
相変わらずボロボロな地形……っつか、俺がピーナッツの手下相手に暴れ回ったせいで、前にも増してボロッボロッです。見るも無残とはこの事か?
なんかスイマセンね……? 地の大精霊こと岩男が怒って出てこないと良いのだが……。
そんな事を思いながら、ピーナッツが爆散した……いや、「爆散した」っつか、俺等が「爆散させた」んだけど……まあ、ともかくその爆心地に向かう。
ピーナッツの作り出した泥沼は半日で綺麗に元通りの地面に戻り、件のソウルイーターは其処に――――無かった。
「ミ?」
は?
何で無いの!? と叫びたい気持ちはあるが、剣の代わりに残っていた物があった為にアホのように叫ばずに済んだ。
―――― ブルムヘイズに向かって真っすぐ伸びる、巨大な何かが這いずった跡。
横幅5m。深さ2m。半円形の溝。
巨大な蛇……?
酷く……酷く、嫌な予感がした。
誰か、若しくは何かがソウルイーターを持って行ったのは間違いない。
だが、何の為に?
分からない。情報が少な過ぎる。しかし、ソウルイーターを持った“そいつ”がアルバス境国の首都であるブルムヘイズに向かった事を考えれば、禄でもない展開になっている事だけは想像がつく。
心の中で自分の間抜けさに舌打ちする。
あの時、無理にでも回収しておくべきだった! 仕事の後回しはツケ分利子がついて面倒になるって知ってるのに、肝心な時に判断しくってんじゃねえかッ!!
転移でブルムヘイズに――――……いや、待て! ソウルイーターを持って行った奴が敵か味方か分からない。と言うか、俺の予想だと多分敵だ。まあ、ただの勘だが。
相手が敵であるのなら、転移で飛んだ途端にエンカウント、即戦闘なんて展開が有り得る。腕の立つ相手だったら、転移して来るコッチを待ち構えてる可能性すらある。
……しゃーない、足で移動するか。
【隠形】発動して俺の存在を知覚から消す。
【全は一、一は全】の能力を全開放。
収集箱内に存在する支援術を重ね掛けの限界まで自動発動。
筋力、防御力、耐久力、耐性値、敏捷性を上昇。
「ミ」
よし。
トンッと軽い足取りで走り出す。
ボロボロになった地面が、俺の踏み出しに耐え切れず土煙となって噴き上がり、ロケットエンジンに点火したような有様になった。
まあ、【アクセルブレス】使って加速しながら踏み出したから、実際ロケットみたいな速度なんだけど。
そう言えば、転移を使えるようになってからはこうして自分の足で頑張って走る機会がめっきり減ったなぁ?
健康の為には適度に走った方が良いんだろうねぇ? 部屋猫はある程度動き回れる環境が無いと肥満体系で病気になりやすいと聞きますし。
まあ、俺はどう考えても部屋猫じゃないけど。そしてよくよく考えれば、戦闘でクソ程動き回ってるから肥満になんてなってる暇ねえな。
どうでも良い事を考えてる間にブルムヘイズに到着。
…………いや、正確にはブルムヘイズが 在った場所、だ。
「(なんだ……これ?)」
其処には何も無かった。
立ち並ぶ家屋も、防壁も、闘技場も、空に浮いていた天空闘技場の欠片すら何も無くなって、俺の目の前には、巨大なスプーンでくりぬいたようなバカでかいクレーターだけが残っている。
半日前、確かに在った街が消えている。
当然誰も残っていなかったが、それでも俺自身が驚くくらいショックを受けている。
ブルムヘイズでの思い出が零れ落ちていくような感覚。
悲しさと虚無感で涙が出そうになる。
いや、いやいやいやいや、感傷に浸ってる場合じゃねえよ! 冷静になれ俺!
これをやったのがソウルイーターを持って行った犯人だとすれば、そいつがまだ近くに居るかも知れない。
この場で戦うかどうかは別として、正体くらいは確かめておきたい。
【隠形】を切らさないように注意しながら、コソコソと周囲を探る。
しかし【アクティブセンサー】に敵の反応は無い。だが、敵がこの手の索敵や探知能力から逃れるスキル持ちな可能性は捨てきれないか……。
クレーターを半周した辺りで、敵の痕跡を発見。
地面に散らばる数百の金属片。
ただの金属片ではない。
「(ソウルイーターの欠片……?)」
かなりバッキバキのグッチャグチャで粉々だが、間違いなくピーナッツの持っていた剣だ。刃の部分の欠片に見覚えのある怪しげな文字っぽい物が書かれてるし。
一応欠片を1つ収集してみる。
『【破損した武器 Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:1/60』
うん、まあ、こうなるよね。
じゃあ、これを【自動修復】にかければどうよ?
『【破損した武器】はレアリティ:★以上のアイテムです。レアリティ:★以上のアイテムを修復する場合は、武器を構成する全ての破片を収集箱に入れて下さい』
お……? この表示は初めて見るな?
レアリティ★から上は全部唯一のアイテムだ。
破片1つから修復すると、アイテムが2つも3つも生まれる事になるからこの仕様って訳ね?
★のアイテムは不思議なポケットの法じゃ増やせないのか……。今まで怖くて試してなかったから、知れて良かった。
まあ、それはともかく――――ソウルイーターを修復する為には、粉々になった破片を全部収集箱に入れた状態じゃなきゃ無理ってか? 地面に転がる破片は何個だ? 間違いなく百や二百じゃ利かない。だが、収集箱に入れられる素材系のアイテムは60個まで……。
つまり、俺じゃコイツを直すのは無理だ。
ソウルイーターを収集する事が不可能になった――――のは、もう良いや別に。
俺がソウルイーターを求めていたのは、収集したい欲求より誰かの手に渡るのが怖かったからだし。ここまでぶっ壊されてるならその心配も無い。
それより問題なのは、何故ここでソウルイーターが壊されていたかって事だ……。
振り返れば、街1つ分の巨大な穴。
普通に考えれば、ソウルイーターを持ち出した奴がブルムヘイズの街を消したって事になるんだが……じゃあ、なんでソウルイーターをここで壊して行ったんだ? 必要なくなったからか? 直ぐに捨てるのなら、そもそも拾った意味があったのか?
犯人が俺の事を待ち伏せしていたのなら、俺かおっさんを誘き寄せる為って線もあったんだが、近くにそれらしい気配は無いし、隠れて様子を伺ってるって感じも無い。
…………考えても分からんな? 手持ちの情報が少な過ぎる。
分かっている事は、俺の知らない所で、街1つ消し飛ばす何かしらのヤバい物が動いてるって事だけだ。
「ミュゥ……」
はぁ……。
魔王同盟の件が片付いたと思ったら、次の面倒事が湧いて来るとか……本当、勘弁願いたいわ……。




