11-24 飼い主の話
レティに抱っこされたまま、暫く2人で庭を散歩する。
いや、まあ、2人つっても気配消して会話を聞いてない振りしてるメイドさんが後ろについて来てるんだけどさ……。
王様とアザリア達の話だか調印式だかが終わるまではどうせ俺の出番はないし、暫くはレティに付き合う事にした訳です。
俺だってレティが泣いてて気分が良い訳ないし、慰められるなら慰めてやりたい。
俺が一緒に居て寂しさが紛れると言うなら、少しでも長く一緒に居てやりたいとも思う。猫の身ではあるが……いや、か弱く脆弱な子猫の身だからこそ、何も言わずに飯も寝床も用意してくれるレティには感謝しているのだ。
「ほら、あの白い花は昨日蕾になったばっかりなんですよ?」
「(そら、咲くのが楽しみだな)」
「です」
こんな感じで、花の話やら、この前飲んだハーブティーが少し苦かったとか、近頃料理長の作る豆を使った料理が美味しいとか……「切羽詰まった現状で聞く必要があるのか」と首を傾げそうになる程他愛もない世間話をする。
だが、正直ありがたい。
何をしてても頭の片隅に魔王同盟との戦いの事があって、正直近頃心底休んでいる感じがしていなかった。
だけど、俺にとってレティは戦いとは1番遠い人物だ。
そのレティが、戦いとまったく関係ない話をしてくれると、なんだか妙に安心する。
あと、ちゃんと綺麗になった庭をのんびり歩くのも良い。
ガジェットがこの城に居座ってた時の庭は、●のオカリナのハイラ●城みたいになってたのに、良くもまあ、数ヵ月でここまで綺麗にしたもんだ。
この国を助ける為にガジェットを転がした訳じゃないけど、その成果として元通りの姿になったと言うのなら、この綺麗な庭もある意味俺が必死こいて戦った結果って事だ。
俺が戦った事を褒められたい訳じゃないし、誇りたい訳でもないが、自分のやった事の結果がこうして“良い方向”に向いてくれているのは素直に嬉しい。
「ブラウン……どうかしたんです? 難しい顔してるんです?」
おっさんと言い、レティと言い、猫の言葉が分かる連中は、何故か表情まで読み取れるんだよなぁ……?
あ、うちの弟子はそうでもないか……。
「(いや、庭も城もすっかり綺麗になったなと思って)」
「そう言えば、ブラウンが剣の勇者様について旅立った時は、まだ修復が終わってませんでしたっけ? 皆がいっぱい頑張ってくれたんです」
この修復の早さは、そのままこの国の舵取りをする王家への期待なんだろうな。元々この国は王家への忠誠心がえらい高かったと聞くし。
そんな事を考えていると、進行方向から耳慣れた声が聞こえて来た。
「兄様ー! どこですか兄様ーっ!」
アザリアだった。
どうやらお話は終わったらしい……って、やっべ!? さっき無言でサボタージュしたから無茶苦茶怒ってる奴や!!
っつか、良く知らない城の中で大声出せるな……どんな神経しとんじゃ。
他の連中が一緒に居れば止めてくれるのだろうが、今はアザリア1人だ。多分、おっさんを自由に歩き回らせる訳には行かないから置いて来て、おっさん1人にするとこの城の皆が不安になるから他の勇者連中が残った……って感じだろう。
「あら? 誰でしょうか? 御兄弟とはぐれてしまったのでしょうか……?」
などと腕の中の俺を撫でながら、呑気な事を言っているレティ。
「(あれが今代の杖の勇者だよ)」
「え? あの子が杖の勇者様なんです?」
あの子って……レティも年齢変わんないでしょ……?
下手すりゃ君の方が年下じゃない?
そして、レティが「杖の勇者」と口にした事で、メイドさんがアザリアに向ける視線も6割増しで鋭くなる。
容赦がない! 本当に容赦がないわこのメイド!? 例え少女相手だろうが、勇者とあらば容赦しない!!
「(見かけはアレでも、今代の勇者のリーダーよ)」
「まあ! では、とても聡明で強い方なんです?」
「(強いかどうかは置いといて、優秀なのは間違いない)」
そんな事を話していると、コッチに近付いて来るアザリアが、レティに抱っこされてニャーニャー鳴いている俺に気付いて小走りに近付いて来る。
いつもの調子で「猫にゃん」と声をかけようとして、レティの存在がそこで初めて目に入ったようでピタリと動きを止める。
レティがこの国の御姫様だと気付いて止まった……って感じじゃねえな? むしろ……なんつーの? 「旦那の浮気を目撃した嫁」みたいな顔して停止してんだけど?
「猫にゃん……?」
副音声:何その女は……?
って聞こえて来るのは気のせいだろうか? 気のせいだな、間違いない。
しかし、そんな様子も一瞬で、直ぐにハッとなっていつも通りの表情に戻るアザリア。
「失礼しました。レティシア様でしょうか?」
「は、はい。貴女は、杖の勇者様ですね? お噂はお伺いしています」
お伺いしていますって、30秒前に俺から聞いたんじゃん……。いや、まあ、嘘は言ってねえけど。
「良い噂だと良いのですが……。今代の杖の勇者、アザリアと申します」
名乗ったところで、アザリアが恐る恐るレティの腕の中に収まっている俺をもう1度見る。
「あの……レティシア様? お聞きしたいのですが、猫にゃ……その子猫は兄さ……じゃない、剣の勇者のペットですよね……?」
「ええ、そうです……けど」
お互いに無言になって見つめ合う。
何? 何かしら、この微妙に居心地の悪い変な間は?
「私達はこれから剣の勇者と一緒に戻らなければなりませんので、その子猫は私がお預かりして剣の勇者に返しておきます」
副音声:猫にゃんを渡して!
と聞こえる気がするのは……いや、これ、気のせいじゃねえな……? 俺をなんとか自分の手に取り戻そうとしてるぞ、この妹!?
……いや、でも、なんでだ?
アザリアの前でなら、バルトにだっておっさんにだって引っ付いてた事はあるけど、こんなあからさまに俺を抱き戻そうとした事あったっけ?
もしかしてレティだからかな? いや、レティってか、抱っこされている俺の雰囲気が違うからかも。
レティに抱っこされている時は、他の誰にくっ付いてる時よりも安心……? っつか、リラックスしているのは自覚している。
まあ、アザリアはその辺りが気に入らないのだろう。
どう言う訳か、アザリアは自分が1番俺に好かれていると思っているらしいので、自分以上に俺が心を許している相手が居るのが許せない……とか、そんな感じだ、多分、知らんけど。
アザリアの分析はさて置き、迎えに来てくれたと言うのなら丁度良い。さっさと帰って色々やらなきゃならんし、アザリアと一緒に皆の所に戻るか。そして、さっきサボタージュした事を有耶無耶にして無かった事にしよう。
「ミィ」
レティの腕の中から立ち上がろうとすると、それを遮るように――――嫌がるように、レティが少し震えながら俺を抱く手に力をこめる。
「(何、レティ? お迎え来たから、そろそろ行かないと)」
顔を見上げると今にも泣きだしそうな程潤んだ瞳が「私より杖の勇者様の所に行くんです?」と必死に訴えかけていた。
いや、いやいやいや、今さっき寂しいのは「我慢せィ」って言うたやん?
…………いや、これは“そっちの寂しい”じゃねえな?
元の世界では、毎日のように遊んでいた男友達が、恋人が出来てあまり遊びに付き合ってくれなくなった――――と言うような寂しい思いを何度かした覚えがある。
レティが今俺を引き留めようとしているのは、そんな寂しさからだろう。
元々お姫様で友好関係が広くないのに、10年間子豚の姿で尚の事人に会わなかったものだから、レティの友人は俺1人……と言う話をいつか眠る前に話していた。
俺の場合は“数居る友達の1人”の話だから、少し寂しさを感じた程度だったけど、たった1人の友達の話であれば寂しさを越えて恐怖かもしれない。
…………とか何とか長々勝手に考察してみたが、別にアザリアと俺は恋人な訳じゃないし、魔王同盟の件が片付いたら普通にレティの所に戻ってきて、いつも通りにゴロゴロするから関係ないんだけどな?
「(大丈夫)」
「…………本当です?」
「(うん。レティの所が1番居心地良いから)」
それを聞くと、渋々アザリアに俺を手渡すレティ。
納得したのか、してないのか……。俺がもう少し格好良いセリフで説得したら、納得させたうえでレティのハートにズキュンッとしたかもしれんが、俺ってそんなキャラじゃねえしな……? 俺が格好良いセリフ吐いたって、失笑しか生まれんわ。
阿呆な事を考えている間に、俺の受け渡しが完了し、大事そうにアザリアの手に抱かれる。
「それではレティシア様、急ぎ剣の勇者を捜さなければならないので、これで失礼します」
体に染みついているであろう、貴族的で綺麗なお辞儀。
今にも泣きだしそうなレティに後ろ髪惹かれながら、剣の勇者を捜しにアザリアと探索に向かう。
…………いや、まあ、捜すも何も、ここにもう居るんだけどさ……。
「そう言えば知ってる猫にゃん? ツヴァルグ王国にレティシア姫と言えば、どんな相手ともお話が出来るらしいにゃん」
「ミュゥ」
知ってるにゃん。
「さっき、猫にゃんと話しているように見えたけど……もしかして……」
「ミャ!?」
うぉえ!?
ちょっ、このタイミングで正体バレのフラグ!? レティに俺が話せる事を黙ってるように口留めしてなかったからな……! しまった……と言うより迂闊だったと言わざるを得ない。
アザリアがジッと腕の中の俺を見つめて来る。
「ミィ」
とりあえず、可愛く鳴いて腕の中でゴロンとする。
「猫にゃん、可愛い♡」
ギューッと頬擦りされる。
「そうだよね? 猫にゃんが喋る訳ないもんね?」
はい、誤魔化し完了。
普段のアザリアだったらもう少し疑ったかもしれないが、猫ポンコツモードのアザリアを騙くらかすなんて余裕の●っちゃん●カなのだ。
ちなみにその後、黙ってサボタージュした剣の勇者は死ぬほど怒られた。




