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11-5 1ヵ月経ったからねぇ……

 約1ヵ月ぶりの双剣の勇者こと、銀髪の双子。

 えー……髪の毛右分けで双剣の黒い方を持ってるのがブランで、左分けで白い剣持ってる方がノワールだっけ? あれ? 逆? もしかして逆か?

 白い剣がブランで、黒い剣がノワール?

 いや、あれですよ? 別に俺が双子の見分けがつかない薄情者な訳じゃないから。

 元々俺は、この双子とは勇者一行の中でも特に接点が無いのだ。

 アザリアやバルトは普通に付き合いあるし、シルフさんとはバグ何たらの城に侵入する時に暫く一緒した。だが、この双子はなぁ……?

 ぶっちゃけ出会いが悪いよ出会いが。

 バグ何たらをギリギリ倒してヘロヘロになってたところを七色教の教会に連行されたエピソードが強く焼き付いて、微妙にこの双子への印象が良くない。

 ……まあ、あの時は悪魔に憑かれた父親に洗脳されての行動だったらしいのだが……いや、まあ分かってんスよ? 俺だって大人ですから。双子は悪くないって分かってますよ? 洗脳されながらも、父親を助けて欲しいって俺に助けを求めてくるくらいだし、ね?

 悪魔騒ぎの時もこの双子の相手はバルトに押し付けちゃったし。

 その後洗脳を解けたら、禄に関わる暇もなく俺はアルバス境国までの船旅に出ちゃいましたし。

 ね? 接点少ないでしょ?

 まあ、接点少ない相手だろうが、苦手な相手だろうが付き合わなくちゃいけないのが社会人の辛いところだ。

 …………いや、まあ、こんな子猫の姿で社会人云々を語るのは、もはや笑い話かもしれんけども……。


「剣の勇者が動かないわ、ノワール」

「剣の勇者が動かないわね、ブラン」


 会話してるんだかしてないんだが分からない事を言いながら、トコトコと双子が近付いてくる。


「お久しぶりです剣の勇者」

「今更の事後報告ですが、一月前より勇者として皆にお世話になっています」


 言うて、音を立てないお辞儀を同時のタイミングでする。

 頭を下げられたら下げ返したくなる営業マンの癖をグッと我慢する。一応勇者としては俺の方が先輩だからな。…………え? あれ? 本当に先輩か?勇者歴としては双子の方が長くない? だって俺が神器振り回し始めたのたった2ヵ月くらい前よ?

 芸能界では年齢ではなく芸歴の長さで先輩後輩が決まると言うし……もしかしてこの子等の方が目上じゃない……?

 ……しまった!? よくある「年下だと思ってタメ語で話してたら先輩だった」展開になってしまった!?

 ……まあ、良いか。今更訂正のしようもないし、適当に誤魔化せ。

 双子に対して「そうか、宜しくな?」と先輩風な余裕のある感じで【仮想体】が頷く。


「改めて、よろしくお願いします」

「改めて、よろしくお願いします」


 「宜しく」ともう1度軽く頷く。

 いや、まあ、宜しくつっても俺根本的に勇者じゃないんだけどさ……。宜しくしようにも話せないし、ただの猫ですし。

 って、こんな事してる場合じゃなかった!? 早いところ勇者一行に話つけてアルバス境国に戻らにゃならんっつーの!!

 唐突に目的を思い出し、焦って我に返る俺。

 双子がここに居るって事は、アザリア達もここに居るのか?


「それで、どうしてここに?」「貴方は何やら手紙で魔王に呼び出され」「アルバス境国に船で向かった」「と炎熱(イフリート)が言っていましたが?」「そちらの件は」「終わったのですか?」


 (あらかじ)め交互に話す練習でもしてあったかのような、滑らか過ぎて怖くなる双子のリレー喋り……。

 ってか、イフリートって誰よ? そんな名前の人は知りません。新しい仲間か? いやいや、俺の事をそいつから聞いたつってんじゃん。剣の勇者(おれ)がアルバス境国に行く事を話したのはバルト1人だけだ。

 っつー事は、バルトの事か? そう言えばうちの弟子は双子と戦った時に炎の精霊化してボコり転がしたらしいし。

 それで呼び名が炎の精霊(イフリート)なん? まあ、使ってる神器も火属性だし、生まれつき精霊に好かれる体質でもあるから……あだ名としては合ってるか。

 謎が解決したところで、双子の問いかけへの返答。

 アルバス境国での件は片付いたのか?

 NO!!!!

 むしろここからが本番だと言っても過言ではない。だからこうして助っ人求めて戻って来たんだから……。

 【仮想体】が首を横に振る。

 

「何か」「訳有りの」「ようですね?」


 大正解! 訳アリっつーか訳しかねえ!!


「では」「リーダーと」「お話を」


 言うと、コチラが急いでいるのに気づいてくれたのか、若干早足で歩き始める。

 どうやら案内してくれるらしい――――のは良いんだが……リーダー……? 多分だが、アザリアの事だよな? 勇者連中の中でリーダー張れそうなのがアザリアしか思いつかないし。

 うーん……俺が離れてた1ヵ月の間に、双子も勇者一行に馴染んでるっぽいな?

 双子がこの調子なら、バルトやシルフさんも上手い事やってると良いんだが……。

 そんな事をボンヤリと考えながら双子の背中を追う。

 …………この2人、後ろから見ると本当に違いが無いな……? 見分けられる要素が1つも無ぇよ……。

 そして、何故か双子が歩きながらチラチラと振り返っては【仮想体】ではなく、その肩で丸くなってる(おれ)を見てくるのだが……。もしかしてアザリアのような猫好きとか……?

 そして前に視線を戻し、俺に聞こえないようにコソコソと喋る。


「お父さんが言っていたわノワール」

「ええ、お父さんは言っていたわブラン」

「いざと言う時は、剣の勇者ではなく連れの猫を護れと」

「どういう意味なのかしら? お父さんは猫好きだったかしら?」

「憶えてないわ」

「記憶にないわ」


 よく分からん話で、全く同じ顔と動作で首を傾げる双子。

 いや、ってか、コソコソ話してるのを盗み聞きしてるようで悪いけど、猫の聴覚だと普通に聞こえちゃうんだが……。

 双子のお父さんと言えば、悪魔ベリアルに取り憑かれて操られていた……カヴェルとか言う若干メタボ体系のおっさんだ。

 ……え? あの人が猫好きなん? 前会った時は全然そんな感じしなかったけどな?

 特に会話の無いまま、結構遠慮なしにスタスタと歩く双子に着いて行く。

 道中、見慣れた子供や老人に挨拶されたのを、軽く手を振って返す。

 そんな感じで5分ほど歩き――――西通りにある宿屋に到着。

 入り口の扉を潜ろうとしたところで、横合いから声をかけられる。


「師匠?」


 褐色の肌に輝くような赤い瞳。

 相変わらず、その体の周りには、蛍ような光――――精霊が鬱陶しくなる程飛んでいる。

 紛れもなくうちの弟子、槍の勇者バルトだった。


「ミャァ、ミィ」


 よお、久しぶり。


「師匠!」


 主人を見つけた子犬のように、むっちゃ笑顔で駆けてくる。

 1ヵ月経っても、コイツは本当にワンコ系のままだな……。

 …………っつか、気のせいかな? バルトから感じる嫌な気配……勇者の気配が、1ヵ月前とは比べ物にならないくらい大きくなってる気がするんだけど……?

 そのまま飛びついて来るんじゃないと思う程の速度で駆けて来ていていたバルトが、俺の2歩手前でピタリと足を止める。

 だが、バルト自身に何かあった訳ではなく、何かあったのはその周囲を飛んでいる精霊達の方だった。

 俺を恐れるように、バルトの背にピューッとすっ飛んで隠れたのだ。そんな精霊の様子を心配して、バルトが足を止めた、と。


「どうした、ですか? なんで、師匠、怖い、です?」


 精霊に話しかけるなら別に共通語じゃなくて良いんじゃね? と思いつつもツッコミを入れない大人な俺だ。

 っつーか、精霊マジで俺の事怖がってんのかい……。

 何でだ? いや、まあ、最初に迷いの森で会った頃はガチビビりされてたけど、バルトに説明されて敵じゃないと分かったんちゃうんかぃ!?

 もしかして俺の事忘れてる? いや……そう言う感じじゃないっぽいな? 肩越しにチラチラ見て来るし。

 俺、ロールパンのところの精霊をぶん殴って【精霊使役】のスキル手に入れたから、むしろ精霊からは好かれる筈なんだけどな……?

 【精霊使役】の効果を上回るくらい俺が怖いってか?

 そんなに怖がられると、コッチも結構精神的にダメージでかいんだが……。


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