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11-30 猫と赤鬼は自らの戦場に立つ

 転移が終われば、目の前には万を超える魔族の軍勢。

 相変わらずヤバ気な臭いを発する毒の沼やらがある10年前の決戦の地。

 まさか、10年経ってまたこんな大きな戦いの舞台にされるとは、誰も夢にも思わなかっただろうに……。

 などと、視界一杯の敵を前に現実逃避してみる。


 突然現れた俺とおっさんを見て、敵の旗振り役がラッパと旗で停止を促す。

 2万の軍勢が波打つように止まると、丁度真ん中で軍が半分に割れ、最後尾に居た人物が俺達に向かって進み出て来る。

 銀色に輝く細い刃の髪を持つ、針鼠みたいな見かけの魔王。


「(ピーナッツ)」「ヴァングリッツ……!」


 同時に呟く。

 針鼠野郎が、まるで俺達に見せつけるかのように……いや、多分実際見せつけてるな……「どうだ? この戦力差は?」と、2万の戦力を前にたった2人で立つ俺達を嘲笑っている。

 だが、町の人間達が避難するまでの時間を稼ぎたい俺達としては、相手がちんたら動いてくれるのは願ったり叶ったり。


「(居るな。古戦場(ここ)産の魔物)」


 敵の中に、頭4つくらい飛び出ている大きな魔物が居る。

 見覚えがある。

 間違いなく俺がここでエンカウントした魔物共だった。

 ……こういう展開になるんなら、無理にでもあの時に全員転がしておけば良かったな……。まあ、今更後悔しても遅いか。


「あの魔物を作り出したのが、本当にイベルであるのなら――――」

「ミ?」


 ぁん?

 どこか遠い目をしたおっさんが、呟くように言うので、思わず問い返してしまった。


「この展開は予想しておくべきだった」

「(その心は?)」

「ヴァングリッツの船に積まれていた魔法の増幅器は間違いなくイベルが作った物だった。であれば、あの2人が繋がっている事は明白」


 なるほど。

 協力関係であるのなら、ピーナッツがここを通る為にマッド野郎が魔物を退()かすって可能性は“アリ”だった。

 なまじピーナッツの国で古戦場を避けて通るって聞いていたから、そんな当たり前の可能性を考えもしなかった……! アホか、俺は!?


「イベルが誰かに手を貸す事は無いと勝手に思い込んでいた故、その可能性を初めから考えもしなかった……我のせいだ」

「(それを言い出したら、野郎の国で半端な情報持ち帰って来た俺が戦犯だろうよ)」


 お互い黙る。

 ここで「誰が悪いか選手権」をする意味はない。

 既に、目の前に“最悪の展開”が訪れてしまっているのだから、そんな事を話すよりも目の前の事態に対応しろっつー話よ。

 そんなやり取りをしている間に、ピーナッツが2万の兵の前まで出て来る。

 総大将が最前列に来るって……絵面として相当頭悪いな? 殺して良いなら殺し放題じゃない?


「誰かと思えば、裏切り者の“元”魔王と、人間の希望などと(のたま)う剣の勇者ではないか?」


 見れば分かるだろう事を一々厭味ったらしく言う。

 ついでに言うのなら、俺は1度たりとも自分の事を「人間の希望」だなんて言った事はないし、これから先も言う予定は一切無い。


「なあ、“ただの魔族”になったギガース? 魔王の座を降りた気分はどうだ? 人間側につくなんて、最低にして最悪の愚かな選択をした気分はどうだ? その結末を目の前に置かれた気分はどうだ?」

「どうだ、と訊かれても困る。少なくとも後悔はしていないが? それと、この場をその選択の“結末”にするつもりはない。(われ)が人と共に歩む道を選んだ結末は、人魔共生の中にこそ有ると信じている」


 おっさんの答えに、ピーナッツの顔が見る見るうちに怒りで歪む。

 まるで忌むべき者を見るように。

 まるで汚らわしい者を見るように。

 まるで――――自分の理解できない異物を見るように。


「フンッ! やはり貴様は魔王の器ではなかったな!! 魔王とは、絶対的な恐怖と力で全てを支配する存在だ! そう、私のようにっ!!」


 コイツの言葉を肯定するのは癪だが、確かにおっさんは魔王らしくない。

 と言うか、本人もその辺りの自覚はあるらしく、ピーナッツの言葉を「あーはいはい、そっスね」みたいな真顔で聞き流している。


「下等な人間との共生などと言う恥ずべき事を口にするから、そんな見窄(みすぼ)らしい姿になる!! そんな愚かな考えをするから、力を失う!!」


 言いたい放題だなコイツ……。

 おっさんが弱体化したから全力でマウントとってんのか?

 っつか、おっさんが力を失ったのは、自分の意思で魔王の座から降りたからだと思うんだが……いや、まあ、その決断をするキッカケが「人魔共生」に有ると言えば、まあ、それはそうなんだが。

 そして、それを聞いても「そうですが何か?」みたいな真顔が崩れないおっさん。

 そんなおっさんの姿に更に顔を真っ赤にするピーナッツ。

 コイツが真っ赤っ赤になればなるほど、コッチとしては「クソざまぁ」だけどな。

 などと余裕をこいていると、ピーナッツが腰の剣を抜きながら突っ込んで来た!?


「そして――――ここで、死ぬ事になるッ!!」


 狙いは、おっさん――――俺は眼中にないってか?

 とりあえず横っ面ぶん殴っておくか……いや、別にピーナッツにアウトオブ眼中されてるのが気に食わないとか、そう言う話じゃなくて。単純に、おっさんに突っ込まれたら危ないと思ったからだ。

 弱体化したとは言え、おっさんの現能力値は恐らく戦闘力下位の魔王と同等か、ちょっと下くらい。

 まあ、つってもおっさんの格闘能力や魔眼が消えた訳じゃないから、ピーナッツ相手なら良い勝負……と思っていたのだが、この場に来て少し予想が変わった。

 と言うのも、ピーナッツが持っている剣……アレは、明らかにおかしい。「何がおかしい」と訊かれると答えに困るのだが……アイテム収集家である俺が、初めて思ってしまったのだ。


 ―――― あの剣に触れたくない、と。


 生理的な嫌悪感が凄い。

 鳥肌がたつ。

 鼻と肉球の汗腺が無意識に開いて汗が噴き出す。

 あの剣がどんな物かは知らない。だが――――ヤバいのは分かる。だから、咄嗟にピーナッツが突っ込むのを止めようとしたのだ。

 そんな俺の思考を読んだのか、はたまた俺が割って入ろうとした気配を感じたのか、ピーナッツが叫ぶ。


「進軍!! 町を、人間を、それに与する愚かな魔族を、全て蹂躙せよッ!!」


 その声に反応し、進軍を知らせるラッパが高らかに鳴り響き、立ち止まって成り行きを見守っていた2万の兵が動き出す。


「ミ、ミャッ!?」


 おいっ、マジかッ!?

 次の行動を判断できなくて出足が鈍る。

 その時、おっさんがピーナッツの倍近い大声で叫ぶ。


「心配無用!」


 言いながら、両の腕に黒い魔力光を纏わせながら構える。


「我の心配は無用だ! だが、恥ずかしながら今の我ではヴァングリッツ1人止めるのがやっと……。すまぬが、2万の兵の相手を頼むぞ!」


 ……ああ、そうだわな? 俺もおっさんも覚悟決めてここに居る。

 元々おっさんはピーナッツが自分を狙ってくる事を読んで、囮になる為について来たのだ。だったら、この展開は全てコッチの狙い通りじゃないか……!

 おっさんだって、ピーナッツの持ってる剣のヤバさには気付いている筈だ。いや、むしろ殺気を向けられているおっさんの方が強く感じているだろう。

 しかし、それを知った上で、その危険を全て引き受ける……と言っている。

 だったら――――俺は、俺の仕事をしろ!!


「(心配無用はコッチのセリフだ――――)」


 ―――― 覚悟だ。

 

 空中に現れる871個の武器。

 いつもの俺なら、【全は一、一は全(レギオン)】の効果を見せないようにしていた。


「なっ……なんだ、コレは……!?」


 突然現れた空中に浮かぶ大量の武器に、ピーナッツが足を止める。多分攻撃される事を警戒して止まったのだろうが、お前に攻撃する気は一切ない。テメェを転がすのはおっさんに任せたからな。

 兵隊達も言葉を発しはしないが、明らかに進軍のスピードが落ちた。


「(心配なんざ必要ねえさ。2万だろうが10万だろうが――――)」


 俺の装備する全ての武器が、クルンッと空中で1回転してから、向かってくる2万の兵隊に刃を向ける。


「(全員、食い散らす!!)」


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