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1-34 落ちる雷と落ちる命

 そう言えば、天術ってのを使ってないなぁ……なんて事を呑気に考えていた。

 下の広場では、魔族達がてんやわんやの大騒ぎをしている。

 ……まあ、その騒ぎの原因は、俺が【仮想体】を出したり引っ込めたりしているせいなんですけどね。

 なんか、場が混乱してんだよね?

 さっきまで、魔族が魔法をぶっ()して、俺がユーリさんを始めとした住民達を守って盾になるって単純な図式だった筈なのに……なんか住人さん達が、何かに感化されたのか急にやる気出して戦い出したもんだから、もう乱戦になって、皆を守る俺が大変なのなんの!

 ……いや、まあ、言っても俺は一歩も動かず、ここで見下ろしてるだけなんだけどね?

 本当はやるつもりなかったのに、収集箱への出し入れをする事で【仮想体】を高速移動させる羽目になったし……まあ、魔族の方々が何やら「てんいじゅつしき?」とか言う物と勘違いしてくれたようなので良し。

 住民の皆様の頑張りもあり、「この調子なら全殺しできそうだなぁ…」とか思い始めた頃、ぞろぞろと増援の魔族が広場に集まって来た。

 もう、おかわり要らんやろ……。

 若干……いや、かなりゲッソリする。

 ゲームだと、こう言う時は広範囲魔法とかで、一気に殲滅するなり弱らせるなりして状況を良くするのが定石だけど……そんな都合の良い物俺の手札には……有るじゃん!?


『【審判の雷(ジャッジメントボルト)

 カテゴリー:天術

 属性:超神聖/雷

 威力:AA

 範囲:AA

 使用制限:特性【勇者】

 暗黒/深淵属性の対象に対して超特効。

 特性【魔族】【魔王】を持つ対象に対してのみダメージ判定』


 ほらほら、これこれー!

 範囲、威力共にAAのこれなら行けるでしょ!!

 しかも、【魔族】か【魔王】の特性を持ってる奴にしかダメージが行かないってのが最高に良い! なんたって、町中で構わず撃てる。何この都合の良い必殺技!? サ●フラッシュか!?

 どんな感じか1度試してみたかったし、この状況は最高のタイミングでしょう!

 おっと、流石に発動者まで食らうなんてオチはないと信じたいが、もしもがあるので、一応装備している【魔族】の特性を外して置く。

 まあ、こっちの“取って置き”を撃つんだし、少しは恰好付けよう。

 【仮想体】を一旦引っ込めて、すぐさま処刑台の上に再び創り出して鎧と兜を着せる。


「広場から離れろッ!!!」


 魔族の親玉が叫んだ。

 しかし―――もう遅い! 1人も逃がさんよ!!

 【仮想体】に剣を掲げる“それっぽい”ポーズをさせて、収集箱から天術の欄にポツンと1つだけ有る、それを引っ張り出す。


審判の雷(ジャッジメントボルト)


 空を覆う黒い雲の中で、何かが蠢くように白く光る。

 次の瞬間―――トラックが事故を起こした時のような轟音と共に、白い輝きが広場に降り注いだ。

 広場全体を覆う程の、光の柱のような―――巨大な雷!


「ミャァあッ!!」


 ぎぇぁああああッ!!!

 魔族達だけでなく、問答無用で俺も住民達も皆揃って降り注ぐ光に呑まれる。

 ぁぁぁああああ、天に召され―――……ない!!

 うん。特に何にも感じない。

 熱くもなく、痛くもなく、気持ち悪さも感じない。

 住民の皆様も、降り注ぐ光を受けているが、何事かと不安そうな顔をする人間は居れど、痛みを感じている者は1人も居ない。

 しかし―――魔族達は違った。


「ぐ、ガあああッ!!!!?」「ウギョォオオああッ!?」「おのれ、勇……」


 降り注ぐ雷に打たれた魔族達は、容赦なく消える。

 まるで浄化されるように、頭から足に向かってジュッと音を立てて消える。しかし、消えるのは魔族の体だけで、身に着けていた鎧や服、持って居た武器は無傷のまま地面に落ちる。

 耐性やら耐久力の違いなのか、一瞬で消えない魔族も居る。しかし、そんな奴等も体が燃え出し、2秒でこんがり焼かれた後に体が消される。

 問答無用。慈悲も情も挟む余地はない。

 辛うじて広場から逃げた魔族も数人いた。だが、結局同じ運命を辿った。

 広場に落ちた巨大な雷。そこから波紋のように雷を帯びた光が外に外に広がって行き、逃げようとした者達を焼き殺し、消し尽くす。

 圧倒的な威力と、逃げ道を奪う凄まじい効果範囲。


 これが【審判の雷】……。


 ヤバくない? 強過ぎじゃない? 詳細情報(ステータス)を確認した時点で分かってたけど。

 こんな物ぶっ放されたら、魔族の人達が可哀想になるんですけぉ……。

 まあ、それでもやるんですけどね。


 …………ってか、尋常じゃない程体がダルい……。

 今にも意識が飛びそうな程フラフラなのが自分でも分かる。

 なるほど……こんな反則染みた力を出すには、相応の支払いが必要って事ね…。

 現在【仮想体】が装備している旭日の剣には“神聖・超神聖属性の天術の消費エネルギーを2分の1”の装備効果が有る。【仮想体】の装備は、俺自身が装備しているのと恐らく同じ扱いだ。そうじゃなきゃ、【制限解除】の効果が得られないからな。

 って事は、だ。こんなフラフラになる程に支払いをしてるけど、これでも本来の2分の1の消費って事になる。

 ……マジかよ。

 これ、旭日の剣装備しないで使ったら、俺ミイラになるんじゃねえの……?

 意識を保つのも億劫に感じる。

 立っているのが辛くて、4本の足を折ってその場で丸くなる。

 ああ、くそ……ヤバい、マジで意識が飛びそう……。

 このまま意識の糸を手放したら、きっと穴に落ちるように眠りにつく事が出来るだろう。……下手すりゃ、それが永遠の眠りになりかねないけど……。

 俺の意識が切れたら、スキルが勝手に解除されて【仮想体】が消えてしまう。その前に、引っ込めなければ―――と思ったら、まだ終わってなかった。


「よく聞け人間共!! そして忌々しい勇者よッ!!」


 空から声が降って来た。

 ぁんだ五月蠅ぇな…と見上げたら、魔族のボスが空を飛んでいた。

 全身グズグズになる程雷に焼かれ、まともに四肢が動いているようには見えないが、それでもあの反則級の天術に耐えたらしい。

 その背には、蝙蝠のような羽。あんな物有ったっけアイツ……? 普段は隠してるのかな?

 どうでも良いや……今は考えるのがしんどい……。

 その後も、何かウダウダと広場に居る人間達に叫んでいる。

 ……マジで五月蠅ぇよ……!!

 人が疲れて意識飛びそうな時に、頭上でピーチクパーチク(さえず)んなッ!!

 そんなに演説が好きなら―――


 続きはあの世で閻魔相手にやれッ!!!



*  *  *



 ジェンスは生き残った。


「ガッ…ぁぐ……おのれ……勇者ぁ……!!」


 勇者だけが使える究極の天術【審判の雷】。その威力も範囲も圧倒的で凄まじい。その上、人間には効果が無く、魔族にのみ超大なダメージを負わせると言う反則のような効果を持つ。

 しかし、ジェンスは10年前でその力を目にしている。故に、食らう直前に雷と神聖属性への耐性を張る事が出来た。

 だが、それでもダメージは防ぎ切れていない。

 体がまともに動かない。死ぬ直前……崖っぷちのギリギリのところまで来てしまっている。

 その上、部下は―――全滅だった。

 ジェンスの様に天術への対処が出来た者は居ない。直撃を食らったのだから、当然の結果だった。

 誰がどう見ても、ジェンスの―――魔族の敗北。

 しかし、それでも、まだ死ぬわけには行かなかった。

 ジェンスは、魔王アドレアスの腹心である。

 この数日の失態で、文字通り首を切られるのだとしても、それでもその全てを伝えに行かなければならない。

 新たな勇者が現れた事―――そして、その正体を。


 勇者は魔法を使った。

 それを見て、ジェンスは魔族であると判断した。当たり前だ。

 だが、それに加えて天術を使ってみせた。

 魔族しか使えない魔法と、人間にしか使えない天術。その両方を使う存在は、この世に1つしかない。


(勇者の正体は、半魔か……!)


 半魔。

 人と魔族の血が交わった時、極稀に両方の性質を持って生まれる子供。

 半魔の肉体は、血の偏りによって生まれる姿が変わる。しかし、半魔として絶対に持って生まれる特徴がある。

 それは、赤い瞳(レッドアイ)

 人にとっては忌み子であり、魔族にとっては気色の悪い混ざり物。双方に居場所の無い半魔は、動物にも鳥にもなれない蝙蝠であった。

 故に、半魔はその正体を必死に隠そうとする。


(そうであれば、必然隠密能力も高くなるだろうよ……!!)


 主である魔王に全てを伝えなければならない。

 強い使命感と忠誠心に背を押され、ジェンスは隠していた翼を広げる。普段は絶対に見せる事のない翼。

 言ってしまえば、ジェンスにとっての切り札とも言うべき物。

 飛ぶ―――。

 全身が崩れ落ちそうになるのを意思の強さだけで押さえつけ、空に舞い上がる。

 このまま飛び去ろうと思ったが、それでは完全に尻尾を巻いて逃げる負け犬ではないか。魔族としての誇りが、魔王に仕える者としての矜持がそれを許さない。

 眼下で、間抜け面でジェンスを見上げている人間達に叫ぶ。


「よく聞け人間共!! そして忌々しい勇者よッ!!」


 その叫びに、町中の空気が震える。


「この町は一時貴様等に預けてやる!! だがっ! 覚えておくがいい!! 我等魔族は、必ず戻って来るぞ!! そして、その時こそ貴様等が我が主、魔王アドレアスの力に恐怖し、真なる絶望にのた打つ時であると!!!」


 魔王の名を出た途端に、人間達の内何割かが恐怖に顔を歪める。

 どれだけ勇気を奮い立たそうと、人間達の中に刻まれた魔王への恐怖は、そう簡単に消せる程安い物ではない。


「勇者よ!! 貴様の―――!!」


 勇者へ言葉を向けようとした時、そこに勇者の姿が無い事に気付く。


(どこだ……!?)


 気付く。

 自分に向いていた住民達の視線が、その更に上を見上げている事に。

 ハッとして上を見上げる。

 そこには


――― 黄金が居た


「空間……転移…!?」


 ジェンスは動けない。

 決して体が痛むからではない。天から射しこむ光を受けたその黄金の姿に、気圧(けお)されたからだ。

 勇者は言葉を発しない。

 だが、その体には―――その剣には―――その兜の内側には、怒りが見えた。

 それは、きっと、虐げられてきた人間の怒りだった。


「おの……れ!!」


 勇者は、無言のまま剣を振り下ろす。

 


 クルガの町の空に、小さな、小さな真っ赤な花が咲いた。



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