11-11 営業は足使ってなんぼ、と誰かが言ってました
巨大な屋敷に入り、1番奥のおっさんの私室で全員床に車座になる。
さて、今回の話し合いのメインは言うまでもなく“魔王同盟の対策”な訳だが、未だに国民にこの騒動が伝わっていない事を考えれば、恐らくここでの話し合いがこの国の――――国民の動きに直結していると考えて良い。
……と言う訳で、ここからは俺は黙って丸くなっている事にする。
え? 俺も話し合いに参加しろって?
いやいや、俺は自分で知ってるし。自分が知恵の回る奴じゃないって事も、脳みその出来も凡人か、それ以下だと。
この場に居るのは、間違いなく俺より頭の良い連中だし、最善とは言わずとも“ちゃんとした”方向で話を落としてくれると勝手に信じている。
それなのに、頭の悪い俺が横から変な事言って、話の方向が曲がったら目も当てられない……っちゅう事で、俺は黙って丸くなっているのがこの場での最善なのである。
と言っても、別に話し合いに参加しないからって、この件に関わらないって訳じゃないし。
いざ戦う時になれば、先頭切って魔王に殴りかかる気持ちはちゃんとある。
俺はあくまで“都合の良い駒”であれば良い。
働き蟻には、働き蟻の立ち回り方が有ります。
等と思っている間に、俺を置き去りにして話は進んでいるようで、いつの間にやら真ん中に地図らしき物が広げられていた。
まあ、地図と言っても、やはりコッチの世界の地図は“ご近所さんが説明の為に描いた”ってレベルのかなり大雑把な奴だけど。
アルバス境国から東側に広がる大きなバツ印の付けられた場所。多分、アレが10年前の戦争跡地……古戦場か。
その古戦場を超えた直ぐ先に国境。あそこがピーナッツの国だっけか……? で、その上にもう1つ、んで、その西側――――アルバス境国の北側を包み込むように広がる国。この2つの国が魔王同盟の残り2人の国かな?
まあ、3方向から攻めてくるっつんだから、隣接してるこの3つの国がそうだよな。
ん~……で、アルバス境国、古戦場、ピーナッツの国、その南側に広がるのが、“大陸を2分する”と言われているウィンダルム山脈。
この山脈がクソだだっ広いせいで“転移門”が使えず、大陸のコッチ側に来るのに船使う羽目になったんだよなぁ……。
……そう言えば、古戦場って怨念だか瘴気だかのせいで、ゾンビっぽいのが湧くんだよな……? 前に処理したのが1週間前だし、今のうちに1回様子見に行っといた方が良いかな? 古戦場を越えた先は直ぐに国境だし、もしかしたら魔王連中が動いてる可能性だってある。
…………今のうちに行っちまうか?
どうせ、この話し合いで俺は発言するつもりも、発案するつもりもない。だったら、働き蟻らしく、頭脳労働は任せて足で仕事するべきだろう。
話し合いの内容は、後でバルトなりおっさんなりに聞けば良いしな?
「ミィミャ」
ちょっと出て来る。
と言い残して、「よっこいしょ」と【仮想体】が立ち上がる。
「ちょっ!? 兄様、どこに行くんですか!!」
おっさんとバルトに「言い訳宜しく」と視線を送って、さっさと部屋から出る。
部屋の中からアザリアの怒号が聞こえたが華麗にスルーした。いや、だって、ここに残っても俺は猫以下の戦力ですし。
言い訳係に任命してきたのが、嘘下っ手クソな馬鹿正直2人組なのがちと不安だが……まあ、そこは信じるしかないべや……不安だけど……正直滅茶苦茶不安だけど……。
はぁ……後ろは気にしてもしょうがない。と気を取り直して、屋敷から出る。
足使って仕事するのは、元の世界でも散々やったし。営業らしく外回りを頑張りましょう。
* * *
どこへ行くにも【転移魔法】で楽するのは、俺の悪い癖……ではなく、無駄を省く効率的な行為だと思うの。
いや、別に楽してる事の言い訳じゃなくて……。
まあ、ええわぃ……ともかく、舞い戻って来ました古戦場。
相も変わらず、南にある山脈から吹き下ろす風が直撃でクソ寒い……。猫の体は、暑さには強いが、寒さは苦手なんだっつーの……。
吹き付ける冷たい風に文句を言いつつ、【全は一、一は全】状態を維持しつつ、アクティブセンサーをオンにして周囲を探る。
生物の反応無し。
普通の奴はこんなゾンビ畑に足を踏み入れないから、誰か居れば魔王同盟の尖兵で当たりだと思うが……流石に心配し過ぎだったか。
一応無いとは思うが、俺の探知を擦り抜けて隠れている奴が居るかもしれないから、【仮想体】は出さずに行くか。
猫の身1つで、荒れた大地をトテトテと歩く。
ボコボコしてて歩き心地悪ぃなぁ……。
毒の沼からゴポンゴポンッとヤバ気な臭いが漂ってくるし、呑気に散歩気分とはいかねえな。
さ~てさて、ゾンビの皆様方は元気にしておりますかな?
例のおっさんと一緒に阿修羅と戦った近くだから、でか物が現れるならこの辺だと思うんだよね………けど、反応が無いな?
1週間程度じゃ異変無し――――って訳でもなさそうだ。
頭の裏側をピリピリと刺激してくる嫌な感じ……何か居るな? 具体的に“何”とまでは分からないけど。だって、アクティブセンサーにも何も表示されてないし……。
「ミィ……」
ハイドされてる……?
いや、自慢じゃないがアクティブセンサーの性能は相当高い。俺自身の危険感知能力も結構な物だから、それを全部擦り抜けるってのはな……?
おっさん以下の魔王連中の手札にそんな強キャラが居るとは思えない。だとすれば、考えられる答えは――――阿修羅と同じ、“今、この瞬間に生まれる”だ。
思考がその答えに辿り着くと同時のタイミングで、アクティブセンサーが突然地面の下に敵正反応が現れた事を知らせて来る。
「ミャっ!?」
下っ!?
突然の登場、予想外の出現位置。驚きと焦りで動き出しが遅れる。
瞬間、地面から真っ黒な蔦がニョキッと生えて来て…………「あら、ヤバいわ」とか呑気な事を思っている間に、足元から生えてきた蔦に四肢を絡めとられる。
「ミャっ」
いやんっ。
軟体触手と謎植物の蔦はエロい展開のお友達だからね! このまま行くと18歳以下は閲覧禁止な展開になってしまう!!
阿呆な事を考えている間に、蔦が蠢いて俺の体を空中に持ち上げる。
ぉおう、これはアレか? ●●が××されて▲▲▲が■する奴か?
いや、やろうと思えば抜けられるが…………まあ、アレじゃん? 別に焦って抜けなくても良くない? もしかしたら敵じゃない可能性もあるし。とりあえず、とりあえずね? とりあえず1アクション見てみようよ? あ、違うよ? 決して性的好奇心でこの先の展開を体験してみたい訳じゃないから。決して体験した事もない未知の快楽の世界に興味津々な訳じゃないから。うん、マジでマジで。
さあ、エロ触手この野郎、俺に何をする気なんだ! …………あ、エロ触手って言っちゃった。
ちょっとワクワクしながら次の展開を待っていると、ブンッと凄まじい勢いでスイングされ、そのままの勢いで――――地面に叩きつけられる。
「フミュッ!?」
痛った――――くはないです。
地面にめり込む程の勢いで叩きつけられたが、コッチは【全は一、一は全】で手持ちの200以上の防具の耐久値全乗せな上に、【星の加護を持つ者】の特性の効果“全耐性”で全ダメージ2分の1だ。
おっさんの本気パンチくらいの異常火力でもなけりゃ、早々防御を貫通される事はない。
まあ、とりあえず、この蔦君はエロ触手枠ではないらしい事が確定した。
「ミュゥ……ミャ!!」
お前には……ガッカリだよ!!
悪役みたいなセリフを吐きながら、力任せに俺を縛る蔦をブチブチと引き千切った。




