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11-8 事情説明

 アザリアに介抱されて起きた腹パン族を連れて、部屋の中へ入る。

 宿屋の大部屋。

 本来は安値で10人くらいが雑魚寝するような部屋なのだろうが、アザリア達が貸し切って仮設会議室となっているようだ。

 そして、部屋の中には見覚えのある顔触れが椅子や床に座っていた。

 アザリアの仲間連中だ。皆も元気そうで何よりです。

 とりあえず「ちわっス~」と【仮想体】に手を上げさせると、部屋の中の皆も「おー」「本当に剣の勇者だ」と軽めに返してくれる。

 アザリアが若干ボロの机を挟んで奥側に座り、【仮想体】が対面の廊下側に腰掛ける。

 双子とシルフさんが間を埋めるように座り、バルトだけが俺の右後ろで立ちんぼになった。

 さて、じゃあ話始めるか――――と、思ったのだが……アザリアが「コホンッ」と小さく咳払いをしてから、両手をコチラに向けてくる。

 何かしら? 何か寄越せって言ってるのかしら? 俺が出せる物なんて毛玉くらいしかないですけども。


「話の前に……猫にゃん、鎧の肩だと疲れてしまうでしょう? 私が抱っこしてあげますよ。さあ、コッチに」

「ミャァ」


 結構です。


「嫌、言う、ます」

「言う訳ないじゃないですか!!」


 突然般若化するアザリア。


「バルト君! そう言う人を傷付ける嘘を言わないで下さい!! 猫にゃんが私の事を嫌がる訳ないでしょう!!」


 俺に好かれてる事へのその自信はなんなん? どっから湧いて来てる自信なの?

 君に対してそんな好き好きアピールした覚えは一切ないんだが……。

 いや、まあ、別に嫌いな訳でもないけどさ……だからと言って「べたべたしたいか?」つったら、それはまた別の話じゃん?

 猫の身としても、俺の元々の性分としても、べったりされるのは好きじゃないし。


「猫にゃん、猫にゃんは私の事好きだよね? ね? ね? ほら、抱っこしてあげるからコッチおいで。にゃんにゃん」

「ミャァ」


 結構です。


「嫌、言う、ます」

「言う訳ないって言ってるじゃないですかッ!! 猫にゃんの言葉を勝手に解釈しないで下さい!!」


 いやぁ、バルトの通訳は完璧なんですがねぇ。


「猫にゃん、猫にゃん、ほら、おいで!」


 必死過ぎるだろ……っつか、まさか俺が行くまで話始めない気かこの子は……?

 はぁ……勘弁してよ……。

 仕方なく鎧の肩から降りて、机を渡ってアザリアの元へトコトコと歩く。


「ミュゥ」


 ほれ、来てやったぞ。

 途端、パアッと朝日が射したような笑顔になるアザリア。


「そうだよね、そうだよね!? やっぱり猫にゃんは私が好きだよね! 知ってたもん! 知ってたもん私の事が大好きだって!」


 言いながら俺を両手で抱き上げ、ギュゥッと抱き締める。

 はいはい、もう分かったから話始めさせとくれ……。

 …………あと、うちの弟子……微妙に憐みの目で師匠を見るのは止めなさい……。

 まあ、そんな感じで色々あったが、話開始――――。

 俺の代わりに、拙い話し方で一生懸命説明するバルト。

 アザリア達勇者連中も、アザリアの仲間の皆様方も特に口を(はさ)む事なく黙って聞いていた。

 時々何かを言いたい顔をしていたところを見ると、「とりあえず一旦全部聞こう」と言う姿勢らしい。とても良い事だと思いますです。

 で、バルトの説明を聞いた後の第一声が、


「兄様……何やらかしたんですか?」


 だった。

 そして、そんなアザリアの言葉に頷く皆。説明をしていたバルトまで頷いているのは、いったいどう言う事なんだろうか?

 そもそも、何故に俺が何かやった話になってるんだろう?

 いや、まあ、おっさんを倒したのは俺だが、今回の主題はそこじゃなくて、魔王同盟が攻めてくるって点ですし。それに関しては俺のせいじゃねーし。

 阿呆の魔王3人組がおっさんの弱みに付け込んで行動起こしたってだけで、俺一切悪くないし。


「ね? 猫にゃんもそう思うにゃん?」

「ミィ」


 思わないにゃん。


「それ以前に」「第4位の魔王を」「倒したと言うのは」「本当なのですか?」

「そう、それだ! お前が魔王ギガースの国に旅立ったってのは槍の奴から聞いたが、本当に倒したのか? 『歴代の勇者の1人として傷を負わせられなかった』なんて伝説まで持つ本物の“鬼神”だぞ!?」


 鬼神……まあ、人間側からしてみりゃ、確かにおっさんの強さは“神がかっていた”だろう。

 人類の希望である勇者がまったく歯が立たない怪物――――。

 そうだ、だから、俺がおっさんに勝てた1番の理由は、俺が勇者じゃ(・・・・) なかったから(・・・・・・)だ。

 おっさん自身が桁外れのステータスを持つのに加え、勇者殺しの魔王スキル【決闘場(コロシアム)】を使われたら完全に詰む。

 いや……だからって、そのおっさんを倒した事を自慢する気はないけども、事実は事実として……だ。

 【仮想体】が「うん」と頷く。


「……恐ろしい」「……怖ろしい」


 別に怖くはないだろ……。


「いや、普通は怖いだろ」


 おっと、【妖精の耳】で思考読める人が居るんだった。今更ながら、意識読ませないように気を付けねえとな?

 皆が若干ビビった目……それに混じる微妙な尊敬の視線……それらを無視して、アザリアが抱っこしている俺を撫でながら口を開く。


「いえ、もう、良いですよそれは。兄様を私達の尺度で測ろうとするのが間違いなんですから」

「確かに」「確かに」「確かに」「確かに」


 なんで勇者連中の中で、俺が非常識キャラっぽい扱いになってるんだろうか? コッチは品行方正な常識人で通してるってのに……口が利けるなら一杯抗議したいわ。


「ともかく、兄様のお話は理解しました。要約すると、魔王ギガースの国を助ける為に手を貸して欲しい、と言う事で宜しいですか?」


 少しだけ、俺を撫でるアザリアの手が強張るのを感じた。


「ミ?」


 俺が腕の中から顔を見上げると、「大丈夫」と頭を撫でられる。


「兄様なら言うまでもなく分かっていると思いますが、私達は勇者です」


 …………知ってる。知ってますよ……改めて言われなくても……。


「勇者の使命は、魔王を倒し、人と世界の平和を取り戻す事です。ですから、魔王に手を貸すような真似は――――」


 分かってる。

 分かってんだよ、そんな事は……けど、まさか…………こんな正論どストレートで断られるとは……。

 残念っつーよりは、驚いた、って気持ちの方が大きい。


「リーダー! 師匠、困る、してます! 僕、1人、でも、師匠、一緒、行きます!」


 と、バルト。

 流石善性100%で構成されるうちの弟子。

 人の()さオーラが(ほとばし)って、気持ちが良い程キラキラしとるわぃ! あ、これオーラじゃなくて精霊だったわ。

 バルトに続くように、双子が揃って小さく手を挙げる。


「私達は」「剣の勇者を」「守るのが使命」「ですから」「一緒に」「行きます」


 …………何、その勇者なのに限定的な使命……?

 いや、だが、一緒に来てくれるってんなら有難い!

 最後にシルフさんが腕を組みながら、若干グッタリしながら言う。……腹パンのダメージが残ってんのか……?


「俺としては、どっちでも良い。ただ、個人的には剣の勇者には借りがあるし、返済出来る時に返しておきたいね」


 借りなんて有ったっけ? もしかして、バグ何たらの城で俺を囮にした事か? 本人曰く「そのつもりはなかった」らしいが。

 あと、関係ないけど、アンタのプロポーションだと、腕組むとおっぱい強調されんだけど……? まあ、中身は男だが。そう、中身は男だが。おっぱいの魔力に負けないように2度言いました。

 4人の言葉を聞いたアザリアが、慌てて立ち上がる。


「ちょっ! 別に助けに行かないなんて言ってないです! そう言うのは、私の話を最後まで聞いてからにして下さいよ!」


 え? じゃあ、アザリアも元々来てくれるつもりだったん?


「勇者にとって魔王が敵である事は間違いありません。ですが、その勇者の筆頭である兄様が助けようとしているんです。だったら、その魔王には助ける価値と意味が有るって事でしょう?」


 「でしょう?」と言われても困るが……。

 俺がおっさんを助けようとしてるのは、価値とか意味とか、そんな深い事を考えたからではなく、単純におっさんが友達だからってだけだし……。


「それに、世界で唯一人魔共生を実現させているアルバス境国には興味があったんですよ」


 その言葉に、勇者だけではなく、部屋の奥で話を聞いていたアザリアの仲間連中も頷く。

 魔族と直接渡り合っている人達だからこそ気になるんだろう。“魔族と仲良くする事は可能なのか”って事に。

 まあ、とりあえず――――おっさん、ちゃんと助っ人を連れていけそうだぞ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ふと思ったんだけど 勇者連れてきたらぎがっち 「どれくらいやれるのか試させてもらおう」とか言って強制バトルになったりせんかね むしろならないかな(鬼畜 あーでもそこまで戦闘狂じゃない…
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