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11-34 猫は可能性を手渡す

 普段の自分が楽をしていたとは欠片も思わないが、こうして自分以外と戦場に立ってみると“そう言う戦い”の経験不足を痛感してしまう。

 いつもなら、周りは全部敵だから何も考えずに「全員転がす!」で良かったけど、今回はおっさんが一緒に居る。

 ピーナッツとの戦いは任せたとは言っても、やはり心配は心配だ。

 俺がこの戦いに首突っ込んだのは、“国の為”とか“人の為”とか“平和の為”なんてつもりは一切なく、ただ単に友達のおっさんを助けたかったからだ。

 まあ、この国の人間も魔族も気持ちの良い連中だから、それを助けたかったってのも有るっちゃ有るか。

 でも、やはり、俺にとってこの戦いの1番の目的は“おっさんを死なせない事”だ。

 おっさん自身としては、「皆を逃がせるなら自分は死んでも構わない」くらいの気持ちなのだろうが、俺としては死なせるつもりは微塵も無い。

 何故って? 友達だからだろ。

 損得とか関係なく、単純に死んで欲しくないから死なせないって、そんだけの話だ。


 だから――――2万の魔族の群れに突っ込みながらも、ピーナッツと戦うおっさんへの注意は怠らない。

 何かあれば1対1の勝負に嘴突っ込む事も辞さない――――とか心の中で固い決意をしながら、敵陣に突っ込んで行く黄金の鎧の肩で揺られている俺だ。

 無数の武器を遠隔で操作しているので俺自身……と言うか【仮想体】は一切動く必要がないように思われるかもしれないが、敵の多さに伴う布陣の広さを考えれば、一か所に留まっていると【全は一、一は全(レギオン)】の射程で全体をカバーするのは無理だ。

 ですので、ある程度は【仮想体】……っちゅうか俺自身が敵に近付いて、射程範囲を動かさなければいけないのである。


 で、俺が向かって来る敵を真・三●無双の如くバッサバッサとシバキ転がしていると――――いつの間にかおっさんがピンチになっていた。


「ミャっ!?」


 なんでだよっ!?

 俺が少し目を離した隙に、ピーナッツの針鼠みたいな髪で全身串刺しにされていた。

 直ぐに助けに入ろうとするが、それを邪魔しようとしているのか例の魔物連中が群がって来る。

 雑魚の魔族ならともかく、魔王級の魔物は即行で処理してしまわないとマズイ……!?

 蟷螂(かまきり)のような見た目、その見てくれ通りなら斬撃特化。もう1匹は、やたらとゴツゴツしたアルマジロだろうか?

 まあ、敵の見た目も戦闘スタイルもどうでも良い。

 速攻で転がすっ!!

 【仮想体】の異常な身体能力に物を言わせて、亜音速の飛び込みから旭日の剣の一閃で蟷螂の胴体を両断し、同時に、目を閉じてチャージしてあった【ディスチャージ】の魔眼を発動してアルマジロの前半分を雷を帯びた衝撃波で消し飛ばす。

 一瞬の間も置かずに、(あらかじ)め空中で待機させていた鉄の剣と槍に【冥府還(ターンアンデッド)】を唱えさせ2匹同時にあの世に送る。

 俺が魔物を倒したタイミングを狙っていた魔族達が、一斉に飛び掛かって来る。


「ミャァ!」


 ()ね!

 しかし、そんな行動コッチは魔物を倒す前から“見えている”。

 数百の武器が雨のように降り注ぎ、周囲に居た魔族を串刺しにする――――と同時に四方八方に【エクスプロード】をばら撒いて半径200mを焼け野原にする。

 一時的にだが、土煙と爆風の“戻し”で周辺に誰も近寄れなくなる。

 その間に、おっさんの支援に回る。

 いや、正確に言うと回ろうと思った、だ。

 動きが止まる。

 思考が止まる。

 息が止まる。

 何故かって? 驚いたからだ。

 俺がコッチで魔物や魔族とワチャワチャやってる間に、おっさんは自力で“めった刺し”状態から脱出してピーナッツを向き合っていた。

 そこまでは良い。

 いや、良くない! おっさんが血をダバダバ流してるから全然良くない!! とりあえずコッソリと【回復魔法(エナジー)】と【治癒天術(ヒール)】を投げておく。

 一応言っておくとコッソリやったのは、1対1の勝負に水を差したくなかったとか、そう言う真っ当な理由ではなく、後でおっさんに文句を言われるかも……と不安が頭を過ったからだ。

 ま、おっさんをコッソリ回復した話は置いとく。

 今の問題はそこではない。

 問題なのは、おっさんから胸の奥がざわざわするような微かな不快感が漂ってくる事だ。

 この不快感……と言うか“嫌な感じ”は良く知っている。

 アザリアから、バルトから、シルフさんから、双子から漂ってくる感覚。

 俺の中にある魔王の力が、天敵の存在を警告している。

 つまり、これは


―――― 勇者の力だ!!


 いや、いやいやいやいや、おちけつ、いや落ち着け俺!!

 なんで!? なんでおっさんから勇者の気配がしてんのよ!?

 慌ててアクティブセンサーでおっさんの情報を引っ張り出して確認する。

 ……あれ? ゴリゴリに低くなっていたおっさんの能力値(ステータス)が、元通りのなってる……? いや、むしろ俺と戦った時より若干だが高くなってない?

 そして、装備している特性の欄には――――


 【魔王】

 【勇者】


 相反する筈の2つが並んでいた。

 ……マジで勇者になっとるやん、あの赤鬼さん……。どう言う事? 誰か説明しておくれよ。

 何がどうなったら急に魔王が勇者に転職すんのよ?

 …………いや……もしかして、“急に”じゃないんじゃないか?

 だとしたら、どこからだ?

 この古戦場跡で出会った地の大精霊らしい岩男(テラ)のセリフを思い出す。


『だが、お前の放つ魔力の色(・・・・)には少し興味がある。お前、もしかして魔王ではなく…………まあ、良いか』


 あの時、テラはこう続けようとしたんじゃないのか? 『お前、もしかして魔王ではなく――――勇者じゃないのか』と。

 だとすれば、おっさんは俺と出会う前から勇者の素質を持ってたのか?

 おっさんが生まれた時から持っていたのか、それとも後天的に芽生えた素質なのかは分からないが、おっさんには俺と出会う出会わないに関係なく勇者になる可能性があった……?

 まあ、才能だの素質だのを持っている事と、それが実際に芽を出して能力と呼べるようになるのかはまったくの別問題だ。

 おっさん自身だって、まさか自分が宿敵とも言うべき勇者になれるだなんて想像もしていなかっただろう。

 

 もしかして…………おっさんの弱体化の原因もこれだったんじゃねえの?

 例え勇者になれる素質があっても、「魔王が勇者になれる訳がない」と言う思い込みが、その素質に蓋をしてしまう。

 どんな選択肢だって、選ぶ機会が無ければルートは分岐しない。

 まあ、エスカレーター式の小中高一貫校みたいな物なんだと思う。

 その小学校に入れば、余程の事情が無ければ当然のように高校までは外部の学校に通う事はない。

 外部の学校に行けば、もっと幸せな人生が有るかもしれないし、もしかすれば将来の結婚相手に出会うかもしれないのに。

 おっさんもその(たぐい)の話なんだとすれば、魔王としての弱体化は“選ぶ機会が無かった選択肢”に立ち返る為の物だったのではないか?

 おっさんには【魔王】と【勇者】どちらにもなれる能力と素質があった。だが、自身が勇者になれる可能性に気付く事もなく、魔族として当然のように魔王になるルートを選んだ。

 だから――――そのルートの分岐に“戻った”。

 そして、おっさんは見事別ルートに突入し、結果として魔王と勇者の両方の力を持ったハイブリットな化け物となりましたとさ。

 いや、まあ、全部俺の推測でしかないけど……。全然別の事情だったって可能性は大いに有り得るし。

 だが、ぶっちゃけそこはどうでも良いだろう。

 おっさんがその“弱体化の理由”を越えて勇者の力を得て、失っていた魔王の力も取り戻したのだ。この際理由も事情もどうでも良い。

 おっと、色々考えてる場合じゃない!

 おっさんが勇者になったと言うのならば、その象徴となる神器を渡さなければならない。

 俺の手元の神器は、旭日の剣含め7つ。

 剣、盾、弓、鎌、斧、拳、鞭。どれがおっさんに適合する神器か?

 悩む必要もなく一択じゃない? どう考えても“国土の剛拳”以外の選択肢ねえだろう。もし適合する神器がコレ以外だったら、問答無用でクレームの電話かけるわ。どこに電話かければ良いのかは知らんけど。


「(おっさん、使えっ!!)」


 おっさんの手元まで“国土の剛拳”を飛ばし、おっさんが受け取ったのを確認してから【全は一、一は全(レギオン)】の支配から切り離す。

 俺の支配から離れたアイテムは、当然【制限解除】の効果も受けなくなる。

 だから、今その神器に触れられるのは本物の勇者だけ。

 おっさんは自然に国土の剛拳を持っている。

 当たり前だ、おっさんは本物の勇者になったのだから!

 迷う事無くおっさんは黒いグローブに手を入れ、身に着ける。

 途端――――寒気がするような――――熱気にも似た圧力が吹き付けて来る。

 これなら大丈夫そうだな? 俺は2万の兵士相手に“俺無双”を再開するとするか。

 まあ、強いておっさんの戦いにこれ以上何かコメントしろと言われれば、言うべき事は1つだろう。


 ご愁傷様、ピーナッツ。

 お前、マジで詰んだぞ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 熱すぎる……
[一言] あー・・・確かに無双ゲーだな・・・
[気になる点] 6ー10で手に入れたのは「黒土の剛拳」ですね [一言] 黒土の剛拳は「サイズ小」なのにおっさんの拳サイズに拡張されてしまいました!
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