11-3 勇者に頼ろう
「勇者……お前以外のか?」
「(そう)」
勇者は人助けが仕事みたいなもんだし、まあ、協力してくれるでしょう。
シルフさんと双剣の双子は知らんけど、アザリアとバルトは説明すれば無条件で助けてくれる気がする。律儀真面目のアザリアと、馬鹿正直底なし善人なバルトだからなぁ……。
魔族相手なら、魔法封じと弱体化を同時にかけられる【サンクチュアリ】を持ってるアザリアは、どう考えても敵からすれば脅威だし。
バルトの奴は、俺やおっさん程じゃないにしろ強いし。
残り2人の戦闘力は……まあ、よく分かんないけど、双子は相当強いってバルトが言ってたし、シルフさんは…………まあ、うん……。
「今代の勇者はお前以外知らないが……言ってはなんだが、頼りになるのか?」
「(それなりに)」
まあ、言うても、俺のアザリア達の情報は1か月前の事だから、もしかしたら俺が予想してるよりも強くなってるって事も有り得るか……。
「勇者とて、全員が全員お前と同等な訳ではあるまい」
「(そら、俺と比べたらアレだが……)」
「そもそも、お前が口利きしてくれると言っても、助けを求めているのは根本的に我だぞ?」
「(それが?)」
「魔王の座を降りたとて、我は過去に勇者を殺めている。何人もな……」
「(ふーん、で?)」
まったく興味の無い話だった。
だって、俺勇者じゃないし。この世界の人間でもないし。
過去の勇者が殺されてようと、そんな物に因縁とか恨みとか感じないし。
「……そんな我を助けに来てくれるか?」
うーん……そう言われるとなぁ……。
俺は気にしないけど、本物の勇者方がどう思のかは俺にも分からん。
「(つっても、戦力は欲しいだろ?)」
「……うむ」
「(とりあえず訊くだけ訊いてみりゃ良いじゃん。断られたとしても『元魔王だから』つってアイツ等が敵に回るような展開は有り得ないし、そん時は、いよいよ俺とおっさんの2人でどうにかする方法考えれば良いし)」
「そうだな。では、頼めるか?」
「(お任せあれ)」
魔王同盟がいつ動き出すか分からんから、行動指針が決まったら即行動――――と“お座り”から立ち上がると。
「ああ、待て。先に返しておく物がある」
「ミ?」
え?
返す物って、なんか貸してましたっけ? 全然覚えがないけども。
おっさんが立ち上がり、机の裏から黒い箱を持ってくる。
見覚えのある箱だった。
―――― 深淵の匣
「どこかのタイミングで、勇者に返そうとは思っていたのだ」
言って、深淵の匣を俺の目の前に置いて開けて見せる。
青いオーラを放つ弓――――。
透き通るクリスタルのような……内側で青い光の揺れる水面のような、神秘的な輝きの弓。
神器だ。
間違いなく神器だ。
収集箱に入れなくても分かる。
「10年前の戦争が終わった時の取り決めでな。自身が倒した勇者の神器は、その証として持つ事が許されていたのだ」
「(じゃあ、おっさんが10年前の弓の勇者を?)」
「……うむ」
いや、そんな済まなそうな顔すんなよ……。
別に責めた訳じゃねえから! ただ単に「へー、そうだったんだあ」って言う確認の一言だから!
とりあえず、受け取るだけ受けっとこう。
「よっこいせ」と深淵の匣に頭を突っ込んで、弓に触れる。
『【清流の弓 Lv.93】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:★★★
属性:超神聖/水
装備制限:特性・勇者
付与術:審判の流水
所持数:1/1
第三神器。
神が人類に与えたと言われる武具の1つ。
この弓から放たれる矢は世界の果てまで届くと言われている』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:大)』
『【審判の流水】
カテゴリー:天術
属性:超神聖/水
威力:B
範囲:S
使用制限:特性【勇者】
暗黒/深淵属性の対象に対して超特効。
特性【魔族】【魔王】を持つ対象に対してのみダメージ判定』
『レアリティ★のアイテムを獲得した事により、特性:【星の加護を持つ者】のレベルが19になりました』
『条件≪神器を10種類登録する≫を満たした為、以下の特性が解放されました。
・特性【神の信徒】』
『【神の信徒 Lv.1】
カテゴリー:特性
レアリティ:A
能力補正:魔力
効果:天術での与ダメージ+補正(効果大)
天術での回復値+補正(効果大)
神器装備時に効果大が特大になる』
おっと、一気にログが流れた……。
身体能力アップに、神器にくっ付いてた究極天術は毎度の事。ついでに【星の加護を持つ者】のレベルアップもね。
新しい特性が手に入ったのは良いけど……【神の信徒】て……。爪の先程も神様を信じてない俺に対する当てつけかしら……?
まあ、でも魔力の能力値補正あって、天術の効果アップなら結構優秀じゃない? 神器装備時に天術の補正値特大になるって書いてあるし。特性としてのレアリティも【魔王】と同じAだし。
「どうかしたか?」
おっと、傍から見たら目を閉じてジッとしてる子猫は不気味に見えるか。まあ、でも、猫って虚空を見つめてジッとしてる事あるし、そう言うもんでしょ?
自分でもよく分からない事を心の中で思いつつ「なんでもない」と返して深淵の匣から離れる。
「(確かに受け取った)」
一瞬「確かに返して貰った」って言いそうになったが、喉まで出かかったそれをギリギリで飲み込んだ。
俺は本来なら返して貰う側の人間じゃないしな……。
ま、そんな事はともかく、ついでに訊いておこうと思ったことを思い出した。
「(で、話は変わるけど、ピーナッツのところの軍艦が港の沖に来てんじゃん?)」
「うむ」
「(あれって、もう先んじて始末しちまって良い? 良いんだったら、下手に動かれる前に先に行ってこようと思うんだが?)」
本来開戦前に敵の船を攻撃するのは、なんか戦争の口実とかなんとか、政治的な理由で悪手な訳だが……だからと言って、港町に銃口向けてる連中を放置しておいて良い理由もない。
「良い。と言うか、我がこのような状態でなければ朝方に行ってこようかと思っていたくらいだ」
「(あ、そうだったの?)」
「うむ。お前も知っている事かもしれんが、この国は元々他国の魔族の出入りが激しい。故に、我の魔王の座を降りた話は、ヴァングリッツ達の耳にも既に届いている筈だ。当然、我のこの姿の事も直ぐに伝わるだろうよ」
ああ、そうね? おっさんが敵に回ってケツまくろうとしてたのを、手の平返して襲ってくる可能性があるもんな。
そら、さっさと排除しておきたいわな。
戦争の口実云々も、考えてみたらアッチから宣戦布告されたも同然やしな? 気にするのも今更か。
「(じゃあ、他の勇者のところに行く前にサクッと潰してくけど問題ない?)」
「うむ。だが大陸の南への船――――ああ、そうか、お前は【転移魔法】が使えるんだったか。船の心配なぞ無用だったな」
この国来るのは初めてだったから船で来るしかなかったけど、1度行った場所なら【転移魔法】でパッと移動よ。
「(うん。で、ピーナッツの事はどうする? 船と一緒に転がしちゃって良い?)」
個人的にはやってしまっても良い気がしている。
手下の兵士がそれで怒り狂うってこの国に雪崩れ込んでくるって展開はあるが、当然そんな衝動的な動きに残りの2国が足並み揃えられる訳はない。
であれば、相手はピーナッツの部下だけ。
それが何万人なのかは知らないが、一方向から攻めてくるなら俺1人の殲滅力でどうにかなる。
んで、ピーナッツの国が落ちれば、後は名前も知らない魔王共の2つの国だ。
それなら、俺とおっさんで片方ずつ護ればなんとか――――ああ、ダメだ、おっさんが弱体化してるんだった……。
色々考えてみたが、それは全部無駄だった。
「ヴァングリッツならとっくにこの国には居ないぞ?」
「(あれ? そうなの?)」
「お前の試合を観に行くと言っていたのに、闘技場に居なかっただろう?」
ああ……そう言えば……。
ロールパンとの戦いでも、決勝でもピーナッツの面を見た覚えがない。……まあ、決勝はおっさんとのアレコレで記憶が曖昧だけども……。
「なんでも、この国に来た日――――我とお前がヴァングリッツに会った日だな。あの日に巨大な鮫のような魔物に船が一隻襲われて、何やら大事な物を持って行かれたようでな? 慌てて自国に引き返して行った」
「(へぇ、そうだったんだ。大変やねぇ)」
俺の棒読みの返しを聞くと、おっさんが無言でジト目を向けてくる。
あら? 何かしら、そんな目を向けられる謂れは――――あるな、うん。
「その魔物の一件を聞いて、港の者達が怯えているのだが…………お前、まさかとは思うが、その魔物の件に関与してないだろうな……?」
「(え? 何言ってんの? こんなに小さくて可愛いだけが取り柄の子猫が、船を襲うような魔物をどうにかできる訳ないじゃない?)」
「ハッキリ言おう。お前なら魔物の1匹や2匹従属していてもおかしくないと我は思っている」
「…………ミャァ」
「猫の鳴き声で誤魔化すな」
誤魔化しは通用しない……か。
こういう時は、アレだな!!
「(じゃ、そう言う事で行ってくるわ)」
「おい――――」
おっさんが何か言うより早く、【転移魔法】発動!!
言っておくが逃げた訳ではない。
今は1分1秒を争う事態ですし。アレですよアレ、うん。これは事態の緊急性を考えた結果の迅速な行動ですから、ええ、本当に。断じて逃げた訳じゃないから、うん。マジでマジで、嘘じゃないから、うん。




