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11-7 勇者大集合、あと猫1匹

 悪魔ベルフェゴールが、魔王同盟と結託している可能性はないだろうか? と言う疑問がふと浮かんだ。

 おっさん曰く、魔王同盟の目的は大陸の(こっち)側を奪う事だと言うし、鬱陶しい俺を北側に足止めして、その間に悪魔共が南側を押さえる――――なんて展開は十分有り得る。

 いや、でも……考え過ぎか。

 悪魔とエンカウントしたのは2週間前だと言うし。

 その頃の俺は、まだアルバス境国にすら辿り着いていない。

 魔王同盟にしろ、悪魔共にしろ、俺――――剣の勇者は警戒されているだろう。

 魔王同盟は元より、悪魔に関してはベリアルを殺してる。これで俺を警戒してないなら、相当の自信家か、尋常じゃない馬鹿のどっちかだ。まあ、俺としては、そのどっちかであってくれた方が有難いけど。

 ともかく、その俺がどう動くかは悪魔共が動いていた頃には分からなかった訳だ。

 もしかしたら、俺がおっさんをぶっ転がして、そのまま魔王同盟のどこかの国に攻め込んでいたかもしれないしな?

 そんな状況で、下手に戦力を南に割いてられないだろう。

 って事は、恐らく魔王同盟とベルフェゴールは関係ない。

 …………まあ、ベルフェゴールが魔王同盟の動きを察知して、勝手に動きを連動させてるって可能性は……まだ有るか……。


「師匠、どうした、ですか?」

「(いや、ちと考え事。それより――――)」


 止めていた口を再び動かす。

 普通の人には「ニャーニャー」としか聞こえない鳴き声。それをバルトに引っ付いてる精霊達が翻訳し、人間語としてバルトに伝える、と……改めて考えると微妙に面倒臭い事してんな……。

 まあ、そんな話は置いといて、一応一通り俺の事情はバルトに説明した。

 宿屋の廊下を歩く間に説明しなきゃならんので、大分端折って説明したが、とりあえず大筋だけ伝わってれば今は良いだろう。


「魔王、4位、倒す、師匠、凄い!!」

「(あれを純粋に倒したと言って良いのかは疑問だがな……)」


 確かに俺が倒したのは倒したが、途中で“獣”に割り込まれたし……まあ、獣も俺の能力の一部だと言えばそれまでなんだが。


「師匠、離れる、僕、頑張った、でも、師匠、もっと、いっぱい、頑張る、ました!!」

「(まあ……そうな。結構頑張ったよ、ありがとう)」


 言うても、頑張ったのは直近1週間くらいで、船に乗ってる間は幽霊船の時くらいしか頑張ってなかったけど……。

 まあ、師匠としての面子の為に言わんが。


「(で、俺直接話して説明できないから、アザリア達への説明頼むわ。分からない事あったら訊いてくれて良いから。あ、話しかけるのは(おれ)じゃなくて鎧の方な?)」

「はい、任せる、下さい! 僕、頑張る、説明、する、です!!」


 うちの弟子は真っ直ぐで頑張り屋で、とても良い返事をする。どこに出しても恥ずかしくない弟子…………なのだが、喋りに関してはなぁ……正直ちと不安があると言わざると得ない……。

 まあ、間違って伝わりそうなら横から口出そう。

 そんな事を考えていると、廊下の先のドアが開き、どっかで見た面が出てきた。

 栗毛色の髪に、狐目のやたらと体のラインをアピールするような服を着ている。そして、その腰には象徴たる緑色のオーラを纏う短剣。

 シルフさんだった。

 廊下に俺等が居た事を知っていたようで驚いている様子はない。

 俺が【仮想体】に「久しぶり~」と手を挙げて挨拶させようとするのと同時に、俺の横に居たバルトが、床板をぶち抜かんばかりの勢いで踏み込んでシルフさんに突っ込んでいく。

 え? 何事? と俺が思考を一瞬停止させている間に、バルトが間合いを一気に詰めて右拳を振り被る。

 本気の――――容赦ない――――拳。

 いや、それはヤバくない? 直撃したら死にはしないかもしれないが、確実に骨の1本2本は逝く奴だろ?

 止めるか? と、動き出そうとするが、結局俺は動かなかった。何故なら――――バルトの踏み込みからの高速の拳に、シルフさんはキッチリ反応していたから。


「フッ!」

「くっ!!」


 バルトの突進からのスピードの乗った右ストレート。

 シルフさんの腹目掛けて放たれたそれを、事前に分かっていたかのように左に避けながら掌底で打ち払う。


「おい槍の!! お前、毎日毎日懲りずに腹パンかましてきやがって!! いい加減素直に食らってやると思うなよ!?」

「なんで、避ける、ですか!! 腹パン族、毎日、お腹、殴る、しないと、死んじゃう、ですよ!?」

「死ぬかっ!? だから腹パン族ってなんだよ!?」

「お腹、殴る、生きる、種族、です!」

「居ねえよそんな珍妙な奴は!? 仮に居たとしても、そんなアホな奴等さっさと滅びるべきだろうが!!」


 言いながらも、高速のパンチをシルフさんの腹めがけて放ち続けるバルト。そして、それを器用に避けたり受けたりしているシルフさん。

 腹パン族の因縁を無視すれば、とても高度な格闘戦が繰り広げられている。

 バルトは腹パン族を延命させる為に何が何でも腹パンしようとしてるし、シルフさんは全力パンチを嫌がってるし、攻める方も守る方も必死だな(他人事)。

 バルトの奴、俺が居なくなっても毎日これやってたんだろうか?

 これだけのガチ勝負を毎日やってたら、相当鍛えられただろうなぁ……。もしかしなくても、バルトが強くなった一因ってコレか……?

 ボンヤリ廊下での死闘を見ながらそんな事を思っていると、バルトの左拳がシルフさんの右手の防御をすり抜けてボディを捉える。


「――――ブフェッ!?」


 床に転がる腹パン族。


「師匠、やった、です!!」


 褒めて欲しそうに凄い笑顔で俺に向かって振り返る弟子。

 うむ。

 この惨状を前に何が「うむ」なのかは俺にも分からないが、とりあえず「うむ」。


「(ナイス腹パン)」


 弟子が「早く早く」と尻尾を振っているので、【仮想体】の親指を立てて褒めておく。

 そして、無邪気な笑顔で嬉しそうにサムズアップを返してくる弟子。

 とりあえず腹パン族に治癒天術をかけて起こすか…………うちの弟子の腹パンは、元を正せば俺のせいだし……うん。

 近付こうとすると、先程その腹パン族の出て来た扉がもう1度開き、赤茶の髪の見慣れた少女が、ひょっこりと顔を出す。


「ちょっと、うるさいですよ! 店の迷惑になるでしょう!」


 アザリアだった。

 相変わらずのちんこい姿だが……ちょっと髪伸びたか?

 

「バルト君、またシルフに本気パンチしたんでしょう!? ちゃんとやるなら手加減して下さいって言ってるじゃないですか!」


 言いながら、テキパキとした動きで床でダウンしている腹パン族に治癒の天術をかける。

 アザリアから遅れて部屋から顔を出した双子が呑気に、


「今日も腹パンが倒れているわノワール」

「今日も腹パンが伸びているわねブラン」


 と話している。

 この感じだと、本当に毎日の見慣れた光景なのかコレ……? 俺がバルトへの言い訳に適当に並べた嘘がえらい事態になってしまった……ゴメンね腹パ……シルフさん。


「でも、リーダー、本気、パンチ、する、しないと、当たる、ない、です!」

「だから、無暗に人を殴っちゃダメって言ってるじゃないですか」


 言うと、アザリアがジト目を俺――――【仮想体】に向け、ズビシッと指さしてくる。


「兄様! とりあえず、お帰りなさい」

「ミャァ」


 ただいま。

 (おれ)が返事をすると、一瞬前までの“リーダー顔”がヘニャッと溶けてニコニコと【仮想体】の肩で丸くなっている俺に小さく手を振る。


「猫にゃんもね♡」

「ミィミ……」


 はいはい……。

 いきなり俺に飛びついて来なくなった分だけ成長したって事にしておこう。


「猫にゃん、にゃんにゃん」


 いつまでも最大級の笑顔で俺に手を振っているアザリアを見かねて、双子とバルトが声をかける。


「リーダー」「リーダー」「リーダー」


 ハッとなって、慌てて“リーダー”の顔を作るアザリア。……いや、その頑張りは認めるけど、色々手遅れだと思うの……主に威厳の意味で。


「そ、そ、そんな事より兄様ですよ!! バルト君にシルフ殴らせてるの兄様だって言うじゃないですか、そこのところどうなんですか!!」


 どう、と言われても困る。別に意味なんてないし。

 そう考えるとアレよね? 弟子に他人をぶん殴るように言いつけてるクソ鬼畜野郎よね俺。

 いや、まあ、実際にクソ鬼畜猫ではあるんだが……。


「(まあ、そんな事より急ぎなので話をしたいんだが?)」


 バルトが丁寧に俺が言った事をそのまま通訳する。

 それを聞いたアザリアが真剣な顔になる。


「兄様が焦ってるって事は、本当に由由しき事態が起きているって事ですか?」


 【仮想体】が無言で頷く。


「分かりました。部屋の中へどうぞ」



活動報告にも書きましたが、こちらでも宣伝させて頂きます。

10月に2巻が出る事になりました!!

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[一言] 強く生きろ・・・腹パン(違う
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