11-20 話し合い
昼過ぎ――――徹夜仕事でバタンキューした俺が目を覚まし、適当に収集箱から取り出した飯を食ったら早速皆を集めた。
ああ、集めたってのは、勿論剣の勇者の姿でだけど。
集めた理由は、当然昨夜夜通しで調べて来た、この国の者達を逃がす“逃げ道”を皆に話す為だ。
で、おっさんの私室。
収集したメンバーは、アザリアを始めとした勇者一行、おっさん、そして現在この国の国政における決定権を持っている“元老院(仮)”の面々。
そう言えば、元老院には初めて会ったけど、ちゃんと人間も混じってるのか。魔族4人と、人間は……おっさんの秘書みたいな事をしていたワムスとか言う爺さん達4人。
人間側、魔族側、どっちからも文句が出ないように半々に分けたのかな……? まあ、良いか。俺のような部外者の一般人が気にする事じゃない。
ま、ともかく、この場に集まった皆に話す訳だが――――アザリアが滅茶苦茶睨んできなさる……絶対終わった後にトイレとか体育館裏に呼び出されて〆られる奴だわ……。説明終わったら即行でバックレよう……。
「転移門ですか?」
「ふむ……転移魔法のように、空間を飛び越える魔道具がそんな名前だったと記憶しているが?」
と、若干微妙な反応をしているアザリアとおっさん。
その隣で、若干眠たげなシルフさんが双子と顔を見合わせていた。
「そう言えば、七色教の教会のどっかに保管されてるって話じゃなかったか? 俺は直接見た事ないけど」
「確かに聖教会アヴァレリアに」「有ったと記憶しています」「「ですが」」「保管されていた地下室が」「魔道具の暴走事故で爆発、崩壊」「その際に教会にあった」「転移門は失われています」
…………魔道具の暴走による爆発、ね……。
うん、そうね、きっとそうだわ。
決して俺が、ガソリンをセットして火炎魔法で起爆したなんて事はないから、うん、本当に本当に。
いや、アレだからね? 別に責任逃れのアレじゃないから! だって、皆がそう認識してるならそれが真実なんだもん! 誰も得しない真実は俺の心の中だけで闇に葬る方が世の為だもん(必死の言い訳)!
まあ、でも、正直安心したな……?
網走教会から脱出のタイミングで地下室をアレしたから、教会関係者からは「犯人は剣の勇者だ!」ってなっててもおかしくないと思ってたし。
……もしかして、教会関係者の誰かが、俺を守る為にそういう風に話を纏めてくれた……とか? いや、ねえか。そんな知り合い居ないし。強いて言うなら双子の親父さんだけど……ま、いっか。
本題に戻ろう。
何故に転移門の話になっているかと言えば、俺が転移門を使ってこの国から逃げれるって話をしたからだ。……いや、話したっつっても、バルトに通訳して貰ってなんだけどさ……。
「でも、兄様? 転移門でこの国から脱出出来ると言っても、その魔道具は珍しい物なんですよね? どうやって手に入れるんですか?」
どうやっても何も、既に持ってますが?
まあ、ゲームで良くあるアイテムボックスやらストレージやらは、この世界でも存在してねえからな? 基本アイテムは全部物理的な持ち歩きしかない。
そう言う意味じゃ、俺の【収集家】も十分なインチキだわな……? まあ、そのインチキが、最近になって“暴走機能付き”なのが判明したのはどうなのかと思うが……。
いや、まあ、“獣”の件はさて置き、どうしたものか……?
いっそ、ここで【収集家】の能力の一部は話しちまうか?
最低限、俺が猫だって点さえ隠せていれば良い訳だし、俺が“見えない倉庫”を持ち歩いてる事はバラしちまって良い気がする。その辺り知らせないままだと、事あるごとに隠さなきゃ行けなくなるし……何より、この先の展開として、アザリア達の前で魔王クラスと戦う事になった時に【全は一、一は全】を使えないと困るし。
よし。
目を閉じて収集箱のリストを開き、転移門を選択。
タイミングを合わせて【仮想体】を動かして、コイツが取り出したように演出する。
部屋に突然現れた木製のドアに、おっさんとバルトを除いた全員がギョッとする。
それを無視して、転移門の上面に表示されている転移先を適当に選択し、【仮想体】がガチャッと扉を開ける。
「あ……!」
扉の先には青い空、青い海……適当に選んだ場所が海の近くだったらしい。
はい、これが転移門でーす。
【転移魔法】が使えなくても、空間を飛び越えられる素敵アイテムでーす。まあ、飛べる先が魔力濃度に左右される制限はあるけど。
「これが、転移門ですか?」
【仮想体】が「うん」と頷きながら扉を閉じる。
皆が閉じた転移門を見つめたまま黙る。
俺が“アイテムを大量に持っている”事を知っていたおっさんとバルトも、流石に転移門の実物は見た事ないらしく、他の連中と一緒に驚いている。まあ、七色教の関係で転移門を知っていた双子は、驚いているのか微妙だが。
さて――――皆との話に戻る前に、転移門を取り出したこのタイミングで、俺の中にあった疑問をもう1度整理しておこう。
―――― 何故に転移門でウィンダルム山脈を越えられるのか?
憶えているだろうか?
はい、憶えてます!!(無駄に元気な返事)
俺がこの国に来る時、どうして1ヵ月以上の船旅を選んだのかと言えば、転移門でウィンダルム山脈を越えられないと判断したからだ。
では、何故今回は転移門でウィンダルム山脈を越えられるのかっつーと……まあ、アレだ。俺が気付いたからだ。
昨日ピーナッツの国に行った時、移動に転移門を使ったのだが、その時にウィンダルム山脈の中に転移のポインタが灯っていた。で、気付いた訳だ。もしかしたら、転移門ってのはスマホみたいな物なんじゃないのか、と。
どう言う事かと言うと、スマホには電波を受け取りやすい場所と、受け取り辛い場所がある。同じように、転移門も“転移しやすい場所”と“転移し辛い場所”がある、っつー事だ。
んで、昨夜1人で、雪の積もるクソ寒いウィンダルム山脈に突っ込み、転移しやすい場所を探した結果、中継4回挟めば大陸の南側まで抜ける事が出来た――――っちゅー訳です。
何を言いたいのかっつーと……1ヵ月も船旅する必要なかったやんけ……!!
……いや、まあ、あの1ヵ月は無駄じゃなかったし、良いんだけどね……。別に後悔してないけどね? 本当に。
はい、とにかくこれで謎解明です。
閑話休題。話に戻ろう。
「兄様……それ、どこから……?」
「ミャァ、ミュゥミ」
バルト、通訳宜しく。
俺の斜め後ろに居たバルトが、皆に聞こえないように小さく「はい」と返事をする。
「師匠、アイテム、一杯、持つ、ます。でも、皆、見る、触る、出来ない、です」
それを聞いて、皆が更に驚……あれ? 驚いてる? 驚いてなくない? なんか、皆して「ああ、そうなのね」みたいな納得顔してるし。
俺のそんな思考が伝わったのか、アザリアが若干呆れた目で【仮想体】を見る。
「いえ、よくよく考えてみたら、兄様なら……まあ、言ってはなんですが、何でもアリですし……」
全然なんでもアリじゃねえよ……俺の何処を見て“何でもアリ”だなんて思ったんだ妹よ。
そして全員が「その通りだ」と頷いているのが全然納得できんのだが……?
大体、なんで、俺の正体知ってるおっさんとバルトまで頷いてんだよ……!? この子猫の体見れば、“万能”じゃないって分かんだろうが!?
「ともかく――――兄様の手元に、その転移門があるのは分かりました。そして、兄様の言う通りにその魔道具でウィンダルム山脈を越えられるのだとすれば、その先の話の必要があります。今日このメンバーが集められたのは、その為……ですよね?」
「どうやって」「国民を転移門に」「誘導するか」「ですね」
「逃げる、場所、どうやって、皆、暮らす、問題、です!」
双子とバルトの「その先」の解答を聞き、シルフさんが溜息交じりに訂正する。
「それ以前の問題だよ。ウィンダルム山脈を越えて逃げるって事は、当然行き付く場所は大陸南のギルシュテン王国、ツヴァルグ王国、エルギス帝国のどこかだって事だ」
そこまで言われても意味が分からないらしく、3人揃って「それはそうだろう」とポカンとしている。
……いや、おい勇者3人が揃ってそれで大丈夫か……? 頭脳労働担当のアザリアとシルフさんの苦労を思うと涙が出そうだわ……。
「つまり――――そこは、“他国”って事だよ」
そこまで言われて、ようやくアザリアの言う「その先」の意味に気付いたバルト達が、「あっ」と声をあげる。
そう、そうなのである。
転移門でこの国から逃げるのは良いとして、その逃げた先の国が受け入れてくれるかどうかは別問題なのである。
ただでさえ国民丸ごと移民なんて問題だらけなのに、この国には人間の敵である魔族がかなりの割合で混ざっている。
それを「何も言わずに受け入れてくれ」って方が無理だ。
では、“その先”の為の行動とは何か?
その答えをアザリアが皆に宣言した。
「逃亡先の国へ、受け入れてくれるようにお願いしに行かなければなりません」
……お願いして、何とかなってくれると良いんだが……。




