1-1 もう1度の人生を
『お前が望む力を1つだけやる』
夢の中に居るような曖昧な浮遊感。
五感からの情報が何も入って来ないのに、そいつの言葉だけが響いているのが分かる。
『あれ? 聞こえなかった? …じゃあしょうがない、もう一回ね? ゴホンッ…エホッゲホッ、チョッ! 変な所に唾入った!!』
何してんだコイツ…!? 誰か知らんが大丈夫か!?
『ゲホっ…あー苦しかった…心配かけてゴメンね。もう大丈夫だから』
ああ、そう? 大丈夫なら良かったけどさ。
っつか聞きたいんだけどさ?
『はい、どーぞ』
誰だテメェ!? あと、今の俺の状態ってどーなってんの!?
『ああ、うん。その疑問は当然だよね? まあ、その話は後で纏めてするからさ? とりあえず私の方の要件を済まさせてよ? ね? ね? 良いでしょ?』
オッサン声で媚びんなよ鬱陶しいな…。
『そ…そんな…ヒックエック…そんな言い方しなくってもさ…ック…』
マジ泣き!? メンタル弱過ぎない!?
『わ、私だってさ…ヒック…一生懸命やってるじゃん? そ、それなのに、鬱陶しいとかー…そう言う事何で言うの?』
あーはいはい、俺が悪かったよゴメンゴメン。オッサンの用事に協力するから、ね? 泣き止んでよ?
『は、はじめっからさぁ? そうやってぇ、協力してくれれば良かったじゃん? なんでえ、一回悪態吐くかなぁ?』
……本当面倒臭ぇなこのオッサン…。
『何か?』
何でもないです。それよりさっさと済ませましょうか?
『そうね。もう私疲れちゃったし、このまま帰ろうかな…』
諦めんなよ!? 心挫けんなよ!? 俺の慰めが無駄になるじゃん!!
『じゃあ「お願いします」は?』
は?
『お願いしますって言って』
…………
『早くぅ』
…………お願いします…
『もっと心を込めて言って』
…殴るぞテメェ…!
『ヒィ! ゴメンなさい!? お願いしますって私が代わりに言いますから許して下さい!!』
要らねえよ! 良いからさっさとアンタの要件終わらせろや!
『……はい。えーっと、じゃあここから真面目モードですからね。君もちゃんとして下さいね?』
アンタにだけは、ちゃんとしろなんてセリフ言われたくねーわ…。
『コホン、では―――お前が望む力を1つだけやる。望む力を選ぶが良い』
何かのアンケート?
『まあまあ、あまり深く考えずに。自分の趣味とか、好きな物とかそんな感じの事を言ってくれれば良いんですよ?』
趣味ねぇ…。うーん、コレクションかな? 特定の何かってんじゃなくて、気に入った物はなんでも集めちゃうんだよ。食玩とか旅行チラシとか…。
『ああ、とても良い趣味ですねえ! では、それを形にした力を差し上げましょう。あっ、ついでなのでもうちょっと使いやすくしときますねぇ』
で、これ結局なんの話?
『はいはい。私の要件は終わったので、約束通りお話しますね? 現在の君の状況の話ですが―――死にました』
は?
『ですが、君はどうやら手違いで死んでしまったようなので、残りの君の人生を異世界で過ごして頂きます』
え? ちょっ、待って!? どう言う事!?
『本来なら生き返らせたいところなんですが、君の死体の方がちょっと直視できないぐらいグチャッとなってしまったので、それも無理なんですよ~スイマセンね』
いや、待て! 待ってってっ!!? 俺死んだの!? 何で!?
『色々あって死にました』
説明適当!?
『ただ異世界に放り出すのも無責任かと思い、アッチの世界で使える異能を1つプレゼント! と言うのがさっきの質問な訳です。はい、じゃあ頑張って残りの人生を謳歌してくださーい』
待てやゴルァっ!? 手違いで死んだってどーゆー事だよっ!? そもそも異世界って何!? 俺の体どうなってんの!? 大体テメエ何も―――――……
『いってらっしゃい。あっ、それと新しい体は、異能の方に力注ぎ過ぎちゃったので、人の体は無理でしたーって、もう聞こえてないか?』